コンビニや飲食店、病院などは、夜勤時に就労している従業員も多いでしょう。夜勤は日勤と異なり、賃金や法定休日の取得日などに変更が生じます。
その変更に対応できておらず、本来であれば出勤させてはいけない日時に出勤させてしまったり、公正な賃金が支払われていなかったりなど、違法につながってしまうケースもあります。
今回は、そんな複雑な夜勤にまつわる考え方をわかりやすく解説していきます。
▼お忙しい方必見!夜勤周りの考え方を図で分かりやすく解説した社労士監修のお役立ち資料です。
1. 暦日の考え方
従業員に夜勤勤務をお願いしている事業所では、休憩時間や残業代を計算する際、「深夜0時をまたいだら2日勤務となるのか?」と疑問を抱えている人事担当者も多いのではないでしょうか。
例えば、午後7時から翌日の午前7時までの守衛の勤務の場合、原則に基づいて計算すると、「午後7時から午後12時まで」と「午前0時から午前7時まで」の2つの労働時間に分けなければいけないというのが暦日の定義に基づいた通常の考え方です。
しかし、それでは休憩時間が必要なくなる、あるいは休憩時間の短縮、残業代の支払いが不要となる場合が発生するなど、労働者に負担がかかります。
そのため、労働基準法では、下記のように定められています。
一継続勤務は、たとえ暦日を異にするも一勤務として取り扱うべきものである。二暦日にわたる一勤務については、始業時刻の属する日の労働として、一日の労働と解する。
つまり、日をまたいで勤務してもらった場合は、日をまたいだ午前0時以降の勤務が始業時刻の日となるので、日をまたいでも出勤は1日としてカウントされるということになります。
『図解でわかる!勤怠管理』では、複雑な夜勤管理について企業規模別に細かく解説しています。
2. 夜勤時における休憩・休日の考え方
ここでは、夜勤時の休憩・休日の考え方についてご説明します。
2-1|夜勤時の休憩時間
夜勤時の休憩時間の考え方は日勤時と変わりません。労働基準法では、休憩時間の取得要件を下記のように定めています。
労働時間が 6時間を超え、8時間以下の場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は、少なくとも1時間の休憩を与えなければならない
夜勤時もこれを元に従業員に休憩を付与する必要があります。
【参考文献】労働基準法に関するQ&A―働時間・休憩・休日関係|厚生労働省
2-2|夜勤時の休日の扱い
「夜勤明けの次の日が法定休日である場合、次に出勤できるのはいつから?」という疑問も多いです。よく「夜勤明けの日を法定休日にして、法定休日の次の日の0時から出勤できる」と誤解されています。
しかし、夜勤明けの日とは別に法定休日を設けることが義務とされています。
例えば、休日取得がぎりぎりの従業員が17時~(翌日)9時まで勤務した場合、その翌々日の0時から出勤が可能となります。
【参考文献】介護労働者の労働条件の確保・改善のポイント|厚生労働省
2-3|夜勤時の休日の考え方
「とはいえ、人手が不足しているため、可能な限り早く出勤してほしい…」という事情を抱えている人事担当者も多いでしょう。そのような方に向けて、夜勤後に最速でいつから出勤できるのかを解説します。
休日とは原則として、午前0時から午後12時までの暦日を指します。
通常の考え方であれば、夜勤明けの日ともう1日午前0時から午後12時まで休日をとらなければならないため、翌々日の0時からが最速出勤日だと考えられます。
しかし、ある特定の場合に限り、継続24時間を休日として扱うことができるとされています。そのため、前日に退勤した時刻から最速で出勤できます。
また、最速出勤が可能な条件は下記の通りとなっています。
- シフトによる交替制であることが就業規則等により定められており、制度として運用されている場合
- 日によって担当するシフトが変更されず、常時固定である場合(例:常時夜勤)
3. 割増賃金の考え方
夜勤では、深夜の特別労働手当てが発生します。このような特別労働手当て(=割増賃金)は深夜のみならず、休日や残業をした場合にも発生し、その計算は複雑です。
ここでは、そんな残業・休日・深夜労働における割増賃金が発生するルールをご紹介します。
3-1|法定労働時間と残業における割増賃金
労働基準法では法定労働時間を下記のように定めています。
労働時間は原則1日8時間、1週40時間まで
この法定労働時間を超えて労働をさせた場合を、労働基準法の(法定)時間外労働(=残業)といいます。
これが割増賃金(残業代)の対象になります。
【参考文献】法定労働時間と割増賃金について教えてください|厚生労働省
3-2|法定休日と休日労働における割増賃金
労働基準法では休日の取得要件を下記のように定めています。
労働者には、休日を1週間に1回あるいは4週間に4日以上与えよ
そのため、この法定休日に労働すると休日労働扱いになるので、割増賃金の対象となります。
【参考文献】法定労働時間と割増賃金について教えてください。|厚生労働省
3-3|深夜労働(夜勤)の考え方
労働基準法では深夜労働を下記のように定義しています。
原則として、午後10時から午前5時までの間における労働を、深夜労働といいます
そのため、午後10時~翌午前5時内の労働は深夜労働として、割増賃金の対象となります。
このように、夜勤の勤怠管理は非常に複雑であり、文章だけで理解していただくことには限界があるでしょう。社労士監修の『図解でわかる!夜勤管理』では難解な法律をわかりやすく解説しています。ぜひご覧ください。
【参考文献】法定労働時間と割増賃金について教えてください。|厚生労働省
4. 実践!割増賃金の計算方法
それでは、ここまでの内容を踏まえて割増賃金の具体例を参考に割増賃金についての事例を解説いたします。

【例題】以下のように労働した夜勤者Aさんの賃金の割増率は何%でしょうか?
- 労働時間:午後7時~翌午前9時30分
- 休憩時間:午前0時~午前1時
- 補足事項:勤務日の翌日が法定休日ではないものとする
わかりやすく解説するために、夜勤者Aさんの労働時間を図示してみます。
この場合において割増賃金が発生するポイントは以下の3つです。
- 法定外労働時間:5時~9時30分の4時間30分
- 深夜労働時間:22時~4時の5時間(休憩を除く)
- 法定外労働時間+深夜労働時間:4時~5時の1時間
割増賃金の追加割合について
- 所定外労働の割増率…2割5分
- 深夜労働の割増率…2割5分
- 休日労働の割増率(今回の例では関係ない)…3割5分
そのため、例えば、深夜労働と時間外労働が同じシフトで発生していた場合は5割(2割5分+2割5分)、深夜労働と休日労働が同じシフトで発生していた場合は6割(2割5分+3割5分)の割増賃金が発生します。
では、この例に当てはめて今回の割増率を計算します。
①法定外労働時間について
労働基準法により、2暦日にわたる勤務であっても始業時刻の属する日の労働と解釈して、8時間を超えた労働には時間外割増賃金を支払う必要があります。
そのため、割増率は、
となり、午前5時~9時30分までの4時間30分の間の賃金を125%として計算します。
※厳密には午前4~5時も法定外労働時間ですが、深夜労働時間とも被っているため、③にて説明します。
②深夜労働について
午後10時から午前5時までの労働(深夜労働)には、深夜割増賃金を支払う必要があります。
なお、前述したように深夜割増賃金は、深夜労働がたとえ法定労働時間内であっても、深夜割増賃金が発生します。
そのため、割増率は、
となり、午後22時~午前4時の5時間(休憩時間を除く)の賃金を125%として計算します。
※厳密には午前4~5時も深夜労働時間ですが、法定外労働時間とも被っているため、③にて説明します。
③所定外労働時間+深夜労働時間について
時間外労働が深夜労働に及ぶ場合は、所定時間外の労働には賃金は支払われていません。
そのため、割増率は、
となり、法定外労働時間と深夜労働時間が重なっている4~5時の1時間の間は賃金を150%として計算します。
Aさんの賃金の割増率まとめ
【参考文献】しっかりマスター労働基準法―割増賃金編|東京労働局
[補足] 変形労働時間性
とはいえ、深夜労働の多い飲食業などは繁忙期も多く、その期間の割増賃金が多すぎて経営が立ち行かないケースも出てきます。
そのときに、活用されるのが変形労働時間制です。
変形労働時間制とは、労働時間を月や年単位で決め、日単位で考えたときに限っては、シフトが8時間を越える場合であってもシフトで定めた時間以内であれば残業代を支払わなくても良いという制度です。具体的に残業代が発生するケースは下記の3通りです。
- 日単位:シフト>8時間の場合、シフトを超えた時間についてのみ残業代の支払いを行えば良い
- 週単位:シフト>40時間の場合、シフトを超えた時間についてのみ残業代の支払いを行えば良い(日単位で支払ったものを除く)
- 月単位:月の法定労働時間を超えた時間について残業代の支払いが必要(日単位・週単位で支払ったものを除く)
この月単位の変形労働時間制を先ほどの夜勤者Aさんの例に当てはめると…
このように、変形労働制を上手に使うことで人件費を抑えることができます。ただし、残業代を必ず払わなくてもよいというような制度ではないので、使用を考える場合は要件を確認する必要があります。
以上が、割増賃金の考え方の概要となります。
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5. おわりに
労働時間や休憩時間、休日、残業手当の計算方法など、原則を知っておけば、夜勤の勤怠管理もさほど難しいわけではないと分かっていただけたのではないでしょうか。
しかし、実務上では夜勤のみではなく、日勤もあれば、場合によっては日をまたぐ残業が発生することもあると思われます。
このような中、毎日、手計算で勤怠管理をおこなうのは手間がかかります。また、不正確な勤怠管理へとつながり、結果的に大きな労務トラブルに発展するかもしれません。
また、勤怠管理システムを活用して、効率的に勤怠管理に取り組むことが有効な手段の一つといえます。
【関連記事】勤怠管理システムの料金・機能・メリット徹底比較|2019年最新版
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