近年、働き方改革により日本人の働き方が多様化し、ワーク・ライフ・バランスへの関心が高まっています。そのため、時短勤務の制度を見直すことで、「仕事と家庭の両立ができる仕組みをつくり、より良い労働環境をつくろう」という企業の動きが増えています。
しかし、時短勤務者の業務内容や給与をどのように対応すべきか、不安を感じている人事担当者も多いのではないでしょうか。
今回は、時短勤務の適用期間や対象者、導入事例などをご紹介します。
「社内で時短勤務をした例が少ないので、勤怠管理や給与計算でどのような対応が必要か理解できていない」とお悩みではありませんか?
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目次
1. 短時間勤務とは
短時間勤務(時短勤務)とは、1日の労働時間を短縮して勤務することをいいます。
時短勤務制度は、厚生労働省が定めた育児・介護休業法により、労働者が仕事と育児や介護などを両立できるように策定されました。時短勤務制度は1日の所定労働時間を原則として6時間とするものです。
特定の1日の労働時間を7時間とする措置や、隔日勤務にするなどの措置を合わせておこなうこともできます。このように時短勤務制度は柔軟に対応できるため、導入後の運用体制を整えておく必要があります。
当サイトでは、時短勤務の導入方法や適用する際の注意点、給与計算方法などを解説した資料を無料で配布しております。
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2. 短時間勤務制度が注目されている背景
ここでは、なぜ短時間勤務制度が注目されているのかについて解説します。
2-1. 短時間勤務と「少子高齢化」
時短勤務制度が設けられた背景として、少子高齢化問題があります。それまでは社会全体として、仕事と家庭を両立できる環境が整っていませんでした。そのため、結婚や出産を経て、豊かな家庭生活を送りたいと考える人が男女ともに多かったにもかかわらず、就労か家庭かを選ばざるを得ない状況でした。
しかし、昨今では働き方改革により仕事と家庭の両立を勧める動きが進んでいます。その中で、改めてこの時短勤務制度が注目されています。
2-2. 厚生労働省の育児・介護休業法改正
また、厚生労働省が2021年に育児・介護休業法を大きく改正したことも短時間勤務が注目されている背景として挙げられます。今回の法改正により、育児や介護と生活の両立を目指した施策が段階的に実施されます。実施される時期と施策は以下の通りです。
【2022年4月1日から実施】
・雇用環境整備、個別の周知・意向確認の措置の義務化
① 育児休業・産後パパ育休に関する研修の実施
② 育児休業・産後パパ育休に関する相談体制の整備(相談窓口設置)
③ 自社の労働者の育児休業・産後パパ育休取得事例の収集・提供
④ 自社の労働者へ育児休業・産後パパ育休制度と育児休業取得促進に関する方針の周知
・有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和
【2022年10月1日から実施】
産後パパ育休(出生時育児休業)の創設
育児休業の分割取得が可能に
【2023年4月1日から実施】
育児休業取得状況の公表の義務化
3. 短時間勤務はいつまで適用?
ここからは、「短時間勤務制度はいつまで適用されるのか」「短時間勤務制度の対象者」について、くわしく解説します。
短時間勤務の適用期間は育児なのか介護なのかによって、適用される期間が異なります。
3-1. 育児による短時間勤務の適用期間
育児・介護休業法では、3歳未満の子どもを育てている従業員がいる場合、時短勤務制度を設けなけれならないとしています。そのため、育児による短時間勤務の適用は「子供が3歳になるまで」となります。子供が3歳以上の場合はあくまで企業努力となります。
3-2. 介護による短時間勤務の適用期間
介護が理由で時短勤務を利用する場合は、「利用開始日から連続する3年以上の期間」取得が可能です。また、この期間内に2回まで利用することができます。介護による時短勤務の適用期間は、明確に定められていないので、企業と従業員の話し合いによって決定されます。
4. 短時間勤務制度に該当する人
次に、短時間勤務に該当する対象者について解説します。
4-1. 育児による短時間勤務の対象者
この時短勤務制度はすべての労働者が対象ではありません。時短勤務制度を利用するためには、以下の条件をすべて満たしている必要があります。
【時短勤務制度が該当するための条件】
- 3歳に満たない子供を養育する労働者であること
- 1日の所定労働時間が6時間以下でないこと
- 日々雇用されていないこと
- 時短勤務制度が適用される期間に育児休業を取得していないこと
- 労使協定により適用除外とされた労働者でないこと
まとめると、3歳に満たない子供をもち、フルタイムで働く労働者ということになります。
また労使協定とは労働者と事業主との間で交わされた協定のことです。就業してから1年以内の人や出勤の日数が週に2日以下の人、そして業務の内容から短時間での勤務が難しい人が協定に当てはまります。
以下の項目を満たす労働者は時短勤務制度の対象ではありません。
【労使協定により適用除外となる労働者の条件】
- 当該事業主に引き続き雇用された期間が1年に満たない労働者であること
- 1週間の所定労働日数が2日以下の労働者であること
- 業務の性質または業務の実施体制に照らして、短時間勤務制度を講ずることが困難と認められる業務に従事する労働者であること
また、労使協定により適応除外となる労働者に対しては、次のような時短勤務の代わりとなる措置を取らなくてはなりません。
4-2. 介護による短時間勤務の対象者
介護による時短勤務の対象者は、要介護状態にある家族を持つ全ての従業員と定められています。
(※ただし、介護休業の取得開始予定日の93日後から6か月が経つまでに労働契約期間が満了し、契約更新がないと分かっている場合は対象外)
「要介護状態」とは負傷、疾病、身体上・精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態のことを指し、地域包括支援センターに申請をした場合に、調査のうえ「要介護状態」と認定されます。
ただし、以下の労使協定を締結している場合には適用外となってしまう可能性があるため、注意が必要です。
【労使協定を締結している場合に対象外となる労働者】
- 入社1年未満の労働者
- 1週間の所定労働日数が2日以下の労働者雇用期間が終了する労働者
5. 短時間勤務制度に該当しない人への措置
5-1. フレックス制度
フレックス制度とは企業が定めたコアタイムと呼ばれる「必ず会社にいなければならない時間」を守れば、労働者が自由に出社と退社の時刻を決めることができる制度です。
多くの企業がこのコアタイムを設けていますが、必ず設ける必要はありません。
【関連記事】フレックス制度の仕組みがわかる|残業と労働時間の給与計算とは
5-2. 時差出勤の制度
時差出勤制度とは、9時から18時の勤務時間帯を10時から19時に変更するように通常と少しずらして勤務することができる制度です。これにより、子どもの登下校などに合わせて出社時間を調整することができます。
5-3. 事業所内保育施設の設置運営
会社の中に託児所を設けることで負担を減らすなども代替措置として可能です。また、労働者から時短勤務の希望があり、合意が得られた場合は、時短勤務が可能な業務に配置替えをすることもできます。
ただし、時短勤務が終了したときに元の職場に戻すなどの予定がある場合は、事前に合意を得ておくことで将来のトラブル防止に繋がります。
6. 短時間勤務制度のメリット
ここでは、短時間勤務制度のメリットについて解説します。
6-1. 生活に余裕が生まれる
短時間勤務により、生活に時間的な余裕が生まれます。短時間勤務によって、ワークライフバランスを実現しやすくなり、従業員の生活満足度を引き上げることに繋がります。
6-2. 優秀な人材の確保
近年、フレックスタイム制度やテレワークの普及などによって、多様な働き方に対する関心は高まりつつあります。短時間勤務によって、育児や介護と仕事の両立をかなえることが出来る職場は求職者に魅力的に映ります。そのため、優秀な人材を確保する事に繋がると考えられます。
6-3. 既存正社員の定着率向上
日本では少子高齢化が深刻な問題となっています。そのため、介護に従事する従業員も少なくありません。そんな中、育児や介護に適応できていない職場だと離職という選択肢を取らざるを得ません。しかし、短時間勤務制度を導入しており、育児や介護に適応した職場であれば、社員の離職率を抑えることが出来るでしょう。
7. 短時間勤務制度のデメリット、課題
時短勤務の適応の手続きは基本的に企業が定めることができます。そのため、内容は企業によって違いがあります。
また、新しい制度であるため、導入後に企業と労働者との間や労働者間でトラブルが起こるケースがあります。そこで起こりやすいトラブルについて把握し、未然に防ぎましょう。
7-1. 給料が少なくなる
給料の計算については企業によってさまざまですが、育児・介護休業法には不利益取り扱いを禁止する条例があります。不利益取扱いとは、育児休業を申請した労働者を降格や解雇することを指します。時短勤務制度を利用したことにより、単純に業務時間が短縮した分の給料については減額することは法律違反ではありません。しかし、それ以上に給料を下げることは法律違反になります。
また、企業は時短勤務の制度について就業規則などに記載し、社内に周知する義務があります。新人研修のときなどに制度があることや、その内容について周知することでトラブルを防ぐことができます。また、労働者からの要望があった際に改めて説明するなどの工夫をしましょう。
7-2. キャリアにおける課題
時短勤務の労働者は時間が限られている分、負担になることを避けるために業務量を配慮する必要があります。しかし、時短勤務を利用する労働者は、時間がないだけでやる気がないわけではありません。
業務量を減らした結果、労働者自身の経験や成長機会を奪ってしまうということがあります。本人や周りとよく相談して、適切な業務量を決めましょう。
7-3. 社内の人間関係における課題
最後は労働者間の人間関係におけるトラブルです。時短勤務を利用することで、どうしても周囲の労働者の負担は増えてしまいます。
また、時短勤務をおこなっている労働者の態度が横柄だと周りの労働者は不公平感を抱いてしまい、それが関係性を悪化させてしまいます。時短勤務をおこなう労働者本人だけでなく、その周りの労働者も気持ちよく働ける環境を意識しましょう。
これらのトラブルはどの企業でも起こりうるものです。そのため、ほんの少しの思い違いがトラブルに繋がってしまいます。これらを防ぐには本人はもちろん、周りにも理解が求められます。
お互いがお互いを思いやることができるような環境をつくることが必要です。
8. 時短勤務制度を導入している企業の事例
多くの企業で実際に時短勤務は導入されており、その制度の内容は企業によってさまざまです。ここでは、時短勤務を導入している企業とその制度の内容を紹介します。
8-1. トヨタ
トヨタ自動車では、子供が小学校4年生になるまでの間、勤務時間を4時間、6時間、6時間半、7時間の中から選び、時短勤務をすることができます。
介護の場合も、この時間から選ぶことになりますが、要介護状態の家族1人につき3年を越さない範囲で取得できるという規定が設けられています。
8-2. ソニー
ソニーでは仕事と家庭の両立を支援するため、さまざまな取り組みが実施されています。
テレワークのような在宅での勤務を可能とする制度や、より柔軟な勤務を可能とするための育児期フレックスタイム勤務などもおこなっています。また、男女共に取得可能な柔軟な両立支援制度の導入と職場の環境整備にも取り組んでいます。
他にもベビーシッター利用時の費用補助制度、会社にいながら配偶者の赴任同行や修学のために休職する制度なども整備されています。
8-3. サントリー
サントリーでは、育児休職のほか、妊娠期〜育児期まで利用できる短時間・時差勤務制度を導入しています。また、子供の年齢制限を設けないフレックス勤務やテレワーク勤務制度があります。
さらに育児理由の特別有給休暇として、キッズサポート休暇などを設けています。1日1,700円のベビーシッターの利用補助の支給などもおこなっています。
9. 短時間勤務制度に関する疑問
ここでは、短時間勤務制度に関するさまざまな疑問に答えていきます。
9-1. 短時間勤務中に残業しても良いのか?
短時間勤務中であっても従業員は36協定の範囲内で残業することが出来ます。
また、短時間勤務者は以下の3つの場合、残業の免除を請求することが出来ます。
① 所定外労働の制限(育児により短時間勤務制度を利用している場合のみ)
所定労働時間を超えて労働する義務の免除
② 時間外労働の制限
36協定に基づく時間外労働を「月24時間、年150時間以内」に制限するように請求
③ 深夜業の制限
午後10時から午前5時までの労働義務を免除するように請求
9-2. 短時間勤務中、休憩時間はどうなる?
短時間勤務制度を用いて、所定労働時間が6時間未満の場合は従業員に休憩時間を与える必要はありません。ただし、6時間を超える場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも1時間の休憩時間を与える必要があります。
9-3. 短時間勤務中、有給はどうなる?
短時間勤務制度を用いた上で、週5日出勤している場合は通常正社員と同じ有給日数を付与する必要があります。ただし、週4日以下の出勤かつ30時間未満の労働の場合は、出勤日数に応じて有給を比例付与します。
9-4. 短時間勤務中、社会保険料はどうなる?
短時間勤務制度を利用する前から社会保険に加入していた従業員が短時間勤務制度を申請した場合、引き続き社会保険は適用対象となります。ただし、短時間勤務制度を利用している社員が社会保険加入の申請を行った場合、「所定労働時間が通常正社員の3/4以上」でなければ加入することができません。
なお、例外として、この基準を満たしていない時短労働者でも以下5つの要件を満たせば社会保険の適用が認められます。
● 週の所定労働時間が20時間以上
● 雇用期間が1年以上
● 賃金の月額が8.8万円以上
● 学生ではないこと
● 特定適用事業所(※)に勤務していること
※被保険者数の合計が1年のうち6カ月以上500人を超えることが見込まれる事業所。
10. まとめ
現在、多くの企業が労働者に対して、柔軟な勤務を認めています。育児・介護休業法で定められた時短勤務をはじめ、時間差勤務やテレワーク、フレックス制度など、その取り組みはさまざまです。また、柔軟に勤務時間を選択できる制度を整えたりするなど、より働きやすい環境づくりのためにそれぞれの企業が工夫をおこなっています。
現代では人材を獲得するのに苦戦している企業が多く、こういった制度を整えることで、人材確保に繋げたいという狙いもあるようです。
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