企業は、有給休暇を取得しやすい環境整備のための取り組みをおこなう必要があります。そのための施策のひとつに時間単位の有給休暇を設けることが挙げられます。時間単位の有給休暇を導入することで、従業員の取得率向上が期待されます。本記事では、時間単位の有給休暇について、導入方法や注意点もあわせて解説しています。メリットやデメリットも理解して、時間単位での有給休暇を適切に活用しましょう。
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目次
1. 時間単位の有給休暇とは
時間単位の有給休暇とは、通常1日や半日単位で取得する有給休暇を、時間単位で取得できる制度のことです。「時間単位の年次有給休暇」なので、「時間単位年休」とよばれることもあります。
時間単位の有給休暇を設けることは企業の義務ではないため、企業によって時間単位の有給休暇制度の有無は異なります。
日本の有給取得率の低さは問題となっているため、働き方改革の推進によっておこなわれてきた対策のひとつが時間単位の有給休暇制度の導入です。
1時間や2時間など、半日に満たない細かい時間で有給を消化できるため、ささいな用事にも使用でき、従来よりも有給が取りやすくなることが見込めます。
企業が制度を導入するためには、就業規則に規定し、労使協定を結ばなければなりません。本章では、時間単位の有給休暇の運用ルールに関して詳しく解説します。
1-1. 時間単位で付与できる有給休暇の上限は5日
積極的な有給休暇の取得を促すために、時間単位での有給休暇の付与は認められていますが、有給休暇の本体の目的は、従業員の心身の回復です。そのため、すべての日数を時単位で消化することは認められていません。時間単位で付与できる上限時間は、1年間に合計5日分までです。5日以下の範囲で各企業が自由に定めることができます。
そのため、「前年度分の繰り越しがある場合には5日まで、繰り越しがない場合には3日まで」等、時間単位で取得できる時間数や日数に条件を設けることも出来ます。
1年間に5日を超えて時間単位で有給休暇を与えることは違法となるため、注意しましょう。
1-2. 時間単位の有給休暇は繰越できる?
有給休暇には2年間の有効期限があるため、付与してから1年以内に使い切れなかった場合は、翌年度に繰り越すことができます。時間単位の有給休暇も繰越をすることが可能です。
方法は2つあります。
①残り時間を切り上げて1日にして翌年度の有給休暇に加える
②残り時間をそのまま翌年度に繰り越す
時間単位の有給休暇を設定する場合は、有給休暇の繰越の扱いについても就業規則などに規定しておくようにしましょう。
なお、時間単位の有給休暇は1年で消滅するなど、労働者にとって不利になる規定は法律違反となるので、注意が必要です。
関連記事:有給休暇日数の繰越とは?上限や計算方法などわかりやすい例を紹介
1-3. 時間単位の有給休暇の計算方法
時間単位年休では、何時間が1日分にあてはまるのか定めておく必要があります。なぜなら、時間単位で取得する時の1日の労働時間の基準は、所定労働時間で決まるからです。
所定労働時間が8時間であれば「8時間の取得が1日分に相当」とできますが、所定労働時間が7時間30分や7時間45分のときは考え方が異なります。
1時間に達しない端数がある場合、時間単位年休制度では端数分を切り上げることがルールです。そのため、7時間30分など端数が出る場合は、8時間が有給休暇1日分にあたります。
反対に所定労働時間が8時間であるにもかかわらず、運用する際は7時間として扱うなど、実際の所定労働時間を下回ることはできません。
また、所定労働時間が日によって異なる場合は、1年間の平均所定労働時間から算出します。
1-4. 時間単位の有給休暇の賃金計算
賃金は、通常の有給休暇における1日あたりの賃金を所定労働時間で割って計算します。以下を例として考えてみましょう。
- 所定労働時間:8時間
- 1日あたりの通常賃金:12,000円
- 有給休暇の賃金:通常の賃金をもとに算出
上記の場合、「12,000(1日あたりの賃金) ÷ 8(所定労働時間)」という計算式になるため、1時間あたりの賃金は1,500円です。
例えば、ある日の勤務で5時間労働し、残りの3時間は有給休暇を使った場合、以下のように考えます。
- 5 × 1,500 = 7,500円(5時間労働分)
- 3 × 1,500 = 4,500円(時間単位年休の3時間分)
有給休暇の賃金算出方法は法律で定める方法がいくつかあるため、自社に合った方法を就業規則で定めておく必要があるでしょう。
賃金算出方法を含めた企業の有給休暇に関するルールは、法律に則っている必要があります。法違反をしていた場合、罰則を科される可能性もあるため、法律に則った有給休暇のルールを正確に把握しておくことが大切です。当サイトでは、有給休暇の基本ルールを1冊で理解できる資料を無料でお配りしています。自社の有給休暇に関するルールが適切か確認したい方は、こちらからダウンロードしてご活用ください。
2. 時間単位の有給休暇のメリット・デメリット
時間単位の有給休暇にはさまざまなメリットとデメリットが存在します。導入を考えるのであれば、それぞれについて理解しておきましょう。
2-1. 時間単位の有給休暇のメリット
メリットとしてまず挙げられることは、有給休暇の取得率が上がることです。時間単位での取得であれば、業務への影響も最小限に抑えられるため、休みづらかった人も取得しやすくなります。
例えば「数時間だけ病院に行くために抜けられたら」と思っている人にとっては、丸1日分の休みを取ることなく、別日に休みを分散できるため、とても便利な制度だといえます。
企業にとっても有給が消化しやすく働きやすい職場としてアピールできるメリットがあります。
2-2. 時間単位の有給休暇のデメリット
制度を導入することで、管理が複雑になります。これまでは日数のみの管理だったところに、時間の管理も加わるため、会社側の負担は増えるでしょう。
また、制度の導入によって1日単位での有給休暇が取りづらくなってしまう可能性もあります。まとまった休暇を取得して休養してもらうという有給休暇本来の目的から逸れてしまうことがないよう、注意しなければなりません。
他にも、時間単位であることから事業への影響が少ないことが考えられるため、時季変更権を行使しづらくなることは企業にとってのデメリットです。
3. 時間単位の有給休暇を導入する方法
時間単位年休制度の導入は任意なので、取り入れなくても違法ではありません。しかし、導入するのであれば、ルールをしっかりと定める必要があります。
まず、するべきことは就業規則を変更することです。法律では時間単位年休に関する規定はありませんが、以下の内容を記載しておくと良いでしょう。
- 時間単位年休付与の対象者
- 時間単位年休の利用可能日数
- 所定労働時間の扱い
- 時間単位年休を付与する単位
- 賃金に関する内容
導入のためには、労使協定を締結しなければなりません。締結の際も就業規則と同じように、対象者や取得可能日数などを書面で定めましょう。
変更した就業規則は労働基準監督署長へ届け出る必要があります。労使協定の届出は必要ありません。また、就業規則の変更が完了したら、従業員に周知することを忘れないようにしましょう。
3-1. 労使協定の記載例
時間単位での年次有給休暇の取得に関するルールを労使協定に定める際は下記のように記載しましょう。
(記載例)
時間単位の年次有給休暇に関する協定書
○○株式会社(以下「会社」という。)と○○株式会社労働組合は、時間単位の年次有給休暇に関し、次のとおり協定する。
(対象者)
第1条 すべての労働者を対象とする
(日数の上限)
第2条 時間単位年休を取得することができる日数は、1年につき5日以内とする。この5日には前年の時間単位年休の繰越し分を含めることとする。
時間単位年休を5日取得したために、前年から繰り越した1日未満の時間が取得できなかった場合は、この時間分は翌年度に繰越す。
(1日分の年次有給休暇に相当する時間単位年休)
第3条 時間単位年休を取得する場合は、1日の年次有給休暇に相当する時間数は、以下のとおりとする。
(1) 所定労働時間が5時間を超え6時間以下の者 6時間
(2) 所定労働時間が6時間を超え7時間以下の者 7時間
(3) 所定労働時間が7時間を超え8時間以下の者 8時間
(時間単位年休の取得単位)
第4条 時間単位年休を取得する場合は、1時間単位で取得するものとする。
(時間単位年休の取得手続)
第5条 時間単位年休の請求は、遅くとも前労働日の終業時刻までに「時間単位年休取得届」に必要事項を記載して、所属長に届け出るものとする。
(時間単位年休に支払われる賃金額)
第6条 時間単位年休に支払われる賃金額は、所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金の1時間当たりの額に、取得した時間単位年休の時間数を乗じた額とする。
(その他)
第7条 上記以外の事項については、就業規則第○条に定める事項と同様とする。
(協定の効力)
第8条 本協定は、令和●●年●●月●●日より効力を発する。
令和○○年○○月○○日
○○株式会社 代表取締役 ○○○○
○○株式会社労働組合 執行委員長 ○○○○
参考:年次有給休暇時間単位取得促進特設サイト|厚生労働省
参考:時間単位の年次有給休暇に関する労使協定例|愛媛労働局
4. 時間単位で有給休暇を取得させる際の注意点
時間単位の有給休暇を運用する上での注意点を確認しましょう。導入したことでトラブルが起きることがないよう、事前に理解しておくことが大切です。
4-1. 30分単位など、分単位での取得はできない
1時間や2時間で時間単位の有給休暇を取得することは可能ですが、15分や30分など分単位での取得はできません。
「時間単位」という制度の通り、1時間に達しない時間は法的に認められていないので、たとえ就業規則などで定めたとしても不可能です。端数は1時間単位に切り上げて付与しましょう。
なお、1日に取得できる回数に決まりはなく、午前に1時間、午後に1時間、合計で2時間分の有給取得などは時間単位であるため、問題ありません。
4-2. 時間単位で取得した有給を年5日の取得義務分として扱うことはできない
2019年4月から、年10日以上有給休暇が付与された従業員は年5日以上の有給取得が義務付けられていますが、時間単位での有給取得の合計取得時間が5日分になったとしても、取得が義務づけられている5日分の有給休暇を取得したとみなすことは認められていません。
取得義務は、心身を休めるための休暇を増やすことが目的とされているので、時間単位で細分化して取得した有給休暇はこの条件を満たさないと判断されるためです。
時間単位の有給休暇を取得させる場合は、取得義務のある5日とは別で取らせなければならないことに注意しましょう。
関連記事:年5日の有給休暇取得が義務に!労働基準法違反にならないために企業がすべき対応方法とは
4-3. 時間単位の有給の時季変更権の行使は認められにくい
企業は繁忙期や人員不足など、やむをえない事情がある場合には、時季変更権を行使して、有給休暇を申請した従業員の有給休暇の取得時季を変更することができます。
時間単位の有給休暇取得に関しても、同様に時季変更権は行使できますが、時間単位の有給休暇は半日や1日単位で取得した有給よりも業務に与える影響が小さいと考えられるため、合理的な説明をおこなうのが難しく、時季変更権の行使は難しい場合が多いでしょう。
4-4. 時間単位の有給休暇を導入する場合は、管理が煩雑になる
時間単位の有給休暇を導入した場合は、管理が煩雑になる場合が多いです。
有給休暇が日単位であれば、残り日数が何日かを把握しておけば良いですが、時間単位で取得させた場合は、残り日数に合わせて残り時間も集計しなければなりません。
そのため、日単位で有給休暇を取得させるよりも、管理工数が発生します。
紙などで集計している場合、ミスなども発生しやすくなるため、残り時間を自動集計してくれるような勤怠管理システムなどを活用すると良いでしょう。
5. 有給休暇を時間単位制度で柔軟な働き方に対応しよう
今回は、時間単位の有給休暇における基本的なことについて解説しました。時間単位年休は、1時間など細かい時間で有給休暇が取得できるものなので、短時間での用事や中抜けしたいときに利用できる便利な制度です。
しかし、有給休暇の管理が複雑になったり、1日単位での有給休暇が取得しづらくなったりする可能性があることは、デメリットとして把握しておきましょう。
また、時間単位年休の上限は年5日までであることや、有給休暇の取得義務の日数には含まれない点に注意する必要があります。
時間単位年休制度は、就業規則で定めて労使協定を締結すれば導入可能なので、働きやすい労働環境の整備のためにも検討してみてください。
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