労働基準法では、22時~翌5時の時間を深夜時間と定めており、この時間での勤務を深夜労働としています。
深夜労働は生活リズムが乱れ、労災に繋がりやすいため、同法では、深夜労働の抑止を目的とした規制が設けられています。そのうちの1つに、深夜手当の支払い義務があります。
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1. 深夜手当とは?
深夜手当とは、深夜労働に対すして事業者に支払い義務が生じる割増賃金のことです。
労働基準法では、労働者の健康と福祉の観点から深夜の労働を制限しています。そのため、労働者を深夜に働かせる場合、賃金を割り増して支払う必要があります。
賃金を割り増す必要がある時間帯は22時〜翌5時までです。これらは労働基準法第37条で定められています。
関連記事:深夜労働は何時から?深夜時間帯に勤務した際の割増賃金の計算方法も解説
1-1. 正社員でもアルバイトでも深夜手当は発生する
深夜手当は正社員やアルバイトなど、雇用形態に関わらず同じ割増率で支払う必要があります。
同一賃金同一労働の原則でも深夜手当を含む各種手当を雇用形態で差別化してはならないと決められているので注意しましょう。
1-2. 管理職でも深夜手当は発生する
管理職であっても深夜手当は発生するため注意が必要です。
管理職の場合、残業などの時間外労働や休日出勤に対する規定は適用対象から除外されています。これは労働基準法第41条で示されています。
しかし、深夜時間の労働については除外の記載はありません。そのため、深夜労働に関する規定に関しては管理職であっても他の従業員と同じ規定に従って対応する必要があります。
2. 深夜手当の割増率は何倍?
深夜手当の割増率は2割5分、つまり25%です。
事業者には、深夜時間の労働に対して、通常の賃金より25%割り増して賃金を支払う義務があります。
深夜手当は、
「1時間あたりの基礎賃金×割増の対象となる時間×割増率(1.25)」
で計算可能です。時給制以外の場合は、まず1時間あたりの基礎賃金を算出する必要があるので注意が必要です。
それでは、時給制、日給制、月給制の場合の賃金計算方法を詳しく解説します。
関連記事:【図解】夜勤した従業員の休憩時間・休日・賃金の計算方法を分かりやすく解説
2-1. 時給制の場合の深夜手当の計算
(例)時給1,000円の労働者が18時〜23時の5時間勤務した場合。
上記の条件で従業員が勤務した場合、
18〜22時までの4時間分は通常勤務、22時〜23時までの1時間が深夜労働に該当します。
つまり、
1,000円×4時間=4,000円
1,000円×1時間×1.25=1,250円
よって、深夜労働分の割増賃金は1,250円であることが分かります。
したがって、この場合の支払うべき総賃金は、
4,000円+1,250円=5,250円 となります。
2-2.日給制の場合の深夜手当の計算
(例)所定労働時間が18時〜22時日給4,000円の労働者が、1時間残業して18時〜23時の5時間勤務した場合。
18時~22時までの4時間で4,000円の日給なので、1時間あたりの賃金は、
4,000円÷4時間=1,000円
より、1,000円であると分かります。
これをもとに、22時~23時の1時間分の賃金を計算すると、
1,000円×1時間×1.25=1,250円
したがって、この場合の支払うべき総賃金は、
4,000円+1,250円=5,250円 となります。
※この場合、1時間残業時間はあるものの、業務時間の合計が法定労働時間8時間を超えていないため時間外労働の割増賃金を支払う必要はありません。
2-3. 月給制の場合の深夜手当の計算
月給制の場合計算には注意が必要です。
割増賃金を計算するにあたっての考え方は上記の2つと変わりません。
しかし、月給制の場合は1時間あたりの基礎賃金を計算するのにまず、月平均所定労働時間を算出する必要があります。
単純に月給を月の労働日数で割ってしまうと、祝日の関係で営業日数が月によって異なるといった要因から、月ごとに1時間あたりの基礎賃金が異なってしまうことになります。
1年間を通して同じ基礎賃金で割増計算を行うために、月平均所定労働時間を算出しましょう。
月平均所定労働時間数の計算方法は、下記の通りです。
月平均所定労働時間数:(365-年間休日)×1日の所定労働時間÷12カ月
月平均所定労働時間数が計算できたら、これまで通り1時間あたりの基礎賃金を下記の計算式で算出します。
時給制の場合の1時間あたりの基礎賃金:月額賃金÷月平均所定労働時間数
ただし、月額賃金から以下の手当は除外して計算します。
- 家族手当 (扶養人数に応じて支払うものに限る)
- 通勤手当 (通勤距離等に応じて支払うものに限る)
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当 (住宅に要する費用に応じて支払うものに限る)
- 臨時に支払われた賃金
- 1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金
(例)月給25万円、年間休日が110日、諸手当なし、1日の所定労働時間数が15時〜22時でうち休憩1時間の7時間の労働者が、1時間残業を行って15時〜23時で勤務した場合。
月平均所定労働時間は、
(365日ー110日)×7時間÷12ヵ月
=255日×7時間÷12ヵ月
=148.75時間
よって、1時間あたりの賃金は、
250,000円÷148.75時間≒1680円
つまり、この場合22時~23時の1時間の労働に対して支払う賃金は、
1680円×1.25=2100円
となります。
※この場合についても、1時間残業時間はあるものの、1日の労働時間の合計が法定労働時間の8時間を超えていないため、時間外労働の割増賃金を支払う必要はありません。
3. 深夜手当以外の割増賃金
深夜手当以外にも割増賃金が発生するケースがあります。労働基準法では第37条では、深夜労働以外にも「時間外労働」と「休日出勤」に対して手当を支払うことを定めています。
時間外労働とは、法定労働時間8時間を超過しての勤務のことで、休日出勤とは、法定休日での勤務のことを指します。時間外労働に対する手当を残業手当と呼ぶこともあります。
各手当を計算する際の割増率は、以下の通りです。
手当 |
割増率 |
残業手当 |
25% |
休日出勤の手当 |
35% |
これらの手当ては、状況が重なれば、深夜手当と同時に発生することもあります。
ここからは、それぞれの手当が深夜手当と重複して発生する場合の計算方法を解説します。
3-1. 深夜手当と残業手当
深夜時間に残業(時間外労働)をさせた場合は更に上乗せした賃金を支払う必要があります。
この場合の割増率は、
25%(深夜労働の割増率)+25%(時間外労働の割増率)=50%
となるので、50%の割増率を掛けて賃金を計算します。
(例)所定労働時間が9時~18時(休憩時間1時間)、時給が1000円の従業員を9時~23時で労働させた場合
時刻 |
割増率 |
計算式 |
給与 |
9:00~18:00 |
0% |
1,000×8 |
8,000円 |
18:00~22:00 |
25% |
1,000×4×1.25 |
5,000円 |
22:00~23:00 |
50% |
1,000×1×1.5 |
1,500円 |
【合計】 14,500円 |
3-2. 深夜手当と休日出勤の手当
残業と同様に、休日出勤時に深夜労働を行わせた場合も、割増率を更に加算して賃金を支払う必要があります。
この場合の割増率は、
25%(深夜労働の割増率)+35%(休日出勤の割増率)=60%
となるので、60%の割増率をかけて賃金を計算します。
(例)時給1000円の従業員が法定休日に15:00~23:00で勤務した場合(18:00~19:00の一時間で休憩を取得)
時刻 |
割増率 |
計算式 |
給与 |
15:00~22:00 |
35% |
1,000×6×1.35 |
8,100円 |
22:00~23:00 |
60% |
1,000×1×1.6 |
1,600円 |
【合計】 9,700円 |
このように深夜労働のみならず、残業や休日労働に当てはまる場合は、加えて割増手当を支給する必要があります。また従業員が0時をまたいで労働をした際には、翌日が休みになる点にも注意が必要です。
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4. 深夜労働をさせられない人もいる
深夜労働は全ての労働者にさせられるものではありません。労働基準法によって、一部の労働者には深夜の労働が制限されています。
深夜労働が制限される労働者は、次の通りです。
4-1. 18歳未満の年少者
18歳未満の年少者は、健康と福祉の観点から、労働基準法第60条により深夜時間の労働が制限されています。
関連記事:深夜労働が可能な年齢とは?未成年や年少者の定義についても解説
4-2. 申し出を行った妊産婦
母子の健康上の理由で、本人から申請があった妊産婦については、労働基準法第66条により、深夜時間の労働が制限されています。
5. 深夜手当と夜勤手当の違い
深夜手当と似た言葉に夜勤手当があります。深夜手当は先述の通り、労働基準法によって事業者に支払いが義務付けられている手当です。
一方で、夜勤手当とは一般的に、深夜時間に勤務した労働者に対して、企業が任意で設けている手当のことを指します。法的な支給の義務はありません。
6. 深夜労働者への深夜手当の支払いは必須
深夜労働を行わせる際には、労働基準法に則って雇用形態に関わらず、全ての労働者に対して、必ず深夜手当を支給しましょう。深夜手当は、管理職にも支給する義務があるため注意が必要です。
給与形態によって計算方法が異なるため、どの計算方法で手当を計算するのか、きちんと理解しておきましょう。