固定残業代制(みなし残業代制ともいう)は、企業が一定時間の残業を想定し、あらかじめ月給に固定の残業代を含めて支給することで、残業時間を計算せずに済む制度です。
毎月の残業計算が不要であり、便利な制度でもありますが、固定残業時間を超えた場合に該当時間に対する残業代を支払わないなどのトラブル発生も少なくありません。
本記事では、固定残業代について上限や労働条件通知書の記載例などについてわかりやすく解説します。
関連記事:残業とは|残業の割増賃金の計算方法や残業規制による対策法も
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目次
1. 固定残業代とは残業代を固定給に含んだもの
固定残業代はみなし残業代ともいわれていて、一定の残業代があらかじめ固定給に含まれたものです。
会社にとっては毎月従業員ごとに残業代の計算が不要という大きなメリットを感じるものですが、従業員にとってはどれだけ残業しても給料が変わらないという印象が強いのではないでしょうか。
ただし、固定残業代を適用するのは決して簡単ではありません。会社は厳しい条件を満たす必要があるからです。
1-1. 固定残業とみなし残業の違い
固定残業とみなし残業は異なるものを指す場合があります。
固定残業とは、あらかじめ残業時間をみなし、そのみなし残業時間に対してみなし残業代を支払う制度です。
一方で、みなし残業には、「みなし残業代制」における残業と、「みなし労働時間制」における残業の2種類があります。
みなし残業代制と固定残業代制は同義ですが、みなし労働時間制は事業場の外での勤務など、労働時間を把握することが難しい場合に、すべての労働時間を勤務しているものとみなして賃金計算をおこなう制度であるため、この場合のみなし残業は固定残業代制とは異なるものを指します。
関連記事:みなし残業と固定残業の間違いやすいポイントを徹底解説
2. 固定残業代(みなし残業代)のメリット・デメリット
固定残業代導入のメリット
固定残業代を導入することの企業側のメリットとして、賃金計算の手間が省けることがあります。残業代を1人ずつ計算する必要がなくなるため、人件費の計算がしやすくなったり給与計算にかかる時間を削減したりすることができます。
また、従業員は効率的に仕事をすればそれだけ特をすることになるので、従業員の労働の生産性が向上する効果も期待されます。
固定残業代導入のデメリット
一方でデメリットとしては、固定残業代を導入することで、必要以上に人件費がかかる可能性があること、誤った認識で未払い残業代が発生するリスクがあることがあげられます。
固定残業代制だからといって、従業員が実際にどのくらい勤務しているのか、労働時間の把握を怠らないように注意しましょう。
関連記事:固定残業代を設ける2つのメリットと押さえておきたいデメリット
3.固定残業代(みなし残業代)の計算方法
固定残業代の計算方法は支給方法が「手当型」か「組込型」かで少々異なります。
「手当型」の場合は基本給に固定残業代を加算して支払います。一方の「組込型」は基本給に固定残業代を含んだ額を設定し支給します。
手当型も組込型も基本的な計算方法は同様で下記の式で算出します。
固定残業代=1時間あたりの基礎賃金×固定残業時間×1.25
1時間あたりの基礎賃金の計算方法は「月給÷月平均所定労働時間」で計算します。
月平均所定労働時間は、月給制や年俸制の場合に月ごとの営業日数によって月の給与が変動することを避けるために「(年間暦日数-年間休日数)÷12 ×所定労働時間数」の式を用いて算出します。
例えばうるう年ではない年に年間休日数が125日、月給40万円、1日の所定労働時間が8時間で月の固定残業が30時間の従業員Aの場合、
月平均所定労働時間:(365日-125日)÷12 × 8 =160時間
400,000円÷160時間=2,500円
よって1時間あたりの基礎賃金が2,500円であると分かります。
よって、固定残業代は
2,500円×30時間×1.25=93,750円 となります。
手当型の場合は40万円の基本給と93,750円の残業手当をそれぞれ支給し、組込型の場合は給与として493,750円を支給します。
組込型の場合は、就業規則や労働条件通知書で給与493,750円(固定残業代93,750円を含む)と明記しておく必要があるため、注意しましょう。
関連記事:固定残業代の計算方法について手当型・組込型・超過分を詳しく解説
4. 固定残業代を適用させるために会社がクリアすべき3つの条件
固定残業代を適用するためには、以下の条件を満たす必要があります。
- 労働条件通知書や就業規則などの書面で従業員に周知する
- 1の書面で固定残業代の金額・時間を明確に記載する
- 36協定の正しい締結
会社は従業員に対して固定残業代制度を導入していることを知らせなければなりません。口頭での説明ではなく、労働条件通知書などの書面で周知してください。
上記3つの条件以外にも押さえておくべきポイントがあります。
- 固定残業代は基本給に含めない
- 平均的な残業時間を確認し、実際の残業時間数との乖離を避ける
- 基本給と諸手当など所定労働時間に対応する賃金の合計が最低賃金を下回らない
- 深夜労働・休日残業については別途賃金を支払う
- 超過した場合は別途残業代を支給する
- 給与明細にも適切な表記をする
- 固定残業代の適用後に基本給部分を減額する場合は個別に必要な同意を得る
- 求人募集でも適切な表記をする
4-1. 固定残業代を適用するには労働条件通知書への記載が必須
固定残業代を適用させるには、労働条件通知書への明記が必須です。労働条件通知書で明記されていない固定残業代は法的に無効となりますので、注意が必要です。
「月給27万円(45時間分の固定残業代5万円を含む)」や「月給30万円(基本給25万円・固定残業代5万円)」のように固定残業代の金額と残業時間数の両方を基本給から分けて明記しなくてはなりません。
また、役職手当や営業手当などを固定残業代として支払うケースでは「○○手当は固定残業代として支払う」と但し書きをします。
金額と時間、両方の記載が難しい場合は少なくともどちらか一方だけは記載しましょう。
4-2. 深夜手当や休日出勤手当は別途支払う
固定残業代が何時間分の残業代なのかを表記させるには、時間外労働(1日8時間・週40時間を超えるもの)と割増率が異なる深夜や休日の労働に対する賃金は別途支払う必要があります。
固定残業代はあくまでも時間外割増賃金にあてるものとし、労働条件通知書や就業規則にも明記しましょう。
そのため、労働条件通知書や就業規則には「固定残業代が割増賃金の支払いの趣旨で支給されるものである」と明記する必要があります。
4-3. 求人の際にも募集要項などに固定残業代について明示する
固定残業代を適用する会社は、今後雇用する従業員に対しても募集要項などで周知するよう厚生労働省などから指針が公表されています。
募集要項に記載する場合は、以下の内容をすべて明示しましょう。
- 固定残業代を除いた基本給の金額
- 固定残業代に関する労働時間数
- 固定残業時間を超える時間外労働・休日労働・深夜労働に対して割増賃金を支払う旨
ここまで説明してきた3つの他にも、固定残業代制を導入する際の注意事項は複数あります。
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5. 固定残業時間(みなし時間)と実労働時間の関係性
固定残業代を適用する場合、あらかじめ残業のみなし時間を定めますが、実際に働いた時間は必ずしも同じにはなりません。
固定残業時間が実労働時間より多い場合、少ない場合それぞれのケースでの対応は以下のとおりです。
5-1. 固定残業時間>実労働時間の場合でも固定残業代は全額支払う必要がある
実労働時間が固定残業時間よりも少なかった場合でも、固定残業代として定めた金額は全額支払わなくてはなりません。
残業が少ない月でも、固定残業代の減額はできません。
5-2. 固定残業時間<実労働時間の場合は追加の残業代を支払う必要がある
一方、固定残業時間よりも多く残業した場合は、追加で残業代を支払わなくてはなりません。
固定残業代を支払っていても、実労働時間が固定残業時間を超えた分は別途残業代の支払い義務が発生します。
6. 固定残業代に関する労働条件通知書の記載例
ここまで解説したことをふまえた記載例は以下のとおりです。
第△条(固定残業手当)
- 従業員には時間外労働に対する賃金および時間外労働割増賃金の支払いにあてるものとして固定残業手当を毎月定額支給することがある
- 会社が固定残業手当を支給する際は、1ヵ月の時間外労働に対する賃金および時間外労働割増賃金の合計額が固定残業手当額を超えた場合に限り、超過分を別に支給する。また深夜労働や休日労働に対する賃金発生時には、固定残業手当を別にこれを支給する
- 会社は従業員の時間外労働に対する賃金及び時間外労働割増賃金の合計額が固定残業手当額を下回る期間が続いたとき、固定残業手当の減額または廃止ができる
7. 固定残業時間の上限は1ヵ月45時間
固定残業時間は特に上限がなく、固定残業時間に対する固定残業代が最低賃金を上回っていれば問題はないように思えるでしょう。
しかし、36協定によって1ヵ月の時間外労働の上限は45時間とされているため、固定残業代もそれにならい45時間を上限とすることがほとんどです。
関連記事:固定残業代の45時間超が認められる場合と認められない場合をケース別に解説
関連記事:固定残業代を40時間分に設定する場合の注意点
7-1. 固定残業時間は平均的な残業時間を確認してから決める
固定残業時間が実労働時間と大きく乖離している状態は、トラブル発生時に裁判で固定残業代を残業代の支払いとして認めてもらえない判例もあるため、注意が必要です。
このようなリスクを防ぐためにも、固定残業代を決める際に、その従業員の平均的な残業時間を確認し、それを考慮に入れた固定残業代を設定するといいでしょう。
8. 固定残業代が違法になるケース
固定残業代の運用には注意するべき法規制が複数存在します。違法な制度運用にならないよう確認しましょう。
8-1. 最低賃金を下回る固定残業代が設定されている
固定残業代は残業に対する手当であるため、基礎賃金に対して2割5分以上の割増率で算出し設定します。最低賃金を下回る固定残業代が設定されていた場合は違法になります。
8-2. 固定残業代と基本給の区分が明確に提示されていない
労働基準法第15条1項では下記のように労働条件の明示を規定しています。
第十五条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
そのため、組込型の固定残業代制を導入している場合、基本給のうちいくらが通常の賃金で、いくらが固定残業に対する割増賃金分の手当なのかを就業規則や雇い入れ時の労働条件通知書で明記しておかなければ、この規定に違反することになります。
8-3. 超過分の残業代を支払っていない
固定残業代は残業時間を事前にみなして、定額を残業代として支給する制度です。ただし、想定時間よりも多く残業をおこなわせた場合は、従業員に追加で残業代を支払う必要があります。
計算を怠って未払い賃金が発生すると違法となるだけでなく、従業員とのトラブルに繋がります。
未払い賃金は、給料日から3年間さかのぼって請求する権利を労働者に与えられており、従業員からの未払い賃金請求の訴訟を受けた際には、未払い残業代が企業の経営を傾ける額に上っていた事例もあります。
残業代計算の手間を省く目的で導入される制度ですが、実労働時間の集計と確認は必ずおこない、もし固定残業時間を超過した場合には、該当時間分の残業代の支給を欠かさずに行いましょう。
また、従業員の残業時間がみなし時間に及ばなかった場合でも固定残業代を減額することはできません。「残業時間が一定時間の到達しない場合に固定残業代を支給しない」など、支給条件を設けることも禁止されています。
8-4. 固定残業時間が労働基準法の残業上限時間に反している
残業の上限時間は36協定締結時で、「月45時間、年360時間」特別条項を締結している場合でも、「年720時間」です。また、特別条項の締結時でも、月45時間を超えて残業をさせることができるのは年6回までであるため、仮に月50時間の固定残業代を設定し、年間7回50時間の残業が発生してしまうと労働基準法に違反してしまいます。
実労働時間が上記の残業の上限時間を超過しなければ違法にはなりませんが、運用に注意が必要であるため、固定残業時間は45時間以内で設定するのがよいでしょう。
8-5. 従業員への周知をおこなっていない
固定残業代制を導入するにあたる従業員への周知は口頭ではなく書面でおこなう必要があります。金額と同様、何時間分の固定残業時間を設け、どのように支給するのかを就業規則や労働条件通知書に記載し、通知しましょう。
9. 固定残業代を適用するには従業員に対して金額と時間について書面で周知させる
固定残業代はあらかじめ残業時間がどのくらいかをみなした上で、基本給に加えて支払うものです。
固定残業代を適用させるには、従業員にその金額と時間について労働条件通知書などの書面で周知すること、36協定を正しく締結することが必須です。
固定残業時間が実労働時間より少ない場合は超過分を別途支払う必要がありますし、多い場合はその分を減額することはできません。
トラブルを防ぐためにも固定残業代を決める際は、その従業員の平均的な残業時間を確認することをおすすめします。
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