企業が従業員に対して付与義務のある年次有給休暇に関しては、労働基準法第39条に規定されています。
また、働き方改革関連法案により、2019年4月から年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対して、そのうちの年5日は使用者が時季を指定して取得させることが義務付けられました。
本記事は、労働基準法の条文を引用しながら、有給休暇義務化の内容や取得させるときの注意点について解説します。
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1. 労働基準法で見る有給休暇の基本ルール
まず、有給休暇の定義や取得義務化についてなど、人事担当者が知っておくべき内容を労働基準法の条文を引用しながら解説します。
1-1. 有給休暇の定義と付与要件
有給休暇とは、正式には「年次有給休暇」と言い、会社を休んでもその日分の給料が支払われる休暇のことです。
労働基準法第39条で労働者の権利として定められており、業種・業態に関わらず、また、正社員・パート・アルバイトなどの雇用形態も関係なく、一定の条件を満たせば誰にでも与えられる権利です。
使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。
引用:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000049#232
上記の通り、有給休暇は雇入れの日から継続して6か月間勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に対して与えられます。これは、連続して与えることも、分割して与えることも可能です。
▶有給休暇の基本的なところや発生要件・計算方法を解説
1-2. 年5日の有給休暇取得が義務に
有給休暇に関しては、2018年に成立した働き方改革関連法案により、2019年4月から10日以上の有給休暇が付与されるすべての労働者に対して、使用者が時季を指定して年5日の有給休暇を取得させることが義務付けられました。
使用者は、第一項から第三項までの規定による有給休暇(これらの規定により使用者が与えなければならない有給休暇の日数が十労働日以上である労働者に係るものに限る。以下この項及び次項において同じ。)の日数のうち五日については、基準日(継続勤務した期間を六箇月経過日から一年ごとに区分した各期間(最後に一年未満の期間を生じたときは、当該期間)の初日をいう。以下この項において同じ。)から一年以内の期間に、労働者ごとにその時季を定めることにより与えなければならない。
引用:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000049#232
日本の有給休暇の取得率の低さを背景に、「有給休暇の日数は付与されているが有給休暇を取得していない」労働者の心身のリフレッシュを目的として施行されています。
▶年5日の有給休暇取得が義務に!労働基準法違反にならないために企業がすべき対応方法とは
1-3. 有給休暇の付与日数
有給休暇の付与日数は、雇い入れの日からの勤続年数に応じて変化します。
使用者は、一年六箇月以上継続勤務した労働者に対しては、雇入れの日から起算して六箇月を超えて継続勤務する日(以下「六箇月経過日」という。)から起算した継続勤務年数一年ごとに、前項の日数に、次の表の上欄に掲げる六箇月経過日から起算した継続勤務年数の区分に応じ同表の下欄に掲げる労働日を加算した有給休暇を与えなければならない。
引用:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000049#232
前述の通り、有給休暇は、パート・アルバイトであっても取得することができます。
①通常の労働者の付与日数
②所定労働日数が少ない労働者の付与日数(パート・アルバイトなど)
パート・アルバイトなどの所定労働日数が少ない労働者は、所定労働日数に応じて取得できる日数が異なります。
ただし、週所定労働日数が5日以上かつ週所定労働時間が30時間以上のパート・アルバイトなどは、付与日数が通常の労働者と同じになります。
参照:年次有給休暇の付与日数 – 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/jikan/sokushin/roudousya.html
原則、有給休暇は1日単位で取得することになりますが、あらかじめ労働者と使用者の同意がある場合は、半日単位・時間単位での有給休暇の取得が可能となります。
また、時間単位での有給休暇に関しては、労働基準法第39条4項で、年5日を限度として定められています。
一 時間を単位として有給休暇を与えることができることとされる労働者の範囲
二 時間を単位として与えることができることとされる有給休暇の日数(五日以内に限る。)
三 その他厚生労働省令で定める事項
半日単位での有給休暇は労使協定が締結されていなくても付与が可能なのに対し、時間単位での有給休暇は労使協定が必要となります。
▶【図解】有給休暇の付与日数と付与のポイントをわかりやすく解説!
1-4. 有給休暇取得義務の発生時期
有給休暇を取得させる義務が発生する時期は、従業員に有給休暇を付与した日によって異なります。
たとえば、4月1日に入社した方に、有給休暇付与の条件が満たされる6か月後の10月1日に10日間付与する場合、この時点から1年間で5日間の有給休暇取得義務が生じます。
そのため、毎年10月1日から年5日間の有給休暇取得義務が生じることになります。
また、入社と同時に有給休暇を付与した場合は、付与した日を基準日として考えるため、その基準日から年5日の有給休暇取得義務が生じます。
たとえば、4月1日に入社して、その日に有給休暇を付与したのならば、毎年4月1日から年5日間の有給休暇取得義務が生じることになります。
1-5. 年5日の有給休暇を確実に取得させるには
従業員が多い企業では、有給休暇の取得をスムーズにおこなうことができない場合もあることでしょう。
原則、有給休暇は労働者が請求する時季に取得させるようになっていますが、年10日以上の有給休暇が付与される労働者に対しては、年5日まで使用者が時季を指定して取得させることができ、これを時季指定権と言います。
このように、有給休暇は取得時季を使用者が定め、有給休暇を半強制的に取得させることにより、スムーズに取得させることができます。
ただし、すでに年5日以上の有給休暇を請求・取得している労働者に対しては、使用者による時季指定権を使用することができません。
また、労使協定に基づき有給休暇の付与日数から5日間を除いた日数を上限として、会社側が労働者の有給休暇取得日をあらかじめ指定できる制度もあり、これを有給休暇の計画的付与と言います。
上述の使用者による時季指定権と似ていますが、計画的付与が「労使協定を結ぶことで従業員の意見を尊重する必要が無い」のに対し、時季指定権は「労使協定を結ばない代わりに、事前に労働者の意見を聞き、尊重する必要がある」という点が異なります。
▶有給休暇の取得を促進する取り組みとは|20年連続100%を達成した事例
1-6. 有給休暇の法律に違反した際の罰則について
有給休暇の付与や取得に関する主な罰則は、次の通りです。
注意点は、罰則の中に違反労働者1人につき掛かってしまうものがあるということです。
たとえば、年5日の有給休暇を取得させなかった社員が100人いた場合、100人×30万で最大3,000万円の罰金になる可能性があります。
「罰則になるなんて知らなかった」とはならないようにしっかりと把握するようにしましょう。
ここまで、有給休暇付与における基本的なルールについて解説してきましたが、企業によって付与ルールは異なることが多く、戸惑われる方もいらっしゃると思います。
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2. 有給休暇の法律で見落としがちなルール
有給休暇については、その他にもさまざまなルールが法律で定められています。
ここから、それぞれについて具体的に解説していきます。
2-1. 有給休暇の取り方を定める法律は「時季変更権」の1つだけ
有給休暇の取り方は原則労働者の自由で、請求する日に取得させなければなりません。また、取得を申請してきた際は、無理に理由を聞くことはできません。
しかし、使用者は、労働者から有給休暇を請求された日に、有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合のみ、他の時季に有給休暇を変更することができます。
これを「時季変更権」と言い、繁忙期に有給休暇の申請があった場合や、同時期に多くの労働者が有給休暇の申請がおこなわれた場合などに認められるケースがあります
使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。
引用:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000049#232
2-2. 有給休暇の繰越しは、原則として2年間可能である
有給休暇の繰越しには期限があり、原則2年間と定められています。前年度に取得できなかった有給休暇は、翌年度に繰り越すことが可能ですが、2年を超えた場合は繰越しができずに消滅してしまいます。
そのため、有給休暇の繰越し上限は付与される有給休暇の最大日数である20日間と決まっています。もし、20日以上の有給休暇が残っていたとしても、上限を超えた分は繰り越すことができないので注意が必要です。
2-3. 不利益な取り扱いの禁止
使用者は、有給休暇の取得を申請してきた労働者に対して、賃金の減額やその他の不利益な取り扱いをしないようにしなければなりません。
使用者は、第三十九条第一項から第四項までの規定による有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取扱いをしないようにしなければならない。
引用:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000049#232
2-4. 退職者も有給休暇を使用できる
退職が決まっている従業員に対しても、有給休暇の使用を認めなくてはいけません。
残っている有給休暇は退職日までに使い切るのが基本です。そのために、会社側は退職日が決まっている従業員に対し、以下のような働きかけを行いましょう。
- 有給休暇の正確な残日数を知らせる
- 退職予定者の直属の上司にも有給休暇残日数を知らせ、すべて消化できるように業務調整を行なってもらう
- 退職予定者に身辺整理を行なってもらう
- 有給休暇を使い切ったら、その事実を退職予定者にも確認してもらう
しかし、場合によっては退職日までに有給休暇を消化し切れないケースも出てきます。その場合は、残りの有給休暇を買い取ることも可能です。ただし、有給休暇の買い取りは退職予定者に限定されるので注意してください。
また、定年制度により、退職者を再雇用するケースも増えています。退職時に再雇用が決定している場合でも、退職日の前に有給休暇を使い切るのが原則です。
再雇用後、有給休暇の付与日数を算出するために必要な「勤続年数」は、退職前のものを引き継ぎます。例えば、退職時の勤続年数が6.5年以上の従業員の場合、再雇用後に付与する1回目の有給休暇は6.5年以上で算出します。ただし、退職から再雇用までに相当の期間が空いた場合、勤続年数はリセットされます。
退職予定者や再雇用者に対して適切な対応をしない場合、労働基準監督署への通報などにより是正勧告を受ける場合があるので注意が必要です。
2-5. 年次有給休暇管理簿を作成し保存する必要がある
年5日の有給休暇の取得が義務化されたことで、企業は年次有給休暇管理簿を作成し、3年間保存しなければならなくなりました。
年次有給休暇管理簿とは、時季、日数、基準日を労働者ごとに記載した書類です。
年次有給休暇管理簿の作成義務は、労働者による請求、使用者による時季指定、または計画的付与によって、労働者が有給休暇を取得した際に初めて生じます。
厚生労働省が年次有給休暇管理簿のフォーマットを公表しているので、もしよければ参考にしてみてください。
2-6. 時季指定権の行使には、就業規則への規定が必須
休暇に関する事項は就業規則の絶対的必要記載事項だと労働基準法第89条に記載されています。
そのため、使用者による時季指定権を行使する際は、就業規則に記載しないといけません。
常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
2-7. 有給休暇を取得しても、出勤とみなされる場合がある
業務上の怪我や病気で休んでいる期間、育児休業や介護休業を取得した期間は、有給休暇だとしても出勤したものとみなされます。
また、会社都合の休業期間については、原則として全労働日から除外することになります。
労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業した期間及び育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律第二条第一号に規定する育児休業又は同条第二号に規定する介護休業をした期間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業した期間は、第一項及び第二項の規定の適用については、これを出勤したものとみなす。
引用:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000049#232
3. まとめ
有給休暇の法律の内容や注意点についてまとめましたが、難しい内容になっているので注意が必要です。今回の内容は法律にかかわることなので、「知らなかった」では済みません。もう一度頭の中で整理して、義務化に伴い何をしなければいけないのかを明確にしましょう。
有給休暇を取得させることは、社員にとってリフレッシュ効果があり、生産性が上がると期待されています。なので、有給休暇取得に対してネガティブにならず、労働者が取得しやすい環境づくりを行っていきましょう。
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