企業は、一定の条件を満たす従業員を雇用保険に加入させなければなりません。必要な手続きをおこなうことで発行されるのが雇用保険被保険者証で、「雇用保険に加入している」ことを証明する重要な書類です。
雇用保険被保険者証は、普段の業務の中で使用することはほとんどありません。しかし、従業員の退職など重要なシーンで必要となり、この書類がなければ手続きが進まないようなこともあるので注意が必要です。
本記事では、雇用保険被保険者証とはどのような書類か、雇用保険被保険者証が必要な場面、雇用保険被保険者証の有効期限や再発行の可否などについて説明します。
関連記事:雇用保険とは?加入条件や手続き方法・注意点をわかりやすく解説!
目次
社会保険料の支払いは従業員の給与から控除するため、従業員が入退社した際の社会保険の手続きはミスなく対応しなければなりませんが、対象者や申請期限、必要書類など大変複雑で漏れやミスが発生しやすい業務です。
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1. 「雇用保険被保険者証」とは?
雇用保険被保険者証とは、雇用保険に加入していることを証明するための書類です。
従業員は、雇用保険被保険者証を所持することで、自分が雇用保険加入者を証明することができます。
1-1. そもそも雇用保険とは
雇用保険とは、退職や失業した労働者の生活を守ることを目的とした制度です。具体的には、失業保険の給付や再就職に向けた教育訓練を受けるための補助金の給付などがあります。
ただし、これらの給付を受けるためには、一定の期間雇用保険に加入していることが必要です。
1-2. 雇用保険の加入条件
雇用保険は、以下の条件を満たせば加入することができます。
- 週の所定労働時間が20時間以上であること
- 31日以上雇用される見込みがあること
- 学生でないこと(例外あり)
雇用保険は、正社員やパート・アルバイト従業員などの雇用形態に関係なく、上記の条件を満たすすべての従業員が対象となります。ただし、以下のような場合は加入対象外となるので注意しましょう。
- 家事使用人
- 昼間学生臨時内職的に雇用される人
- 会社と委任関係にある人(法人の取締役や役員など)
- 日雇い労働者など
加入条件や加入の対象外となる人に関して、より詳しく確認されたい方は以下の記事をご活用ください。
1-3. 雇用保険被保険者証の記載内容
雇用保険被保険者証は、横210mm×縦77mmのサイズで、「雇用保険被保険者資格取得等確認通知書(被保険者通知用)」とセットになった書類です。
発行機関によって多少の違いはありますが、雇用保険被保険者証には以下のような内容が記載されています。
項目 |
記載内容 |
被保険者番号 |
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被保険者の氏名 |
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被保険者の生年月日 |
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確認(受理)通知年月日 |
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資格取得年月日 |
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事業所名略称 |
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1-4. 雇用保険資格者証との違い
雇用保険資格者証とは、従業員が失業し再就職を目指す際に、基本手当を受け取るための証明書です。失業認定日に必要となるものです。
従業員が基本手当の受給手続きをおこなった日に、受給者説明会でハローワークより交付されます。
1-5. 雇用保険未加入証明書との違い
雇用保険未加入証明書とは、雇用保険に加入していないことを証明するための書類です。
例えば従業員が家族の扶養に入る際に、証明書の提出が求められることがあります。
1-6. 離職票との違い
離職票とは、従業員が退職したことを証明する書類で、正式には「雇用保険被保険者離職」と呼びます。失業給付を受ける際に必要となるので、ハローワークで使用することがほとんどです。雇用保険被保険者証とは違い、転職先で使用することはあまりないでしょう。
このように、雇用保険被保険者証には似たような名称・使用目的の書類が複数あります。従業員から問い合わせを受けることもあるので、それぞれの違いを正しく把握しておきましょう。
2. 雇用保険被保険者証が必要な場面・手続き方法
雇用保険被保険者証の手続きが必要になる場面は、おおむね以下のとおりです。
- 会社として初めて雇用保険の対象となる従業員を雇い入れるとき
- 新たに従業員を雇い入れるとき
- 従業員が会社を退職するとき
- 教育訓練給付の支給申請をおこなうとき
- 65歳未満の方が厚生年金保険の決定請求をおこなうとき
それぞれのケースについて、説明します。
2-1. 会社として初めて雇用保険の対象となる従業員を雇い入れるとき
会社として初めて雇用保険の対象となる従業員を雇い入れる場合は、以下の手順で手続きをおこないます。
- 「労働保険関係成立手続き」をおこなう
- 「事業所設置届」と「雇用保険被保険者資格取得届」を管轄のハローワークに提出する
- 交付された雇用保険被保険者証を従業員に渡す
「労働保険関係成立手続き」とは、誰か1人でも雇用保険の対象となる従業員を雇用した場合に企業がおこわなければならない手続きです。企業と従業員の間で雇用保険関係が発生してから10日以内に労働基準監督署に「保険関係成立届」を提出します。
その後、「事業所設置届」と「雇用保険被保険者資格取得届」をハローワークに提出します。事業所設置届は設置の翌日を起算日として10日以内に、「雇用保険被保険者取得届」は資格取得の事実があった日の翌月10日までに、被保険者ごとに提出しなくてはなりません。
なお、保険関係が成立した日から50日以内に、「労働保険概算保険料申告書」の提出と当該年度分12ヶ月の保険料の納付が必要となるので忘れずに対応しましょう。
2-2. 新たに従業員を雇い入れるとき
すでに雇用保険の対象となる従業員を雇用している企業が、新たに従業員を雇い入れる場合の手続きは以下の通りです。なお、届出の提出期限は先ほどと同様、資格取得の事実があった日の翌月10日までとなります。
- 「雇用保険被保険者資格取得届」を管轄のハローワークに提出する
- 交付された雇用保険被保険者証を従業員に渡す
もし、企業が新卒者(これまでに雇用保険に加入したことがない人)を採用する場合は雇用保険被保険者証をまだ持っていないので、提出を求める必要はありません。必要書類を揃えて所轄のハローワークにて雇用保険の加入手続きをおこなわなければなりません。この場合、新卒者は「新規」として手続きを進めましょう。
一方、前の会社ですでに雇用保険に加入している転職者を採用する場合は、雇用保険の加入手続きをおこなうために、労働者が前の職場から受け取った雇用保険被保険者証を提出してもらうことになります。
また、雇用保険を含む社会保険の適用拡大によって、いままで適用とならなかった労働者も対象者となり手続きが必要な場合があるため、注意しましょう。社会保険の適用拡大は企業規模ごとに段階的に実施されています。2022年10月から中小企業を対象に社会保険の適用拡大がなされているので、こちらに対応できているかの確認も必要です。当サイトでは、社会保険の適用拡大について変更点や企業の対応すべき事項をまとめた資料を無料でお配りしています。
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2-3. 従業員が会社を退職するとき
従業員が会社を退職する際も、雇用保険被保険者証の手続きが必要です。雇用保険被保険者証は被保険者個人に発行するものであり、転職により会社や職場が変わっても、被保険者番号(雇用保険被保険者証)は変わりません。
つまり、転職先で雇用保険に加入する場合、退職した職場から渡された雇用保険被保険者証を、入社時に転職先へ提出する必要があります。
また、退職する従業員が退職日以前の2年間において、雇用保険の被保険者であった期間が通算して12ヶ月以上あれば失業給付を受け取ることが可能です。失業給付を受け取るためには、失業保険の資格喪失手続きをおこなう必要があります。
雇用保険に加入していた従業員が退職する場合は、従業員が退職した日の翌々日から起算して10日以内に雇用保険被保険者資格喪失届をおこないましょう。なお、その際は以下の2つの書類の提出が必要です。
- 雇用保険被保険者資格喪失届
- 離職証明書
この2つの書類をもとに、ハローワークが離職票を交付します。この離職票と雇用保険被保険者証があれば、退職者は失業給付を受け取ることが可能です。
2-4. 教育訓練給付の支給申請をするとき
教育訓練給付制度とは、働く人の主体的な能力開発の取り組みを支援し、雇用の安定と再就職の促進を図ることを目的に整備された、雇用保険の給付制度です。
厚生労働大臣の指定する教育訓練を受講して修了した場合、教育訓練給付の支給申請をおこなうことで、教育訓練施設に支払った経費の一部を給付金として支給してもらうことができます。
この手続きをおこなう際に、ハローワークで雇用保険被保険者証が必要になります。
2-5. 65歳未満の方が厚生年金保険の決定請求をするとき
65歳未満の人が老齢厚生年金を請求する際は、年金請求書と共に雇用保険被保険者証を年金事務所に提出しなければなりません。
年金を請求する人の月収によって年金額の減額がおこなわれるため、在職状況をハローワークに問い合わせる際に必要となります。
3. 雇用保険被保険者証を発行するタイミングは?
雇用保険の被保険者資格取得手続きは、労働者が被保険者となる要件を満たした月の翌月10日までにおこなわなければなりません。
仮に労働者が10月1日に被保険者となった場合、11月10日までに資格取得手続きをおこなう必要があります。
資格取得手続きをおこなう際は、事業所を管轄しているハローワークに雇用保険被保険者資格取得届を提出します。
提出方法は窓口に提出、郵送、オンライン申請から選ぶことができますが、雇用保険被保険者資格取得届にはマイナンバーが記載されているため、一般郵便で送ることはできず、特定記録や簡易書留など、受け取りを確認できる方法でしか郵送できません。
窓口の場合は即日、オンライン申請の場合は2~3日、郵送の場合は1週間程度で手続きが完了します。
資格取得手続きが済むと、資格を取得した事業所名が入った雇用保険被保険者証が発行されます。
雇用保険被保険者証は、発行されてすぐに必要になるシーンが訪れるような書類ではありませんが、何らかの理由で発行を急ぐ場合は、窓口やオンライン申請で手続きをおこなうとよいでしょう。
3-1. 雇用保険被保険者証の有効期限に注意
労働者が雇用保険に加入し続けている限り、雇用保険被保険者証が有効期限を迎えることはありません。
そのため、転職によって職場が変わったとしても、前の職場で発行された雇用保険被保険者証を引き続き使用し続けることになります。
ただし、離職などによって雇用保険の加入資格を喪失してから7年以上が経過すると、労働者に割り当てられていた被保険者番号がハローワークのデータから抹消されることを覚えておきましょう。
仮に、雇用保険に7年以上加入していない労働者を企業が採用する場合、ハローワークに提出する雇用保険被保険者資格取得届の「取得区分」は、これまで雇用保険に加入したことがない新卒者などと同様に、「新規」となるので注意してください。
4. 雇用保険被保険証に関してよくある質問
ここからは、雇用保険被保険証に関してよく生じる疑問について解説します。
4-1. 派遣社員やアルバイトにも雇用保険被保険者証はある?
雇用保険とは、派遣社員やアルバイトなど、雇用形態を問わず加入が可能です。
ただし、前提として前述した雇用保険の加入条件を満たしていることが求められるためご注意ください。
雇用保険に加入していれば、アルバイトや派遣社員も雇用保険被保険証が発行されます。
4-2. 従業員に雇用保険被保険者証を再発行して欲しいと言われた場合の対応方法
従業員が雇用保険被保険証の紛失・誤って損傷させてしまった場合には、再交付の手続きをおこないましょう。
以下の公式サイトにて公開されている被保険者証再交付申請書をご活用ください。
参考:被保険者証再交付申請書|ハローワークインターネットサービス
なお、再発行後に紛失していた被保険証を発見したとの連絡を受けた場合には、すみやかにハローワークへ申し出なければなりません。ハローワークで手続きをおこなえば即日再発行が可能です。再発行の手続きに必要な書類は以下の3つです。
- 在職中または退職した会社の正式名称と本社所在地、電話番号
- 本人確認書類(運転免許証やマイナンバーカードなど)
- 印鑑
4-3. 雇用保険被保険者資格取得届の記入例は?
雇用保険被保険者資格取得届の記入例は、厚生労働省の公式サイトにて公開されています。
記載方法についても説明されているため、必要に応じてご活用ください。
参考:雇用保険被保険者資格取得届の記入例 – 様式第2号|厚生労働省
5. 雇用保険被保険者証は退職などの重要なシーンで必要な重要書類
雇用保険被保険者証は、雇用保険に加入していることを証明するための書類です。
在籍中に利用する機会はほとんどありませんが、今の会社を退職して他の会社に転職するときや、教育訓練給付の支給申請をおこなうときに必要になります。
発行された雇用保険被保険者証は基本的に企業側で保管していますが、シーンによって従業員に返却しなければならないため、しっかりと管理しておきましょう。