有給休暇の取得は従業員の権利であると同時に、従業員の心身の健康維持のために非常に重要です。しかし、日本の有給休暇取得率は諸外国に比べて著しく低く、満足に取得することができていません。
このような状況を解決し、従業員が健康的に働ける職場をつくるためには、有給休暇について正しく理解することが大切です。
本記事では、有給休暇の付与条件や有効期限、有効期限が切れてしまった場合の対応について解説します。
関連記事:有給休暇の基本的なところや発生要件・計算方法を解説
目次
1. 有給休暇の付与条件
ここでは、有給休暇が付与される条件について解説します。
1-1. 入社6か月以上経過していて、出勤率は8割以上
有給休暇が付与される条件は下記2つです。
・その期間の出勤率が8割以上であること
これらの条件を満たした従業員に10日以上の有給休暇を付与する必要があります。
条件の一つに「出勤率が8割以上」とありますが、下記の日程も出勤日に含まれるので注意しましょう。
・業務上の負傷や疾病を理由とする休業
・産前、産後の休業
・育児休業あるいは介護休業
・年次有給休暇を取得した日
・遅刻や早退をおこなった日
1-2. 出勤率の計算方法
ここでは、出勤率の計算方法について解説します。
出勤率は以下の計算式で求めることができます。
となるので、この従業員の出勤率は87.5%であることがわかります。
出勤率が8割以上なので、企業はこの従業員に有給休暇を10日以上付与する必要があります。
ここまで、従業員に有給休暇が付与される条件について解説しました。育児休業や介護休業のような、出勤していない日も出勤日として数えることもあるので注意しましょう。
関連記事:【図解】有給休暇の付与日数と付与のポイントをわかりやすく解説!
2. 有給休暇の有効期限と基準日は?
ここでは、有給休暇の基準日と有効期限について解説します。
2-1. 有給休暇の有効期限は2年間!
労働基準法115条により、有給休暇の有効期限は基準日から2年間であることが定められています。基準日とは企業が有給休暇を従業員に付与する権利発生日のことを指します。
有給休暇の付与条件である、「入社から6か月経過しており、出勤率が8割を超えていること」を満たした日であるので、一般的に基準日は入社から6か月後の日付を指します。
例えば、4月1日入社の場合、基準日は10月1日になります。
なお、2年という有効期限はあくまで労働基準法に定められた最低基準であるため、企業によっては有給休暇の有効期限を3年に設定しても違法ではありません。
関連記事:有給休暇の有効期限とは?基準日の統一や繰越のルールについて解説!
2-2. 有給休暇の基準日を統一することは可能?
前項で、有給休暇の基準日は「入社してから6か月後の日付である」と解説しました。しかし、これだと従業員の入社日によって、有給付与日がばらばらになってしまい、企業は有給休暇の管理が難しくなります。
このような事態を防ぐために、企業は有給休暇の基準日を統一することで、事務作業を簡略化することも可能です。
基準日に関しては、年1回あるいは年2回、統一された基準日を設けることが一般的です。
ただし、基準日を統一した結果、従業員にとって不利な条件となる場合、労働基準法違反となるため注意が必要です。
▶具体的な運用例についてはこちら
ここまで、有給休暇の有効期限と基準日について解説しました。基準日を統一することで有給休暇の管理を簡略化することができますが、従業員にとって不利な条件とならないように注意する必要があります。
ここからは、有給休暇の期限に関する法律について解説します。
関連記事:有給休暇の基準日とは?管理簿への記載が必須!統一するメリットや考え方を解説
3. 有給休暇の年5日取得が義務化
働き方改革関連法の一環として、年10日以上の有給休暇を付与されている従業員に対し、有給休暇の年5日の取得が義務化されました。また、この5日分の有給休暇に関しては、時間単位で取得させることが許されていません。
そのため、企業は必ず従業員に5日間の全休を与える必要があります。
関連記事:年5日の有給休暇取得が義務に!労働基準法違反にならないために企業がすべき対応方法とは
4. 有給休暇の有効期限内に消化できない場合の対応
ここでは、有給休暇を有効期限内に消化できない場合の対応について解説します。
4-1. 有給休暇の繰越をおこなう
1つ目は「有給休暇の繰越をおこなう」です。
有給休暇の有効期限は2年であるため、1年目に付与された有給休暇を全て消化できなかったとしても、翌年に繰り越すことができます。また、繰り越された際は新しく付与された有給休暇ではなく、繰り越された有給休暇から消化されていきます。
有給休暇は期限内であれば繰り越せるとはいえ、年5日は有給休暇の取得が義務付けられているため注意しましょう。
関連記事:有給休暇日数の繰越とは?上限や計算方法などわかりやすい例を紹介
4-2. 【例外】有給休暇の買取をおこなう
2つ目は「有給休暇の買取をおこなう」です。
有給休暇の買取は原則として、違法です。
ただし、以下の3つの場合であれば、有給休暇の買取が認められます。
・有給休暇の有効期限が切れている場合
・退職をした際に、有給休暇が残っている場合
有効期限を過ぎた有給休暇を取得することはできません。しかし、買取をおこない、有給休暇を賃金として従業員に還元することは従業員にとって不利に働かないので、違法ではありません。
関連記事:有給休暇の買取は違法?計算方法やメリット、よくある疑問について解説!
5. 有給休暇の最大付与日数、最大保持日数は?
ここでは、有給休暇の最大付与日数と最大保持日数について解説します。
5-1. 有給休暇の最大付与日数は20日
結論、有給休暇の最大付与日数は20日です。付与条件を満たした、入社6か月時点で最低10日間の有給休暇が付与されます。そして、その後の勤続年数に応じて、11日、12日、と増えていき、最大20日まで付与されます。
5-2. 有給休暇の最大保持日数は35日
有給休暇の最大保持日数は35日です。
前項で、有給休暇の最大付与日数は20日であると解説しました。それに加えて、年5日の有給取得義務があるため、繰り越せる有給休暇は15日となります。なお、最大保持日数は下記計算式で求めることができます。
15日(繰越した有給休暇)+20(新しく付与される有給休暇)=35日(最大保持日数)
そのため、35日が有給休暇の最大保持日数となります。
6. 有給休暇の期限を過ぎてしまった場合、賃金は請求される?
従業員が有給休暇を取得したのにもかかわらず、その分の賃金を支払っていなかった場合、有給休暇の有効期限を過ぎていたとしても、賃金を請求される可能性はあります。
有給休暇を取得する有効期限は2年と定められていますが、賃金請求権は5年(現行は3年)と定められているためです。
元々、賃金請求権の消滅時効は2年でしたが、労働基準法の改正により2020年4月以降に支払われる賃金から5年に延長されました。
当面の間は移行の準備期間も踏まえ、消滅時効は3年となっていますが、いつ時効が伸びても良いように、有給休暇分の賃金支払いを忘れることがないよう、事前準備をしておくのが望ましいでしょう。
7. 有給休暇の有効期限を理解し、従業員が働きやすい職場づくりへ!
本記事では、有給休暇の期限や期限を過ぎてしまった場合の対応などについて解説しました。有給休暇の期限や付与条件について正しく理解することは、労働基準法を違反するリスクを無くすことにつながります。
今回の記事に内容を踏まえて、従業員が健康的に働ける職場づくりを目指しましょう!