労働基準法では、22時~翌5時の時間を深夜時間と定めており、この時間帯の勤務を夜勤(深夜労働)としています。
夜勤(深夜労働)は生活リズムが乱れ、労災に繋がりやすいため、同法では、夜勤(深夜労働)の抑止を目的とした規制が設けられています。そのうちの1つに、深夜手当の支払い義務があります。
関連記事:深夜労働に該当する時間はいつ?割増手当の計算方法や年齢の制限も解説
目次
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1. 夜勤(深夜)手当とは?
夜勤(深夜)手当とは、夜勤(深夜労働)に対して事業者に支払い義務が生じる割増賃金のことです。
労働基準法では、労働者の健康と福祉の観点から夜勤(深夜労働)を制限しています。そのため、労働者を深夜に働かせる場合、賃金を割り増して支払う必要があります。
1-1. 夜勤手当と深夜手当の違い
夜勤手当と類似しているのが深夜手当です。どちらも似たような意味で使われますが、明確な違いがあります。
夜勤手当は、夜間に働く人に支給する手当のことで、会社が任意で支給します。例えば、看護師や介護職のように夜勤が前提となっている職種では支給されるケースが多いようですが、支給しなくても法律上問題はありません。
ただし、夜勤手当の有無や金額は待遇の良し悪しに影響を与えるため、支給する企業も少なくないようです。
一方の深夜手当は、労働基準法によって支払いが義務付けられています。従業員に夜勤(深夜労働)をさせた場合、企業は所定以上の割増賃金を支払わなければなりません。
夜勤手当とは違い、深夜手当は法律によって対象時間や割増率などが定められているため、これに従わない場合は労働基準法違反となるので注意が必要です。
通常は、この深夜手当を夜勤手当と呼ぶケースが多く、また、労働基準法で支払いが義務付けられているため、本記事では深夜手当について解説します。
1-2. 夜勤(深夜労働)は何時から何時まで?
労働基準法第37条において深夜時間は22時~翌5時と定められており、この時間帯に働くことを夜勤(深夜労働)と呼びます。
企業は、この時間帯に勤務した従業員に対して夜勤(深夜)手当を支払わなければなりません。
製造業や医療職などの場合は夜勤での勤務が不可欠ですが、従業員の生活リズムの乱れや労災(労働災害)を招くリスクを高める可能性があります。
従業員への負荷を軽減する目的で割増賃金の支給が義務付けられていることを再認識し、法令に従って夜勤手当を正しく計算・支給しましょう。
関連記事:深夜労働は何時から?深夜時間帯に勤務した際の割増賃金の計算方法も解説
1-3. 夜勤(深夜労働)ができる従業員の条件
労働基準法第61条では、夜勤(深夜労働)ができる従業員を以下のように定めています。
「使用者は、満十八才に満たない者を午後十時から午前五時までの間において使用してはならない。ただし、交代制によつて使用する満十六才以上の男性については、この限りでない。」
出典:労働基準法第61条|e-Gov法令検索
18歳未満の従業員には夜勤(深夜労働)をさせることはできません。ただし、以下の条件に該当する場合は、18歳未満であっても夜勤(深夜労働)をさせることができます。
- 交替制によって働く16歳以上の男性
- 交替制の事業で労働基準監督署の許可を受けている場合(ただし、22時30分までが上限)
- 災害その他の非常事態で時間外労働や休日労働の必要がある場合で、かつ、労働基準監督署の許可がある場合
- 農林水産業、保健衛生の事業、電話交換の業務に従事する場合
また、労働基準法第66条により、母子の健康上の理由で本人から申請があった妊産婦については、深夜時間の労働が制限されています。
夜勤(深夜労働)が必要な業態で18歳未満の従業員を雇用している場合や、妊産婦がいる場合の夜勤(深夜労働)の取り扱いには十分に注意しましょう。
1-4. 正社員でもアルバイトでも夜勤(深夜)手当の支給対象となる
夜勤(深夜)手当は、正社員やアルバイトなど、雇用形態に関わらず同じ割増率で支払う必要があります。
同一賃金同一労働の原則でも深夜手当を含む各種手当を雇用形態で差別化してはならないと決められているので注意しましょう。
1-5. 管理職でも夜勤(深夜)手当の支給対象となる
管理職であっても深夜手当は発生するため注意が必要です。
というのも、管理職は、残業などの時間外労働や休日出勤における割増規定の適用対象外となります。これは労働基準法第41条で定められているため法的な問題はありません。
しかし、深夜時間の労働については除外の記載はありません。そのため、深夜労働に関する規定に関しては管理職であっても他の従業員と同じ規定に従って対応する必要があります。
2. 夜勤(深夜)手当の割増率は何倍?
夜勤(深夜)手当の割増率は2割5分、つまり25%です。
事業者には、深夜時間の労働に対して、通常の賃金より25%割り増して賃金を支払う義務があります。
深夜手当は、
「1時間あたりの基礎賃金×割増の対象となる時間×割増率(1.25)」
で計算可能です。時給制以外の場合は、まず1時間あたりの基礎賃金を算出する必要があるので注意が必要です。
時給制、日給制、月給制の場合の賃金計算方法をこのあと詳しく解説します。
関連記事:【図解】夜勤した従業員の休憩時間・休日・賃金の計算方法を分かりやすく解説
2-1. 時給制の場合の夜勤(深夜)手当の計算
(例)時給1,000円の労働者が18時〜23時の5時間勤務した場合。
上記の条件で従業員が勤務した場合、
18〜22時までの4時間分は通常勤務、22時〜23時までの1時間が夜勤(深夜)労働に該当します。
つまり、
1,000円×4時間=4,000円
1,000円×1時間×1.25=1,250円
よって、夜勤(深夜)労働分の割増賃金は1,250円であることが分かります。
したがって、この場合の支払うべき総賃金は、
4,000円+1,250円=5,250円 となります。
2-2.日給制の場合の夜勤(深夜)手当の計算
(例)所定労働時間が18時〜22時日給4,000円の労働者が、1時間残業して18時〜23時の5時間勤務した場合。
18時~22時までの4時間で4,000円の日給なので、1時間あたりの賃金は、
4,000円÷4時間=1,000円
より、1,000円であると分かります。
これをもとに、22時~23時の1時間分の賃金を計算すると、
1,000円×1時間×1.25=1,250円
したがって、この場合の支払うべき総賃金は、
4,000円+1,250円=5,250円 となります。
※この場合、1時間残業時間はあるものの、業務時間の合計が法定労働時間8時間を超えていないため、時間外労働の割増賃金を支払う必要はありません。
2-3. 月給制の場合の夜勤(深夜)手当の計算
月給制の場合は特に注意が必要です。
割増賃金を計算するにあたっての考え方は上記の2つと変わりません。
しかし、月給制の場合は1時間あたりの基礎賃金を計算するのにまず、月平均所定労働時間を算出する必要があります。
単純に月給を月の労働日数で割ってしまうと、祝日の関係で営業日数が月によって異なるといった要因から、月ごとに1時間あたりの基礎賃金が異なってしまうことになります。
1年間を通して同じ基礎賃金で割増計算をおこなうために、まず月平均所定労働時間を算出しましょう。
月平均所定労働時間数の計算方法は、下記の通りです。
月平均所定労働時間数:(365-年間休日)×1日の所定労働時間÷12カ月
月平均所定労働時間数が計算できたら、これまで通り1時間あたりの基礎賃金を下記の計算式で算出します。
時給制の場合の1時間あたりの基礎賃金:月額賃金÷月平均所定労働時間数
ただし、月額賃金から以下の手当は除外して計算します。
- 家族手当 (扶養人数に応じて支払うものに限る)
- 通勤手当 (通勤距離等に応じて支払うものに限る)
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当 (住宅に要する費用に応じて支払うものに限る)
- 臨時に支払われた賃金
- 1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金
(例)月給25万円、年間休日が110日、諸手当なし、1日の所定労働時間数が15時〜22時でうち休憩1時間の7時間の労働者が、1時間残業をおこなって15時〜23時で勤務した場合。
月平均所定労働時間は、
(365日ー110日)×7時間÷12ヵ月
=255日×7時間÷12ヵ月
=148.75時間
よって、1時間あたりの賃金は、
250,000円÷148.75時間≒1680円
つまり、この場合22時~23時の1時間の労働に対して支払う賃金は、
1680円×1.25=2100円
となります。
※この場合についても、1時間残業時間はあるものの、1日の労働時間の合計が法定労働時間の8時間を超えていないため、時間外労働の割増賃金を支払う必要はありません。
3. 夜勤(深夜)手当以外の割増賃金
夜勤(深夜)手当以外にも割増賃金が発生するケースがあります。労働基準法では第37条では、夜勤(深夜労働)以外にも「時間外労働」と「休日出勤」に対して手当を支払うことを定めています。
時間外労働とは、法定労働時間8時間を超過しての勤務、休日出勤とは、法定休日での勤務を指します。時間外労働に対する手当を残業手当と呼ぶこともあります。
各手当を計算する際の割増率は、以下の通りです。
手当 |
割増率 |
残業手当 |
25% |
休日出勤の手当 |
35% |
これらの手当ては、状況が重なれば、夜勤(深夜)手当と同時に発生することもあります。
ここからは、それぞれの手当が深夜手当と重複して発生する場合の計算方法を解説します。
3-1. 夜勤(深夜)手当と残業手当
深夜時間に残業(時間外労働)をさせた場合は更に上乗せした賃金を支払う必要があります。
この場合の割増率は、
25%(深夜労働の割増率)+25%(時間外労働の割増率)=50%
となるので、50%の割増率を掛けて賃金を計算します。
(例)所定労働時間が9時~18時(休憩時間1時間)、時給1000円の従業員を9時~23時で労働させた場合
時刻 |
割増率 |
計算式 |
給与 |
9:00~18:00 |
0% |
1,000×8 |
8,000円 |
18:00~22:00 |
25% |
1,000×4×1.25 |
5,000円 |
22:00~23:00 |
50% |
1,000×1×1.5 |
1,500円 |
【合計】 14,500円 |
3-2. 夜勤(深夜)手当と休日出勤の手当
残業と同様に、休日出勤時に夜勤(深夜労働)をおこなわせた場合も、割増率を更に加算して賃金を支払う必要があります。
この場合の割増率は、
25%(深夜労働の割増率)+35%(休日出勤の割増率)=60%
となるので、60%の割増率をかけて賃金を計算します。
(例)時給1000円の従業員が法定休日に15:00~23:00で勤務した場合(18:00~19:00の一時間で休憩を取得)
時刻 |
割増率 |
計算式 |
給与 |
15:00~22:00 |
35% |
1,000×6×1.35 |
8,100円 |
22:00~23:00 |
60% |
1,000×1×1.6 |
1,600円 |
【合計】 9,700円 |
このように夜勤(深夜労働)のみならず、残業や休日労働にも当てはまる場合は、割増手当を加算して支給する必要があります。また従業員が0時をまたいで労働をした際には、翌日が休みになる点にも注意が必要です。
当サイトでは、深夜0時をまたいで働いた際の暦日の考え方、深夜労働時の割増賃金の適切な計算方法をわかりやすく解説した資料を無料で配布しております。 労働基準法に沿った勤怠管理や深夜手当の考え方を知りたい方は、こちらから資料をダウンロードしてご活用ください。
4. 夜勤(深夜)手当を計算する際の注意点
夜勤(深夜)手当の計算方法は先程紹介した通りです。では、裁量労働制や固定残業制の場合、夜勤(深夜)手当を含む割増賃金はどのように計算するのでしょうか。
まず、裁量労働制とは、業務の時間配分や手順、やり方を労働者の裁量に任せる制度です。このケースにおいて、みなし労働時間が8時間を超える定めにした場合は、8時間を超えた分については割増賃金の支払いが必要です。また、法定休日勤務や夜勤(深夜労働)についても割増賃金が発生します。
固定残業代においては、固定残業代として定められた時間分の残業時間を超えた部分については割増賃金の対象となります。また、法定休日勤務や夜勤(深夜労働)についても割増賃金が発生することを覚えておきましょう。
5. 夜勤(深夜)手当の計算に便利なツール
先程紹介した通り、夜勤(深夜)手当の計算そのものはそれほど難しいものではありません。しかし、従業員によって夜勤(深夜労働)の時間帯が異なったり残業・休日と重なったりするケースがあるため、計算ミスが生じやすく、計算対象となる従業員が多いほど業務の負担も大きくなります。
最近では、夜勤(深夜)手当の金額を簡単に計算できるツールがWeb上で公開されています。計算ミスの軽減につながるので、一度試してみるとよいかもしれません。しかし、始業・終業時間を手入力するなどの手間がかかり、入力ミスによって計算を誤ってしまうケースも少なくないようです。
夜勤(深夜)手当の計算を迅速かつ正確におこないたい場合は、給与計算システムの導入も検討しましょう。手入力や手計算を必要としないため事務処理の負担が軽減され、正確性もアップするのでおすすめです。
6. 夜勤(深夜労働)への深夜手当の支払いは必須
夜勤(深夜)手当は、労働基準法において企業による支払いが義務付けられています。
夜勤(深夜労働)をおこなわせる際には、雇用形態に関わらず、全ての労働者に対して、法令に則った夜勤(深夜)手当を支給しましょう。夜勤(深夜)手当は、管理職も支給対象となるので注意が必要です。
なお、夜勤(深夜)手当は給与形態によって計算方法が異なるため、どの計算方法で手当を計算するのかきちんと理解しておきましょう。
夜勤(深夜)手当の計算に工数がかかっていたりミスが頻発していたりする場合は、給与計算システムなどのツールを活用するのがおすすめです。
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