【残業代請求】未払い分の計算と請求の流れ|失敗事例から学ぶ対策付き |HR NOTE

【残業代請求】未払い分の計算と請求の流れ|失敗事例から学ぶ対策付き |HR NOTE

【残業代請求】未払い分の計算と請求の流れ|失敗事例から学ぶ対策付き

  • 労務
  • 給与計算

※本記事は、株式会社アシロの「労働問題弁護士ナビ」より語句などを一部修正したものを転載しております。

あなたは失敗しない残業代請求の具体的な手順をご存知でしょうか。

残業代の未払いは、会社が従業員に対して負う賃金支払い義務を怠る行為であり、民事上の責任が生じることは当然ですが、悪質な場合には刑事上の責任も生じ得る行為です。(労働基準法は、残業代の未払いについて刑事処分まで予定しています。

しかし、あなたはこのようなことを言われてはいませんか?

残業代を払わない企業の言い分

  • みなし労働制だから残業代を払わない
  • 裁量労働制だから残業代はそもそもない
  • 固定残業代だから既に支払っている
  • 土日などに労働しても就業規則の定めで休日ではない
  • 管理監督者だから残業代の支給はない など

残業代に関して正しい理解をし、適正な制度運用を行っていれば問題はないのですが、2018年に厚生労働省から発表された資料(平成29年度個別労働紛争解決制度の施行状況)によると、労働に関する相談件数は10年連続で100万件以上あると報告されています。

さらに『監督指導による賃金不払残業の是正結果(平成29年)』でも、残業代・賃金の不払いに対して厚生労働省が『是正・指導』をした企業は1,870企業、割増賃金の平均額は、労働者1人当たり22万円という結果が報告されています。

是正企業数

1,870企業(前年度比521企業の増)

うち、1,000万円以上の割増賃金を支払ったのは、262企業(前年度比78企業の増)

対象労働者数

20万5,235人(同107,257人の増)

支払われた割増賃金合計額

446億4,195万円(同319億1,868万円の増)

支払われた割増賃金の平均額

1企業当たり2,387万円、労働者1人当たり22万円

出典元:厚生労働省|監督指導による賃金不払残業の是正結果(平成29年度)

このように残業代未払い問題は年々増加傾向にあり、深刻な社会問題となっています。

ブラック企業は様々な社内ルールを作って残業代の請求を逃れているケースが多くあり、法律に則っている場合はともかくとして、隠れ蓑にしているケースがあり、悪質な企業であればその隠し方は巧妙です。

「皆同じようにやっている」「業界では当たり前」というように言われてしまうと、良心の強い方であれば「仕方がない」と諦めてしまう方もいますが、それはあなたのためになりません。仕事はボランティアではなく、労力という価値を提供するものです。

したがって、実際に残業した場合の残業代は、労働者はこれを請求する法的な権利があり、企業は当然支払わなければならないのが原則です。残業代を支払わない会社は、労働基準法に違反した違法行為(労働基準法第119条)ですので、労働者には未払い分を請求する権利があるのです。

しかし、残業代の請求期限は2年で時効にかかり、消滅してしまいます

つまり、2年以上前に行なっていたサービス残業分は請求できないということです。

相談者

  • いまの働き方が何かおかしいのではないか?
  • もらっている残業代が少ない気がする
  • 固定残業代でいくら分が支払われているのか不明

このような疑問をお持ちの方は今すぐに残業代がいくら発生しているのかを正確に把握する必要があります。

今回は、未払いとなっている残業代を請求し、企業に支払わせるための手順をお伝えいたします。

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残業代請求ができるケースとできないケース|残業代が支給されるべき11の条件

そもそも論ですが、残業代が発生していなければ請求することはできません。

公務員は一般労働者とは異なる法律の適応を受けますし、裁量労働制で働いている高度な専門職の方やフレックスタイム制、変形労働時間制、管理監督者の方も一般的な残業代支給の考え方とは、ちょっと外れた適応を受けます。

残業代請求が出来る11のケース

ただ、一般的な労働者であれば、所定労働時間を超えて働いた場合は割増賃金が支払われますので、下記のような方は残業代が請求できる可能性は高いでしょう。

  1. 会社の定める所定労働時間を超えて働いている(法内残業)のに、残業代が支払われていない方
  2. 法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えて労働したのに、割増賃金(1.25倍)の支払いがない方
  3. 22時〜5時までの深夜労働に対して、深夜労働の割増賃金(1.5倍)の支払いがない方
  4. 休日労働に対する割増賃金(所定休日1.0倍、法定休日1.35倍)の支払いがない方
  5. 本来労働時間に含まれるはずの時間をカウントされていない方(待機時間や移動時間など)
  6. 退勤後の持ち帰り残業をしている方
  7. 経営者と一体となり仕事を行うはずの管理監督者だが、実態は『名ばかり管理職』の方(店長職など)
  8. 『裁量労働制』という理由で、全ての残業代が免除されている方(深夜労働をした場合は深夜割増賃金が発生する)
  9. そもそも裁量労働制の要件を満たしていない労働者の方
  10. 『変形労働時間制』でも、1ヶ月または1年単位で見た時に所定労働時間を超えている方
  11. 固定残業制(みなし残業)でどれだけ働いても残業代が一定の方(固定残業制でも上限があります)

いかがでしょうか。

あなたが当てはまるシーンが一つでもあれば、残業代が請求できる可能性は非常に高くなります

以前、固定残業代を導入している企業の約8割が違法な運用を行っていたとしてニュースにもなりましたが、会社の経営者であっても正しいルールを知らないことがあります。(参考:ブラック企業対策プロジェクト

もちろん故意に行っていればかなり悪質なケースと言わざるを得ません。

役職につくと残業代がなくなるのはなぜ?

労基法では、「監督若しくは管理の地位にある者、または機密の事務を取り扱う者は労働時間、休憩、休日についての規定を適用しない」と定めています(41条)。「管理監督者」には法定労働時間という概念がないため残業は存在しないことになりますが、ここで問題になるのが「管理監督者とはどういう立場か」ということです。

例えば、飲食業界全社員の約7割が任命されているという「店長」、これは該当するのでしょうか。一般の会社の「主任」や「係長」はどうでしょうか。 労基法の通達を要約すると、管理監督者とは「部長や工場長など労働条件の決定やその他の労務管理について経営者と一体的な立場にある者」とのことであり、極めて限定的な地位を指します。

この「経営者と一体的な立場」かどうかは、人事権等権限の有無、業務への裁量制、経営への参画の程度、労働条件その他待遇という諸々の要素を実質的に検討することで判断します。そのため、会社がつけた役職名は実は関係ありません。

残業代請求が出来ないケース

一方、残業代請求ができない雇用形態というのもあります。以下のような雇用形態の労働者に対して正しく理解・運用がされている場合は、未払いの残業代は発生していないことになります。

表:残業代を請求できない労働者の例

雇用形態

具体例

事業場外のみなし労働制

外回りの営業職などに多い。「一定時間(所定時間分)を働いたとみなす」場合と「通常その業務を遂行するのにかかる時間分労働したとみなす」場合がある。

裁量労働制

専門職や経営企画に携わる労働者に適応。労働力を労働時間ではなく、『一定の成果で評価すべき』という考え方。

フレックスタイム制

一般的には、労働時間を1か月以内の一定単位で管理し、賃金精算を行う制度。一定期間単位で労働時間を集計するため、「1日8時間、1週間に40時間」の法定労働時間を超過して働く日があっても、直ちに残業代は発生しない。

固定割増賃金制度

当該固定支給分については割増賃金の支払いをしたものとして処理されるため、固定支給分を超える割増賃金が発生しない限り、別途の精算を求めることはできない。

管理監督者

経営者と一体的立場にある労働者。労働基準法の定める「管理監督者」に該当する場合は、時間外・休日労働に係る割増賃金の請求はできない。

天候や自然条件に左右される労働者

農業や林業、漁業などに携わる労働者。

断続的業務の労働者

手待ち時間の多い運転手や事故待ちの業務など

公務員全般

地方公務員、国家公務員、公立の教員など

参考:残業代が請求できない9パターン|雇用形態・業種別で徹底解説

そのほか、適正な割増賃金の計算、休日労働に対して適切な残業代の計算がなされている場合も未払いの残業代は発生しませんので、もし給料が少ないと感じる場合は、『転職』を検討されるのが、良いかと思われます

残業代請求が可能かどうかは適正な運用がなされているが重要
労働時間制は種々あり、残業について通常の労働時間とは異なる評価が必要となるケースも多々あります
そのため、実際に残業代が発生しているかどうか気になる場合、労働法令に詳しい弁護士などに相談することをおすすめします。

残業代請求でよくある失敗事例【裁判事例付き】

そもそも残業代が発生していない雇用形態である『裁量労働制』や『フレックスタイム』『固定割増賃金制度』『管理監督者』が適切に運用されていれば残業代の請求はできませんが、それ以外に、残業代請求に失敗しやすい3つのパターンをご紹介します。

証拠が不十分である

残業代請求では労働時間を立証する「証拠」が重要
特に裁判になったとき、証拠がなければ請求は認めてもらえません。タイムカードやシフト表、営業日報や手帳、交通ICカードの利用記録、パソコンのログインログオフ記録など、万全に証拠集めをしましょう。

残業代請求が棄却|アイスペック・ビジネスブレイン事件
業務日誌と手書きのタイムカードを提出したものの、証拠として不十分であり労働者が主張するような時間外及び深夜労働は認められないとして控訴を棄却した事例。

判例元
裁判年月日 平成19年11月30日
裁判所名 大阪高裁 裁判区分 判決
事件番号 平19(ネ)1493号
事件名 賃金請求控訴事件 〔アイスペック・ビジネスブレイン事件・控訴審〕
裁判結果 控訴棄却 上訴等 確定
文献番号 2007WLJPCA11306002

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残業代請求時に認められやすい証拠は?

自分で残業代請求を全て行おうとしてしまう

残業代請求を訴訟に依らずに成功させるには残業代の金額を正確に計算し、会社と的確に交渉を行って有利な条件で和解することが肝要です。ただし、そのためには高度に専門的なスキルが必要です。

労働者1人では正確に残業代を計算することも難しく、会社の反論にうまく対応できずに失敗してしまう可能性もあります。成功させるには、専門家に相談して力を借りましょう。

残業代請求に実績のある弁護士に依頼すること

まずは残業代請求を得意とする弁護士に依頼することが重要です。残業代請求に長けている弁護士であれば、みすみす残業だの時効を成立させることはありませんし、必要な証拠の集め方や会社との交渉方法も知っています。

交渉が決裂して労働審判や訴訟になっても有利に進められるので、多額の残業代を回収しやすくなります。

労基署に強い期待感を持って相談していた

「労基署は労働者を救ってくれる」と考えて、労基署頼みにしてしまった場合にも残業代請求に失敗しやすくなります。

労基署は証拠がないと動いてくれませんし、小さな事件の場合は後回しにされる可能性もあります。また労基署は企業に対して指導勧告を行ったり刑事的な責任追及をしたりする機関であり、民事的な残業代支払命令は出してくれません。

本当に残業代を回収したいなら、労基署頼みではなく弁護士などの専門家に請求手続を依頼する必要があります

【関連記事】労働基準監督署と未払い残業代請求|相談・申告・斡旋は有効?

「弁護士に聞いた」未払い残業代請求に必要な『証拠』

未払いの残業代請求を検討している場合、あなたが1番最初に考えなければならないことは、証拠収集(の方法)であると強く認識してください。

そして、証拠を集める上で以下のことに注意をしてください。

  • 証拠集めは慎重に!隠される可能性がある
  • 自分の手元にコピーがあることが最低条件
  • 証拠がない状態で未払い請求は勝ち目がない

では、具体的にはどのような証拠があればよいのか、労働問題に詳しい弁護士の先生にお聞きしました。

雇用契約書や労働契約書

「雇用通知書」などが一方的に交付される場合もありますし、「雇用契約書」や「労働契約書」など、使用者とあなたの双方で契約することもあるでしょう。ここでキーになるのは、労働基準法第15条と労働基準法施行規則第5条です。

使用者(企業)は、労働者を雇用する際に、労働基準法施行規則第5条に定められた事項が記載された書面を、交付しなければなりません。

この雇用条件通知書等には給与の計算方法や残業代支給についての取り決めが記載されているため、これを交付された場合は保管しておくと良いでしょう。

就業規則(コピー)

就業規則とは、会社で労働者が働く際の決まりをまとめた書面で、以下の法令などにより労働者への周知(閲覧しようと思えばいつでも閲覧できる状態)が必要とされています。

ブロックタイトル

労働者が10人以上いるような職場では、就業規則の作成・周知は会社の義務となります。

就業規則に記載されている内容は、

  • 就業時間
  • 時間外労働の有無
  • 休日

などに関する決まりで、未払い残業代を請求する前に未払い残業代を計算するために必要になってきます。

(ただ、会社によっては、法令に違反して就業規則を作成していないケースもあるようですので、留意が必要です。)。

(作成及び届出の義務)
第八十九条 常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。

(法令等の周知義務)
第百六条 使用者は、この法律及びこれに基づく命令の要旨、就業規則、規定する決議を、常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること、書面を交付することその他の厚生労働省令で定める方法によつて、労働者に周知させなければならない。
○2 使用者は、この法律及びこの法律に基いて発する命令のうち、寄宿舎に関する規定及び寄宿舎規則を、寄宿舎の見易い場所に掲示し、又は備え付ける等の方法によつて、寄宿舎に寄宿する労働者に周知させなければならない。

参照:労働基準法

始業・終業時刻を立証する資料4つ

未払い残業代を請求するためには、労働者側で実際の労働時間を立証する必要があります。実際に働いた時間を証明する証拠です。

これら資料が不十分な場合には、仮に裁判を起こしたとしても裁判所において請求が認められない可能性が高いです。

具体的なものとしては下記があります。

1:タイムカード・勤怠記録・日報

会社が労働者の労働時間を管理・把握する方法は、様々ですが、これら管理・把握に用いるツール(タイムカード、勤怠表、申告票、日報等)は、労働時間算定の証拠として有力です。

しかし、そもそも会社が労働者の労働時間を正確に管理・把握していないケースも多く、この場合には上記ツールでは不十分ですので、他の立証手段を検討することになります。

2:業務用メールアカウントの送受信記録履歴

Eメールは、送受信する度にその時間が記録されることから、会社のアカウントでのメール送受信の履歴も、証拠として有力です。例えば、メール送信時刻は、当該時刻までは社内で業務に従事していたことを立証できます。

3:帰宅時のタクシー使用履歴(領収書)

終電がなく、止むを得ずタクシーなどで帰宅した場合など、会計時に領収書をもらっておけば、多くのタクシー会社では乗車時間帯が記載されますので、それを保存しておきましょう。退社時間を証明する有効な証拠となります。

4:日記等の備忘録

労働者が日々つけている日記や備忘録も労働時間算定の根拠となり得ます。例えば、日々の日記の中で業務内容や始業・終業時間を記載しておけば、後々、これが労働時間算定の根拠となり得ます。

また、業務が終了した際に、会社の業務メールや自身の携帯のメールを使って、業務内容や退社時刻を個人のメールアドレスに送信し、日々の退勤時刻を記録する方法もあり得ます。

残業時間中の労働内容を立証する資料2つ

退勤時刻を立証できたとしても、

「勝手に残っていただけではないか?」
「それまでの間、遊んでいただけではないか?」

などと会社側から反論される可能性があります。

この反論自体は至極もっともであり、労働者が独自の判断で単に会社に居残っていただけでは、労務の提供がないため残業代は請求できません。そのため、このような反論に備え、労働者側では残業時間中に労働していたことを立証する資料を収集しておくと良いでしょう。

1:残業指示書や残業承諾書

  • 残業指示書や指示を受けたメール
  • 指示を受けた時のメモ書き
  • 残業承認の旨の書面]

上記の資料は、残業が上司の明示的な指示(承認)によって行われたことを端的に示していますので、このようなものがあれば証拠として価値が高いと言えます。

2:残業時間中の業務内容が分かる書面

  • 残業時間中に送信した業務用メールの履歴
  • 残業時間中の業務内容が判る資料(業務日誌など) など

このような資料も、残業時間中に実際に業務に従事していたことを示す資料といえますので、証拠として価値が高いと思われます。

残業代請求において証拠になりにくいもの

走り書きのメモや不正確なメモ

日記や備忘録は残業代請求を行う上で証拠となり得ます。

ただし、これが単なる走り書きのメモで趣旨が不明確である場合や、メールの送信時刻や勤怠記録と著しく齟齬があり内容が不正確と思われるものは、証拠としては価値が低いと言わざるを得ません。
重要なのは、これら日記や備忘録を、恣意的にではなく機械的に作成すること、趣旨を簡潔かつ明確なものとすること、とぎれとぎれではなく毎日記録することです。

また、一度作成した日記や備忘録を後日修正する行為は、その内容の正確性を疑わせることになりますので、極力避けましょう。

私的なメール送信記録

業務用アカウントであれ個人のアカウントであれ、友人等との間で私的に行ったやり取りの記録は、労働時間の算定において証拠としては価値が低いことが多いでしょう。

このようなやり取りは内容が不正確である可能性が高いですし、メール送信時刻まで業務を行っていたということにもなりません。

ただ、自身のサービス残業について従前から相談していた相手に、その相談の一環として定期的にサービス残業の事実を申告していたというような特別の場合には、当該相談内容自体が証拠となることはあり得ます。

残業時間を証明する証拠が無い場合

もしタイムカードなどの勤怠管理表や労働時間や内容を明記した日報などが手元にない場合。

残業代の請求は全くできないかと言われたら、実はそうではありません

労働時間の管理・把握するのは会社に必ずある

あまり知られていませんが、厚生労働省通達の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準について」と、「労働基準法第109条」には次のように定められています。

労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準
  • 使用者は、労働時間を適正に管理するため、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、記録すること
  • 始業・終業時刻の確認、記録は、原則として、【使用者が自ら現認して】、【タイムカード等の客観的な記録を基盤として】確認、記録すること
  • 自己申告制により行わざるをえない場合には、【適正な自己申告等について労働者に十分説明して】、【自己申告と実際の労働時間とが合致しているか、必要に応じて実態調査を行う】等の措置を講じること

労働基準法第109条(記録の保存)

使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を三年間保存しなければならない。

労働時間の管理・記録の保存は会社の義務

要約すると、「労働時間の管理は使用者の義務」であり、「労働時間の記録を3年間保存するのも使用者の義務」ということです。

そして、このような労働時間の管理・把握の義務は労働者の利益のために行われるものであるため、労働者側は、会社に対して、「労働時間の管理・把握に係る資料を提供せよ」と要求することができ、会社は正当な理由なくこれを拒むことはできません。

会社が開示を拒むことはできないが安心して任せるのは危険

そのため、労働者の手元に今は資料が何もなくても、請求の前段階として、会社側にこれら資料の提供を求めることで、資料を収集することは不可能ではありません。しかし、使用者が管理しているから何も収集しなくていいとは考えないでください。

裁判では、基本的に、何かを請求しようとする際、その請求が正当であることを立証する責任は、請求する労働者側にあります。

証拠が無いと請求の主張は通りにくい

そのため、上記の要求をした結果、やはり証拠が集まらなかったという場合、結局、請求は認められません。

すなわち、「会社が労働時間の管理・把握義務を履行していない=あなたの主張通りに残業代請求が認められる」とはならないのです。

ただ、このような場合は残業代の未払い請求とは違った切り口(例えば、労働時間の管理・把握義務の不履行を理由とする不法行為を追及する等)で攻めていく必要もあります。

証拠が無い場合は弁護士の開示請求を利用

実は会社に対して開示請求を行うことで、勤務記録や就業規則、労働契約書などを開示させることができます。

弁護士に相談することで、弁護士が会社へ開示請求を行います。会社は労働者からの労働時間に係る資料を開示する義務があるとした裁判例もあります。

それでも応じない場合

会社側にとって、未払の残業代が出ることは大きな痛手となります。当人への支払いはもちろんの事、他の労働者からも芋づる式に残業代請求が行われ、最悪の場合は経営が立ち行かなくなる可能性もあるからです。

そのような事情から、会社側が残業代の支払いを恐れて、開示請求に応じない場合もあります。

その場合は、労働審判や訴訟を提起するといったことで対応していくことになります。一般的には推計で残業代を請求し、訴訟の中で労働時間の資料開示を求めるという流れです。

未払い残業代請求をする具体的な6つの手順

ここでは具体的にどういった手順で残業代の未払い請求を行っていけば良いかを解説します。

1:未払い残業代がいくらあるのか計算しよう

ここで、あなたが残業代の未払い分を請求した場合、いくらもらえるのかを計算してみましょう。

基本的な考え方としては、時給に換算し、時間数と割増率を掛けていくという方法になります。

割増率

時間外労働には、通常の賃金よりも多く支払う「割増率」が存在します。残業代請求を行う際には、こちらの割増率も加算しましょう。

種類

割増率

時間外労働

25%以上

休日労働

35%以上

深夜労働

25%以上

時間外・深夜労働

50%以上(25%+25%)

休日・深夜労働

60%以上(35%+25%)

すこし難しいかもしれませんが、残業代には2種類ありますので、まずはそこから確認していきます。

2つの時間外労働を把握

法定時間外労働

労働基準法で定められた労働時間を超えて行われた残業のことです。定められた基準は、原則1日8時間、1週40時間と定められています。

法内残業

会社が定めた所定労働時間を超えて、労働基準法で定められた労働時間以内の範囲で行われた残業のことを法内残業と言います。

例えば、10時から18時までを労働時間と会社で定められており、その途中で1時間の休憩時間が設けられていたら、1日7時間が会社が定めた労働時間(所定労働時間)となります。

もしも、このケースで19時まで働いたとすれば、会社の労働時間では1時間の残業をしていますが、1日8時間の法定労働時間内には収まっています

この考えから算定する残業代は以下のようになります。

法定時間外労働の計算

時間外労働の時間数(時間)×1時間あたりの賃金(円)×1.25(※)
※時間外労働が60時間/月を超えた場合、超える部分については、1.5倍

ただし、法律上の中小企業等に該当する企業は当面の間、1.25倍で足りるとされています。

法内残業の計算

法内残業の時間数(時間)×1時間あたりの賃金(円)×1(※)

※法内残業は、所定労働時間を超える以上は賃金が発生しますが、法定労働時間の範囲内であるため割増率は適用されません。

計算例

月給:25万円
所定労働時間:154時間(1日7時間、月22日として計算)
法定労働時間:176時間(1日8時間、月22日として計算)
時給換算:1250円
仮に月250時間働いたとすると、法内残業は22時間、法定時間外労働時間は74時間
法内残業賃金:1250円×22時間×1=27,500円
時間外労働割増賃金:1250円×74時間×1.25=115,625円
合計:143,125円

この金額をその月の残業代として請求することができます。

2:会社側と直接話し合いによる交渉【在職中の場合】

会社側に法令遵守の意識があり、労働者側にもある程度の譲歩が検討できるのであれば、会社と労働者が話し合うことによって早期に解決することも可能です。

ただ、あくまで当事者に話合いの意思がなければ解決は困難ですし、当事者がどこまで譲歩できるかにもよりますが。。。

3:内容証明郵便で請求【退職後の場合】

残業代請求をしてもあなたが引き続き会社に在籍する意思がある場合は直接交渉ですが、残業代を支払わない会社に残り続けることはそうないと思います。トラブルになることも危惧されますし、ご自身ではなかなか請求しづらいという問題もあるでしょう。

そういったこともあり、残業代請求は退職後に行う方が多いです。退職後の具体的な請求には『内容証明郵便』が使われることが多く、方法としてはやはりおすすめです。

内容証明郵便とは、『相手にどんな内容の文書を、誰から誰に、いつ送ったのかを証明してくれる郵便局のサービス』です。会社が話し合いによる交渉で残業代の支払いをしてくれれば、『内容証明郵便』で請求する必要などありませんが、交渉が決裂してしまったり、すでに退職してしまったりした場合、内容証明郵便の送付は残業代請求の第一歩になります。

内容証明郵便を送るだけであれば、弁護士等に依頼せずにご自身で請求するのであれば、特に費用もかからないいったメリットもあります。

これでもし、会社側が無反応である場合は「内容証明郵便を無視されたら」をご覧ください。

4:労働基準監督署に申告する

残業代未払いの問題は、労働トラブルの中でも重要な問題であるため、きちんとした証拠があれば、労働基準監督署からの対応も期待できます。費用も発生しませんので、社外の相談先として適しています。

また、残業発生に関する証拠を揃えていれば、正確な残業代の計算も行ってくれますし、匿名で申告をお願いすることも可能です。

ただ、きちんとした証拠があればとお伝えしたように、証拠がない、違反事実がない状態では労働基準監督署は動いてくれませんので、使い所は実は難しいという問題があります。

労働組合に駆け込むのも有効

労働組合には、会社従業員のみで組織される企業組合と、広く労働者一般により組織される一般労働組合があります。前者は会社従業員でしか加入できませんが、後者は誰でも加入できます。

一般労働組合との交渉は、精神的にも経済的にも負担が重いため、経営者にとっては絶対に避けたい事態といえます。そのため、労働者が一般労働組合に加入することは、それだけで経営者にとっては脅威といえます。

5:労働審判で請求する場合

「労働審判」は、労働問題を迅速に解決させるための法的な手続きです。通常の訴訟よりも短い期間での解決が期待できます。労働審判での結果は、法的効力もありますので、結果に対して大抵の使用者が従います。

【関連記事】労働審判とは|申立ての流れや期間をわかりやすく解説

6:通常訴訟で請求する場合

裁判所に訴えを起こし、未払い残業代を請求する方法です。個人で訴訟を起こすには少しハードルが高いですし、弁護士に依頼すれば費用がかかりますが、ここまで交渉がうまくいかないのであれば弁護士に相談することを強くおすすめします。

実名で表に立つことにもなりますので、個人情報の開示を避けたい場合はデメリットの方が目立つといえます。

また、在職中であれば、周囲の人間との関係や職場環境などを考慮すると裁判と表立って争うことは躊躇されるのは当然でしょう。

しかし、確実に未払い分を取り返そうと思った場合には有効な手段であり、

  1. 労働基準法上の割増賃金と同額の付加金
  2. 遅延損害金(退職前は年6%、退職後は年14.6%の割合)

も併せて請求することができますので、方法としてはおすすめできます。

もし勝訴した後も残業代が支払われない場合は?

訴訟によって残業代の支払いを命ずる判決が出たにも拘らず、会社が任意にこれを支払わない場合には、「強制執行」を行うという方法があります。

強制執行とは会社の不動産や債権などを差し押さえて、裁判によって確定した残業代請求権を強制的に実現させる方法です。

未払い残業代請求の時効は2年

以上が未払い残業代を請求する方法です。正直なところ、証拠を集めたり、交渉や手続きを行なうことに若干面倒だと思った方もいるのではないでしょうか。「退職した後に・・・」「お金に困ってきたときに・・・」と、先延ばしにする方もいるかもしれません。

しかし、一点お伝えしたいことがあります。労働基準法第115条には「賃金や災害補償その他請求権は2年間」と決められています。つまり、あなたが行動を取らずにいる間に、請求できるはずだった過去の未払い残業代がどんどん減っていくのです。

すぐさま残業代請求を行わなくても、「内容証明郵便」などの過去の未払い残業代の請求権の時効を中断させることは考えましょう。

2年近く、もしくは2年以上前からの未払い残業代がある方は、少なくとも弁護士に相談するようにしてみて下さい。無料で相談を受けてくれる弁護士事務所もあります。

  1. 管理職だから残業代は出ないと言われて相手にされない
  2. みなし残業制だから残業代は払っているといわれている
  3. 残業代の請求をする為の証拠がない、または足りない
  4. 残業代がどの程度発生しているのか判断できない
  5. 労働基準監督署に行ったが相手にされない
  6. 退職後に会社に請求したが応じてくれない
  7. 就業規則や給与明細が無い会社なのでどこから手をつけていいか判断つかない

残業代請求を弁護士に依頼する3大メリット

問題の早い解決が見込める

個人で残業代請求を行うと、会社との交渉も上手くまとまらず、請求のための準備も時間がかかることがあるでしょう。請求に時間がかかってしまうと、解決の見えない問題にストレスを感じて途中で挫折してしまうかたは意外と多くいらっしゃいます。

残業代請求が得意な弁護士は残業代請求にも精通していますので、スピード解決が見込めるでしょう。

今ある証拠だけでも請求が可能になる

もしいま手元に残業代請求の確実性を高めるだけの証拠がなかった場合でも、就業規則と給与明細などの最低限のものがあれば、弁護士はその証拠を元に会社へ請求することも可能です。

会社側の対応が変わる

残業代を支払わない会社は、「注意を受けないから払っていない」というところもあります。労働者個人で残業代請求をしても、正直“なめた対応を取られる”ことも考えられます。

しかし、弁護士に依頼すると会社に対しても本気度を伝えることができます。「内容証明郵便を弁護士名義で送っただけで、すぐに会社が応じてきた。」ということも往々にしてあります。

【関連記事】残業代請求を弁護士に依頼するメリット

残業代請求にかかる弁護士費用は?

弁護士費用と言っても複数の要素によって構成されており、内訳と相場は概ね下記のようになっています。

合計

 20~40万円+請求額の20%程度

相談料

 1時間当たり:0~1万円程度

着手金

 0~30万円程度

手数料など

 数万円程度

成功報酬

 請求額の20%程度

実費

 事務所による

日当・タイムチャージ

 事務所による

【関連記事】残業代請求の弁護士費用・相場はいくら?出来るだけ費用を抑えるコツも解説

残業代請求が得意な弁護士の選び方

いざ残業代請求を弁護士に依頼しようとしても、「どの弁護士に依頼すればいいのか?」と、お悩みの方も多いでしょう。こちらでは、残業代請求を弁護士に依頼する際の選び方をお伝えします。

残業代請求に実績のある弁護士

まず、弁護士によって得意不得意があることを知っておきましょう。離婚問題や、近隣問題などの民事トラブルや、逮捕後の弁護など刑事事件を得意とする弁護士など様々です。

弁護士として知名度が高くても、知り合いに弁護士がいても、その方が残業代請求を手掛けた経験が少ないのであれば、思っていた結果にならないこともあります。まずは、残業代請求を得意とする弁護士へと依頼することを肝に銘じておきましょう。

弁護士との相性が重要

労働問題を得意とする弁護士も複数いますので、さらにそこからどのようにして選んでいくかと言いますと、依頼者と弁護士との相性が最重要だと考えます。ここで言う相性とは、様々な要素が考えられます。

弁護士を選ぶにあたって、あなたは

  • 「優しい弁護士が良い」
  • 「しっかりした弁護士が良い」
  • 「とにかく費用を抑えたい」
  • 「親近感がある弁護士が良い」

 などの願望があるはずです。それに一番近い弁護士へ依頼すると、満足のいく結果になる可能性が高まるでしょう。

無料相談を活用し弁護士との相性を確認しよう

そうはいっても、普段弁護士との接点がある方も少ないでしょう。「優しいとか、どうやって判断するの?」と、思われた方も多いでしょうが、今は各弁護士事務所絶賛相談受付中です。(そうでない弁護士事務所もあります) 

通常、弁護士への相談は1時間5,000~10,000円程度の相談料がかかりますが、現在は相談料無料や初回無料などを実施している事務所もあります。それらを上手く使い、どの弁護士が自分と相性がいいのかを判断していきましょう。

残業代請求の交渉を有利に運ぶために把握すべき会社のブラック行為8つ

よく「うちの会社は残業代が出ないから・・・」と、残業代の請求を諦めている方がいますが、残業をすればそれに対応する賃金を請求する事ができるのが原則です。

これは、労働基準法という法律で決められている事です。会社が独断で「残業代は支払わない」と決定しても、法律で認められた権利が直ちに消滅するわけではありません。

ますは、企業が残業代の支給を免れようとするよくある手口を知っておきましょう。

1:残業代は出ない事を明言している場合

「そもそも、うちは最初から残業代が出ないことを説明している。」

「残業代が出ない旨を記載した雇用契約を締結している」

などの理由で、残業代を支払わない会社があります。しかし、企業側から一方的な説明によって法の定める労働者の権利が消滅するものではありません。また、残業代を支払わない旨の雇用契約を締結していても、これは違法な契約として無効となります。

法律には「任意規定」と「強行法規」という2種類の法律がありますが、残業代の支払義務は「強行法規」であり、当事者間の合意によってその適用を排除することはできないのです。

任意規定とは?

当事者間の合意があれば、その法規(法律)に優先するルールを定めることができるもの。

強行法規とは?

任意規定とは逆で、当事者間の合意があっても、その法規に優先するルールを定めることができないもの。つまり、強行法規に反するルールを当事者間で定めたとしても、そのルールは違法無効になるということです。

2:定時を過ぎるとタイムカードを切らせてから仕事をさせる

残業が発生する場合、とりあえず定時終業としてタイムカードを打刻させた後、タイムカードに記録しない状態で残業を行わせる会社があります。

このような運用をしても、残業行為を行った事実には違いはありませんので、会社は実際に行わせた残業時間に応じた賃金の支払義務を負うことになります。

会社の風土や慣習が会社全体で蔓延しているようなら、あなたひとりだけが率先して実際の退社時間にタイムカードを打刻する事は難しいかもしれません。

その場合、後日、未払の残業代を請求するためには、実際の退勤時刻を証明する証拠(PCのログオフ時刻、メールの送受信記録、個人的な業務日誌等)を残しておく必要があります。

3:月の残業時間上限を決めて超過分をカットしている

残業代は月20時間まで』というルールを定め、これを超える部分の残業代を支払わない会社がありますが、これも違法です。

上記のとおり、残業代の支払義務は法律(強行法規)で定められた義務ですので、会社の一方的な説明や労働者との合意によって上限を定めたとしても、無効です。

4:「年俸制だから」と残業代をカットしている

年俸制だから残業代は出ない」「残業代が出ない旨を記載した契約を締結している」という理由で、残業代を支払わない場合もありますが、年俸制であっても会社の残業代支払義務が消えることはありません。

この点、会社によっては「年俸制」と「定額残業代制」を複合的に導入しているケースもあるようですが、そのような場合でも会社の残業代支払義務が当然に消えることはありません。

例えば、「年俸額に○○時間分の定額残業代を含む」というようなルールが定められているケースが考えられます。

この場合、定額残業代(残業時間)を超過する部分について残業代支払義務を負うことは当然ですが、場合によっては定額分についても支払いを要求できる可能性があります。

5:会社で残業はさせず、家で仕事をさせる

残業代を発生させないために社内では定時で退勤させて、帰宅後に自宅で仕事をさせることもあります。自宅で仕事をしていても、会社からの指示があれば残業と考えられえるケースがあります。

しかし、自宅での業務処理は、これが残業代の支払対象となる「残業」であるかどうか微妙である場合もあります。

例えば、特に必要性が高くないのに自己判断によって自宅で業務した場合で、かつ当該業務について拘束性が乏しいという場合は残業時間には該当しない可能性が高いといえます。

少なくとも、自宅での業務について「残業」として賃金を請求するためには、

1:上司の指示によって自宅業務を行った場合

2:上司の許可を得た上で自宅業務を行った場合

3:どうしても自宅業務をしなければならなかった場合

といういずれかのパターンに該当することを立証しなければなりません。したがって、この場合の未払い分請求は立証の観点から難易度が高いと言わざるえないでしょう。

6:管理職になった途端残業代がカットされる

課長・部長は管理職だから」という理由で、残業代を支払わない会社がありますが、必ずしも管理職=残業代が支払不要ということにはなりません。

管理職と残業代の問題はじつは大きなテーマです(いわゆる「名ばかり管理職」の問題)。例えば、係長など下位の管理職の場合や管理職といっても名目上のものに過ぎない場合などは、会社は残業代の支払義務を免れられない場合があります。

このような「名ばかり管理職」の問題は、会社で労働者側が声を上げて会社に改善を求めたり、労働基準監督署に申告して当局からの指導が行われることで、改善に至るケースもあります。

7:残業時間を切り捨てる

退勤時刻は15分単位で切り捨てる」というルールを設けている場合です。意外とよくある社内ルールですが、単位未満の端数時間を切り捨てることは違法です。

法律的には、残業代は例え1分であっても請求が可能であり、これを会社が一方的に切り捨てることは、原則として許されないのです。

もっとも、会社が常に1分単位で労働時間を集計して残業代を計算しなければならないとすると事務処理上煩雑なケースが出てくるため、行政通達では、次のような例外を認めています。

1ヶ月の総労働時間について、「30分未満の切捨て、30分以上の1時間への切上げ」「15分未満の切捨て、15分以上の30分への切上げ」という処理を行うことは、必ずしも労働者に不利となるものではないため許される。(あくまで1ヶ月単位での処理であり、1日単位での処理は許されません。)

8:みなし労働時間制だから残業代は出ない

みなし労働時間制とは、1日の労働時間のうち、事業場外で業務を行う時間が含まれており、労働時間の算定が難しい場合にあらかじめ一定の労働時間を労働したものとみなす制度です。

労働時間を算定するには、実際の労働時間を把握することが必要ですが、外回りの営業マンなど、実際の労働時間を管理することが難しい場合に、一定時間労働したものとみなすことができる制度です。

この制度の適用がある場合、実労働時間の多寡に拘らず、労働時間は一定として計算されるため、実労働時間に対応する残業代は発生しないということになります。

営業手当と残業代は別物

なお、営業職の社員に対して「営業手当」といった名目で支払いをしていることを理由に、残業代の支払いを行わない会社があります。

しかし、営業手当が直ちに残業代の支払いであると評価されるものではありません

そのため、みなし裁量労働時間制の適用がない場合にはたとえ「営業手当」の支払いがなされていてもなお、会社が残業代の支払義務を免れないケースもありますので、留意が必要です。

未払い残業代が発生しやすい業界/職種とそれぞれの対処法

古くからある業界の体質や、残業代未払いそのものに対する意識の低い業界もありますが、残業代の未払いや不払いが多い業界にはどんなものがあるのかを確認していきたいと思います。

工事・土木関係の仕事

残業代未払いの事件数の中でも群を抜いて多い業界です。内装工事や道路・水道工事の仕事は時間が読めないことも多く、平均的にどこにいっても残業が多くなりがちです。

また、工事に関する仕事は、決まった時間の終わりではなく、その準備や報告、点検など業務は多岐に渡るのに対し、人手不足からか1〜2人といった少人数で対応させているところも多く、会社が従業員に慢性的な深夜残業をさせているという実態があるようです。

IT関係の仕事

代表的なのはSE(システムエンジニア)や、プログラマをされている方の残業問題です。職種柄、緊急の対応が求められることも多く、時間外労働が突発的に発生します。

さらに、急速にIT化が進行したため、業界自体の人材不足から知識技能を持った少数の従業員に仕事が集中し、残業が慢性化しているとも考えられます。

IT関係の会社は残業代を支払っていない会社が本当に多く、しかも他の業界よりも未払い残業代の額が大きい事も特徴です。

会社によっては残業代が出ないことを前提に人材募集しているところも少なくありませんが、これらの職種は労働時間の把握が比較的容易ですし、伸び率の高い企業が多いことから、適切に請求した場合残業代が任意で支払われることも多いようです。

居酒屋・ファッション関係の仕事

居酒屋の店長

居酒屋の店員の多くはアルバイトとして雇われており、そのような方は残業自体がない場合も多いですが、社員として稼働する方については残業が多くあるのに残業代が未払いとなっているという事例があるようです。

多くの場合、各店舗に社員として働いている方が数名いますが、多くの店で経費削減のためか、アルバイトの稼働を減らし、社員にサービス残業をさせている実態もあるといわれています。

ファッション・アパレル業界

ファッション業界は基本給そのものが低いため、残業を前提として働くしかないという実態があります。1日20時間近く働くことも多く、華やかなイメージからは程遠い過酷な職業です。

大手のファッション業界はそうでもありませんが、アルバイトであっても、日の売り上げが悪いと自社商品を実費で購入することを強要している場合が多いので、この業界の闇は深いと思われます。

英会話講師や塾講師の仕事

具体的な名前は出せませんが、

  • 「生徒のために残るのは当たりまえ」
  • 「生徒の成績もあげられないのに自分の給与の心配をするな」
  • 「有給を取りたいなんて結果を出してから言え」

こんな体育会系のことを平然という塾がありますが、法令違反となっている可能性があります。やめていく塾講師は、退職後に残業代の請求をするケースが多いようです。小さな塾の場合は集団で残業代請求をして倒産という事例も少なからず存在します。

まとめ

未払の残業代についての請求方法などをお伝えしてきましたが、参考になりましたでしょうか。

話合いで解決できれば御の字ですが、もし何かと理由をつけた反論(言い訳)をしてきた場合には、すぐに弁護士に相談してみましょう。未払い残業代の請求には請求期限もありますので、早めの対応をしておけば安心です。

この記事の監修者
梅澤 康二氏 :アンダーソン・毛利・友常法律事務所を経て2014年8月にプラム綜合法律事務所を設立。企業法務から一般民事、刑事事件まで総合的なリーガルサービスを提供している。

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