裁量労働制の場合、残業代の支払いは必要なのでしょうか。今回は、裁量労働制における残業代と計算方法を解説します。残業代が発生する具体的なケースも紹介しているので、従業員に正しく支払いができているかどうか確認しましょう。
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裁量労働制制は適用できる職種が法律で定められていたり、導入する際にも種類によって労使協定の締結などが必要になったりします。
また、「フレックスタイム制など類似制度との違いがわからない」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そのような方に向け、当サイトでは「柔軟な働き方を実現するための制度解説BOOK」を用意しました。
「裁量労働制の制度概要や導入手順を知りたい」「自社にはどのような制度があっているのか知りたい」という方は、ぜひダウンロードしてご覧ください。
目次
1. 裁量労働制とは?裁量労働制とみなし残業代制の違い
裁量労働制とは、実際の労働時間にかかわらず、所定労働時間分働いたとみなす制度のことです。みなし労働時間制とよばれることもあります。
例えば、1日の所定労働時間が8時間と決められている場合、裁量労働制においては10時間働いても、7時間働いても、労働時間は8時間とみなされるのです。
1-1. 裁量労働制とみなし残業代制の違い
そもそも裁量労働制とは、労働者に労働時間の裁量をゆだねて、実際の労働時間にかかわらず、あらかじめ定めた一定時間の労働時間とみなすことです。似た名前のものに「みなし残業代制(固定残業代制)」がありますが、みなし残業代制はあらかじめ一定時間分の残業をしたとみなすもので、実際に残業した時間は設定したみなし残業時間を下回っていなければなりません。
一方で裁量労働制はみなし労働時間を超えて労働したとしても、所定労働時間働いたとみなされるものです。
そもそも違う制度であり、適用できる条件にも違いがあります。
みなし残業代制は就業規則に適切に定めていれば、基本的に全従業員に適用可能ですが、裁量労働制は適用できる条件があり、誰でも裁量労働制で働かせて良いわけではありません。
具体的には、裁量労働制で働かせることができる従業員の条件は以下の通りです。
- 事業運営に関する企画・調査・分析の業務に携わっている
- 新商品の開発や弁護士など専門業務に携わっている
だれでも裁量労働制で働かせて良いわけではないので、注意しましょう。
2. 裁量労働制は残業代ゼロ?残業代が支払われるケースを解説
裁量労働制の場合でも残業代や割増賃金が発生するケースはいくつかあります。本章で裁量労働制について理解し、どのような場合で時間外手当が支払われるのかを確認しましょう。
2-1. 法定労働時間を超えたみなし労働時間を設定している場合
労働基準法では、1日8時間、週40時間を上限とした法定労働時間を定めています。裁量労働制のみなし労働時間を法定時間を超えて設定している場合は、36協定を締結したうえで、法定労働時間超過分の残業代を支払わなければなりません。
例えば、みなし労働時間を9時間に設定した場合、法定労働時間を1時間超えているため、1時間分の残業代の支給が必要です。
このケースの場合、仮にある日の労働時間が6時間や7時間だったとしても、9時間働いたとみなされるため労働日ごとに1時間分の残業代が支払われることになります。
ただし、一般的には裁量労働制は、残業も含めて労働時間をみなしていることが多いです。裁量労働制で残業が発生する場合、「残業代」という名目では給与はでませんが、固定残業代制度などを利用し、そもそも給与に残業時間分の金額を含めて支給していることが多いです。
2-2. 深夜労働や休日労働をおこなった場合は時間外手当が支払われる
裁量労働制の場合も深夜労働や休日労働をおこなったときは、割増賃金が発生します。
深夜労働とは、22時から翌日5時の間の労働のことです。この時間帯に働いた場合は、基礎賃金の0.25倍の割増手当を追加で支払う義務があります。
みなし労働時間は、所定労働日に決められた時間働いたことをみなすとする制度です。所定労働日以外に休日労働した場合は裁量労働制は適用されず、休日労働分の手当を支払わなければなりません。
休日には、会社が定める所定休日と週に1日もしくは4週に4日設ける義務のある法定休日がありますが、休日労働に対する割増賃金が支払われるケースは法定休日に勤務した場合です。法定休日労働の割増賃金率は35%なので、基礎賃金の1.35倍の賃金を支払う必要があります。
また、所定休日に労働をした場合でも、法定労働時間を超えると、割増賃金を支払わなければなりません。そのため、1日8時間の裁量労働制の企業の場合、平日5日働いて、所定休日にも労働が発生した場合、すでに平日40時間労働しているため、所定休日は時間外労働となり、割増賃金の支払いが必要になります。
このように、裁量労働制は残業に対する賃金を支払わなくてよい制度ではありません。支払うべき賃金を支払わなければ、違法となるケースもあるため注意しましょう。当サイトでは、裁量労働制やフレックスタイム制のような柔軟な働き方を実現するための方法を理解できる資料を無料でお配りしています。
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2-3. 月100時間残業しても残業代が出ないのは違法になる可能性がある
裁量労働制は従業員が10時間働いていても、所定労働時間が8時間の場合8時間分の労働とみなすものですが、月何時間でも残業させても残業代支給を免れられるというわけではありません。
労働実態とかけ離れた裁量労働制は無効となり、違法となる可能性があります。そのため、例えば1日8時間の裁量労働制とみなす場合に、月100時間の残業が発生している場合などは適切な裁量労働制とは認められず、残業代を請求される可能性があります。
また、残業が月45時間を超える場合は、36協定の特別条項を締結・届出していなければならないので、注意しましょう。
裁量労働制だからといって労働時間の管理を怠ってはいけません。裁量労働制であっても、労働安全衛生法によって労働時間の把握は義務付けられています。
労働時間の管理をおこない、所定労働時間に対して残業時間が増えすぎていないか把握して、残業が増えている場合はタスクを調節するなどして長時間労働防止の対策をしましょう。
3. 裁量労働制の残業時間の上限は月45時間
裁量労働制の残業時間の上限は月45時間です。なぜなら、労働基準法において残業時間の上限は月45時間、年360時間と定められているからです。
これは裁量労働制でも同じで、残業時間の上限は月45時間となります。1日の所定労働時間を月45時間超の残業が発生するように設定することはできません。
例えば、1日の所定労働時間を11時間に設定した場合、8時間との差は3時間で労働日が15日を超えた場合、月45時間の上限を超過してしまいます。このような場合は違法となるので、注意しましょう。
特別条項付き36協定を締結していれば、月45時間を超える残業をさせることは可能ですが、特別条項付き36協定はあくまでも、臨時で特別な事情がある場合のみに適用できるものです。そのため、常に45時間を超える残業が発生する想定をすることは違法になる可能性があります。よって、裁量労働制の残業時間を月45時間を超えて設定することは違法となる可能性が高いでしょう。
4. 裁量労働制の残業代計算方法
裁量労働制でも残業代など割増賃金が発生するケースがあることを説明しましたが、続いて残業代の計算方法を紹介します。
残業代を計算するためには、1時間あたりの賃金を算出しなければなりません。1時間あたりの賃金は、基礎賃金と月の平均所定労働時間から求められます。
例えば、基礎賃金30万円、月の平均所定労働時間160時間の場合は、「300,000 ÷ 160」という計算式になるため、1時間あたりの賃金は1,875円です。
裁量労働制におけるみなし労働時間が10時間だった場合、1日につき法定労働時間を2時間超えていることになります。
そのため、1日あたりの残業代は「1,875(1時間あたりの賃金) × 2(法定外残業時間) × 1.25」という計算式から、4,688円と求めることができます。
4-1. 所定労働日における1ヵ月の残業代
- 月~金の勤務時間:10時間
- 所定労働時間:8時間
- みなし労働時間:9時間
- 1時間あたりの賃金:1,875円
- 1ヵ月の所定労働日数:20日
このケースでは、平日に実際働いている時間は10時間ですが、みなし労働時間が9時間なので、法定労働時間を超えている1時間のみ毎日残業代が発生しています。
1ヵ月の残業代の計算式は以下の通りです。
1,875(1時間あたりの賃金) × 20(1ヵ月の労働日数分の残業時間) × 1.25(割増率) = 46,875円 |
4-2. 深夜労働の割増賃金
- 勤務時間:11:00~23:00(11時間)
- みなし労働時間:11:00~20:00(8時間)※どちらも休憩1時間を含む
- 1時間あたりの賃金:1,875円
22時以降は深夜労働として扱われるため、1時間分は深夜割増が適用されます。しかし、上記のケースでは、みなし労働時間が8時間と定められているため、20時を超えた分の残業代は発生しません。
よって、深夜労働に対する割増賃金の計算式は以下のようになります。
1,875(1時間あたりの賃金) × 1(深夜労働時間) × 0.25(割増率) = 469円 |
4-3. 休日労働の割増賃金
- 出勤日:法定休日
- 勤務時間:8時間
- みなし労働時間:8時間
- 1時間あたりの賃金:1,875円
法定休日に勤務をした場合は、みなし労働時間に関係なく、その日の実労働時間分は時間外手当の対象です。計算式は以下の通りです。
1,875(1時間あたりの賃金) × 8(休日出勤時間) × 1.35(割増率) = 20,250円 |
5. 裁量労働制における残業代を支払う際の注意点
裁量労働制の残業代について企業が注意すべき点はおもに2点あります。
5-1. 適切な業務量を設定する
1点目は、裁量労働制を導入する場合、設定した時間で終わるであろう適切な業務量を設定しなければならないということです。
業務量が多すぎる場合、当然、裁量労働制で設定された時間内には終わらず、残業が常態化する可能性があります。
裁量労働制の場合、ほかの制度とは異なり、残業発生時間に応じた残業代が支給されるわけではないので、残業が常態化するのは望ましくありません。
裁量労働制を導入する場合は、業務量が適切かどうかの確認もしっかりとおこないましょう。
5-2. 労働時間を正確に管理して残業代を支給する
2点目は、労働時間を明確に管理して正確に残業代を支給しなければならないということです。
裁量労働制は、みなし労働時間が設定されているため、どこから残業代が発生するのかがわかりにくいです。そのため、企業が明確に残業代の発生有無を把握して提示しておかなければ、従業員と残業代の支給に関してトラブルになる可能性もあります。
トラブルを防ぐためにも、企業は従業員の労働時間の管理を徹底し、未払いの残業代がないか、残業代が正しく計算されているかどうか、確認する必要があります。
所定労働日の場合、何時間働いてもみなし労働時間が法定労働時間を超えていなければ、賃金の支払いは必要ありません。
ただし、深夜割増の25%分だけは追加で支払わなければならない点に注意が必要です。
法定休日出勤の場合は、1時間あたりの賃金に加えて35%の割増賃金を加算しますが、深夜労働が重なった場合は、深夜割増がさらに上乗せされることも忘れないようにしましょう。
このように、労働の種類やみなし労働時間によって残業代の支払い金額が変わってくるため、裁量労働制を導入している企業は計算ミスに気を付ける必要があります。裁量労働制は労働時間の管理が行き届いていないと、長時間労働が常態化しやすくなったり、未払い残業代を請求されるなどのリスクもあります。
労使間のトラブルを避けるためにも、残業代の支払いや勤怠管理は適切におこないましょう。
6. 裁量労働制でも残業代は発生することに注意しよう
裁量労働制は残業代が支払われないと誤解されているケースもありますが、労使間で定めたみなし労働時間が法定労働時間を超える場合は、残業代が発生します。
そのほかにも、深夜労働や休日出勤でも時間外手当が発生する場合もありますので、裁量労働制を取り入れている企業は、どのようなケースで別途支払いが必要になるのか、正しく把握しておくことが重要です。
残業代や手当は、基本的に従業員の1時間あたりの賃金から算出できるので、残業代が未払いになることがないよう、勤怠管理を徹底しましょう。