雇用契約書は、労働契約の成立を示す書類で、多くは労働条件と署名欄が記載されています。雇用契約書は雇用形態に関わらず、雇用者と労働者が雇用契約を締結する際に交わされることが多いですが、実際には雇用関係にあるにもかかわらず雇用契約書を交わしていないというケースは珍しくありません。
雇用契約書は作成・交付をしなくても違法にはならないのでしょうか?
今回は、雇用契約書の法的な位置付けや、雇用契約書がない場合に想定されるトラブるなどについて詳しく解説します。
雇用契約は法律に則った方法で対応しなければ、従業員とのトラブルになりかねません。
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1. 雇用契約書がないことの違法性
労働契約が成立しているにもかかわらず雇用契約書の交付がない場合、「違法なのでは?」と不安を覚える方も少なくないでしょう。
しかし、実は労働契約は使用者と労働者が対等な立場で合意さえしていれば成立し、雇用契約書の交付についても法律上作成の義務はありません。つまり、双方の合意のもとであれば口約束でも労働契約は成立可能であり、雇用契約書がなくても違法ではないのです。
なお、労働契約については労働契約法第6条においても「労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて労働者及び使用者が合意することによって成立する」とされています。
関連記事:雇用契約書が持つ法的効力とは?労働条件通知書との違いを詳しく紹介
1-1. 労働条件通知書がない場合は違法
労働契約は雇用契約書がなくとも成立します。とはいえ雇用者と労働者間の取り決めが何一つ明示されていない状況で雇用関係を結ぶことはできません。
労働基準法第15条1項では「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。」とされており、これは「労働条件通知書」を意味します。
つまり、雇用者が労働条件通知書を交付しなかった場合、それは労働基準法に違反したとみなされ、30万円以下の罰金が科せられることになるのです(労働基準法第120号第1号)。
また、労働基準法施行規則第5条により、労働者が雇用者を採用する際は、書面(労働条件通知書)に以下の内容を明示することが定められています。
- 契約期間
- 期間の定めがある契約の場合の、更新に関する基準
- 就業場所や業務内容
- 労働時間や休憩、休日など
- 賃金の決定方法や支払時期
- 退職について
以上の項目の明示がなされていない場合も労働基準法違反となり、30万円以下の罰金に処せられます。
なお、雇用者は労働者の雇用形態に関わらず上記の内容が明示された労働条件通知書を交付する必要があります。
このように、雇用契約書に関するルールなどを理解していないと、知らず知らずのうちに法違反となっていたなどということもあります。入退社管理をする方はあらかじめ自社の雇用契約に問題がないか確認することでリスク回避することができます。
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関連記事:労働条件通知書とは?雇用契約書との違いやそれぞれの役目と必要な理由を解説
1-2. パートやアルバイトの雇用契約書がないのは違法?
パートやアルバイトの雇用契約書がないことに関しても、違法ではありません。正社員の場合と同様、雇用契約書の交付について法律上義務はないので、使用者とパート・アルバイト双方の合意のもとであれば口約束でも労働契約は成立可能です。
ただし、労働条件通知書は作成して交付しなければなりません。加えて、パート・アルバイトのような短時間労働者に関しては、追加で以下の項目を雇用契約書および労働条件通知書に定めておかなければなりません。
- 退職金の有無
- 昇給の有無
- 賞与支給の有無
- 短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する事項の相談窓口
これは、パートタイム有期雇用労働法に基づくものです。
雇用手続きを誤ると、トラブルが発生することや、罰則を科される可能性があるため、適切な雇用契約の手続きを踏むように心がけましょう。
関連記事:パートタイム労働者の雇用契約書を作成する際に押さえておきたいポイント
2. 雇用契約書がないことにより想定されるトラブル
ここまでお伝えしてきたとおり、労働条件通知書が法的に交付が義務付けられている一方で、雇用契約書については交付をしなくても違法ではありません。
しかし、雇用契約書がない場合、次のようなトラブルが発生する可能性があるため、注意しましょう。
2-1. 求人票の内容と実際の労働条件が異なる
雇用契約書がないことにより起こりやすいトラブルの一つが「求人票の内容と実際の条件が違う」ことです。
雇用者と労働者の双方が合意した上で、労働者が署名捺印をする雇用契約書に対し、労働条件通知書は「通知書」という名称のとおり、雇用者から労働者へ一方的に交付されるものです。そして、労働条件通知書の交付は法律上は雇入れ時、つまり入社日に雇用者から労働者へ渡されることが一般的です。
そのため、例えば雇用契約書がない状態で入社日当日に従業員へ労働条件通知書を渡した場合、「求人票には〇〇と書いてあったはずなのに…」といったトラブルが発生してしまう可能性があります。そこで双方が話し合いをし、結果的に労働者が雇用条件に納得できたり、労働条件通知書を変更するなどの対応ができれば問題はないといえるでしょう。
しかし、労働者が「この条件では働けない」という意思を示した場合、雇用者側は入社日当日に働き手を失うことになり、反対に労働者側も入社日当日に職を失うことになってしまうのです。
2-2. 労働者が不利な条件のまま勤務してしまう
先ほど、労働条件通知書は雇用者から労働者へ一方的に交付されるものとお伝えしましたが、これは、労働者が「不利な条件を受け入れざるを得ない」という状況を作り出してしまうことにも繋がりかねません。
例えば口約束で雇用契約をし、その日から入社日当日に向けてシフトの調整や制服の手配など、さまざまな準備が進められたとします。そして、入社日当日やその直前になって労働条件通知書が労働者に交付された際に、労働者がその条件に対して違和感を感じても、そのことを言い出せないケースがあるのです。特に社会人経験のない新卒者や学生のアルバイト、遠慮がちな性格な人の場合、その場の空気に圧倒され「仕方ない」と受け入れてしまいかねません。
結果的に従業員の短期離職や、メンタルヘルスの不調などに発展してしまう可能性があります。
2-3. 雇用者側の主張が認められなくなる
雇用契約書は労働条件通知書とは違い、なくても違法にはなりません。しかし、雇用契約書がないことはすなわち「労働者の同意が得られていない状況」であるとも捉えられ、雇用者にとっては不利に働くことがありますす。
例えば雇用者と労働者の間で何らかのトラブルがあった場合、労働者が労働基準監督署に対して「雇用者から○○といわれていた」と主張をすると、明確な証拠がない限りは労働者側の主張が認められてしまうでしょう。さらに、その結果として雇用者が書類送検をされたり、労働者側から数百万円単位での金額を請求されたという事例もあるのです。
3. 雇用契約書を作成するメリット
雇用契約書は作成しなくても違法にはならないものの、作成することには次のようなメリットがあります。健全な雇用関係が形成されているのであれば、基本的には雇用契約書を作成することでデメリットが生じるということはないため、ぜひ作成をしましょう。
3-1. 労務関係のトラブル防止になる
「聞いていた勤務時間と違う」「賃金の計算がおかしい」など、雇用者と労働者間で労働条件の話に食い違いが生じた場合、雇用契約書があればその記載内容をもとに双方で話し合いを進めることができます。雇用契約書に限らず、契約書は「言った言わない」を回避するためにも重要な書類です。思い込みなどによる不要なトラブルを未然に防ぐためにも、雇用契約書を作成しておくと安心です。
3-2. 安定した雇用関係に繋がる
雇用者側が単純に雇用契約書を作成していないだけの状況であっても、労働者にとって雇用契約書がないことは「書面での契約がないなんて何か事情があるのではないか」「ブラック企業なのではないか」などの不安要素に十分なり得ます。また入社前に労働条件を明示し、雇用契約書を交わすことで、雇用する側、労働する側としての責任を再確認することもできます。安定した雇用関係を構築するためにも雇用契約書は有効です。
4. 安心・快適な労働環境のためにも雇用契約書の作成・交付を
労働条件通知書とは異なり、雇用契約書は作成・交付をせずとも違法にはなりません。しかし、雇用契約書を介して雇用者側・労働者側双方が労働条件等の契約内容をあらかじめ把握しておくことによって、避けられるトラブルやメリットがあります。
また、相対的に文書量は多くなってしまうものの、雇用契約書は労働条件通知書の内容とをひとつにまとめることで「労働条件通知書兼雇用契約書」として作成・交付も可能です。雇用者側・労働者側の双方が安心して快適に働くことのできる環境を作るためにも、雇用契約書の作成・交付をおこないましょう。
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