組織開発を効率よく進めるには、目的にあわせた手法の選定が重要です。また、組織開発の進め方・ステップを理解することで、スムーズに組織開発を実施することができます。
この記事では、組織開発の手法とその実践について、人事担当者向けにわかりやすく解説します。また、組織開発と人材開発の違いや、組織開発に役立つフレームワーク、ツールについても紹介します。
目次
1. 組織開発とは?
組織開発(OD:Organization Development)とは、人と人のつながりに着目して、企業や団体が直面するさまざまな課題に対応し、組織のパフォーマンス向上を目指すための戦略的アプローチを指します。ここでは、組織開発の具体的な手法を説明する前に、事前知識として組織開発の目的・重要性や、組織開発と人材開発の違いについて詳しく紹介します。
1-1. 組織開発の目的と重要性
近年では少子高齢化の進行により労働人口が減少しており、人材確保に課題を感じている企業は増えています。また、IT技術の進歩や働き方改革の影響も受け、従来よりも市場の変化は激しくなっています。さらに、グローバル化やダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の推進により、人材の多様化も進んでいます。
このような時代において、環境変化へ柔軟に対応できる組織を構築するためにも、組織開発の重要性は高まっています。組織開発の目的は、組織全体のパフォーマンスを最大化し、持続可能な成長を実現することです。これにより、組織は変化する市場環境に迅速に対応し、競争優位性を確立することができます。
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1-2. 組織開発と人材開発の違い
組織開発と人材開発は、下記の3つのポイントにおいて違いがあります。また、組織開発と人材開発それぞれの具体例についても紹介しています。
項目 |
人材開発 |
組織開発 |
1.対象 |
個人 |
人と人との関係性や相互作用 |
2.目標 |
個人の能力・スキル向上 |
組織の生産性向上や持続的成長 |
3.アプローチ |
・研修 ・セミナー ・キャリア開発 ・OJT など |
・業務フローの変更 ・コミュニケーション改善 ・従業員同士の関係性の見直し など |
具体例 |
業務遂行に必要なスキルを養うため実施する新卒社員に対する研修 |
上司と部下の関係性を見直すためにおこなわれるミーティング |
このように、組織開発と人材開発では「対象」「目標」「アプローチ」において違いがあります。課題や目的にあわせて適切な施策をおこなうことが大切です。
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2. 組織開発のステップ|手法と実践の流れ
組織開発の手法を効果的に実践するためには、計画的なアプローチが必要です。また、組織開発を進めるにあたり、具体的なステップを理解しておくと、スムーズに施策を実施することができます。ここでは、組織開発の手法と実践の流れについて詳しく紹介します。
2-1. 理想的な組織の姿を明確にする
自社の目指す理想的な組織の姿が定まらなければ、具体的に手法を選定して、組織開発を実施することができません。まずはどのような組織を目指しているのかを言語化して明確にしましょう。
2-2. 現状を正しく把握して目的を定める
次に、現場にヒアリングしたり、蓄積されたデータを分析したりして、組織の現状を正しく把握することが大切です。自社の目指す理想的な姿と、現状の差が課題となります。洗い出された課題から、解決すべき課題を特定し、目的を明確に定めましょう。
2-3. 具体的な手法を選定する
組織開発の手法には、さまざまな方法があります。そのため、自社の目的にあわせて、適した手法を選定することが大切です。また、選定した手法は、組織の現状やニーズに合わせてカスタマイズする必要があります。たとえば、従業員のエンゲージメントを高めたい場合、対話型のワークショップやエンゲージメント調査を組み合わせることが効果的です。また、この段階で組織開発に役立つフレームワークも選んでおくと、スムーズに施策を進めることができます。
2-4. 成功事例を分析して取り入れる
自社でゼロから組織開発の手法を選定して、計画を立案・実行するのはハードルが高いと感じる場合もあるかもしれません。その場合、他の組織での成功事例を分析し、自組織に応用することも有効的です。成功事例からは、どのようなアプローチが効果的だったか、どのような課題があったかなどの学びを得ることができます。成功事例を参考に組織開発の計画を立てれば、リスクを最小限に抑えながら効率よく施策を実施することが可能です。
2-5. スモールスタートで施策を実施する
組織開発は、計画の立案・実施・評価・改善という一連のプロセスを通じて、手法の効果を最大化していきます。しかし、ノウハウがないうちに組織開発を全社的に導入すると、現場が混乱してしまい、失敗に終わる可能性があります。そのため、施策を実施しやすい部署やプロジェクトから、スモールスタートで、組織開発を進めてみるのがおすすめです。
2-6. 効果測定と改善を繰り返す
よりよい組織開発を実現するためには、組織開発の手法の効果を測定し、継続的な改善を図ることが重要です。組織開発の手法の効果を正しく測定するためには、あらかじめ具体的な指標を設定することが必要です。たとえば、アンケート結果に基づく従業員満足度や、労働時間と成果に基づいた生産性などが測定の指標になります。これらの指標を定期的に測定し、手法の効果を評価しましょう。効果測定の結果を基に、従業員や関係者からのフィードバックを積極的に取り入れながら、手法の改善をおこなうことで、効果を高めることができます。
3. 組織開発の手法の種類
組織開発を成功させるためには、適切な手法の選定が重要です。ここでは、組織開発の具体的な手法について詳しく紹介します。自社の目的にあわせて最適な手法を選ぶようにしましょう。
3-1. ワークショップや研修
ワークショップや研修は、従業員のスキル向上やチームビルディングに効果的です。これらの活動を通じて、従業員は新たな知識・能力を習得し、チーム内でのコミュニケーションや協力を深めることができます。
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3-2. サーベイフィードバックとEAPの活用
サーベイフィードバックとは、従業員の意見や感想を収集し、組織の改善点を見つける手法です。また、EAP(Employee Assistance Program)とは、従業員のメンタルヘルスやワークライフバランスをサポートするプログラムを指します。サーベイフィードバックやEAPの手法を用いることで、従業員の悩みや課題を解消し、組織の生産性向上につなげることができます。
3-3. コーチングとメンタリングの強化
コーチングとメンタリングをおこなうことで、対話を通じてコミュニケーションを活性化させ、従業員の主体的な成長とキャリア開発を支援することができます。また、指導者・助言者と指導・助言を受ける人の間の信頼性を強化できるので、組織の関係性の向上にもつながります。
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3-4. オンボーディングプロセスの確立
新入社員の迅速な組織への適応を助けるオンボーディングプロセスは、組織の効率性と従業員の満足度を高めるための手法です。オンボーディングプロセスを整えることで、新しく入社した従業員の早期戦力化が期待でき、組織のパフォーマンス向上につながります。
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3-5. エンゲージメントの強化
従業員のエンゲージメントを高めることは、組織のパフォーマンス向上に直結します。エンゲージメントを強化することでモチベーションが高まると、組織の売上向上や業務改善に意欲的に取り組んでくれる従業員が増えることが期待できます。エンゲージメント強化のための取り組みとしては、企業のビジョンやミッションを共有する機会を設けたり、時短勤務やテレワークといった働きやすい環境を整備したりすることが挙げられます。
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4. 組織開発に活用したいフレームワーク
組織開発を実施するにあたり活用したいのがフレームワークです。フレームワークを上手く活用することで、効率よく組織開発を進めることができます。ここでは、組織開発に活用したいフレームワークを紹介します。
4-1. 7S
7Sとは、ハードの3S「Strategy(戦略)」「Structure(組織構造)」「System(システム)」と、ソフトの4S「Shared value (共通の価値観)」「Style(組織の風土)」「Staff(人材)」「Skill(能力)」に経営資源を分解したうえで、最適な組織戦略を考えるフレームワークのことです。7Sを活用すれば、組織の課題がどこにあるのか明確になり、リソースの配分を最適化することができます。
4-2. OKR
OKRとは、「Objectives and Key Results(目標と主要な結果)」の略称で、「目標」とその達成度を測定するための「主要な成果」を設定して、組織と個人の目標を結び付けて達成を目指すフレームワークです。OKRフレームワークを活用することで、目標を明確にし、組織の向かうべき方法を共有して、まとまりのある組織を作り出すことができます。目標を達成するためにすべき行動も具体化され、従業員のモチベーションを高めることが可能です。
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4-4. ナレッジマネジメント
ナレッジマネジメントとは、個人が業務の中で得た知識やノウハウを組織全体に共有し、活用するための手法です。ナレッジマネジメントをおこなうことで、業務に必要な情報がきちんと共有されるようになり、情報の属人化を防止することができます。
4-4. タックマンモデル
タックマンモデルとは、組織の成長段階を次の5つの段階に区分したモデルを指します。
- 形成期
- 混乱期
- 統一期
- 機能期
- 散会期
タックマンモデルを活用すれば、組織が置かれている状況を客観的に把握することができます。組織の現状がどの段階に該当するのかを認識し、メンバーに共有することで、相互理解を深め、効率よくチームビルディングをおこなうことが可能です。
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4-5. ワールドカフェ
ワールドカフェとは、カフェのようなくつろいだ雰囲気の中で、少人数で入れ替えをおこないながら自由に対話する手法のことです。ワールドカフェを導入すれば、気軽に意見を出し合えるので、相互理解を深めることができます。また、新たな気づきや発見が生まれ、課題解決や施策改善に役立てることもできるかもしれません。
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5. 組織開発に役立つツール
組織開発を効率よく進めるためにも、役立つツールの導入を検討することも大切です。ここでは、組織開発におすすめのツールを詳しく紹介します。
5-1. ビジネスチャット
ビジネスチャットとは、ビジネス向けのチャット機能が搭載されたコミュニケーションツールのことです。ビジネスチャットを活用すれば、時間や場所を問わず、気軽に情報交換できるので、コミュニケーションの活性化が期待できます。また、Web会議ツールやナレッジ共有ツールと連携させれば、業務の効率化にもつながります。
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5-2. ナレッジ共有ツール
ナレッジ共有ツールとは、仕事を通じて得た知識や経験を他のメンバーや組織に共有するためのツールです。ナレッジ共有ツールを活用すれば、知識・スキルをデータとして蓄積させることができます。また、スマホやタブレットといった端末とネット環境があれば、いつでもどこでもアクセスできるので、効率よく情報共有することが可能です。
5-3. 人事管理システム
人事管理システムとは、人員配置や人事評価などの人事業務を効率化するためのツールです。人事管理システムを活用すれば、従業員や組織のデータをシステム上で一元管理することができます。また、リアルタイムで情報を更新できるので、最新の情報を維持することが可能です。さらに、データ収集・分析の機能も搭載されているため、組織開発に必要なデータを収集し、分析して情報を可視化することができます。これにより、意思決定のスピードを早めることが可能です。
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6. 自社に合う手法を選定して組織開発の効果を高めよう
組織開発を実施する場合、1つの手法がすべての組織に適用できるわけではありません。自社の文化や目標、従業員のニーズに合った手法を選定し、計画的に実践することが重要です。組織開発のステップを理解したうえで、適切な手法を選定し、効果的に実践することで、組織の生産性を高め、持続可能な成長を実現することができます。