働き方改革が推進されている中で、特別休暇の導入を検討する企業が増えています。
特別休暇を有給で与えている企業も少なくありませんが、法律上の年次有給休暇とはどう違うのでしょうか。
違いについて理解を深めておくことで、労使間のトラブルを防げるようになるため、しっかりおさえておきましょう。
今回は、特別休暇と有給との違いについて、具体的な例を交えながらわかりやすく解説していきます。
【労働基準法】休日・休暇ルールBOOK
人事担当者の皆さまは、労働基準法における休日・休暇のルールを詳細に理解していますか?
従業員に休日労働をさせた場合、休日はどのように取得させれば良いのか、割増賃金の計算はどのようにおこなうのかなど、休日労働に関して発生する対応は案外複雑です。
そこで当サイトでは、労働基準法にて定められている内容をもとに、休日・休暇の決まりを徹底解説した資料を無料で配布しております。
「休日休暇の違いや種類、ルールを確認したい」という人事担当者の方は「【労働基準法】休日・休暇ルールBOOK」をぜひご一読ください。
1. 特別休暇とは
特別休暇とは、企業が独自で設けている休暇制度のことです。
福利厚生を拡充させる目的で、特別休暇を導入している企業は少なくありません。
特別休暇は年次有給休暇と違い、法律によって定められた休暇ではありませんので、導入するか否かは企業の判断によります。
しかし、特別休暇を導入することによって、従業員のモチベーションアップを図ることができたり、採用活動を有利にしたり、企業のイメージ向上につなげたりとさまざまなメリットが期待できます。
特別休暇を導入するにあたっては、就業規則で記載が必要な事項である「休暇」に該当しますので、就業規則への明記が必要となってきます。
就業規則に記載が無い場合は、法律違反による罰則の対象となったり、従業員とのトラブルにつながったりすることもありますので注意しましょう。
1-1. 慶弔休暇
従業員に慶事や弔事があった際に取得できる休暇が慶弔休暇です。
慶事は主に従業員本人の結婚、配偶者や本人の出産といったものが挙げられます。
一方、弔事は従業員の近親者の通夜や葬儀といったものが該当します。
慶事や弔事の内容、親等によって付与日数を変えている企業が多く、一般的には1~10日程となっています。また、有給とするか無給とするかに関しては、慶弔の内容によって決めている企業が多いようです。
1-2. 夏季・冬季休暇
夏季・冬季休暇は、お盆や年末年始といった連休と合わせて長期連休を従業員に取得させる目的で設けられている休暇です。
夏季・冬季休暇についても、慶弔休暇と同様に多くの企業で導入されている休暇の一つです。
付与日数は5日前後が一般的となっています。
1-3. リフレッシュ休暇
一定の勤続年数がある社員を慰労するために設けられている休暇です。
付与日数については、勤続年数によって変えている企業が多いです。
従業員の慰労目的で設定している休暇であるため、一般的には有給とされています。
1-4. バースデー休暇
従業員が誕生日に取得できる休暇です。
業務の都合などにより、必ずしも誕生日に取れない従業員もいるため、企業によっては誕生日の前後で幅をもたせている所もあります。
バースデー休暇もリフレッシュ休暇と同様、有給扱いとしている企業が多いです。
1-5. ボランティア休暇
従業員が無報酬の社会貢献活動に参加する際に与えられる休暇です。
東日本大震災以降、社会貢献の意識の高まりから導入している企業が増えています。
付与日数は企業によって異なりますが、海外での活動も想定して年単位で導入している所もあります。
1-6. 病気休暇
病気休暇とは、病気やケガなどによる治療や通院のために従業員へ取得させる休暇です。
付与日数は、企業によって違いがありますが、時間単位や半日単位で取得可能としている企業が多いようです。
通院や治療が長期化することもあるため、有給か無給かの判断は企業によって異なります。
1-7. 教育訓練休暇
従業員が業務上の知識習得やスキルアップのために、取得できる休暇です。
優秀な人材を育てるといった観点から、企業にとっても大きな導入メリットのある休暇です。
1-8. 裁判員休暇
裁判員として選ばれた従業員が、裁判員として活動するために取得できる休暇です。
なお、従業員が裁判員として活動するために休暇を取得したことで、解雇やその他不利益な扱いをすることは法律によって禁止されていますので注意しましょう。
このように、休日休暇にはさまざまな種類があり、付与条件や賃金の発生有無は休日休暇によって異なります。当サイトでは、休日休暇についての基礎知識や取得させた際の対応方法を解説した資料を無料でお配りしています。休日休暇の違いを詳しく知りたい方はこちらからダウンロードしてご活用ください。
2. 特別休暇と年次有給休暇の違い
従業員が取得できる休暇の中で、特別休暇の他に年次有給休暇があります。
特別休暇と年次有給休暇、この2つにはどのような違いがあるのでしょうか。
特別休暇の導入を検討する上で、年次有給休暇との違いを知っておくことは重要です。
以下で紹介するポイントをおさえておきましょう。
2-1. 法律上の違い
特別休暇と年次有給休暇には法律上での大きな違いがあります。
特別休暇は法律で定められた制度ではないため、導入の有無について企業が自由に判断することができます。
特別休暇の条件や付与日数など細かな内容についても同様です。
一方、年次有給休暇は労働基準法によって定められた制度です。
入社日より6か月以上勤務し、全労働日の8割以上勤務した労働者すべてに、勤続年数に応じて所定の休暇が付与されます。[注1]
年次有給休暇はパートやアルバイトを含む上記の条件を満たしたすべての労働者に年次有給休暇を付与する義務があります。雇用者は労働者に必ず年次有給休暇を付与させなければならず、違反した場合には罰則が科せられます。
特別休暇は法律上で付与しなければならないと定めたものではないので、正社員のみなどと規定していても問題ありません。
2-2. 有給か無給かの違い
休暇に対しての給与の扱いについても、両者には明らかな違いがあります。
特別休暇は前述でも解説のとおり、企業が自由に設定することができる休暇のため、給与支払いの対象とするかどうかについて、企業が決めることができます。
しかし、年次有給休暇に関しては、労働基準法によって雇用主に給与の支払いを義務付けていますので、賃金を支払わないと違法となってしまいます。
関連記事:無給休暇とは?労働基準法における扱いや問題点を解説
2-3. 取得目的の違い
特別休暇については、取得目的や条件、日数など企業が自由に設定することができます。
そのため、従業員が特別休暇を取得するには、企業が定めた目的や条件を満たさなければならず、自由に取得することはできません。
一方、年次有給休暇は取得目的などに関係なく、一定の条件を満たしたすべての労働者が自由に取得することができる休暇です。
雇用主は労働者の希望する日に年次有給休暇を取得させなければならず、よほどの理由が無い限り拒否することができません。
2-4. 有効期限の違い
年次有給休暇については、法律上で2年間の有効期限が定められています。
当年度に未消化年次の有給休暇については翌年に繰越が可能です。
これに対し、特別休暇に関しては企業が自由に取得期限のルールを決めることができます。
労務管理がしやすいように、特別休暇の内容にあわせて取得期限を設けるのが良いでしょう。
取得期限などの特別休暇に関して定めたルールは就業規則に記載して、従業員に周知しましょう。
2-5. 出勤扱いになるかどうかの違い
特別休暇は付与が義務付けられている休暇ではないため、出勤扱いにするかどうかも企業が自由に決めることができます。
出勤扱いにするかどうかは、出勤率の算出に用いられます。出勤率は年次有給休暇の取得条件を満たしているか確認する際や退職金の算出、賞与の評価などに用いられます。
特別休暇を取得した場合に欠勤扱いにすること自体に問題はありませんが、そもそも特別休暇を労働日にカウントしないことで従業員に不利にならず、かつ出勤としてもカウントしない対応をすることができます。
一方、年次有給休暇は出勤扱いとしなければならないことが法律で定められているため、注意しましょう。
3. 特別休暇と年次有給休暇に関するQ&A
特別休暇と年次有給休暇には細かな違いがあるため、手続きの際に疑問が生じることもあります。本章では特別休暇と年次有給休暇に関するよくある質問をまとめました。
3-1. 特別休暇と年次有給休暇のどちらを先に消化する?
特別休暇と年次有給休暇を消化する順番については法律で定められているわけではありません。従業員が休暇を取得する場合、特別休暇と年次有給休暇のどちらでも取得できる場合があります。例えば、病気休暇が特別休暇として設けられている企業では、病気で仕事を休む際に、病気休暇を使うか年次有給休暇を使うかの選択肢があります。
ここで注意すべきなのは、従業員が年次有給休暇を取得したいと申し出た場合には、従わなくてはならないということです。年次有給休暇は原則従業員が取得したいと申し出た日に取得させなくてはならないため、就業規則などに「特別休暇から消化する」などと規定していたとしてもそれは無効となり、年次有給休暇を取得させなければなりません。
年次有給休暇を従業員の取得したい日に取得させなければ、罰則を科される可能性もあるため、注意しましょう。
参考:年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説|厚生労働省
3-2. 特別休暇を取得すると給料は減る?
特別休暇を取得すると給料が減る場合が2パターンあります。
①無給の特別休暇を取得した場合
特別休暇には有給のものと無給のものがあります。無給の特別休暇を取得した場合は月の給料が減ることがあります。有給か無給かは企業の規定によって変わるため、自社の就業規則に則って処理する必要があります。
②特別休暇が有給で平均賃金や標準報酬月額を用いた場合
特別休暇が有給でも、その賃金の計算方法によっては給料が減る可能性もあります。
賃金は①通常の賃金を支払う②直近3ヵ月の平均賃金を支払う③社会保険の標準報酬月額を支払うという3つのいずれかの方法で支給するのが一般的です。
この中で平均賃金と標準報酬月額を用いて支払う際に、当月の本来の給料が直近3ヵ月の平均賃金もしくは標準報酬月額よりも高い場合は特別休暇の賃金を含めた当月の給料が本来よりも減る可能性があります。
特別休暇に賃金が発生する場合は賃金の計算方法を就業規則などに規定して、従業員から質問されたとしても、しっかりと説明できる状態にしておきましょう。
3-3. 特別休暇を年次有給休暇の5日取得義務に含むことはできる?
2019年4月から年次有給休暇を10日以上付与された労働者に対して年5日確実に取得させることが企業に義務付けられています。年次有給休暇を5日取得させることができなかった場合、罰則を科されます。企業は5日年次有給休暇を取得させる義務を果たす必要があるため、特別休暇も5日の取得義務にカウントできるのかは気になるところです。
結論から申し上げると、特別休暇は原則5日に含むことはできませんが、特別休暇が年次有給休暇と完全に同じ条件で付与される場合に限って、5日の取得義務に含むことができます。具体的には、特別休暇が有効期限が2年であることや、取得の事由及び時季を限定していないなど年次有給休暇と全く同じ条件で付与された者である場合のみ、取得義務のある5日にカウントすることができます。
なぜなら、特別休暇が年次有給休暇と全く同じ条件である場合、年次有給休暇の日数が会社独自で上乗せされたことと同意義になるからです。
取得させる義務のある年5日の年次有給休暇としてカウントできる特別休暇は限られているため、注意しましょう。
4. 特別休暇を導入する際は年次有給休暇取得の阻害とならないよう注意が必要
特別休暇は法律上の定めがない休暇で、年次有給休暇は法律によって義務付けられている休暇です。
特別休暇は、企業にとっても従業員にとってもメリットの多い休暇制度ですが、年次有給休暇取得の阻害とならないよう、導入する際には注意が必要でしょう。
特別休暇は企業で自由に設定できるため、特色豊かな休暇を設定することで、従業員のみならず社会に対しても、企業を魅力的にアピールすることができます。
この機会に、特別休暇の導入を検討してみるのも良いでしょう。
[注1]厚生労働省|年次有給休暇」の付与日数は、法律で決まっています
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