各企業で人手不足が叫ばれる昨今、「従業員エンゲージメント」という指標がHR領域で非常に注目されています。
従業員エンゲージメントを高めることにより、従業員の生産性向上や離職率低下につながるからです。
本記事では、
- そもそも従業員エンゲージメントとは何か
- 従業員エンゲージメントの測定方法
- 従業員エンゲージメントを高めるためにどうすれば良いか
上記について、詳しく解説します。
目次
1. 従業員エンゲージメントとは?
エンゲージメントとは、英語で「engagement」と表記され、「約束」を意味します。
転じて、マーケティング領域では、「企業やブランド、商品、サービスなどに対してユーザーが持っている愛着度」を指すようになり、HR領域では「従業員エンゲージメント」という言葉が生まれました。
従業員エンゲージメントとはいったいどのような意味を持つのか、なぜHR領域で注目されるようになったのか、ご説明いたします。
1-1. 従業員エンゲージメントの定義と要素
従業員エンゲージメントとは、「従業員の会社に対する愛着や思い入れ」という意味です。
従業員1人ひとりが会社や組織に対して高い愛着を持っている状態を「従業員エンゲージメントが高い」と表現します。
従業員エンゲージメントは「理解度」「共感度」「行動意欲」の3つの要素から構成されているといわれています。
- 理解度:企業の理念やビジョンをどれだけ理解しているか
- 共感度:企業の理念やビジョンに対し、どれだけ共感しているか
- 行動意欲:会社に貢献しようという意欲がある
以上3つが従業員エンゲージメントを高める基礎です。
従業員のエンゲージメントが高い時、従業員は職場環境や労働条件に満足しているだけでなく、仕事にやりがいを感じ、意欲を持って取り組むことができています。
従業員エンゲージメントが高い状態についての詳細は、後述するのでぜひお読みください。
1-2. 従業員エンゲージメントと従業員満足度の違い
従業員エンゲージメントと混同しそうな言葉として、「従業員満足度」があります。
従業員満足度とは、「従業員が企業や現在の仕事、職場の人間関係にどの程度満足しているか」を示す指標です。
あくまでも「満足度」であるため、従業員が会社や組織に貢献したいと考えているかどうかはわかりません。
もちろん、従業員満足度の高さが生産性の向上や離職率の低下につながる可能性はありますが、必ず職務成果につながるわけではないとの指摘もあります。
また、給与や待遇、福利厚生の改善を実施することで従業員満足度を上げても、離職率が上がってしまうケースも存在します。
法政大学大学院 政策創造研究科の教授・研究科長の石山恒貴氏は、エンゲージメントには次の三つの観点があると解説しています。
- ワーク・エンゲージメント:仕事に対する熱意がありモチベーションが高い状態
- 組織コミットメント:企業への満足度が高く愛着を持っている状態
- 職務への満足感:仕事内容そのものに満足している状態
これらの観点からも、従業員満足度が従業員エンゲージメントを向上させるための一つの手段でしかないことがわかります。
1-3. 従業員エンゲージメントが注目される理由
従業員エンゲージメントが使われるようになった背景に、2つの論文があります。
1つ目は1990年に発表された、ボストン大学心理学教授のウィリアム・カーン氏の論文です。カーン氏の論文では、「パーソナルエンゲージメント」という言葉が使われており、社員が仕事に対し、肉体的にだけでなく心理的、感情的に打ち込むことを意味します。この数値が高いと、業績がいいという研究結果が報告されています。
2つ目は1993年に発表された、アメリカの心理学者であるフランク・L・シュミット氏らが発表した論文で、「従業員エンゲージメント」が登場しました。従業員の離職防止の一部であり、社員の仕事に対する関わり合い、コミットメント、満足の度合いによって構成されると定義されています。
また、シュミット氏とギャラップ社(アメリカの世論調査会社)が従業員エンゲージメントの測定方法を共同開発し、世界中で注目されるようになりました。
2017年におこなわれた調査で、日本は139か国中132位と、世界最低水準の従業員エンゲージメントであることがわかりました。
以上の理由から、従業員エンゲージメントはHR領域で注目されることとなったのです。
1-4. 従業員エンゲージメントを高めるメリット
従業員エンゲージメントが世界で最低水準の日本ですが、従業員エンゲージメントを向上させることで得られるメリットがあります。
自社の従業員エンゲージメントを高めることに、存分に活用してみてはいかがでしょうか。
- 従業員が自発的に行動し
- 生産性が向上する
会社や組織に対して自ら貢献し、より良くしようとする意欲の高い従業員が増えます。
「自分が良ければそれでいい」のではなく「会社や組織が良くなることが、自分の喜びや幸せにつながる」という発想のもと、従業員が自発的な改善行動を取ることが期待できます。
そして、その結果、個人・組織のパフォーマンスが改善され、業績向上や顧客満足度の向上にもつながるでしょう。
- 従業員が企業に定着し
- 離職率が低下する
従業員が自社で仕事をすることに対し前向きな姿勢であれば、自社で働くことの満足度も高まり、離職率を低下させることも期待できます。
従業員が長く働いてくれることで教育コストの削減につながるため、企業側にもメリットがあるといえるでしょう。
2. 従業員エンゲージメントを高める施策
従業員エンゲージメントを高めるためには、具体的に何をおこなえばいいのでしょうか。
2-1. 従業員エンゲージメントを調査する
従業員エンゲージメントを高める施策として、まず、従業員エンゲージメントを測定することが有効です。
現時点での自社の従業員エンゲージメントは、高いのか低いのかを知ることで、何をすれば良いかが見えてきます。職場の物理的環境の改善なのか、人間関係の見直しなのか、具体的に取り組むべき点を見つけやすくなるでしょう。
従業員エンゲージメントの調査方法については、後述いたします。
2-2. 企業の理念・ビジョンを浸透させる
会社の理念や経営指針、今後のビジョンを明確にすることは、従業員エンゲージメント向上において重要なポイントです。従業員が企業の方向性を理解し、共感するほど「企業に貢献したい」という気持ちが強まります。
理念やビジョン、目標は、「会社として顧客や社会にどのような価値を提供できるか」を訴求することが大切です。ミーティングや社内報で定期的に共有し、個々が企業目標を達成したいという意欲を維持できるよう促しましょう。
2-3. 公平で納得感のある評価制度にする
従業員エンゲージメントを向上させるためには、人事評価制度の見直しが必要になるかもしれません。評価基準が曖昧で上司の主観などによる評価がおこなわれれば公平な評価ができず、従業員が会社に対して不満を抱いてしまう可能性があります。
評価は結果だけでなく、プロセスを重視することも大切です。また、目標を達成した場合や貢献度が高いと評価された従業員に対して報奨金などを支給することにより、従業員エンゲージメントを高める効果も期待できます。
2-4. 従業員同士のコミュニケーションを活性化する
従業員同士のコミュニケーションが活性化して関係性が深まれば、従業員エンゲージメントが向上しやすくなります。お互いを理解することでハラスメント行為が減り、働きやすい環境を維持できるでしょう。
コミュニケーションを活性化する方法はさまざまですが、以下のような方法なら手軽に導入できます。
- カフェ空間のような話しやすい環境を作る
- コーヒーサーバーを設置する
また、最近ではリモートワークを導入する企業が増え、従業員同士のコミュニケーション不足に頭を悩ませる企業も少なくありません。このような場合はオンラインでのミーティングやSNSを活用し、従業員の帰属意識を図るとよいでしょう。
2-5. 上司から丁寧なフィードバックをおこなう
日頃の成果や貢献を適切に評価されても、伝え方を誤れば会社や上司に対して不信感を抱く従業員も出てくるかもしれません。大げさに褒める必要はありませんが、評価を適切かつ丁寧に伝えることが求められます。
そのためには、上司のフィードバック能力も重要です。管理職向けにフィードバック研修を実施し、効果的な面談方法を学ばせる機会を設けましょう。
2-6. ワークライフバランスを整える
どんなに企業の理念やビジョンに共感できても、「残業が多い」「有給休暇が取れない」というような働き方をしていれば従業員は疲弊し、会社に貢献したいという気持ちが薄れてしまいます。従業員の仕事以外の時間を十分に確保することも、従業員エンゲージメントの向上に効果的です。
ワークライフバランスを整える具体的な方法を紹介します。
- フレックスタイム制の導入
- ノー残業デーの導入
- 計画的有給休暇の取得など
2-7. キャリア開発を支援する
従業員の成長に合わせてキャリア開発を支援することも有効です。「会社が自分に期待している」という姿勢が伝われば、会社に貢献したいという気持ちをより高めることができます。
キャリア支援にはコストや手間がかかりますが、従業員同士で刺激し合い、より高みを目指すことができるでしょう。従業員が成長すれば会社への貢献度も高まり、一企業として大きな成長が期待できます。
従業員エンゲージメントが向上しても、取り組みを継続しなければまた低下してしまいます。
従業員エンゲージメントが高い状態を維持するには、
- 定期的な数値の見える化
- 施策の継続
が重要です。
従業員エンゲージメントの数値を定期的に測定し、社内に共有することで、従業員全体の意識が高まります。
企業の理念やビジョンを理解してもらい、共感を得られるような施策を講じるにはどうすればいいかなど、人事や経営陣が考えるきっかけになることはもちろん、従業員自身も、意欲的に行動ができていたかなどの振り返りができます。
また、企業内で検討した施策を継続しておこなうことも大切です。
決定した施策を続けることは容易ではありませんが、都度改善点をあぶりだし、修正しながら従業員エンゲージメントが高い状態を維持することに努めましょう。
3. 従業員エンゲージメントが高い企業の事例
実際に、従業員エンゲージメントが高い企業は、どのような取り組みをしているのでしょうか。
会社の規模や業種でできることや必要なことはそれぞれだと思います。以下でご紹介する事例を参考に、自社に活用してみてください。
3-1. スターバックスコーヒー
スターバックスコーヒーでは、「お客様のサード・プレイスを作る」を合言葉に、お客様へのサービス並びに自社の環境整備がおこなわれています。
- 明確なビジョンを全社で共有
- パートやアルバイトにも理念やビジョンに共感してもらう
- マニュアルを用意せず、従業員の主体的な行動を促す
お客様にとって居心地が良い場所となるように、従業員同士がお互いに認め合えるような環境作りがされています。
3-2. 小松製作所
建設機械の大手企業である小松製作所では、主にマネージャーを対象として、従業員エンゲージメントの向上に努めています。
- マネージャー層が気を配るべきポイントを絞る
- 経営層含む全従業員に冊子を配り、価値観の共有を図った
- マネージャー層への研修やワークショップの実施
以上の施策により、小松製作所は従業員エンゲージメントだけでなく、売り上げの向上も実現しました。
提供会社:株式会社 小松製作所
3-3. アスクル
中小事務所向けのオフィス用品・現場用品の通販サービスを提供するアスクルでは、ビジョン・ミッション・バリューを明確化することで、従業員エンゲージメントの向上を図りました。
- アスクルがやらないことの明確化
- 従業員のモチベーションの数値化
- 1on1ミーティングの実施
会社が従業員に提供することと、従業員が会社に期待することのギャップを埋めることで、退職率を抑えることを実現しました。
提供会社:アスクル株式会社
3-4. IDOM
日本で唯一のハイパーグロースカンパニーとして名を連ねるIDOMでは、組織戦略を重要視した取り組みがおこなわれてます。
- 全従業員が「当事者意識」「経営者視点」の2つを持つ
- ITを活用したコミュニケーションの実施
- ほぼ全従業員が参加するイベントの実施
IDOMが大切にしている「挑戦」を身をもって体感することにより、社内の共通言語にすることを目指しています。
提供会社:株式会社IDOM
4. 従業員エンゲージメントの調査方法と便利なサーベイツール
実際に従業員エンゲージメントを高めるには、従業員エンゲージメントを測定し、その結果から組織課題の発見をおこなう必要があります。
具体的な測定方法や便利なツールのご紹介をいたします。
4-1. 従業員エンゲージメントの調査方法
従業員エンゲージメントを調査・測定する代表的な方法は「エンゲージメント・サーベイ」です。
エンゲージメント・サーベイでは、「従業員が自社の仕事にやりがいを感じているか」「どのような組織課題を感じているか」など、従業員がどんな想いで働いているのか把握するためのアンケート調査を実施することで、その結果から課題を発見することができます。
従業員エンゲージメントを測定する場合は、まず従業員に対して実施する目的を周知した後、アンケート項目を作成することから始めてみましょう。
最近では、エンゲージメントを定量的に測る指標として「eNPS(Employee Net Promoter Score)」が注目されています。「NPS(Net Promoter Score)」と呼ばれる顧客ロイヤルティーを可視化する指標を従業員向けに応用したもので、従業員に「自社を友人・知人に自社を勧めたいか」という観点から評価してもらいます。この結果により、「従業員同士の関係」「給与や福利厚生への満足度」「業務に対するやりがい」などの項目について、従業員の自社へのエンゲージメントを定量的に把握できます。
4-2. 従業員エンゲージメントの測定に便利なツール
実際に自社でエンゲージメント・サーベイを実施していたとしても、効果的な分析や改善のための施策を打つことができなければ意味がありません。
このような場合には、さまざまな企業が提供するサービスやプロダクトを活用することも検討してみましょう。
本章では、従業員エンゲージメントの測定・分析ができる代表的なサービス・プロダクトをご紹介します。
4-2-1. ジンジャー人事労務(サーベイ)
ジンジャーは、勤怠管理や人事管理などの人事業務を1つのプラットフォームでおこなうことができるSaaS型サービスです。
人事業務の業務効率を大幅に改善し、それぞれのデータを集積・分析することで、企業経営に必要なデータをアウトプットできます。
2018年にリリースされた「ジンジャー人事労務(サーベイ)」では、エンゲージメントに関する自由な質問を設定して従業員に回答してもらうことで、コンディション状況をリアルタイムで可視化することができます。
また、定点モニタリングをおこなうことで、従業員のモチベーションを管理・解析することも可能です。
提供会社:jinjer株式会社
4-2-2. バヅクリエンゲージメント
バヅクリエンゲージメントでは、60秒で回答可能なサーベイでエンゲージメントを測ることができます。設問内容は産業医と組織開発の実務専門家監修のもと、組織課題の抽出に必要な網羅的かつ効率的な項目で設計されています。
また、課題がわかりやすい画面設計で、クロス集計・推移分析も簡単です。「分析の仕方が複雑でどこが重要かわからない」「見るべきことが多すぎて結局課題がわからない」といったサーベイ分析にありがちな問題を解消してくれます。
組織心理学に基づいて学びと対話のプロが共同開発した200種類以上の課題解決ワークショップを、最短10営業日で実施可能です。ワークショップの参加者満足度は97%以上と、非常に高い評価を得ています。
提供会社:バヅクリ株式会社
4-2-3. カオナビ|パルスサーベイ機能
カオナビは、顔写真を用いて直感的に人材情報を把握できるタレントマネジメントシステムです。
優秀人材の適材配置や能力・スキルといった社員情報を、顔写真付きで管理できることが特徴です。
2019年6月にリリースしたパルスサーベイ機能は、週ごと・月ごとに少ない設問で社員にアンケートを実施することができ、社員のコンディションを把握できます。
定点観測で離職予兆や満足度が可視化され、早期フォローが可能です。
提供会社:株式会社カオナビ
4-2-4. MOTIVATION CLOUD
MOTIVATION CLOUDは、組織状態を診断し、組織改善に活用できる、国内初の組織改善クラウドです。
日本最大級の組織データベースをもとに、組織状態を定量的に可視化することができます。
また、組織状態を把握するだけでなく、課題に対して適切な施策を実行することで、組織改善のサイクルを回すことができます。
提供会社:リンクアンドモチベーション
4-2-5. モチベーションサーベイ
モチベーションサーベイは、社員のモチベーションの高低を測定し、組織の現状を可視化できる従業員エンゲージメント測定ツールです。
目に見えないためわかりにく従業員のモチベーションをアンケート通じて数値化し、従業員が高い意識を維持し続けられる環境を構築することができます。
自社にマッチした設問や分析の設定が可能で、さまざまな角度から分析した結果に基づき、目標達成に向けて高い意識を維持し続ける環境をつくることが期待できます。
提供会社:株式会社トランストラクチャ
4-2-6. wevox(ウィボックス)
wevoxは、科学的根拠のあるサーベイを用いて組織の状態を可視化できる組織改善サービスです。
1回に約3分程度のアンケートに回答するだけで、リアルタイムに結果を集計・分析し、組織の課題を発見できます。
さまざまな企業の回答データの蓄積により、他企業との比較による偏差値を算出することができ、自社のデータだけではない、より深い組織理解を実現します。
提供会社:株式会社アトラエ
4-2-7. lafool survey(ラーフルサーベイ)
ラーフルサーベイは、約3,000社18万人以上のメンタルヘルスデータをベースに、医師や専門家のオリジナル調査項目による多角的な分析が可能なストレスチェックサービスです。
グラフや数値により組織の課題が直観的にわかり、ハラスメントリスクや離職リスクなども測定できます。
分析結果に対して自動でフィードバックコメントを表示してくれるのも特徴です。
提供会社:株式会社ラーフル
5. 従業員エンゲージメントを高めて企業の繁栄・従業員の成長を促進しよう
従業員エンゲージメントとは何か、従業員エンゲージメントを高めることによるメリット、そして従業員エンゲージメントの測定方法やサーベイツールをご紹介しました。
大企業でも倒産する可能性がある現代社会において、「従業員が愛着を持って働いてくれている職場であるかどうか」は企業存続の大事な指標となります。
そのため、従業員エンゲージメントを測定することは非常に大切です。
しかし、ただやみくもに従業員エンゲージメントを高めようとツールを導入しても、目的や運用方法が決まっていなければ費用だけがかかってしまいます。本当に必要か、どのように活用するかなどを考え、自社に必要なツールを選びましょう。
そして、導入後は細かな運用面の設計をおこないながら従業員エンゲージメントを高め、従業員一人ひとりの成長を促進していきましょう。