「新しく入ったメンバーが組織になじめず、能力が発揮できていない…。早期に離職してしまう…」
このような悩みを抱えている人事の方も多いのではないでしょうか。
新しく入ったメンバーが早期に力を発揮できるように組織がメンバーをサポートする仕組みづくりを「オンボーディング」といいます。
本記事ではオンボーディングの目的やメリット、事例などをご紹介します。
目次
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近年、転職が主流となり、社員の定着率に課題を抱える企業が増えています。特に、GWなどの長期連休を境に、若手社員が退職を検討するケースが増加しています。
そのため、若手社員の定着率を向上させるためには、今のうちから適切にフォローしていくことが重要です。
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- 上司と部下の信頼関係はどうなっているか
- 社内コミュニケーションに問題は無いか
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1. オンボーディングとはどのような意味か
オンボーディングとは、教育・育成プログラムの1つです。新しく組織に入ったメンバーに対して手ほどきをおこない、早期の即戦力化を促し離職を防ぐ方法を意味します。
英語で表記するとon-boardingとなります。もともとはon-board(飛行機や船乗るという意味)からうまれた造語で、飛行機や船に乗り込んでいる状態をあらわす言葉でした。
オンボーディングとは、欧米ではすでにさまざまな企業が取り入れている仕組みで、新しく入ったメンバーが早期に活躍できるように組織としてサポートすることを意味します。
日本においては「オンボーディング」という言葉はあまりなじみがなく、使われることも少ないかもしれません。
しかし、「飲み会で交流を深める」「メンターがついて会社のルールを教える」など「オンボーディング」の一部はすでにおこなわれているのです。
1-1. オンボーディングの目的
オンボーディングの目的は、新しく入ったメンバーが早期から実力を発揮して企業に貢献できるようにすることです。
2. オンボーディングを実施することで企業と従業員が得られるメリット
オンボーディングは、単に企業の業績への貢献のためだけにおこなう施策ではありません。
人材の定着や従業員のモチベーション向上など、企業だけでなく従業員側にもメリットがあるため、実施すると良いといわれているのです。
今回は、オンボーディングを活用することで生じるメリットを、企業側および従業員側からの視点で解説します。
2-1. 企業側のメリット
厚生労働省が発表している新規大卒就職者の事業所規模別離職状況によると、平成29年3月卒の新卒社員のうち、1年目で離職した社員は全体の11.5%だったそうです。
この数字は、約10人に1人が1年目で転職していることをあらわします。
このような現状から、「新しく入社したメンバーが配属後も実力を発揮できているのか、離職の懸念はないか」と、注意深く気を配ることはとても重要です。
オンボーディングを活用することで、入社したメンバーが実力を発揮し、業績への貢献度も高まることが期待されます。
また、人材の定着につながり新規採用者数も減るため、コストダウンにも寄与します。
さらにオンボーディングは、事業部を超え多くの人を巻き込んで進めていくため、横のつながりの強化にもなります。
2-2. 従業員側のメリット
従業員にとっては、採用されたあとオンボーディングによって交流を深めたり、メンターが指導してくれたりすることで、企業が自分に期待していることを肌で感じモチベーションアップもつながるでしょう。
また、組織内での活発な情報共有がおこなわれることで、社員同士がお互いに助け合うことができ、組織における結束力の向上も期待できます。
このように、周囲から認められることによって組織に対する愛着心も生まれ、エンゲージメントも高まります。
逆に、配属されたにもかかわらず放置されている状況だと、「自分は必要とされてないのではないか」「期待されていないのではないか」とその企業に対する不信感を生んでしまうかもしれません。
その結果、モチベーションが下がってしまい、実力を発揮できず最終的には早期離職につながってしまうこともあります。
3. オンボーディングをおこなう際に人事が取るべき5つの行動
前述の通り、オンボーディングは企業にとっても従業員にとってもメリットがあります。そこで今、オンボーディングを取り入れようとする人事担当者が増えているのです。
人事担当者は、オンボーディングを実施するとなった際は、新しく入ったメンバーのために「5つの行動」を取りましょう。
「5つの行動」を取ることで、新しく入ったメンバーはパフォーマンスを発揮でき、組織へのエンゲージメント向上にもつながるでしょう。
3-1. 準備を徹底する
何をおこなうにも重要となるのが「準備」です。
株式会社リクルートキャリアが発表した調査によると、新しく入社したメンバーのパフォーマンス発揮者の8割弱は、⼊社前に⼈事とコミュニケーションを図っています。
一方で、パフォーマンス不⼗分者は半数弱しか⼈事とのコミュニケーションを実施していないことが判明しました。
またGoogle社の社内調査では、入社初日に受け入れ体制を整え準備しておくと、入社から3ヶ月以内のパフォーマンスが30%あがったという結果がでています。
このように、入社前から積極的に人事の方や上司が新しく入社したメンバーとコミュニケーションをとり、受け入れる準備をしっかりおこなうことが大切です。
3-2. 人間関係を良好にする
厚生労働省が発表している平成29年雇用動向調査結果の概況によると、離職原因の2位は「人間関係がよくなかった」という結果となっています。
特に後から入るメンバーにとって、すでにできあがっている組織に入ることは「人間関係」の面で大きな不安要素になります。
そこで、組織から積極的にフォローをしようという雰囲気を出して、人間関係に対する不安を和らげましょう。
具体的には、組織には誰がいて、それぞれがどのような役割を果たしている、この分野で困ったときにはこの人に聞けばよいなどを予め紹介しておくのも効果的です。
また、「必要に応じてメンター制度を設ける」「定期的なランチや社内会食をおこなう」なといった行動も取ることが可能です。
3-3. 期待値を合わせる
新しく組織に入った人には、チームが求めることを伝え、期待値を合わせましょう。
というのも、ミッションや業務内容、期待されている成果が新しく入ったメンバーと人事の方や上司の間でずれているケースは少なくないためです。
また、チームから求めていることを伝えるだけでなく、新しく入ったメンバーが求めていること、期待していることをすり合わせしておくことが重要です。
株式会社リクルートキャリアが発表した調査によると、入社前の人事の方のコミュニケーションにおいて、パフォーマンス発揮者とパフォーマンス不⼗分者の間で最も⼤きな差は、「⼊社を検討する上で⼗分な情報を得たか確認してもらう」こと。
続いて、「⼊社後に想定される疑問や不安を解消する情報を、隠すことなく開⽰してもらう」ことです。
この結果から、なるべく入社前にお互いの期待値をあわせておくことが大切だと言えます。
基本的には、チームが求める期待に応えることが従業員の役割ですが、個性や性格によっては向き、不向きもあります。
適材適所という言葉のように、その人材が最大限能力を発揮できるようチームとして期待値をシェアすることも有効です。
3-4. 教育体制を整える
新しく入ったメンバーが、初めての配属先ですぐに成果を出すことは難しいかもしれません。
企業の価値観や業務フロー、交通費・残業申請など、学ぶべきことはたくさんあります。
そのために人事は、マニュアル作成などを含めて充分な準備をしておき、効率的に学べるように教育体制を整備しましょう。
仕事は、Off-JT(職場から離れ、セミナーや研修などをおこなう)で学んだことをOJT(職場で実際の実務をさせながら職業教育をおこなう)で実践していくことが一般的です。
しかし、Off-JTの教育担当者とOJTの教育担当者の教え方や伝え方に違いがあることも多いです。
新しく入ったメンバーが混乱しないようOff-JT・OJTの教育担当者はしっかりと連携をして事前にすり合わせをしておきましょう。
また定期的に研修内容のブラッシュアップすることも重要です。
3-5. 目標を細かく設定する
いきなり大きなミッションを掲げてしまうと、最終的な成果がでるまで時間がかかります。また、その前に新しく入ったメンバーが目標を見失ってしまう可能性もあります。
そこで、ミッションを細かくわけ、小さな目標を達成する体験を積み重ねながら、最終目標を目指していく(スモールステップ法)など工夫しましょう。
また、仕事をする上で、「正解」「改善点」を本人だけで見極めることは困難です。
ですので、メンバーが出した結果に対して人事やマネージャーは、きちんとフィードバックをしましょう。
同じチームや部署の人と、新しく入ってきたメンバーのフィードバックグループを作成し、周囲からどんどんフィードバックを受けることができる環境を整えていきましょう。
4. オンボーディングの具体例・施策
オンボーディングがどのようなものなのか、何をしたらいいのか分かってきたところで、実際にオンボーディングをおこなった企業の具体例を2つ紹介します。
事例[1]GMOペパボ株式会社
GMOペパボ株式会社では、「ペパボカクテル」や「ペパボテックフライデー」「ランチワゴン」ユニークな名前のオンボーディングプログラムが実施されています。
中途入社した方はまず、チャットツールの社内チャンネル「カクテルチャンネル」に入るそうです。
GMOペパボは「新しく入社した人を歓迎する文化」があり、チャンネルに追加された人がいるとすぐにご飯に誘ったり、自己紹介にコメントしたりと、オンボーディングに対して前向きな社員が多くいるそう。
1on1面談
ペパボテックフライデー
ランチワゴン
やっていきシート
事例[2]コネヒト株式会社
コネヒト株式会社では、「入社後90日間」を重視しているそうです。
同社のオンボーディング支援の柱は3つ。「クイックウィンの支援」「カルチャーの理解支援」「コミュニケーション支援」です。
「クイックウィン」とは、長期視点での目標を見据えつつ、短期・中期でも成果を目指す方策のこと。素早く成果を出すことで、周囲からの信頼も集まり、自信を持って働ける環境ができあがります。
『内定時、最初の90日間でその人に期待する目標をドキュメントで提示。そして、人事も現場マネジャーも、このクイックウィンを支えるというスタンスです。カルチャー理解支援では、会社が歩んできたプロセスを伝える計5~6時間のプログラムを数回に分けて実施。コミュニケーション支援では、業務に必要な情報を得るため、社内の様々なチャネルにアクセスできるようにサポートします』
事例[3]株式会社i-plug
株式会社i-plugでは、i-plugでは、「カスタマーサクセス」ならぬ「エンプロイーサクセス」を人事ポリシーとして掲げ、オンボーディングに取り組んでいます。
i-plugの評価制度は、「評価のための評価制度」ではなく、一人ひとりの成長につなげていくことを目的に設計され、評価面談を2ヵ月に1度のペースでおこなっているそうです。
『評価の権限は、マネジャーより下のチームリーダーに与えています。日々、その人の仕事ぶりを一番近くで見ている人が、1on1を通じて目標や期待に対する達成度をすり合わせ、評価するスタイルにすることで評価への納得感を高めたいと考えました。また、2者の面談で出た評価の結果はそのまま採用し、かつそれを報酬にまで反映させています。チャレンジングではありますが、社員におこなったサーベイの結果を見ると評価への納得感に改善が見えてきています』
事例[4]サイボウズ株式会社
サイボウズ株式会社は、報酬額の決定について独自の手法を取っています。
社内の給与規程・相場で判断せず、「市場価値」を見て「この人が転職市場に出たら、年収いくらいで採用されるだろう」ということです。
データを集めて照らし合わせたり、本人にいくら欲しいかを尋ねたりして、多面的に判断した上で給与提示をしています。
サイボウズでは、会社都合でキャリアチェンジを強制することもないといいます。
一方、社員は、いつでも別の部署への異動や職種転換の希望を出すことが可能。アプリに希望を登録すると、すぐに検討がなされ、異動の可否が判断されます。気になる部署があれば、3日~3ヵ月以内で体験入部制度も。
サイボウズ・i-plug・コネヒトの成長企業3社に学ぶ「採用・定着のアップデート」#ActivateHRイベント
事例[5]日本オラクル株式会社
日本オラクル株式会社では新しく入社したメンバーのオンボーディングを「全社員の仕事」として位置づけて取り組んでいます。
新しく入ったメンバーが会社の印象を決めるのは、最初の1ヶ月ほどだと考えており、営業社員向けの「5週間研修」を実施しています。
OJTでは現場の上司だけでなく、ナビゲーターやサクセスマネージャーがつき、新しく入社するメンバーをサポートする環境になっています。
サクセスマネージャー:社員エンゲージメント室が担当して、入社者の「成功」にコミットする役割(カリキュラムが思うように進まない、と相談されたときは、2人目のナビゲーターを指名する、上司にペースアップを頼むなど
事例[6]大手人材系企業
オンボーディングをおこなった大手人材系企業が会社全体と所属部署で実施した項目は以下の通りです。
・入社前の人事によるMTG
・会社概要・事業内容の説明
・各種マニュアルの提示
・歓迎ランチ(新しく入ったメンバー+既存社員シャッフルで4~5名)
・入社から1ヶ月のスケジュール提示+目標設定
・定期的な人事面談(入社から6ヶ月間)
・所属部署以外のミーティングにゲスト参加
・歓迎会(ランチor飲み会)
・定期的な上司との面談
・スモールステップのタスクの実行(タスクはわかりやすく成果がで、達成感があるもの)
・新しく入ったメンバーにフォードバックをする数名のグループを作成
・メンター(横のつながりを強化できるような人を選出)
オンボーディングを実施した企業は、「オンボーディングは入社後に始まるのではなく、採用選考の時点から始まっている」と考えています。
会社が目指す方向と新しく入ったメンバーが会社に求めていることの方向性があわなければ、いくら入社後にすり合わせをしても、修正は困難です。
そのため入社から1ヶ月のスケジュール提示+目標設定を、入社前に決めておくことはとても重要です。
また入社後の歓迎ランチへの参加は新しく入ったメンバーが、他部署にも人脈を作ることができ、困ったときの駆け込み寺にもなってもらえる良い機会になります。
既存社員にとっても他部署とのコミュニケーションをとれるのでお互いに良い刺激になります。
所属部署は会社全体よりも一歩踏み込んだ、行動が必要です。
株式会社リクルートキャリアが発表した調査によると、「パフォーマンス向上」には「定期的な人事との面談」、「離職意向度の低減」には「定期的な上司との面談」が最も好影響でした。
このことから、定期的な面談は必須といえるでしょう。
特に、成果や行動に対してどんどんフィードバックをしていくようなグループを作成することは、新しく入ったメンバーにとっても非常に心強いです。
このフィードバックグループは厳しい言葉だけではなく、労うことや褒めることもどんどんおこなっていきましょう。
5. まとめ
いかがでしたでしょうか。
オンボーディングについて解説しましたが、言われてみると当たり前のことのように思えますが、体系化しないとなかなか難しい項目もあります。
新しく入ったメンバーが能力を発揮し、安心してもらえる職場環境にするためにも、オンボーディングの活用は重要です。
活用のためには、人事の方だけではなく全社員の協力が必要になるので、全部をすぐに実践できる取り組みではないかもしれません。
しかし、組織の結束力が向上することで企業のさらなる成果につながるともいえます。
貴社でもできるオンボーディング施策から、1つずつ進めてみてはいかがでしょうか。