入社後、一定期間勤務している従業員には有給休暇を付与します。有給休暇は取得義務があるため、年5日以上は必ず消化する必要がありますが、余った有給はどのように扱われるのでしょうか。
この記事では、有給休暇の期限が切れたことにより、消滅してしまうケースについて詳しく解説します。未消化分の有給の注意点や取得義務についても理解しておきましょう。
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目次
1. 有給休暇消滅のタイミングはいつ?期限切れの仕組みを知ろう
有給休暇とは、一定期間勤務した従業員に付与される休暇です。雇用から半年が経過し、所定勤務日の8割以上出勤している従業員に対して勤続年数に応じて支給されます。有給休暇には従業員に取らせなければならない最低日数が決められているほか、有効期限が定められており、一定期間を超えると消滅してしまいます。
期限が切れてしまうと、せっかく付与された有給休暇が使用できなくなるため、従業員には計画的に有給を取得させることが大切です。まずは、有給休暇の期限や繰り越しについて詳しく解説します。
関連記事:有給休暇の基本的なところや発生要件・計算方法を解説
1-1. 有給休暇の取得期限
労働基準法第115条では、有給休暇の期限は2年としています。付与日数は、労働日数や勤続年数に応じて異なりますが、最大で20日付与されるケースもあるでしょう。
しかし、付与日数にかかわらず、消化しなければ2年で消滅してしまいます。
なお、2020年から賃金の消滅時効が2年から5年(ただし、当分の間は3年)に延長されましたが、有給休暇の期限は2年で変更されていません。
積極的に有給休暇を取得してもらうのが働き方改革の目指すところですが、期限を伸ばしてしまうと取得の妨げになってしまう可能性があるため、有給休暇の期限は変更されませんでした。
ただし、例えば「有給休暇として休んだ分の賃金が支払われていない」など未払いのトラブルは、5年を期限として請求できます。
また、有給休暇の2年という期限は労働基準法が定める最低限の水準なので、企業独自のルールとして2年を超えて消滅の期限を定めることは労働者にとって有利な規定となるため問題ありません。
1-2. 有給休暇は1年分なら繰り越しも可能
法定の日数通り付与している場合、有給休暇は20日を上限として繰り越し可能です。使いきらなかった分は、翌年に繰り越して使用でき、繰り越し分から消化されていく仕組みとなっています。
また、繰り越し分を合わせると、最大保有日数は40日です。例えば、勤続年数6年半以上の従業員は通常20日付与されるので、前年の繰り越し分が20日の場合、合わせて40日になります(ただし、企業が法定の日数以上に有給を付与している場合は40日を超えることもあります)。
前年度から繰り越した分と新規で付与した分のどちらから消費するかは、企業側が決めることができますが、繰り越し分から消費されるのが一般的です。
関連記事:有給休暇日数の繰越とは?上限や計算方法などわかりやすい例を紹介
2. 消滅する有給休暇を計算する方法
有給休暇は有効期限内に消化するのが好ましいでしょう。しかし、業務内容や人員調整などの問題から、なかなか全てを消化するのは難しく、繰越あるいは消滅というケースも出てきます。
ここでは、消滅する有給休暇を計算する方法を解説します。
2-1. 消滅する有給休暇を求める方法~事例付き~
消滅する有給休暇を求めるには、有給休暇の付与日数、取得日数、繰越日数の関係を正しく把握することが大切です。
フルタイム従業員で有給休暇が消滅する仕組みを事例で紹介します。
1年目 |
2年目 |
3年目 |
4年目 |
5年目 |
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付与日数 |
10日 |
11日 |
12日 |
14日 |
16日 |
有効期限(2年間)内の有給休暇の合計日数 |
10日 |
15日 |
17日 |
26日 |
30日 |
取得日数 |
6日 |
10日 |
3日 |
10日 |
8日 |
残日数 |
4日 |
5日 |
14日 |
16日 |
22日 |
繰越日数 |
4日 |
5日 |
12日 |
14日 |
16日 |
消滅日数 |
– |
– |
2日 |
2日 |
6日 |
このケースの場合、以下のような手順で1年毎に消滅する有給日数を求めます。
1年目 |
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2年目 |
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3年目 |
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4年目 |
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5年目 |
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有給休暇の消滅日数は手順を覚えてしまえばそれほど難しいことではないでしょう。しかし、全従業員の消滅日数を手計算で求めるとなると手間がかかる上、ミスが起こるのでおすすめできません。
2-2. 有給休暇の消滅・繰越日数をエクセルの計算式で求める方法
有給休暇の消滅・繰越日数を手軽に管理する方法の1つにエクセルがあります。ただし、エクセルに使い慣れていることや関数の使い分けができることが前提です。
有給休暇の消滅・繰越日数をエクセルの計算式で導き出すのにはいくつかの方法がありますが、ここではその一例を簡単に紹介します。エクセルの計算で必要な項目と、それぞれの計算式や注意事項をまとめたので参考にしてみてください。
必要項目 |
使用する関数や注意点など |
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1 |
入社年月日 |
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2 |
勤続月数 |
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3 |
当年付与日数 |
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4 |
昨年付与日数 |
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5 |
消滅分 |
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6 |
有給付与月の判別 |
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7 |
取得日数 |
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8 |
残日数 |
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上記の手順で、エクセルの有給管理表が作成できそうであれば試してみましょう。一方、エクセルは使い慣れているが自分で計算式を組むのが難しい場合には、有給休暇の管理ができる無料のエクセルテンプレートを活用してもよいかもしれません。有給休暇の管理をもっと効率よく手軽におこないたい場合は、勤怠管理システムもおすすめです。
3. 消滅する有給休暇の取り扱いで違法になるケースと罰則
従業員の有給休暇が期限を迎えて消滅する場合、その取扱いにはいくつか注意しなければならない点があります。知らないと違法になるケースもあるので、しっかり把握しておきましょう。
関連記事:有給休暇の消化とは?有給休暇の取得義務化や転職・退職した際の有休消化について解説
3-1. 企業が有給休暇を従業員の同意なしで勝手に消化することは違法
有給休暇の取得は労働者の権利であり、基本的に従業員が自分の意思で自由に取得できなければなりません。これを年休自由取得の原則といいます。
企業が勝手に指定して従業員の有給を消化させることは違法になります。例えば、閑散期にシフトを減らし、従業員に知らせることなく有給休暇として消化しシフトを調整するケースが挙げられます。
しかし、年5回の有給休暇が取得できそうにない従業員において、企業は本人の希望を聞いた上で有給休暇を指定する「時季指定」をおこなわなければなりません。
時季指定は、従業員本人からの申し出による取得と計画的付与の日数の合計が、5日以上の場合は不要です。5日に満たない場合のみ時季指定をおこなう必要があります。
3-2. 未消化分の有給休暇は原則買い取り不可
有給の未消化分の買い取りは基本的に認められていません。
買い取りは従業員にとって金銭面でプラスになるので不利益にはあたりませんが、有給休暇制度は、従業員が心身を回復するための休暇であるため、買い取りが認められてしまうと、本来の目的から逸脱してしまうことから、原則禁止されています。
しかし、例外として買い取りが認められるケースもあります。以下は、有給休暇の買い取りが認められる3つのケースです。
- 法律で定める日数を上回る分の有給休暇
- 退職時に残っている有給休暇
- 期限が切れてしまう有給休暇
前述のとおり、有給休暇は法律で定める日数以上に付与することもできます。その分に関してはインセンティブのような位置付けなので、買い取りが可能です。
退職時に残っている分や、期限が切れてしまう分の買い取りは、有給休暇制度の本来の趣旨に反しないので、買い取っても良いとされています。
しかし、これらに当てはまるケースにおいても、会社は有給休暇の買い上げを必ずしもおこなう必要はありません。買い上げをするかしないかは会社が選択でき、仮に買い上げをする場合であっても、額は自由に決められます。
有給の買い取りをおこなうのであれば、就業規則で規定しておかなければなりません。また、労使間のトラブルを防ぐために、書面に記載してあらかじめ同意を得ておくことをおすすめします。
3-3. 企業が有給休暇の時効を短縮することはできない
有給休暇の期限は2年間と法律で決められています。就業規則で、消失期限を2年よりも長く設定することは可能ですが、2年未満に短縮することはできません。
取得可能な期限を短くして、従業員に有給の取得を促進させる方法は違法になりますので注意しましょう。
関連記事:有給休暇の買取は違法?計算方法やメリット、よくある疑問について解説!
4. 有給休暇の消化義務化について
本来、有給休暇は従業員が取得したいときに自由に消化できるものです。しかし日本では職場への配慮や取りづらい雰囲気があることから、取得率の低さが問題となっていました。
このような背景から、2019年に改正された労働基準法では、10日の有給休暇を与えた従業員において、年5日以上の取得を義務付けています。
企業は従業員に取得推進を呼びかけるだけでなく、時季指定をするなどして、必ず年5日は取得させなければなりません。取得させなかった事業者には、従業員1人につき30万円の罰金が科される可能性があります。
会社の規模が大きく、対象従業員の数が多いほど企業の負担は大きくなるため、違反することのないよう、日頃から有給休暇の管理はしっかりおこないましょう。
年5日取得していれば法的には問題ありませんが、従業員の健康状態や仕事とプライベートとのバランスを保つためにも、積極的に消化できる環境を作っていくことが望ましいでしょう。
有給休暇の取得義務化のように、有給休暇に関する守るべきルールはいくつかあります。知らずに違反していた場合でも、罰則が科される可能性があるため、有給休暇のルールを正確に把握しておきましょう。当サイトでは、有給休暇の基本的なルールについてわかりやすく解説した資料を無料でお配りしています。有給休暇のルール理解に不安のある方は、こちらからダウンロードして、法違反のリスク回避にご活用ください。
5.有給休暇の消滅を当たり前にさせないための対策
先述の通り、有給休暇の取得日数が5日以下の従業員がいる場合、企業は法令違反で罰金を科されるリスクがあります。また、有給休暇は従業員の権利であり、有給の消滅は労使間のトラブルや、従業員の不満に繋がるため付与された有給をすべて消化できるようにしなければなりません。
有給を取得しない・できない従業員に対しては、下記のような対策をとることが有効です。
5-1. 有給休暇の計画年休制度を導入する
有給休暇は企業が指定した日に取得させることもできます。これは年次有給休暇の計画年休制度といい、有給休暇のうち、従業員が自由に使うことができる5日以上を残し、それを超える分については、労使協定を結べば、計画的に休暇取得日を割り振ることができる制度です。
計画年休制度を導入すると、有給の未取得が発生するリスクを回避できる他、同じ日に一斉に休日を取得するため、管理が煩雑にならないというメリットがあります。
5-2. 勤怠管理システムで有給休暇の取得日数を管理する
各従業員の有給休暇の取得日数や、残日数をエクセルなどで管理している場合、申請があった場合、その都度手作業でカウントしなければならず、手間がかかります。
また、万が一数え間違いが発生していた場合に、気付かぬうちに違法となっているリスクもあります。
勤怠管理システムでは、従業員の有給休暇の取得日数や残日数をリアルタイムで確認できるため、従業員本人だけでなく、管理者も有給休暇の取得状況を確認できます。
もし5日以上の有給休暇を取得していない従業員がいる場合には、アラートを飛ばして取得をうながしたり、同じシステム上で、有給休暇の取得申請をおこなえるものもあります。
有給休暇の取得に関する手続きや、従業員の休暇の管理にかかる手間が格段に削減されます。
6. 有給休暇は消滅する前に取得しよう
有給休暇は付与されてから2年で期限が切れて消滅してしまいます。従業員が有給を取得することは企業の責任であることをもう一度確認しましょう。
また、有給休暇取得義務化により、10日以上の有給休暇が付与されている従業員は、年5日以上取得しなくてはなりません。そのため、付与から1年が経過する前に計画的に取得できるよう時季指定をおこなうなどの対策が必要です。
有効期限を迎え消化しきれなかった有給休暇は原則買い取り不可となります。しかし、退職時や期限切れの休暇に関しては、企業が買い取りを認めていれば可能です。
しかし、買い取りでは心身のリフレッシュを図るという有給休暇の本来の目的を達成できません。企業は、有給休暇が消滅する前にすべて消化できるのが当たり前という体制を作ることが大切です。
関連記事:有給休暇の年5日取得義務化によって中小企業が取るべき対応をわかりやすく解説
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