時短勤務は、育児や介護が必要な家族を抱える従業員に対して1日の所定労働時間の短縮を認める制度です。2009年の育児・介護休業法改正により、現在ではすべての事業者に時短勤務制度の実施が義務付けられています。
しかし、時短勤務の法整備が進む一方で、時短勤務の運用ルールについては十分周知されていないのが現状です。また、時短勤務をしていても、残業が発生すると時短勤務の意味をなしません。さらに、企業が時短勤務中の残業を強要した場合、違法になる可能性もあるので注意が必要です。
この記事では時短勤務における残業の違法性や、残業時の賃金を算出する方法を解説します。
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1. 時短勤務でも残業をお願いできる?
時短勤務の従業員の場合、残業を一切できないわけではなく、場合によっては残業をさせることができます。ただし、時短勤務中に残業をさせることが違法にあたるケースもあります。本章では、時短勤務をさせた場合に違法になるケースや残業の考え方について解説します。
1-1. 時短勤務で残業をさせると違法になる場合
時短勤務をさせると違法になる場合は、時短勤務をしている従業員から残業の免除の申し出があるにもかかわらず企業が残業を強要した場合です。
なぜなら、育児介護休業法で時短勤務をする従業員には残業免除を企業に請求する権利が認められているからです。
ただし、以下の場合は残業免除の請求を認めなくても良いとされています。
- 事業の正常な運営を妨げられるケース
- 雇用期間が1年未満または週所定労働日数が2日以下の労働者の残業免除を労使協定で結んでいる場合
従業員が残業免除の申し出をした場合、原則企業はその従業員に対して残業をさせてはなりません。
申し出をしていても一時的に養育が不要になったなどで残業が可能になった場合などは、従業員との話し合いのうえ、柔軟に対応していきましょう。
1-2. 法定労働時間と所定労働時間の違い
時短勤務における残業の仕組みを理解するため、前提となる法定労働時間と所定労働時間の違いを解説します。
法定労働時間とは文字通り法律で定められる労働時間です。労働基準法では1日の法定労働時間を8時間、週の所定労働時間を40時間と規定しています。原則として法定労働時間を超過する労働は禁止です。
ただし、労働基準法第36条に基づく労使の合意(36協定)がある場合に限り、月45時間以内、年間360時間以内の範囲で法定時間外労働が認められます。時短勤務者も36協定の範囲内で時間外労働が可能です。なお、雇用形態に関わらず、法定時間外労働の賃金には25%の割増が適用されます。
一方、所定労働時間は、法定労働時間の範囲内で企業が独自に決める労働時間です。一般的に、所定労働時間は法定上限の1日8時間、週40時間と定められます。この場合は「所定外労働=法定時間外労働」という関係になるため、法定労働時間と所定労働時間の混同に注意しましょう。
1-3. 残業には「法定内残業」と「法定外残業」がある
残業には「法定内残業」と「法定外残業」の2種類が存在します。残業を切り分けて考える必要がある理由は、割増賃金の発生有無が異なるからです。
- 法定内残業
法定労働時間の範囲で所定労働時間を超過する労働。
時間外労働に対する割増賃金は発生しない。
- 法定外労働
法定労働時間(1日8時間週40時間)を超過した労働。
時間外労働に対する割増賃金(25%)が発生する。
時短勤務は1日の所定労働時間を6時間とする働き方です。そのため、残業は「所定労働時間を超えているか」、次に「法定労働時間を超えているか」の2段階で判断しなければなりません。
法定内残業は法定の範囲内の労働であるため、残業代は通常賃金で算出します。一方、法定外残業は法定の範囲外の労働であるため、残業代には時間外労働の割増が必要です。法定内残業と法定外残業では残業代の計算方法が異なるため、時短勤務では残業の内訳を正しく集計し、適切な給与計算をおこないましょう。
2. 時短勤務は育児・介護休業法で定められている
時短勤務と時短勤務中の残業免除申請に関しては、育児・介護休業法で定められています。
本章では、時短勤務と時短勤務中の残業免除について詳しく解説します。
2-1. 育児介護休業法における時短勤務とは
育児介護休業法第23条第1項では、条件を満たせば所定労働時間を原則6時間にすることができると定められています。
【時短勤務の適用要件】
① 3歳に満たない子を養育していること
② 育児休業を取得していないこと
③ 1日の所定労働時間が6時間を超えていること
④ 労使協定により、適用除外とされていないこと
⑤日々雇用される労働者でないこと
適用条件を満たした従業員から時短勤務を申し出られた場合、企業は対応しなければなりません。
育児・介護を理由とする時短勤務の申し出を拒否した場合、行政から是正を求められ、適切に対応しなかった場合、企業名の公表と、最大20万円の過料の処分がおこなわれる可能性があります。
いつまでも時短勤務を認めなくてはいけないわけではなく、子どもが3歳になるまでと定められており、その後は企業の任意となります。
2-2. 事前申請で免除される残業の種類
時短勤務が適用される従業員は事前の申請により「法定内残業」「法定外残業」「深夜勤務」の免除もしくは制限できる権利を持ちます。それぞれの内容は以下の通りです。
- 法定内残業の免除
事前申請により、1日の所定労働時間(6時間)を超える労働が免除されます。適用期間は、1回の申請につき1ヵ月以上1年以内です。
- 法定外残業の制限
事前申請により、36協定による法定外残業の上限が月24時間以内、年間150時間以内に制限されます。適用期間は、同様に1回の申請につき1ヵ月以上1年以内です。
- 深夜勤務の免除
事前申請により、22時から翌5時までの深夜勤務が免除されます。適用期間は、1回の申請につき1ヵ月以上6ヵ月以内です。なお、所定労働のすべてが深夜勤務に該当する従業員には適用されません。
労使協定により「勤続年数1年未満の従業員」や「週の所定労働日数が2日以下の従業員」は残業免除の適用を除外できます。また、残業の免除により正常な事業の運営が著しく困難になる場合、企業は申請を拒むことも可能です。
2-3. 残業免除の申請をした時短勤務者には残業を強要できない
事前に残業免除を申請した時短勤務者に対して、企業は残業を指示・命令することはできません。残業の強要は法令違反にあたるため、時短勤務者の残業が発生しないよう予め業務量や業務内容の見直しを実施しましょう。
なお、事前申請をおこなっている場合でも、時短勤務者が自主的に申し出る残業は認められます、しかし、時短勤務は家庭での育児や介護を支援する制度であることを忘れてはなりません。他の従業員にも制度に対する理解を求め、仕事を引き継ぐなど企業全体で対象者をフォローする意識も求められます。企業は、育児や介護などで希望する従業員が時短勤務をできるように環境を整えていく必要があります。当サイトでは、時短勤務について概要から給料の計算方法まで1冊で理解できる資料を無料でお配りしています。時短勤務の取り扱いを整備したい企業の方はこちらからダウンロードしてご活用ください。
2-4. 時短勤務における残業免除の申請方法
時短勤務の残業免除は、時短勤務の適用期間内であれば何度でも申請できます。ただし、残業免除を申請する従業員は、免除が適用される日の1ヵ月前までに企業が指定する方法で申し出なければなりません。
申請方法としては予め申請書のフォーマットを用意しておくケースが一般的です。もちろん書類での申請で問題はないのですが、近年はペーパーレス化やリモートワークの普及が進んでいるため、電子的な方法での申請経路も整えておくと良いでしょう。
3. 時短勤務者の残業代を計算する方法
時短勤務では法定内残業、法定外残業それぞれで残業代の算出が必要です。ここでは時短勤務における残業代の計算方法を解説します。
h3 3-1. 法定内残業の残業代計算方法
法定内残業の残業代を求める計算式は以下の通りです。
残業代(法定内残業)=1時間あたりの基本給×法定内残業時間
法定内残業は法定労働時間の範囲内で所定労働時間を超える労働です。所定労働時間を6時間とする時短勤務の場合、その日の勤務の6時間1分から8時間までの労働が法定内残業にあたります。
法定内残業には賃金割増が適用されないため、法定内残業の労働時間に応じた通常賃金を支払いましょう。なお、1時間あたりの基本給は以下の式で算出します。
1時間あたりの基礎賃金=月給÷月平均所定労働時間数
なお、基本給に各種手当やみなし残業代が含まれる場合、これらの金額は除外しましょう。また残業代の算出を含む給与計算では、計算の途中で端数が出た場合50銭以上は切り上げ、50銭未満は切り捨てます。
3-2. 法定外残業の残業代計算方法
法定外残業の残業代を求める計算式は以下の通りです。
残業代(法定外残業)=1時間あたりの基礎賃金×1.25×法定外残業時間
法定外残業の賃金には時間外労働手当が適用されます。1時間あたりの基礎賃金を25%増額した金額をベースに残業代を算出しましょう。
3-3. 深夜勤務の賃金(深夜手当)計算方法
深夜勤務に対しては通常賃金の25%にあたる深夜手当を労働時間に応じて支払います。
深夜手当=1時間あたりの基本給×0.25×深夜労働時間
なお、深夜割増と法定時間外割増は同時に適用されます。法定外残業の時間が深夜勤務にあたる場合、割増率は実質50%(深夜割増25%+時間外割増25%)です。
3-4. 時短勤務の場合のみなし残業代制について
元々みなし残業代制の会社で時短勤務をする従業員がいる場合、残業が発生しないことを前提として、みなし残業代をカットすることに関しては問題ありません。
なぜなら、みなし残業代は残業が発生することを前提として支給するものだからです。
ただし、就業規則で時短勤務の場合の給与の扱いなどをきちんと定めておくことが重要です。
従業員が時短勤務をする場合にみなし残業代を支払わないことに違法性はありませんが、時短勤務を始めたから不当に賃金をカットされたと感じる従業員がいる場合もあるため、事前に就業規則に定めてトラブルを防ぎましょう。
3-5. 時短勤務における残業代計算の具体例
具体的な数字を用いて時短勤務の残業代を計算してみましょう。ここでは以下のケースを想定します。
- 月の基本給:15万円
- 1日の所定労働時間:6時間
- 月間の所定労働日数:20日
- 月間の所定労働時間:120時間(6時間×20日)
- 月の総労働時間:130時間
- 法定内残業時間:5時間
- 法定外残業時間:5時間(内1時間は深夜勤務
なお、基本給は時短勤務に伴い減額されているものとします。
- 1時間あたりの基本給を算出する
15万円÷20日÷6時間=1,250円
- 法定内残業の残業代を算出する
1,250円×5時間=6,250円
- 時間外残業の残業代算出する
1,250円×1.25×5時間=7,815円 ※端数は切り上げ
- 深夜手当を算出する
1,250円×0,25×1時間=323円 ※端数は切り上げ
基本給と算出した残業代を合計すると16万4,388円です。これは労働の対価として支払われる賃金であり、実際には通勤手当や扶養手当などの各種手当を合算して毎月の給与が決定します。
4. 時短勤務者の残業は法定内と法定外それぞれで集計する
時短勤務であっても、法定の範囲内または36協定の範囲内に限って残業が可能です。しかし、時短勤務の残業は法定内残業と法定外残業の2種類があり、それぞれを正しく集計しなければ正確な給与計算はできません。時短勤務における残業の仕組みを正しく理解し、適切な給与計算を実施しましょう。
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