入社後、一定期間勤務している従業員には有給休暇を付与します。有給休暇は取得義務があるため、年5日以上は必ず消化する必要があります。しかし、余った有給はどのように扱われるのでしょうか。有給休暇には消滅時効(有効期限)が設けられています。
この記事では、有給休暇の期限が切れたことにより、消滅してしまうケースについて詳しく解説します。未消化分の有給の取り扱いにおける注意点や取得義務についても理解しておきましょう。
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目次
1. 有給休暇の消滅期限はいつ?
有給休暇とは、一定期間勤務した従業員に付与される休暇です。有給休暇には従業員に取らせなければならない最低日数が決められているほか、有効期限が定められており、一定期間を超えると消滅してしまいます。
期限が切れてしまうと、せっかく付与された有給休暇が使用できなくなるため、従業員には計画的に有給を取得させることが大切です。ここでは、有給休暇の付与日数や消滅期限、繰り越しについて詳しく解説します。
関連記事:有給休暇の基本的なところや発生要件・計算方法を解説
1-1. 有給休暇の付与日数とタイミング
労働者は、次の条件をどちらも満たす場合、有給休暇を取得することができます。
- 雇用から半年が経過している
- 所定勤務日の8割以上出勤している
1年で最大付与される有給休暇の日数は「20日」です。有給休暇は、原則として、勤続年数に応じて下記の日数が付与されます。
継続勤続年数 |
6カ月 |
1年半 |
2年半 |
3年半 |
4年半 |
5年半 |
6年半 |
付与日数 |
10日 |
11日 |
12日 |
14日 |
16日 |
18日 |
20日 |
ただし、パートやアルバイトなどで働く場合など、所定労働日数が少ない労働者は、所定労働日数に応じて有給休暇が比例付与されるので注意が必要です。
関連記事:有給休暇を付与するタイミングは?2回目以降の付与や基準日の統一についても解説!
1-2. 有給休暇の消滅時効(有効期限)
有給休暇がなぜ消滅してしまうのかというと、有給休暇には消滅時効が設けられているためです。労働基準法第115条により、有給休暇の有効期限は2年とされています。そのため、付与日数に関係なく、消化しなければ2年で消滅してしまいます。
なお、2020年4月から賃金の消滅時効が2年から5年(ただし、当分の間は3年)に延長されましたが、有給休暇の期限は2年のまま変更されていません。積極的に有給休暇を取得してもらうのが働き方改革の目指すところですが、期限を伸ばしてしまうと取得の妨げになってしまう可能性があるため、有給休暇の期限は変更されませんでした。
ただし、「有給休暇として休んだ分の賃金が支払われていない」など未払いのトラブルは、5年を期限として請求できます。また、有給休暇の2年という期限は労働基準法が定める最低限の水準なので、企業独自のルールとして2年を超えて消滅の期限を定めることは労働者にとって有利な規定となるため問題ありません。
(時効)
第百十五条 この法律の規定による賃金の請求権はこれを行使することができる時から五年間、この法律の規定による災害補償その他の請求権(賃金の請求権を除く。)はこれを行使することができる時から二年間行わない場合においては、時効によつて消滅する。
関連記事:有給休暇の有効期限とは?基準日の統一や繰越のルールについて解説!
1-3. 有給休暇は1年分なら繰り越しも可能
有給休暇の消滅時効は2年であるので、付与日を起算日として、そこから2年間であれば有給休暇を保有し続けることができます。そのため、有給休暇は1年分なら繰り越しが可能です。
また、有給休暇の1年における最大付与日数は20日です。1年後に再度20日の有給休暇が付与された場合、最大40日の有給休暇を保有することができます。ただし、企業が法定の日数以上に有給を付与している場合は40日を超えるケースもあります。
なお、前年度から繰り越した分と新規で付与した分のどちらから消費するかは、企業側が決めることができますが、繰り越し分から消費されるのが一般的です。
関連記事:有給休暇日数の繰越とは?上限や計算方法などわかりやすい例を紹介
2. 消滅する有給休暇を計算する方法
有給休暇は有効期限内に消化するのが望ましいです。しかし、業務内容や人員調整などの問題から、なかなか全てを消化するのは難しく、繰越あるいは消滅というケースも出てきます。
ここでは、消滅する有給休暇を計算する方法を解説します。
2-1. 消滅する有給休暇を求める方法~事例付き~
消滅する有給休暇を求めるには、有給休暇の付与日数、取得日数、繰越日数の関係を正しく把握することが大切です。フルタイム従業員で有給休暇が消滅する仕組みを事例で紹介します。
1年目 |
2年目 |
3年目 |
4年目 |
5年目 |
|
付与日数 |
10日 |
11日 |
12日 |
14日 |
16日 |
有効期限(2年間)内の有給休暇の合計日数 |
10日 |
15日 |
17日 |
26日 |
30日 |
取得日数 |
6日 |
10日 |
3日 |
10日 |
8日 |
残日数 |
4日 |
5日 |
14日 |
16日 |
22日 |
繰越日数 |
4日 |
5日 |
12日 |
14日 |
16日 |
消滅日数 |
– |
– |
2日 |
2日 |
6日 |
このケースの場合、以下のような手順で1年毎に消滅する有給日数を求めます。
1年目 |
|
2年目 |
|
3年目 |
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4年目 |
|
5年目 |
|
有給休暇の消滅日数は手順を覚えてしまえばそれほど難しくはありません。しかし、全従業員の消滅日数を手計算で求めるとなると手間がかかるうえ、ミスが起こるのでおすすめできません。
2-2. 有給休暇の消滅・繰越日数をエクセルの計算式で求める方法
有給休暇の消滅・繰越日数を手軽に管理する方法の一つにエクセルがあります。ただし、エクセルに使い慣れていることや関数の使い分けができることが前提です。
有給休暇の消滅・繰越日数をエクセルの計算式で導き出すのにはいくつかの方法があります。ここではその一例を簡単に紹介します。エクセルの計算で必要な項目と、それぞれの計算式や注意事項をまとめたので参考にしてみてください。
必要項目 |
使用する関数や注意点など |
|
1 |
入社年月日 |
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2 |
勤続月数 |
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3 |
当年付与日数 |
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4 |
昨年付与日数 |
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5 |
消滅分 |
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6 |
有給付与月の判別 |
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7 |
取得日数 |
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8 |
残日数 |
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上記の手順で、エクセルの有給管理表が作成できそうであれば試してみましょう。自分で有給管理表を作成するのが難しい場合には、有給休暇の管理ができる無料のエクセルテンプレートを活用してもよいかもしれません。有給休暇の管理をもっと効率よく手軽におこないたい場合は、勤怠管理システムの導入もおすすめです。
関連記事:年次有給休暇管理簿には作成・保存義務がある!記載事項や記入例をわかりやすく解説
3. 消滅する有給休暇の取り扱いで違法になるケースと罰則
従業員の有給休暇が期限を迎えて消滅する場合、その取扱いにはいくつか注意しなければならない点があります。知らないと違法になるケースもあるので、しっかり把握しておきましょう。
関連記事:有給休暇の消化とは?有給休暇の取得義務化や転職・退職した際の有休消化について解説
3-1. 企業が有給休暇を従業員の同意なしで勝手に消化することは違法
有給休暇の取得は労働者の権利であり、基本的に従業員が自分の意思で自由に取得できなければなりません。これを年休自由取得の原則といいます。
企業が勝手に指定して従業員の有給を消化させることは違法になります。たとえば、閑散期にシフトを減らし、従業員に知らせることなく有給休暇として消化してシフトを調整するケースが挙げられます。
しかし、年5回の有給休暇が取得できそうにない従業員に対しては、本人の希望を聞いたうえで有給休暇を指定する「時季指定」をおこなうことができます。時季指定は、従業員本人からの申し出による取得と計画的付与の日数の合計が、5日以上の場合は不要です。5日に満たない場合のみ時季指定をおこなう必要があります。
関連記事:時季変更権とは?強制力や行使が認められるケースについて解説
3-2. 未消化分の有給休暇は原則として買取不可
有給の未消化分の買取は基本的に認められていません。有給休暇制度は、従業員が心身を回復するための休暇であるため、買取が認められると、本来の目的から逸脱してしまうことから、原則禁止されています。
しかし、例外として買取が認められるケースもあります。以下は、有給休暇の買取が認められる3つのケースです。
- 法律で定める日数を上回る分の有給休暇
- 退職時に残っている有給休暇
- 有効期限が切れてしまう有給休暇
有給休暇は法律で定める日数以上に付与することもできます。その分に関してはインセンティブのような位置付けなので、買取が可能です。退職時に残っている分や、有効期限が切れてしまう分の買取は、有給休暇制度の本来の趣旨に反しないので、買い取っても良いとされています。
しかし、これらに当てはまるケースにおいても、会社は有給休暇の買取を必ずしもおこなう必要はありません。有給休暇の買取をするかしないかは会社が選択でき、仮に買取をする場合であっても、金額は自由に決められます。
有給の買取をおこなうのであれば、就業規則で規定しておく必要があります。また、労使間のトラブルを防ぐために、書面に記載してあらかじめ同意を得ておくことが大切です。
関連記事:有給休暇の買取は違法?退職者の対応や計算方法、デメリットを解説!
3-3. 企業が有給休暇の時効を短縮することはできない
有給休暇の消滅時効(有効期限)は2年間と法律で決められています。就業規則で、消滅期限を2年よりも長く設定することは可能ですが、2年未満に短縮することはできません。取得可能な期限を短くして、従業員に有給の取得を促進させる方法は違法になるので注意が必要です。
関連記事:有給休暇の買取は違法?計算方法やメリット、よくある疑問について解説!
3-4. 有給休暇の消滅に関連する罰則
労働基準法第39条第1項~第10項には、年次有給休暇の規則が記載されています。労働基準法第120条により、労働基準法第39条第7項(年5日の有給休暇取得義務化)に違反すると、「30万円以下の罰金」の罰則を受ける可能性があります。
また、労働基準法第119条により、労働基準法第39条(第7項を除く)に違反すると、「6カ月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金」の罰則が課される恐れがあります。たとえば、有給休暇を時効よりも早く消滅させたり、有給休暇の付与日数の計算を間違えたりすると、労働基準法第119条により、懲役や罰金といったペナルティを受ける可能性があります。
第百十九条 次の各号のいずれかに該当する者は、六箇月以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
一 (省略、)第三十九条(第七項を除く。)、(省略)の規定に違反した者
第百二十条 次の各号のいずれかに該当する者は、三十万円以下の罰金に処する。
一 (省略)、第三十九条第七項、(省略)の規定に違反した者
関連記事:有給休暇を定める法律「労働基準法」を解説!違反時の罰則や退職者の対処法
4. 有給休暇の消化義務化について
本来、有給休暇は従業員が取得したいときに自由に消化できるものです。しかし、日本では職場への配慮や取りづらい雰囲気があることから、取得率の低さが問題となっています。
このような背景から、2019年4月に改正された労働基準法では、年10日以上の有給休暇を与えた従業員において、年5日以上の取得を義務付けています。
企業は従業員に取得推進を呼びかけるだけでなく、時季指定をするなどして、必ず年5日は取得させなければなりません。取得させなかった事業者には、従業員1人につき30万円の罰金が科される可能性があります。
会社の規模が大きく、対象従業員の数が多いほど企業の負担は大きくなるため、違反することのないよう、日頃から有給休暇の管理はしっかりおこないましょう。
年5日取得していれば法的には問題ありませんが、従業員の健康状態や仕事とプライベートとのバランスを保つためにも、積極的に消化できる環境を作っていくことが望ましいです。
有給休暇の取得義務化のように、有給休暇に関する守るべきルールはいくつかあります。知らずに違反していた場合でも、罰則が科される可能性があるため、有給休暇のルールを正確に把握しておきましょう。当サイトでは、有給休暇の基本的なルールについてわかりやすく解説した資料を無料でお配りしています。有給休暇のルール理解に不安のある方は、こちらからダウンロードして、法違反のリスク回避にご活用ください。
5. 有給休暇の消滅を当たり前にさせないための対策
有給休暇の取得日数が年5日以下の従業員がいる場合、企業は法令違反で罰金を科されるリスクがあります。また、有給休暇は従業員の権利であり、有給の消滅は労使間のトラブルや、従業員の不満に繋がるため付与された有給をすべて消化できるようにしなければなりません。
有給を取得しない・できない従業員に対しては、下記のような対策をとることが有効です。
5-1. 半休や時間休の制度を取り入れる
有給休暇を半日や時間単位で取得させれば、有給消化率を上げることができます。また、従業員は、丸一日休む必要のない用事に対して、有給休暇を有効活用することが可能です。
ただし、半日や時間単位の有給休暇を取り入れる場合、就業規定にきちんと記載する必要があります。また、時間単位の有給休暇制度を導入する場合、労使協定の締結も必要になります。
このように、半休や時間休の制度は効果的ですが、労務管理が煩雑になる可能性もあるので、慎重に導入するかを検討することが大切です。
関連記事:有給休暇の時間単位付与とは?30分単位の付与や上限等のルールも解説
5-2. 有給休暇の計画年休制度を導入する
有給休暇は時季指定をおこない、企業が指定した日に取得させることもできます。これは年次有給休暇の計画年休制度といいます。有給休暇のうち、従業員が自由に使える5日以上を残し、それを超える分については、労使協定を結べば、計画的に休暇取得日を割り振ることができます。
計画年休制度を導入すると、有給の未取得が発生するリスクを回避できる他、同じ日に一斉に休日を取得するため、管理が煩雑にならないというメリットがあります。
関連記事:有給休暇取得義務や取得条件を理解しよう!取得率アップの施策も解説
5-3. 手当を支給する
労働者に有給休暇を取得させるため、有給休暇の取得に対して手当を支給するというユニークな試みをおこなっている企業もあります。
たとえば、誕生日や結婚記念日に有給休暇を取ることを推奨し、数万円程度の手当を支給する方法を採用している企業があります。また、自己啓発を目的とした有給休暇の取得に対し、勉強費として手当を支給している企業もあります。
このように手当を支給することで、有給休暇の取得を促進することが可能です。また、従業員エンゲージメントを高め、労働生産性を向上させることにもつながります。
5-4. 勤怠管理システムで有給休暇の取得日数を管理する
各従業員の有給休暇の取得日数や残日数をエクセルなどで管理している場合、申請・承認の都度、手作業でカウントしなければならず、時間や手間がかかります。また、万が一数え間違いが発生していた場合に、気付かぬうちに違法となっているリスクもあります。
勤怠管理システムを活用すれば、従業員の有給休暇の取得日数や残日数をリアルタイムで確認できるため、従業員本人だけでなく、管理者も有給休暇の取得状況を確認できます。もし5日以上の有給休暇を取得していない従業員がいる場合には、アラートを飛ばして取得を促すことも可能です。
このように、勤怠管理システムを導入すれば、有給休暇の取得に関する手続きや、従業員の休暇の管理にかかる手間が格段に削減されます。
関連記事:勤怠管理システムで不正打刻を防止|タイムカード不要の最新9サービス比較
6. 有給休暇は消滅する前に取得しよう
有給休暇は付与されてから2年で期限が切れて消滅してしまいます。従業員が有給を取得することは企業の責任であることをもう一度確認しましょう。
また、有給休暇取得義務化により、年10日以上の有給休暇が付与されている従業員は、年5日以上取得しなくてはなりません。そのため、付与から1年が経過する前に計画的に取得できるよう時季指定をおこなうなどの対策が必要です。
有効期限を迎え消化しきれなかった有給休暇は原則として買取が不可となります。ただし、退職時や期限切れの休暇に関しては、企業が買取を認めていれば可能です。
しかし、有給休暇の買取では心身のリフレッシュを図るという本来の目的を達成できません。企業は、有給休暇が消滅する前にすべて消化できるのが当たり前という体制を作ることが大切です。
関連記事:有給休暇の年5日取得義務化によって中小企業が取るべき対応をわかりやすく解説
「自社の年次有給休暇の付与や管理は正しく行われているのか確認したい」という方に向け、当サイトでは有給休暇の付与ルールから義務化、管理の方法まで年次有給休暇の法律について包括的にまとめた資料を無料で配布しております。
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