退職金は年末調整の対象に含まれる?退職所得の計算方法や確定申告が必要なケースを解説 |HR NOTE

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退職金は年末調整の対象に含まれる?退職所得の計算方法や確定申告が必要なケースを解説

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退職金は年末調整の対象となる所得には含まれませんが、所得税の課税対象ではあります。当記事では、なぜ退職金が年末調整の対象にならないのか、退職金に対する所得税の課税金額の計算方法、そして、退職金に対して確定申告が必要になるケースについてわかりやすく解説します。

そもそも年末調整とは?

年末調整とは、給与受給者の毎月(毎日)の給料や賞与などの支払いのときに源泉徴収した税額の総計と、その年の給与の総額に対して納めるべき税額を比較して、その過不足額を精算する手続きのことです。

過不足額が生じる原因として、源泉徴収徴収税額表は年間を通して毎月の給与に変動がないと仮定して作成されていることが挙げられます。

また、その年の途中に控除対象扶養親族の数が変化したとしても、変更後の給与の支払いから修正されるだけで、すでに源泉徴収をおこなった税額は修正されないことも理由として挙げられます。さらに、生命保険料控除や地震保険料控除などの控除は、年末調整の際に控除することも原因の一つです。

このように、その年の源泉徴収をおこなった税額と、実際に納めるべき税額に不一致が生じることが多いため、年末調整をおこない正しい納税額を確定させます。

退職金は年末調整の対象にはならない

退職金は、10種類に分類される所得のうち「退職所得」に該当し、年末調整の対象にはなりません。

年末調整の手続きが必要になるのは「給与所得」です。ただし、年末調整の手続きにおいて提出する「給与所得者の基礎控除申告書」などには、基礎控除や配偶者控除の控除額を計算するために、給与所得以外の所得も把握しておく必要があります。

退職金は年末調整の対象となる所得に含まれないため、自分で確定申告をする必要があると思っている従業員の方もいるかもしれません。

しかし、退職金は受け取る前に、前職の勤務先できちんと手続きを済ませれば、確定申告についてもおこなう必要はありません。

退職金と退職所得の違い

「退職金」とは、退職するときに勤務先から受け取る退職手当などのことです。一方、「退職所得」とは、退職金のうち課税される部分を指します。

たとえば、社会保険制度などにより退職に基因して受け取る一時金や、適格退職年金契約に基づき生命保険会社などから受け取る退職一時金なども、退職所得に含まれます。

また、労働基準法第20条により解雇の予告のときにおいて支払われる手当や、賃金の支払の確保等に関する法律第7条により退職者が当該事業主に代わって弁済を受ける未払賃金も退職所得に該当します。

このように、退職所得として課税される退職手当などは、退職に基因して一時的に支払われる給与に該当します。そのため、退職後に受け取る給与であっても、支払金額の計算基準などを考慮して、ほかの継続して勤務している方と同性質である場合には、退職所得ではなく、給与所得として扱われるのです。

退職所得を計算するには、退職所得控除額を求める必要があります。退職所得の計算方法は、ほかの所得と異なり、勤続年数に応じて退職所得控除額が変化します。ここからは退職所得の計算方法を紹介します。

退職所得の計算方法

退職所得控除額とは、退職所得の課税対象となる金額を計算する過程で、退職金などの収入金額から控除される額のことです。退職所得控除額は、勤続年数に応じて下記のように異なります。なお、勤続年数に1年未満の端数がある場合には、切り上げて1年として計算します。

勤続年数 退職所得控除額
20年以下 40万円×勤続年数(ただし、80万円に満たない場合は80万円)
20年超 800万円+70万円×(勤続年数-20年)

なお、障害者になったことが直接の理由で退職したと認められる場合には、退職所得控除額は、上記の方法で算出した額に、100万円が加算されます。

また、役員かどうかなどに応じて、退職所得金額の計算方法も異なります。特定役員退職手当等とは、役員等勤続年数が5年以下である方が、その役員勤続年数に対応した退職手当などを受けることです。

退職金などの区分 退職所得金額
一般退職手当等の場合 (一般退職手当等の収入金額-退職所得控除額)×1/2
特定役員退職手当等の場合 特定役員退職手当等の収入金額-退職所得控除額

さらに、令和4年1月1日以後には、短期退職手当等に該当する場合は、上記の計算方法とは異なる方法で計算されます。

年末調整は不要だが退職金にも所得税はかかる

退職金は、年末調整の対象にはなりませんが、退職所得に該当するため、所得税(復興特別所得税を含む)がかかるのです。

給与所得や事業所得、雑所得、一時所得などは、総合課税に該当し、各種の所得金額を合計して所得税額を計算します。総合課税には、累進課税制度が採用されており、課税対象の金額が増加するほど税率も上昇する仕組みとなっています。

一方、退職所得は分離課税です。分離課税とは、一定の所得については、ほかの所得金額とは合算しないで、分離して税額を計算する課税方法のことです。退職金は、長年の勤労に対する給与として一時的に支払われるものであることなどを理由に、分離課税が採用され、税負担が軽減されるような仕組みとなっています。

退職金の所得税率

退職金は分離課税となることをお伝えしましたが、分離課税の場合は、給与など総合課税の所得とは合算せず、退職金だけを分けて税金の計算をおこないます。

以下は、退職所得に対する分rに課税の所得税率を表にしたもので「退職所得の源泉徴収税額の速算表」といいます(累進課税)。

退職所得の源泉徴収額の速算表

(A)課税退職所得の金額

(B)所得税率

(C)控除額

税額=((A)×(B)-(C))×102.1%

195万円以下

5%

0円

(A)×5%)×102.1%

195万円超 

330万円以下

10%

97,500円

(A)×10%-97,500円)×102.1%

330万円超

695万円以下

20%

427,500円

(A)×10%-427,500円)×102.1%

695万円超

900万円以下

23%

636,000円

(A)×10%-636,000円)×102.1%

900万円超

1,800万円以下

33%

1,536,000円

(A)×10%-1,536,000円)×102.1%

1,800万円超

4,000万円以下

40%

2,796,000円

(A)×10%-2,796,000円)×102.1%

4,000万円超

45%

4,796,000円

(A)×10%-4,796,000円)×102.1%

 

参照:別紙 退職所得の源泉徴収税額の速算表|国税庁

所得税額に対して2.1%の復興特別所得税が課税されるため、最終的に掛け合わせるのは102.1%ということになります。

退職金は住民税もかかる

退職金には、住民税も課税されます。住民税は道府県民税と市区町村民税の2つを合算したもので、その年の1月1日現在の居住地である都道府県・市区町村から課せられるものです。

なお、退職金に課せられる住民税の算出にも所得税と同様の分離課税方式が用いられます。

退職金が非課税になる場合とは?

退職所得は、退職金から退職所得控除額を引いて求められます。そのため、計算された退職所得がゼロやマイナスになる場合には、所得税はかからず、非課税となります。

たとえば、勤続年数が12年10カ月の一般的な会社員で、退職金が500万円の場合の退職所得を計算してみましょう。勤続年数の1年未満の端数は切り上げるため、計算式の勤続年数は13年になります。

退職所得=(退職金:500万円-退職所得控除額:40万円×13)×1/2=-10万円

 

したがって、退職所得はマイナスになるため、この場合は非課税になります。また、被相続人の死亡により、死亡後3年以内に確定した退職金が相続人などに支払われる場合については、その退職金は相続税の課税対象に該当するため、所得税の課税対象にはなりません。

例外的に退職後に確定申告をおこなった方良いケース

原則として退職金への確定申告は不要ですが、退職のタイミングなどによっては確定申告をおこなった方がよいケースもあります。

たとえば、確定申告をおこなうことで納付した税金の一部が還付される可能性があります。

退職後、確定申告をおこなった方が良いケースについて詳しく紹介します。

①所得控除を受けたい場合

所得控除は全部で15種類あり、具体的には、住宅ローン控除、寄付金控除、医療控除、雑損控除、社会保険や生命保険、地震保険や扶養親族関連の控除などがあります。

退職の有無に関わらず、これらの控除を受けたい場合には確定申告をする必要があります。

②年の途中で退職して年末調整をしていない場合

給与所得者の場合は、毎月の給与や賞与の源泉徴収によって所得税を納め、年末調整をおこなうことで正確な納税額を算出します。社会保険料控除や基礎控除、扶養控除などの所得控除は、年末調整をおこなう際に適用されます。

しかし、その年の途中で退職したことで年末調整がされていないと、これまで源泉徴収税として天引きされていた所得税が精算されないままの状態になったり、所得控除が適用されないなど、所得税を本来よりも多く納めすぎてしまっている可能性があるのです。

このようなケースでは、退職所得を含めた確定申告をおこなうことによって源泉徴収税が還付されます。また、失業保険には所得税は発生しないため、退職後に失業保険を受け取っている場合の確定申告は不要です。

③退職時に「退職所得の需給に関する申告書」を提出していない場合

「退職所得の受給に関する申告書」とは、退職金を受け取る従業員が、退職金の支払者である勤務先に対して提出する申告書のことです。この申告書を提出すれば、源泉徴収により退職所得の課税関係が完了するため、原則として確定申告をおこなう必要がなくなります。

しかし、退職時に「退職所得の受給に関する申告書」を提出していない場合は、退職所得控除が適用されません。そのため、一律20.42%の所得税や復興特別所得税が徴収されている状態になります。

この場合は、確定申告をおこなうことで、源泉徴収の還付を受けることが可能です。

④転職先で前職の源泉徴収票を提出していない場合

会社を退職し、新たな会社に転職する場合、基本的に退職した会社から受け取った給与が年間で20万円以下であれば確定申告をする必要はありません。

しかし、転職先の新たな会社で年末調整をおこなう際に、退職した会社で天引きされていた源泉徴収が含まれていない場合があります。この場合も、確定申告をおこなうことで源泉徴収の還付を受けられる可能性があります。

⑤事業所得や不動産所得で赤字が発生した場合

不動産経営をしている人が退職をし、退職した年に赤字が出たり、退職後に始めた事業所得が赤字になるような場合は、確定申告をすることで退職所得との損益通算が可能です。

このような場合では、退職所得と損益通算をする前に、給与所得、配当所得、雑所得とを損益通算します。そして、それでも損益通算ができない赤字がある場合にのみ、退職所得との損益通算ができます。

退職後の確定申告が必須になるケース

退職金に対しては年末調整も確定申告も原則おこなう必要はありませんが、退職後の所得状況によっては退職金とば別の観点から確定申告をおこなう必要が出てくるケースがあります。

ここでは、退職後に確定申告が必要になるケースを紹介します。

①公的年金等に係る雑所得以外の所得金額が20万円を上回る場合

公的年金にかかる雑所得以外の所得金額が20万円を上回る場合にも確定申告が必要です。

ここでいう所得では、次のような所得を指します。

  • 給与所得
  • 配当所得
  • 一時所得
  • 雑所得(公的年金などの雑所得以外)

さらに、各所得の具体的な例としては、配当所得では株式の配当など、一時所得では生命保険の満期返戻金、雑所得では原稿料や個人年金などが挙げられます。

②公的年金等の収入金額が合計400万円を上回る場合

その年の公的年金などの収入金額が400万円を上回る場合にも確定申告が必要です。

複数の機関から公的年金などを受給しているケースでは、その受給金額の合計額が確定申告の対象となるため、計算する際は加算し忘れることがないように注意しましょう。

退職金は年末調整不要だが場合に応じて確定申告をおこなおう

退職金は、退職所得に含まれ、年末調整の対象ではありません。退職所得は分離課税に該当し、勤務年数などに応じて退職所得控除額が異なります。

なお、「退職所得の受給に関する申告書」を提出すれば、源泉徴収により課税関係が終了するため、確定申告をおこなう必要がなくなります。

ただし、「退職所得の受給に関する申告書」を提出していない場合や、医療費控除や寄付金控除などの年末調整で手続きのできない控除を受けたい場合などは、確定申告をおこなう必要があります。このように、退職金がある場合は、従業員によって対応が異なるため、正しい知識を身に付けることが大切です。

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