企業が労働者と雇用契約を結ぶ場合、雇用契約書を書面で発行するケースがほとんどです。雇用契約書を作成しておけば、労働者とのトラブルを防ぎやすくなります。
起業したばかりという人や初めて雇用契約書を作成するという人は、必須事項などを確認して、漏れのないように作成しましょう。
本記事では、雇用契約書に何を記載する義務があるのか、作成の際にどのような点に注意しなければならないのかなどを紹介します。
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従業員を雇い入れる際は、雇用(労働)契約を締結し、労働条件通知書を交付する必要がありますが、法規定に沿って正しく進めなくてはなりません。
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目次
1. 雇用契約書とは
雇用契約書の正しい書き方を知るためには、まず雇用契約書がどのようなものなのかを知っておくことが大切です。
1-1. 雇用契約書とは雇用条件を明示した書類
雇用契約書とは、使用者が労働者を採用する際に雇用条件を明示した書類のことです。「契約書」という名の通り、使用者と労働者の双方が雇用条件に同意したうえで作成することが前提のため、使用者・労働者双方の署名・押印が必要となります。
なお、雇用契約書と似た書類に「労働条件通知書」がありますが、こちらはあくまでも「通知書」であるため、使用者が労働者に一方的に通知する書類です。労働条件通知書には、雇用契約を締結するにあたって使用者から労働者へ明示した労働条件について記載されています。
1-2. 雇用契約書の法的効力
雇用契約書を作成した場合、使用者・労働者ともにその内容に拘束されることになります。ただし、以下の3つに該当する場合は、例外的に雇用契約書の内容が変更されます。
- 労働基準法に違反している場合
- 労働協約に違反している場合
- 就業規則に違反している場合
後ほど詳しく解説しますが、作成した雇用契約書が上記のいずれかに該当する場合は、契約書の内容は無効となるので注意が必要です。
雇用契約書を作成する際は、労働基準法などに違反していないことを確認のうえ、労働者には法令を遵守した労働をさせるようにしましょう。
1-3. 「雇用契約書がない」は違法?
雇用契約書は必ずしも作成・交付しなくてはならない書類ではなく、作成しなくても違法性はありません。
しかし、労働者が安心して働ける環境を作ることや労使トラブルを防止することを目的として、多くの企業が雇用契約書を作成してしています。作成・交付などの手間はかかりますが、雇用契約書を取り交わすことで労使双方にとってメリットがあるので作成するほうが望ましいでしょう。
なお、労働条件通知書は作成しないと違法となるため混同しないように注意してください。
2. 雇用契約書に記載すべき事項
雇用契約書は交付が義務付けられた書類ではないため、記載すべき事項に決まりはありませんが、労働契約の成立を示すものであるため、労働条件と署名欄を設けているケースがほとんどです。
ここでは、雇用契約書に記載すべき内容を解説します。
2-1. 契約期間
正社員、契約社員、派遣社員、アルバイト、パートタイムなどすべての雇用形態において、雇用契約書には契約期間を記載しましょう。
試用期間がある場合はその旨と、いつから正式採用となるのかを明記します。
契約社員、派遣社員、期間限定のパートタイムなどは契約を更新する可能性もあります。更新の条件もきちんと記載しましょう。
2-2. 就業場所
就業場所の記載も必要です。店舗や事務所などがひとつしかない場合でもきちんと記載しなければなりません。支社、支店、本部、支部などがあり、転勤の可能性がある場合はその旨についての記載もしておきましょう。
業務によって違う場所に出勤しなければならないケースもあります。その場合も、どの条件でどの場所で働くことになるのかを記載しておきましょう。
2-3. 業務内容
業務内容について明記します。就業規則や労働条件通知書に記載した以外の業務を労働者にさせることは契約違反になるため、注意が必要です。
業務内容が変動する可能性がある、業務内容に幅がある場合は、あいまいな表現をするのではなく、誰が見てもきちんと判断できるような表現を心がけましょう。
2-4. 就業時間
始業時間、終業時間が決まっている場合はその時間を記載し、シフト制などで変動する場合はシフトのパターンについて記載しましょう。また、一日にどれくらいの時間労働が発生するかも記載しておきます。フレックスタイム制や変形労働時間性など、シフト上のルールがある場合も明記しておきましょう。
2-5. 交代制の有無
交代制の勤務があるかないかを明確にしておきましょう。業務形態に交代制を導入している場合は、その旨についても記載します。
どの条件で交代制とするのか、交代の規則などについても記載しておくとよいでしょう。
2-6. 休憩時間
何時間以上の勤務で何分間の休憩が発生するかを記載します。
労働基準法で休憩の下限は設定されていますが、法律に反していなければ休憩時間やルールは企業が独自で設定しても問題ありません。
休憩時間を記載していないと、後々労働者との間でトラブルになる可能性があります。
2-7. 時間外労働の有無
時間外労働があるかないかを記載します。時間外労働がある場合は何時間までが上限なのか、時間外労働に対する割増賃金の計算方法も確認できるようにしましょう。
なお、時間外労働は労働基準法で上限が定められているため、上限を超えた時間外労働を設定していないか確認が必要です。
2-8. 休日
労働基準法が定めた法定休日はいつなのか、企業が定めた所定休日はいつなのかを記載します。シフト制などで休日が固定されない場合は週に何日の休日があるのか、何曜日を法定休日や所定休日にするのかを明確にしておきましょう。
2-9. 休暇
労働基準法が設定する法定休暇や有給休暇、企業が設定する特別休暇などを記載します。正社員だけでなく、アルバイトやパートタイムなどの契約であっても、一定の条件を満たせば年次有給休暇は発生するため、法律に反した記載がないか確認しておきましょう。
2-10. 賃金や手当
月給、週給、日給、時給などの賃金の定義や、交通費などの手当についても記載します。締め日や支払日、支払い方法などについても記載し、労働者がいつでも賃金について確認できるようにしましょう。
2-11. 昇給
昇給の有無を記載しておきましょう。昇給が実施される条件やタイミング、金額の決め方などを記載しておくことが大切です。業績悪化などの事情により昇給をおこなわない可能性がある場合は、その旨も記載しておきます。
2-12. 賞与
賞与を支給するかどうかも明記しておくことが重要です。支払いの時期や回数、金額の算定対象期間などを記載しておきましょう。昇給と同様、賞与を支払わないケースや支払い時期を変更する可能性がある場合は、明記しておきます。
2-13. 退職
定年の年齢や定年後の再雇用制度について明記しておきましょう。さらに労働者の都合で退職する場合は申告する期限、必要な手続きなどを記載します。
2-14. その他の記載事項
その他にも、以下のような項目について記載するケースがあります。雇用契約書には決まったテンプレートがないため、就業状況などによって必要な項目を追加しましょう。
- 試用期間についての詳細(試用期間延長の有無、試用期間中の賃金など)
- 社会保険の加入状況や雇用保険適用の有無
- 会社が補助する食事代、作業用品や備品の購入に関する取り決め事項
- 安全・衛生に関する事項
- 職業訓練に関する事項
- 災害補償や業務外の傷病扶助に関する事項
- 表彰に関する事項
- 休職制度など
雇用契約書を作成する目的の1つは、労働者とのトラブルを回避することです。そのため、あらゆる事項についてできるだけ詳細に記載するようにしましょう。
3. 裁量労働制・フレックスタイム制の雇用契約書の書き方
裁量労働制やフレックスタイム制を導入している場合は、雇用契約書の書き方に注意しましょう。基本的な項目は同じですが、勤務時間については各制度の内容に合わせて記載しなければなりません。以下、それぞれの制度における雇用契約書の作成ポイントを紹介します。
3-1. 裁量労働制の雇用契約書を書くときのポイント
裁量労働制とは、事前に取り決めた時間数については労働したと見なして給与を支払う仕組みのことです。労働者は、仕事の進め方や時間配分をある程度自由に決められます。
裁量労働制を適用できるのは経営企画、営業企画、デザイナー、プログラマーなど、時間配分を労働者に委ねる必要がある業務のみです。裁量労働制における雇用契約書には、基本となる始業時刻と終業時刻とともに、労働者の決定に委ねる旨を記載しましょう。
記載例:始業8時30分〜終業17時30分を基本とし、労働者の決定に委ねる。
3-2. 変形労働時間制の雇用契約書を書くときのポイント
変形労働時間制とは、労働時間を月や年単位で調整し、時間外労働の発生を防ぐ仕組みのことです。繁忙期には所定労働時間を長くし、逆に閑散期には短くするなど、状況に合わせて業務配分をすることで全体の労働時間を減らすことにつながります。
変形労働時間制のなかには、1週間、1カ月、1年といった単位の制度があります。雇用契約書には、どの単位の制度とするのか、具体的な始業時間・就業時間を記載しましょう。
記載例:
1カ月単位の変形労働時間制として、以下の勤務時間の組み合わせにより勤務する。
毎月20日までに翌月分の勤務時間について通知する。
始業8時30分〜終業17時30分(うち休憩時間60分)
始業11時30分〜終業21時00分(うち休憩時間60分)
始業9時30分〜終業14時30分(うち休憩時間60分)
3-3. フレックスタイム制の雇用契約書を書くときのポイント
フレックスタイム制とは、一定期間内の総労働時間を定めておき、その範囲内で自由に働ける仕組みのことです。必ず働かなければならないコアタイムと、自由に出社・退社できるフレキシブルタイムを設けるケースが多いでしょう。
フレックスタイム制の雇用契約書には、清算期間とコアタイム・フレキシブルタイムを記載しておくことが重要です。
記載例:
清算期間は毎月1日から末日までの1カ月とし、始業・終業の時刻は労働者の決定に委ねる。
ただし、以下の範囲で労働する。
■ フレキシブルタイム
始業時間帯:7時30分〜10時30分
終業時間帯:15時30分〜19時30分
■ コアタイム
10時30分〜15時30分
休憩時間60分
4. 雇用契約書が法令に違反している場合は労働基準法が適用される
労働者の権利を守るため、労働基準法では労働時間や休日についてさまざまなルールが設けられています。雇用契約書や労働条件通知書に記載している条件であっても労働基準法に反する内容であれば、違反している部分については労働基準法の規定が適用されるため注意しましょう。
また、就業規則で定めた労働日数や労働時間、賃金を下回る条件を雇用契約書に記載しても無効扱いになります。
雇用契約書は上記で紹介した事項を記載するだけでなく、労働基準法に則り、就業規則の内容に反しないよう注意しながら作成しなければなりません。
このように、雇用契約を締結する際には、守るべきルールに則って雇用契約書を作成しなければなりません。
また、雇用契約に関する法律の改正などもあるため、自社の雇用契約が適切な内容か確認しておくことも重要です。
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関連記事:雇用契約書が持つ法的効力とは?労働条件通知書との違いを詳しく紹介
5. 雇用契約書の書き方で注意するべきポイント
雇用契約書を作成する前に確認しておきたいポイントを紹介します。
5-1. 雇用契約書と労働条件通知書は兼用できる
先ほど解説しましたが、雇用契約書の発行は必須ではありません。
しかし、労働者と契約する際に労働条件通知書を発行することは法律で義務付けられています。
2つの書類を作成・保管する手間が煩わしい場合は、雇用契約書と労働条件通知書を兼用した「雇用契約書兼労働条件通知書」とすることも可能です。
関連記事:労働条件通知書とは?雇用契約書との違いやそれぞれの役目と必要な理由を解説
関連記事:雇用契約書と労働条件通知書の違いについて電子化の可否もあわせて徹底解説
5-2. パート・アルバイトでも雇用契約書の書き方は変わらない
雇用契約書は正社員だけでなく、パート・アルバイト、派遣社員、契約社員であっても作成するのが望ましいです。
正社員よりも週所定労働日数が少ないパート・アルバイトや有期雇用の従業員の雇用契約書には、勤務日数に関して、1週間に働く日数や時間の合計とシフトの時間帯などを記載しておきましょう。
パート・アルバイト従業員も雇用契約書の書き方はほぼ変わりません。しかし、相違点もあるので注意が必要です。
パートタイム有期雇用労働法によって、パート・アルバイト従業員の労働条件通知書には以下の4点を記載し、書面で通知することが義務付けられています。同時に、雇用契約書にも記載しておくと良いでしょう。
- 退職金の有無
- 昇給の有無
- 賞与の有無
- 期限付きの雇用の労働者の雇用管理の改善等に関する事項に係る相談窓口
また、有期雇用の従業員の労働条件通知書には、以下の2点を書面で明示することが労働基準法で義務付けられています。雇用契約書にもあわせて記載しておきましょう。
- 雇用契約期間満了後の「契約更新の有無」
- 契約を更新する場合又は更新しない場合の「判断基準」
加えて、同一労働同一賃金ルールや最低賃金についても違法行為にあたらないような決まりを作り、矛盾がないように雇用契約書に記載しましょう。
関連記事:パートタイム労働者の雇用契約書を作成する際に押さえておきたいポイント
5-3. 入社時に説明した内容と矛盾しないようにする
雇用契約書を作成するときは、事前に説明した内容と矛盾しないように注意しましょう。求人票や就職説明会、面接時の説明と矛盾していると、契約後に労使間のトラブルが発生することもあります。
とくに勤務時間や給与など、数字に関することは間違いのないよう、しっかりとチェックしておくことが大切です。
5-4. 使い回しに注意する
雇用契約書の使い回しにも注意が必要です。定型的な書類であるため、契約者名を変えるなどの簡単な修正のみで発行してしまうケースが多いかもしれませんが、実際には勤務時間や通勤手当など、個別の状況に合わせて書き換えるべき項目は多くあります。
他の労働者の情報が記載されてしまうなど、トラブルが発生する可能性もあるため使い回しは避けましょう。
5-5. 雇用契約書の内容を途中で変更する場合は慎重に対応する
労働時間の変更や賃金など、雇用契約書の内容を途中で変更したいケースも出てくるでしょう。そのような場合は、以下のいずれかの方法で対応します。
- 新たに雇用契約書を作成する
- 変更になった箇所を抽出して「覚書」などを作成する
ただし、使用者の都合で勝手に雇用契約書の内容を変更することはできません。契約内容を変更する場合は、原則として使用者・労働者双方の合意が必要です。
とくに賃金の引き下げなど、労働者にとって不利益となる変更の場合は、変更の目的や理由などを丁寧に説明し、形式的な合意を得る必要があります。なお、双方が同意した場合でも、労働基準法に反する変更であった場合は変更事項が適用されることはないので注意しましょう。
5-6. 雇用契約書に違反した場合のペナルティについて
使用者が雇用契約書に違反した場合、以下のようなペナルティを科される可能性があります。
- 労働者から損害賠償金の請求を受ける
- 罰金や懲役などの罰則が課せられる
- 労働基準法15条2項に従い、労働者は即時に雇用契約を解除することができる
ペナルティの有無に関わらず、企業は法令を遵守した雇用契約書の作成を心がけましょう。
6. 雇用契約書の書き方を確認して正しく作成・交付しよう
今回は、雇用契約書の書き方や記載事項について紹介しました。労働者とのトラブルを防ぐために雇用契約書は大切です。
記載事項に決まりはありませんが、労働条件通知書と兼用する場合は、法律で定められた項目をすべて記載しておく必要があるため注意しましょう。
一から雇用契約書を作成する時間や知識がない場合は、公開されているテンプレートを利用するのもおすすめです。また、現行の雇用契約書が法令に違反していないかを見直し、法的効力のあるものを作成しましょう。
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従業員を雇い入れる際は、雇用(労働)契約を締結し、労働条件通知書を交付する必要がありますが、法規定に沿って正しく進めなくてはなりません。
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