人事を担当する上で、労働基準法を始めとする労働法の知識をおさえておくことは大切なことです。
実務でよく使われる基本的なポイントを正確に押さえておくことで、会社で発生する労使トラブルの芽に早めに気付くことができ、予防することができます。
本記事では、知っておきたい労働基準法のポイント、働き方改革関連法案の主な改正点、労働基準法の違反事例などをまとめました。
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労働基準法とは
労働基準法(以下「労基法」といいます)は、一人でも労働者(以下「従業員」といいます)を使用する使用者(以下「会社」といいます)が守らなくてはいけない最低限の労働条件を定めた法律です。
本来、契約は当事者の自由な意思によって決定できるので、企業と従業員がどのような労働条件を定めるかは自由のはずです(契約自由の原則)。
しかし、企業と従業員の力の差を考えると、企業が有利な立場で契約できることは明白です。
そこで、労基法により契約自由の原則に一定の規制をすることで、従業員を保護することにしました。
労基法は、賃金や労働時間、休暇等について一定のルールを定め、これに違反した企業には罰則を与えることで、従業員の権利を保護しています。
対象範囲
従業員を一人でも使用する会社は、原則として労基法が適用されます。
また、労基法は「すべての従業員」を対象とするので、原則、正社員だけでなく、契約社員、派遣社員、パート、アルバイトなど、雇用形態を問わず労基法の適用を受けます。
働き方改革による法改正のポイント
2019年4月より「働き方改革関連法」が施行されました。
この法律は、①労働者が働き方を選択できる社会の実現、並びに②働き方改革の推進を目的としており、以化の項目の実現に向けた、さまざまな対策や措置を講じています。
- 長時間労働の是正
- 多様で柔軟な働き方の実現
- 雇用形態に関わらない公正な待遇の確保
働き方改革法案で注目すべきポイントは主に3つです。
詳しい内容をご紹介します。
①時間外労働の上限規制
臨時的な特別の事情がなければ、残業時間は原則「月45時間」「年360時間」以内に規制されました。
また、繁忙期など特別な事情がある場合も「月100時間未満」「年720時間」を超えてはいけないと定められてました。
②有給休暇取得の義務化・時季指定
有給休暇が年10日以上発生している従業員には、会社は従業員の希望を踏まえた上で時季を指定し「年5日」の有給休暇を取得させることが義務化されました。
③同一労働同一賃金
正規雇用労働者と非正規雇用労働者間の不合理な格差解消を目指し導入されました。業務内容や責任が同じであれば、雇用形態を問わず同一待遇とするのが前提となります。
労働基準法の主な内容
ここでは、労働基準法の中で「これだけは押さえておきたい」という内容をまとめます。
1. 労働条件の明示(労基法15条)
会社は、従業員と労働契約を締結する際、賃金や労働時間、その他の労働条件を明示しなければなりません。なお、主要な労働条件については書面の交付が必要です。
2. 賠償予定の禁止(労基法16条)
会社は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはいけません。
たとえば、
- 従業員が無断欠勤・遅刻をした場合の「罰金」を定めること
- 退職した場合「50万円支払う」という合意をすること
などを定めることは本条に違反します。
3. 解雇の予告(労基法20条)
会社が従業員を解雇する場合、
- 解雇日の少なくとも30日前に解雇することを従業員に予告しなければいけません。
- 30日前の予告がない場合、会社は30日に不足する平均賃金を従業員に支払わなければいけません。
たとえば、解雇予定日の20日前に予告した場合、10日分の平均賃金を支払う必要があります。
4. 賃金支払いの4原則(労基法24条)
賃金は原則、
- ①通貨で
- ②直接労働者に
- ③その全額を
- ④毎月1回以上、
一定の期日を定めて支払わなければなりません。
これを「賃金支払いの4原則」と言い、従業員の生活の基盤である賃金を保護しています。
たとえば、未成年の従業員の給与を親に支払うことは、本条に違反する可能性があります。
5. 休業手当(労基法26条)
会社の責任により休業した場合、従業員に休業期間中の手当てが支払われる制度です。
休業手当の受けられる場合としては、
- 経営悪化による仕事量の減少(原材料の不足・資金難・不況など)
- 監督官庁の勧告による操業停止
などが、該当します。
なお、休業手当として支払われる金額は、平均賃金の100分の60です。
6. 最低賃金(労基法28条)
「最低賃金」とは、会社が従業員に最低限支払わなくてはいけない時給のことです。原則として最低賃金は、正社員だけでなくアルバイトなど全ての従業員に適用されます。
7. 労働時間・休憩・休日(労基法32条・34条・35条)
会社は、原則として「1日8時間、週40時間を超えて」従業員を働かせてはいけません。
会社は、従業員に
- 労働時間が6時間を超える場合は45分
- 8時間を超える場合は60分以上
会社は、従業員に少なくともの休憩時間を与えなければなりません。
- 毎週1日の休日
- または4週間のうち4日以上の休日
を与えなければなりません。
8. 時間外および休日の労働、割増賃金(労基法36条・37条)
会社は、36協定と呼ばれる労使協定を提携し、労働基準監督署に届け出ることで、36協定で定めた範囲で、従業員に労働時間を延長させたり、休日労働をさせることが可能になります。
会社は36協定を締結し、労働基準監督署に届け出をおこなわないと、従業員に時間外労働や休日労働を命じることはできません。
9. 時間計算(労基法38条)
会社は、従業員に時間外労働や休日出勤をさせる場合、割増賃金を支払う必要があります。
残業、休日勤務、深夜労働の各割増賃金率は以下の通りです。
- 通常残業(25%以上)
- 休日出勤(35%以上)
- 深夜残業(25%)
たとえば、通常残業+深夜残業が発生した場合「通常残業(25%)+深夜残業(25%)」となるため、割増賃金は50%以上となります。
また、残業時間が「60時間」を超えた場合は、超過した時間は50%以上の割増賃金となります。
10. 年次有給休暇(労基法39条)
会社は、雇い入れ日から6ヶ月継続して勤務し、全労働日の8割以上出勤した従業員に対して、10日間の有給休暇を与えなければいけません。
有給休暇は、条件を満たしたアルバイトやパート従業員にも認められます。
11. 適用除外(労基法41条)
労基法は、原則として全ての従業員に適用されます。
しかし、「適用除外」に該当する場合労働時間・休憩・休日の規制は適用されず割増賃金の支払いが不要となります。
適用除外となるのは、以下の従業員です。
- 農業、水産、養蚕、畜産業に従事する者
- 事業の種類にかかわらず監督もしくは管理の地位にある者(管理監督者)
- 機密の事務を取り扱う者
- 監視または断続的労働に従事する者で、使用者が労働基準監督署長の許可を受けた者
会社の管理職(課長・部長など)であっても「管理監督者」と認められる訳ではありません。
認められるためには、企業のなかで相応の地位・権限が与えられ、経営者と一体的な立場と評価できる必要があります。
12. 就業規則(労基法89条)
就業規則は、働く上で守るべきルールを定めたものです。
労基法では、常時10人以上の従業員を使用する会社は就業規則を作成し、労働基準監督署に届け出ることを義務付けています。
13. 制裁規定の制限(労基法91条)
会社が、従業員に減給の懲戒処分を行う場合、以下のような制限を受けます。
- 減給の一回の額が平均賃金の1日分の半額を超えてはならない
- 減給の総額が、一賃金支払期における賃金の10分の1を超えてはならない
たとえば、平均賃金1万円の従業員の場合、減給1回の額は5,000円を超えてはいけません。
14. 周知義務(労基法106条)
会社は、就業規則を従業員に次の方法で周知する必要があります。
- 常時、各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること
- 書面を交付すること
- 磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること
つまり、従業員に配布や掲示をしたり、PCから閲覧できるようにしたりすることが求められます。
ここまで労働基準法の内容に関して解説しましたが、文面での説明がメインになるため理解しづらい箇所もあったのではないでしょうか。
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労働基準法違反となるケース例
労働基準法は労働条件の最低基準を定めた法律です。
違反した場合は、労働基準監督署による立入調査や指導勧告を受けるだけでなく、悪質な場合は書類送検され、刑事罰の対象になります。
ここでは、労働基準法違反となるケースをご紹介します。
Case.1 残業代の未払い
<結果> 労働基準監督官による家宅捜査並びに書類送検
<解説> 労働基準法に違反した場合、以下のような行政指導がおこなわれます。
また、是正指導に従わないなど、悪質な場合は書類送検など厳正な指導がおこなわれます。強制捜査や書類送検を受ければ、社会的な信用は大きく損なわれます。
Case.2 36協定で定めた上限を超える残業により書類送検された事例
<結果> 書類送検後、略式起訴され罰金50万円の略式命令
<解説> 靴の販売店Aは、労働基準監督署からの度重なる指導に対して、適切な措置を取りませんでした。
また、36協定は提出していましたが、協定で定める残業時間を大幅に超えた残業が常態化していたため、重い処分となりました。
Case.3 パワーハラスメント
<結果> 裁判所は「配置転換は、Aを辞めさせることを目的とした不当な命令である」と判断し、配置転換の無効、差額賃金の支払い、損害賠償を命じました。
<解説> パワハラは以下の6類型に分類され、どれか一つに該当すればパワハラとみなされます。
- 身体的侵害:殴る、蹴るなど
- 精神的侵害:暴言、侮辱など
- 過大な要求:達成不可能なノルマを与えるなど
- 過少な要求:仕事を与えない、単調作業だけ与えるなど
- 個の侵害 :プライベートに過剰に踏み込むなど
- 人間関係からの切り離し:仕事を教えない、仲間外れなど
本事案は、退職勧奨を拒否したAを仕事のない倉庫業務に配置転換しており「過少な要求型パワハラ」に該当すると考えられます。
最後に
人事には、職場で発生する様々なトラブルが数多く持ち込まれます。また、会社に違法な状態を生じさせないことも、人事の重要な機能の一つです。
そのようなとき、労働基準法の知識は非常に役立ちます。
ぜひ、労働基準法の知識を積極的に学び、会社と従業員の双方から信頼される人事に成長していただければ思います。
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