従業員が、時間外労働や休日労働、深夜労働をおこなった場合には、割増賃金の支払いをおこなわなければなりません。
そこで今回は、割増賃金の計算方法について、5つのステップを紹介しながら解説していきます。また、割増賃金算出時に注意すべき点についてもあわせて紹介します。
1. 割増賃金の計算式
まず、割増賃金の計算方法について確認していきましょう。割増賃金は下記の計算式を基本に算出します。
割増賃金=1時間あたりの基礎賃金×各種割増率×対象となる時間数
割増賃金を計算するにあたって、まずは1時間あたりの基礎賃金を算出しましょう。時給制の場合はそのまま時給を適用できますが、月給制の場合は基礎賃金の算出が少々複雑です。今回はこの基礎賃金の算出も含め、割増賃金の計算を下記の5段階に分けて計算して確認していきましょう。
◇割増賃金の計算5ステップ
- 基礎賃金の確認
- 所定労働時間の確認
- 1時間あたりの基礎賃金の算出
- 実労働時間の確認
- 割増賃金の算出
1〜3で1時間あたりの基礎賃金を算出し、4、5が割増賃金の算出する工程になります。
1-1. 基礎賃金の確認
まず、基礎賃金の確認をおこないます。基礎賃金とは給与の基本となる賃金のことであり、割増賃金の計算に必要となります。
基本賃金は、経験、能力、年齢や仕事内容などに応じて決定されるのが一般的です。
基礎賃金に含めない手当
基礎賃金には、従業員の個人的事情に基づいて支給されていることから、基礎賃金から除外できる手当があります。例えば、以下に該当する7つの手当は、基礎賃金には算入しなくても問題ないと労働基準法施行規則第21条にて定められています。
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当
- 臨時で支払われた賃金
- 1ヵ月を超えた期間ごとに支払われる賃金
ただし、以下の3つの場合にあてはまるときには、基礎賃金算入の除外対象にはならないため、注意しましょう。
家族手当
扶養家族の有無や家族の人数に関わらず、一律に支払っている場合
通勤手当
通勤にかかる費用や距離に関わらず、一律に支払っている場合
住宅手当
住宅の形態によって、一律で支払っている場合
基礎賃金に含める手当
一方で、下記のような手当は基礎賃金に含めて算出します。
- 地域手当
- 資格手当
- 役職手当
- 皆勤手当
- 営業手当
ここで記載した手当以外にも各社で設定している手当があることでしょう。
基本的には先述の労働基準法施行規則第21条で定められた7つの手当以外は基礎賃金に含めて計算しましょう。
1-2. 所定労働時間の確認
割増賃金を計算する基礎となる所定労働時間には、年間の所定労働時間と月間の所定労働時間があります。
以下、それぞれの所定労働時間の確認方法について説明します。
年間の所定労働時間の確認
年間の所定労働時間は、年間の所定労働時間を計算することで確認できます。具体的には、1年間の日数である365日から、年間の休日数を引いて、年間の所定労働日数を算出し、1日の所定労働時間を掛けることで算出します。
年間の休日数を把握するためには、就業規則にある年間の休日の合計日数を確認しておかなければなりません。
月間の所定労働時間の確認
月間の所定労働時間は、年間の所定労働時間を1年間の月数で割ると確認できます。具体的には、1年間の月数となる12ヵ月で割ることにより月間の所定労働時間が算出できます。
1-3. 1時間あたりの基礎賃金の算出
1時間あたりの基礎賃金を算出する場合には、1月あたりの基礎賃金の額を月間の所定労働時間で割って計算することで求められます。
なお、給与形態によって法令等で定められている1時間あたりの基礎賃金額の算出方法は以下の通りです。
時給制の場合:支払われている時給額
日給制の場合:日給額÷1日の所定労働時間数
月給制の場合:月間の基礎賃金÷月の平均所定労働時間数
年俸制の場合:年俸額÷年の所定労働時間数
1時間あたりの基礎賃金を算出する際に対象外とする手当
1時間あたりの基礎賃金を算出するにあたり、家族手当や通勤手当、住宅手当の3つの手当については、以下の場合には対象外とします。
家族手当:扶養家族の有無や家族の人数に関係なく、一律に支払っている場合
通勤手当:通勤に要する費用や距離に関係なく、一律に支払っている場合
住宅手当:住宅の形態によって、一律で支払っている場合
1時間あたりの基礎賃金の計算例
ここでは、1時間あたりの基礎賃金の計算例を紹介します。
例)基礎賃金額300,000円、年間休日数125日、1日の所定労働時間を7.5時間とした場合
月間の所定労働時間数は、年間の所定労働日数 × 1日の所定労働時間 ÷ 12で求められるため、
(365−125)× 7.5時間 ÷ 12 = 150時間
1時間あたりの基礎賃金額は、「基礎賃金÷月の所定労働時間数」で求められるため、
300,000円÷150=2,000円
となり、2,000円となります。
関連記事:割増賃金の基礎となる賃金について割増や労働基準法から解説
1-4. 割増賃金の対象となる実労働時間の確認
割増賃金の対象となる実労働時間を確認します。
労働の種類別に、実労働時間と認められる時間について、以下に示します。
時間外労働の場合:労働基準法で指定している1日8時間、週40時間を超えた労働時間
休日労働の場合:法定休日の労働時間
深夜労働の場合:22時から翌5時の労働時間
上記にあてはまる時間をそれぞれ個別に算出しておきましょう。
1-5. 割増賃金の算出
ここまでに算出した数値をもとに、割増労働賃金を算出します。
割増率は以下の通りです。
割増条件 |
割増率 |
時間外労働 |
25% |
深夜労働 |
25% |
休日労働 |
35% |
冒頭で紹介した「割増賃金=1時間あたりの基礎賃金×各種割増率×対象となる時間数」の計算式の割増率の部分に上記の該当項目を当てはめて計算しましょう。
また、各割増条件が重複した場合には、それぞれの割増率を加算して割増計算をおこないます。例えば、深夜労働に該当する時間に残業(時間外労働)をさせた場合には、25%₊25%=50%の割増率になるため、この場合の割増賃金は「1時間あたりの基礎賃金×時間外労働時間数×1.5」計算式で算出されます。
以下、時間外労働時、休日出勤時、深夜労働時に分けて割増労働賃金の計算方法を紹介します。
関連記事:割増賃金率の計算方法について新たに変わるルールとあわせて徹底解説
2. 時間外労働(残業)時の割増賃金の算出
時間外労働時の割増賃金は、「1時間あたりの基礎賃金×時間外労働時間数×1.25」の計算式で算出されます。
この場合、あくまでも時間外労働にあたるのは、労働基準法で定められた法定労働時間である、1日8時間、週40時間を超えた時間数となります。時間外労働は残業だけでなく始業前の時間の勤務も該当します。
具体例を用いて計算してみましょう。
月給30万円、年間休日が110日、諸手当なし、1日の所定労働時間数が8時間の従業員Aが、9時〜20時(うち休憩1時間)で勤務した場合
月平均所定労働時間は、
(365日ー110日)×8時間÷12ヵ月
=255日×8時間÷12ヵ月
=170時間
よって、1時間あたりの賃金は、
300,000円÷170時間
≒1,765円
つまり、この場合18時~20時の2時間の時間外労働が発生しているので、Aに対して支払う割増賃金は、
1,765円×1.25×2時間≒4,413円
となります。
2-1. 時間外労働(残業)時間が月60時間を超過した場合は割増賃金を引き上げる
時間外労働が月60時間を超える場合には、割増賃金の計算式は、「1時間あたりの基礎賃金×時間外労働時間数×1.5」として、算出をおこないます。
これは現在大企業のみに適用されている規定ですが、中小企業に対して設けられていた適用猶予期間が2023年3月31日に終了することが決まりました。2023年4月1日からは企業の規模にかかわらず上記の規定で計算する必要があります。
関連記事:残業が月60時間を超過すると割増賃金が増える?中小企業の猶予も解説
3. 休日労働時の割増賃金の算出
休日労働時の割増賃金は、「1時間あたりの基礎賃金×時間外労働時間数×1.35」の計算式で算出されます。
計算時に休日労働とみなされるのは、法定休日にあたる日の出勤のみとなります。法定休日は従業員に対し「週1日、月に4日間」付与することが企業に義務付けられた休日です。社内で独自に設定した所定休日での勤務については、上記の計算式は適用されませんので、注意しましょう。
また、休日労働の際に1日8時間を超えた時間勤務をおこなわせたとしても割増率が引きあがることはありません。
時間外労働とは、労働義務のある日に法定労働時間を超過した分の労働に対して支払われる割増賃金です。休日労働はもともと労働義務の無い法定休日での勤務であるため、休日労働の割増賃金と時間外労働の割増賃金が同時に発生することはありません。
4. 深夜労働時の割増賃金の算出
深夜労働時の割増賃金は、「1時間あたりの基礎賃金×時間外労働時間数×1.25」の計算式で算出されます。
深夜時間である22時から翌5時に該当する時間の勤務に対して賃金を割り増して支払いましょう。
また、管理職の従業員は時間外労働と休日労働の割増賃金の支払い義務はありませんが、深夜労働の割増賃金は支払う必要があるため、注意しましょう。
5. 割増賃金の計算式を正しく理解しトラブルを未然に防ごう
従業員に時間外労働や休日労働、深夜労働をさせた場合には、割増賃金の支払いをおこなわなければなりません。賃金計算をする際には、正しい計算式を理解し、支払い額のミスなどによるトラブルを未然に防ぎましょう。
割増賃金額を計算する場合には、所定賃金や基礎賃金、所定労働時間を確認し、1時間あたりの基礎賃金を算出したうえで、割増賃金の算出をおこなうとよいでしょう。