賃金台帳とは、雇用主が必ず作成しなければならない書類の一つです。作成義務については労働基準法で定められており、作成を怠った場合には罰則も設けられています。
本記事では、賃金台帳への記載事項や書き方、保管期間などを詳しく解説します。
賃金台帳の取扱いについて確認したい方はぜひお読みください。
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1. 賃金台帳とは?
賃金台帳とは、従業員への給与支払い状況を記載した書類のことです。
法定三帳簿の一つとして、従業員を一人でも雇用している事業所に対し、作成と保管が義務づけられています。
労働基準法108条では、賃金台帳について下記のとおり定められています。
使用者は、各事業場ごとに賃金台帳を調製し、賃金計算の基礎となる事項及び賃金の額その他厚生労働省令で定める事項を賃金支払の都度遅滞なく記入しなければならない。
正社員や契約社員、アルバイトなど、一定期間以上の継続的な雇用がおこなう従業員だけでなく、日雇い労働者も対象となるので注意しておきましょう。
1-1. 賃金台帳がない場合の罰則
賃金台帳を作成していない場合、労働基準法120条に基づき、30万円以下の罰金が科せられます。
後ほど解説する「賃金台帳の保管期間」に関しても、適切に保管できていない場合には罰金の対象となります。
金銭的な損害だけでなく、企業イメージまで損なわれてしまう可能性があるため、必ず賃金台帳は作成するようにしておきましょう。
1-2. 賃金台帳と給与明細の違い
賃金台帳と給与明細は、どちらも給与の支払い状況を記載するという点で似ていますが、目的や記載項目が異なります。
賃金台帳の目的は、従業員の給与支払い状況を企業が管理することであるのに対し、給与明細の目的は、給与の支払額・控除額を従業員に通知することです。
また、記載項目に関しては、賃金台帳には労働日数や労働時間の記載が義務なのに対し、給与明細には基本的にそれらの記載がありません。
もちろんですが、賃金台帳を作成していない場合、給与明細で代用することはできません。それぞれ分けて発行をおこない、適切な管理をおこないましょう。
2. 賃金台帳の記載事項と書き方
ここからは、賃金台帳の記載事項と、具体的な書き方について解説します。
関連記事:賃金台帳の書き方とは?注意すべき点と必要になるケースを解説
2-1. 氏名
従業員の氏名を記載します。
結婚などで姓が変更になっても社内での通称はそのままにされることも多いですが、賃金台帳などの公的な書類に関しては、戸籍上の氏名の記載が適切です。
2-2. 性別
性別を記載します。
2-3. 賃金の計算期間
賃金の計算期間とは、毎月の給与を計算し始める日から締め日までの期間のことです。日雇い労働者であれば、記載する必要はありません。
例:月末締めの場合→2022年4月1日~2022年4月30日
10日締めの場合→2022年4月11日~2022年5月10日
2-4. 労働日数
労働日数とは、上述の賃金計算期間に働いた日数のことです。
毎月営業日が異なる点や、有給休暇や特別休暇は労働したものと見なされる点に注意しておきましょう。休暇に関しては、専用の項目を用意して、日数と時間数も分かるようにしておくと適正な管理となります。
2-5. 労働時間数
労働時間数とは、上述の賃金計算期間に働いた時間のことです。
この労働時間に関しては、所定時間外の残業時間や休日労働時間も含めた時間数も含まれています。
タイムカードや勤怠管理システム、出勤簿の記録を確認して、正確な時間数を記載しましょう。
2-6. 時間外労働時間数
法定労働時間を超えた労働時間、つまり法定外労働時間を記載しましょう。
原則として法定外労働時間とは、1日8時間、週40時間を超えた労働時間のことです。
フレックスタイム制や変形労働時間制など、勤務制度によって時間外労働とみなされる時間は異なる点に注意してください。
2-7. 深夜労働時間数
午後10時から翌日の午前5時までの労働は、深夜労働時間となります。
この時間におこなわれた労働には、深夜手当が発生します。
2-8. 休日労働時間数
法定休日におこなわれた労働時間数を記載します。
代休取得の場合には休日労働となりますが、振替休日を取得している場合、法定休日に労働をおこなっても休日労働とはみなされません。
勤怠管理をおこなう段階で、休日取得のルールをしっかりと理解しておくことが重要です。
2-9. 基本給や手当等の種類とその額
金額に関しては、支給総額だけでなく、その内訳も記載します。
基本賃金、法所定時間外割増賃金や、各手当の金額と、それらの小計を記載します。
加えて、臨時の給与と賞与の金額をそれぞれ記載し、小計との合計金額を記載します。
2-10. 控除項目とその額
控除項目には社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料など)と所得税、住民税の金額をそれぞれ記載します。
前項の合計金額から控除金額の合計を引いた額が、手取りの給与となります。
関連記事:賃金台帳に必要な記載事項とは|保存方法や注意点を解説
3. 賃金台帳のテンプレート・書式
賃金台帳は厚生労働省のサイトにて、専用の書式がダウンロード可能です。
下記のとおり、勤務形態に応じて書式の書類が多少異なるので注意しましょう。
- 常時従事する労働者…様式第20号
- 日雇いで従事する労働者…様式第21号
▼こちらからダウンロードできます。
主要様式ダウンロードコーナー|厚生労働省
3-1. 手書き・エクセル・専用ソフトでの作成が可能
賃金台帳は必要な記載項目さえ満たしていれば、様式第20号・21号以外でも問題ありません。厚生労働省のサイト以外にも、さまざまなサイトにてテンプレートが公開されています。
また、エクセルや専用ソフトなどで作成することも可能なので、自社の管理方法にあわせた形式で賃金台帳を作成・保管するとよいでしょう。
4. 賃金台帳の保管期間
賃金台帳の保管期間は、従業員の最後の賃金について記入した日から3年間です。
ただし、法改正により賃金請求権の消滅時効期間が5年に延長されたため、今後は5年間の保管が求められることになります。
経過措置として、当分の間は3年の保管期間で問題ないとされていますが、いずれは5年間になると認識しておくとよいでしょう。
参照:未払賃金が請求できる期間などが延長されています|厚生労働省
関連記事:賃金台帳の保存期間とは|違反しないための対応方法も解説
5. 賃金台帳はどんな場合に提出が求められるのか
これまで、賃金台帳の記載項目や書き方、保管期間などを解説してきました。
ここからは、実際にどんな場合に賃金台帳の提出が求められるのかを紹介します。
5-1. 労働基準監督書の臨検がおこなわれる場合
労働基準監督書の臨検では、賃金をはじめ、労働時間や労働条件、健康管理など、事業所内のさまざまな情報が調査されます。賃金台帳だけでなく、労働者名簿や出勤簿などの法定三帳簿も確認が入ります。
5-2. 労働基準監督署の是正勧告に対応する場合
必要な書類に不備があった場合は是正勧告をされることもあるので、各書類の情報は適切に保管しておきましょう。是正勧告には法的な強制力がありませんが、対応しないでいると司法処分を受けることもあります。
不備を指摘された箇所を改善して、できる限り早急に再提出する必要があります。
5-3. 助成金や雇用保険の手続きを行う場合
まず、助成金申請時や雇用保険の手続きをおこなう際には、賃金台帳の写しを提出する必要があります。
支給日までに賃金計算が変動する可能性もあるので、「支給日後」の賃金台帳の写しを提出するようにしましょう。
関連記事:賃金台帳の写しが必要なケースとは?写しで対応できないケースや注意点を解説
6. 賃金台帳を適切に作成・保管して、もしもの場合に備えましょう
賃金台帳は法定三帳簿の一つとして、企業が必ず作成しなければならない書類です。
本記事で紹介した記載事項や保管期間に留意することで、労働基準監督署の臨検などの突発的な事象が発生しても、適切に対応できるようにしておきましょう。