入社手続きをマニュアル化するには、まず基本的な流れを把握することが大切です。必要書類の作成と採用内定者への送付、採用内定者に提出依頼していた必要書類の回収、法定三帳簿の作成、社会保険や雇用保険の加入手続き、税金関係の手続きなど、入社手続きには多くの書類や届出の提出が必要です。
今回は、人材採用後の入社手続きをマニュアル化したい方に向けて、基本的な処理の流れや注意点などを解説します。
入社手続きは確実に対応する必要がありますが、社会保険の資格取得手続きや雇用契約の締結など対応しなくてはならない項目が多く、漏れや遅れが発生してしまうこともあるのではないでしょうか。
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1. 入社手続きの手順
入社手続きの主な手順は次のとおりです。
①必要書類を作成して送付する
まずは雇用契約書、労働条件通知書、採用通知書(入社手続き案内)、入社承諾書、誓約書を作成しましょう。
雇用契約書には就業規則などを記載し、使用者と労働者双方の署名・押印欄を作成します。
労働条件通知書には、労働時間や日数、休日、給与、雇用形態などの労働条件を記載します。雇用契約書同様、使用者と労働者双方の署名・押印欄を作成しましょう。
入社手続き労働条件通知書と雇用契約書をひとつにまとめて作成することも可能です。
採用通知書には、はじめの挨拶(応募に対するお礼)、「内定決定の通知」「入社日」「同封(添付)書類について」「提出書類と提出期限」「問い合わせ先」を記載し、入社承諾書と誓約書を同封(メールの場合はデータの添付、または別途郵送)します。
② 法定三帳簿を作成する
法定三帳簿とは、労働者名簿・賃金台帳・出勤簿のことで、労働基準法の定めにより、作成・保管が義務付けられています。[注1]
それぞれの特徴や意義は以下の通りです。
帳簿の種類 | 特徴や意義 |
労働者名簿 | 従業員の氏名や年齢、住所やマイナンバーなどの個人情報を記載した名簿のこと |
賃金台帳 | 従業員の賃金額やその計算の基礎となる事項、賃金計算期間など賃金に関する項目をまとめた書類のこと |
出勤簿 | 従業員の出勤日や労働日数、労働時間数などを記載した書類のこと |
作成した帳簿は原則3年間の保存が義務付けられており、違反した場合は30万円以下の罰則が課される可能性があります。[注2]
[注1]労働者を雇用したら帳簿などを整えましょう~労働関係法令上の帳簿等の種類と保存期間について(簡易版)~|厚生労働省
③ 社会保険や雇用保険の加入手続きをする
次に、厚生年金保険、健康保険といった社会保険の加入手続きをおこないます。加入対象となるのは、常時雇用で70歳以下の従業員です。
手続きをする際は、管轄の年金事務所と健康保険組合に「健康保険・厚生年金被保険者資格取得届」を提出します。(協会けんぽの場合は年金事務所)
提出方法には窓口に直接足を運ぶ、郵送、電子申請の3つがあります。
さらに、「31日以上の雇用継続」「週20時間以上の所定労働時間」という2つの条件を満たした従業員には、雇用保険の加入手続きが必要となるため、窓口となる管轄のハローワークに出向いて手続きをおこないましょう。
なお、法定三帳簿とともに「雇用保険被保険者資格取得届」を提出する必要があるため、あらかじめ用意しておくとスムーズです。
④ 税金に関する手続きをする
続いて、所得税と住民税といった、税金に関する手続きをおこないます。
まずは所得税の手続きをします。入社の際に提出してもらった「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」をもとに、源泉徴収簿を作成しましょう。前職を退職した年に再就職した従業員に関しては、前職の源泉徴収票を提出してもらう必要がありあす。
住民税には自分で納める普通徴収と企業側が従業員に給与から本人に代わって納める特別徴収があります。特別徴収の場合は、「特別徴収にかかる給与所得者異動届出書」を所轄の市区町村に提出しなければなりません。
⑤その他、実務の準備も整えておく
入社手続きというと、つい書類作成などが優先さる傾向があります。しかし、これから入社する社員にとっては、これから自分がどのような環境で働くかが重要です。万が一入社準備に不備があれば、モチベーションの低下につながる恐れもあります。
入社手続きの中には、新入社員を受け入れる体制の整備も含まれています。制服やデスクなどをはじめ、備品やメールアドレスの取得などの準備も忘れずにおこないましょう。
また、入社当日の手続きがスムーズに進むように段取りを確認したり、すぐに業務に移行できるような研修を準備したりするなど、部署の垣根を越えて社内で強力して新入社員を迎え入れましょう。
2. 入社手続きに必要な書類
ここからは、新入社員の入社手続きに必要となる書類について解説します。
入社手続きに必要な書類は、大きく分けて「入社前に作成・送付が必要な書類」「入社後に提出してもらう書類」「各機関へ届け出るもの」の3種類に分類して把握しておくとよいでしょう。それぞれに該当する書類について解説します。
2-1. 入社前に作成・送付が必要な書類
採用(内定)通知書
企業が採用者に対して雇用の承諾を伝えるための書類です。会社によっては書面ではなく、口頭やメールで通知する場合もあるようです。
入社承諾書
入社の意思確認をおこなうための書類です。採用(内定)通知書と一緒に送付し、入社承諾書のみ署名・捺印の上提出してもらいます。
労働条件通知書、雇用契約書
労働条件通知書は、労働基準法によって交付が義務付けられている書類です。記載事項に関しては法律で定められた事項を記載する必要があります。
一方で、雇用契約書は会社側と従業員側で雇用契約が締結されたことを証明する契約書で、法律上、作成の義務はありません。会社によっては「労働条件通知書兼雇用契約書」として1通にまとめている所もあります。
2-2. 入社後に提出してもらう書類
入社手続きに必要となる主な書類は次のとおりです。
提出が必要な書類 | 概要や注意点 |
年金手帳 |
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住民票 |
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給与所得者の扶養控除等(異動)申告書 |
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マイナンバー |
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健康診断書 |
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個人情報保護法に基づく誓約書 |
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雇用保険被保険者証 |
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源泉徴収票 |
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雇用契約書、入社承諾書 |
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健康保険被扶養者(異動)届、国民年金第3号被保険者資格取得届 |
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給与振込先申請書、身元保証書 |
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資格免許証、合格証明書類 |
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入社の際に必要な書類はもれなく回収しましょう。漏れや不備があった場合は入社手続きに想定以上の時間がかかり社会保険の手続きに間に合わない可能性がでてくるため、事前にしっかり確認することや入社予定者に伝達しておくことが重要です。当サイトでは、入社手続きをする際に企業がすべきことを入社手続きの注意点とともにまとめた資料を配布しています。漏れや遅滞なく入社手続きをおこないたい方は、こちらから資料をダウンロードして、お役立てください。
関連記事:入社手続きに必要な書類一覧|手続きの流れや覚えておきたいポイント
2-3. 各機関への届出
提出してもらった書類は内容に不備がないか、各機関へ届出をおこなう前にチェックをおこないます。書類に問題がないようであれば、各機関へ届出をおこないます。具体的には次に紹介する手続きに従って届出をおこないます。
社会保険の加入手続き
社会保険の加入手続きは、従業員が入社した日から5日以内におこなわなくてはいけません。
社会保険は、フルタイムの正社員は基本的に全員が加入対象であり、パート・アルバイトなど短時間労働者の場合は、以下の条件を満たす場合に加入が義務付けられている保険です。
- 従業員数が101名以上の企業に所属している(2024年10月からは51名以上の企業に改正予定)
- 1週間の所定労働時間が20時間以上
- 給与が月額88,000円以上
- 雇用契約期間が2か月超である
- 学生でない
社会保険はの届出は「健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届」を作成の上、日本年金機構(管轄年金事務所)へ提出します。
なお、扶養家族の加入申請もおこなう場合は「健康保険被扶養届」を、扶養している配偶者については「国民年金第3号被保険者資格取得届」も合わせて提出します。
雇用保険の加入手続き
雇用保険の加入手続きについては、管轄の公共職業安定所長に提出しておこないます。入社した月の翌月10日までに「雇用保険被保険者資格取得届」を作成して提出します。
加入手続きが必要となる従業員は、原則として「同一の事業主で引き続き31日以上働く見込みがある」「所定労働時間が週20時間以上」である場合が対象となります。
税金の手続き
住民税の手続きに関しては、入社前の納付方法が「普通徴収」または「特別徴収」であったかにより手続きが異なります。
普通徴収から特別徴収に切り替える場合には、「特別徴収への切替申請書」を、未使用の住民税納付書または領収書と一緒に従業員が居住する市町村に所定の期日までに提出します(期日は市町村によって異なりますので各自ご確認ください)。
前職より続けて特別徴収にする場合は、「特別徴収にかかる給与所得者異動届出書」を提出します。なお、新卒のように前年の所得が無い場合は、手続きは不要となります。
3. 入社手続きで注意すべきポイント
入社手続きを適切かつ迅速に行うためのポイントは、次の4つです。
- 入社手続きには期限があるため、優先順位を決めて進める
- 手続きの内容によって提出先となる機関が異なるので、事前に確認しておく
- 従業員の大切な個人情報を取り扱いことの重要性を自覚し、適切に使用・保管する
- 入社手続きを電子化して業務を効率化する
3-1. 入社手続きには期限があるため、優先順位を決めて進める
社会保険と雇用保険の加入手続きには、届出の提出期限が設けられています。期限を過ぎた場合、入社日から手続きをした日までの賃金台帳と出勤簿を提出しなければならなかったり、遅延理由書を作成して提出する必要があったりと、余命な手間がかかってしまいます。
社会保険の加入手続きは雇用開始から5日以内、雇用保険の加入手続きは雇を開始した日の翌月10日までです。
3-2. 手続きの内容によって提出先となる機関が異なるので、事前に確認しておく
また、入社手続きはその内容によって書類の提出先が異なります。事前に提出先を確認したり、処理担当者を担当制にしたりして、スムーズな手続きにつなげましょう。
雇用保険の加入手続きは、必要事項を記入した「雇用保険被保険者資格取得届」に法定三帳簿などの確認資料を添付し、所轄のハローワークに提出します。内定者が中途採用の場合は、前職の「雇用保険被保険者証」も必要です。
社会保険の加入手続きでは、健康保険・厚生年金被保険者資格取得届を提出します。なお、従業員に配偶者や子どもがいる場合は「健康保険被扶養者(異動)届」、配偶者が「国民年金の第3号被保険者」に該当する場合は「国民年金第3号被保険者資格取得・種別変更・種別確認(3号該当)届」を併せて提出しましょう。
住民税を特別徴収で納付する場合は、納付先の市町村に「給与支払報告・特別徴収に係る給与所得者異動届出書」を提出します。
3-3. 従業員の大切な個人情報を取り扱いことの重要性を自覚し、適切に使用・保管する
入社手続きには、従業員に個人情報を提供してもらう必要があります。場合によっては、従業員の家族の情報も知りうる可能性があるため、その重要性を認識した上で業務に取り組みましょう。
また、知り得た情報が外部に漏れたり、悪用されたりすることがないように、管理方法なども徹底しておくことが大切です。
3-4. 入社手続きを電子化して業務を効率化する
このように、入社手続きにはさまざまな書類の準備などが必要になり、細かい業務が多く発生します。また、従業員の個人情報を取り扱う重要な業務でもあるため、処理のミスを防がなくてはなりません。
入社手続きは、人事管理システムを導入することで業務を効率化することが可能です。書類の作成・管理の手間が減るだけでなく、社会保険や雇用保険の加入手続きをオンラインで済ませることができます。
また、人事管理システムの管理機能を活用すれば、ヒューマンエラーによる記入漏れや提出遅れなどを防ぐことができます。
関連記事:入社手続きで必要な書類や準備とは?案内方法や業務フローを紹介
4. 入社手続きをマニュアル化し、迅速かつ適切に対応しよう!
必要書類の準備や各機関への届出の提出など、入社手続きに関わる業務は多岐に渡ります。社会保険や雇用保険、税金関係の手続きが遅れてしまうと、従業員の生活に大きな影響を与えます。業務をマニュアル化・フロー化することで効率化を図り、書類の提出漏れや期限遅れを防ぎましょう。
入社手続きに関する業務をより迅速に、適切に処理できるよう効率化するには、電子化に対応したシステムの導入がおすすめです。
社会保険や雇用保険の加入手続きを電子申請することで、入社手続きにかかる時間を大幅に削減しながらも、ヒューマンエラーの防止やコストの削減にもつながります。
これを機に、入社手続きの方法を見直してみてはいかがでしょうか。
入社手続きは確実に対応する必要がありますが、社会保険の資格取得手続きや雇用契約の締結など対応しなくてはならない項目が多く、漏れや遅れが発生してしまうこともあるのではないでしょうか。
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