従業員が退職する際には、退職者から提出してもらうもの、逆に会社から退職者に渡さなければいけないものがあります。この記事では、会社と退職者双方にとって後々のトラブルにならないために、退職手続きに必要となる書類や対応について詳しく紹介します。
社会保険料の支払いは従業員の給与から控除するため、従業員が入退社した際の社会保険の手続きはミスなく対応しなければなりませんが、対象者や申請期限、必要書類など大変複雑で漏れやミスが発生しやすい業務です。
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ガイドブックでは社会保険の対象者から資格取得・喪失時の手続き方法までを網羅的にわかりやすくまとめているため、「社会保険の手続きに関していつでも確認できるガイドブックが欲しい」という方は、こちらから資料をダウンロードしてご覧ください。
目次
1. 退職時に会社側がおこなうべき保険・税金の手続き
従業員が退職を申し出た場合、会社側がすべき手続きがいくつかあります。この手続きが滞ってしまうと、「会社側が退職手続きをしてくれない」「退職手続きが遅い」などといった従業員の不満につながります。ここでは会社側がおこなうべき手続きについて紹介するので、しっかりと確認しておきましょう。
1-1. 退職手続きは何日前から開始する?
退職する際、民法上では従業員が14日前までに退職の意思表示をすればよいと定められています。退職する際には退職手続き以外にも、業務の引継ぎなど社内の整理も必要なので、就業規則に「退職する際は1カ月前に申し出る」と定めている企業もあります。
契約社員のように期間の定めのある労働契約を結んでいる場合を除いて、従業員が退職を申し出てから退職するまでの期間は最短で14日です。会社側は退職日までにスムーズに退職手続きを進めましょう。
1-2. 雇用保険の資格喪失手続き
退職手続きをするなかで、会社側がすべきことの1つに、雇用保険の資格喪失手続きがあります。雇用保険の資格喪失手続きをする際には、「雇用保険被保険者資格喪失届」と給付額などの決定に必要な「 雇用保険被保険者離職証明書」を準備しなければなりません。この2つの書類を事業所を管轄する公共職業安定所長に、従業員の退職日の翌々日から10日以内に提出しましょう。
以下の厚生労働省のサイトで、雇用保険の資格喪失手続きに関する詳しい内容が解説されています。書き方がわからない場合などは、参考にしながら手続きを進めましょう。
1-3. 健康保険と厚生年金の資格喪失手続き
従業員が退職する場合、健康保険と厚生年金の資格喪失手続きもおこなう必要があります。退職後5日以内に「健康保険・厚生年金被保険者資格喪失届」を作成し、事業所の所在地を管轄する日本年金機構または健康保険組合に届け出なければなりません。
健康保険証を回収して返却することも必要です。扶養家族分がある場合はすべて回収して返却しましょう。
厚生年金と健康保険は、原則退職日の翌日が資格喪失日となります。保険料は資格喪失日の前月まで生じるため、末日が退職日の場合、資格喪失日が月をまたいでしまい保険料が1カ月多く発生します。
以下の日本年金機構のサイトでは、厚生年金と健康保険の資格喪失手続きに関する詳しい内容が解説されています。書き方がわからない場合などは参考にしながら手続きを進めましょう。
1-4. 住民税の手続き
住民税に関する手続きも忘れないようにしましょう。住民税の手続き内容は、すぐに転職しない場合と転職先が決まっている場合で異なります。
(1)すぐに転職しない場合
転職先が決まっていない場合、退職後は退職者自身で住民税を納入しなければなりません。住民税は基本的に会社に所属している間、給与から天引きして翌月10日に従業員が居住している市町村に納付する特別徴収という形が取られています。従業員が退職すると特別徴収ができなくなり、普通徴収に切り替える必要があるため市町村に届け出なければなりません。
その際に会社側が作成しなければならない書類は「給与支払報告」と「特別徴収に係る給与所得者異動届出書」です。届け出をすることで、退職者に住民税の通知が郵送され、退職者自身で住民税を納入することになります。
なお住民税は6月で年度が切り替わるため、退職月によって扱いが異なり、すぐに転職しない場合であっても普通徴収に切り替わらないこともあります。
(2)転職先が決まっている場合
新しい就業先で受け取る給与から住民税を天引きする場合は、新たな就業先が「特別徴収継続の届出」を提出します。このような場合は「給与支払報告」と「特別徴収に係る給与所得者異動届出書」を退職者が新たな就業先に提出しなければならないため、すみやかに作成して退職者に渡しましょう。
1-5. 所得税の手続き
従業員が退職するときは、所得税の手続きも必要です。所得税に関して会社側がおこなうべきことは、「源泉徴収票」を退職者に渡すことです。退職する年の1月1日から最終支給給与(退職金は除く)までの源泉徴収票と退職金がある場合は、退職金の源泉徴収票を退職後1カ月以内に発行します。
退職者が退職した年に転職をした場合は、新たな就職先に源泉徴収票を提出して、新たな就職先での源泉徴収額と合わせて年末調整をします。
退職時の源泉徴収票に関しては、以下のサイトを参考にして記入してみてください。
参照:[手続名]退職所得の源泉徴収票(同合計表)|国税庁
2. 会社側がおこなう退職手続きのフロー
時系列ごとにやるべきことを説明すると、以下のような流れになります。
- 退職日の2週間前以前
退職者からの退職意思の確認、退職届の受け取り。 - 退職者の最終出勤日
社員証、名刺、その他貸与物の回収。雇用保険被保険者証、年金手帳の返却。 - 退職日
健康保険証の回収。
- 退職日の翌々日から10日以内
ハローワークへ行き離職票を発行してもらい、郵送する。 - 最終の給与計算確定後
源泉徴収票の発行と郵送。(給与明細に同封して送るとスムーズです)
それぞれの内容について詳しく確認しておきましょう。
2-1. 14日以上前に退職届を受理する
民法や就業規則に従って退職の意思が示された場合、会社側は基本的に拒否することはできません。退職届を受理したら、すみやかに手続きをスタートしましょう。
また、口頭で退職の意思を示してもらうことも可能ですが、記録を残すために退職届を提出してもらうのが一般的です。
2-2. 社員証・名刺・健康保険証などを回収する
従業員へ貸し出しているものは、退職日か最終出勤日までに回収しましょう。具体的には以下のようなものが挙げられます。
- 社員証
- 名刺
- パソコン
- スマートフォン
- タブレット
- 健康保険証
従業員に扶養家族がいる場合は、全員分の健康保険証を回収しなければなりません。回収した健康保険証は、「健康保険・厚生年金被保険者資格喪失届」と一緒に、資格喪失日から5日以内に年金事務所へ提出しましょう。
2-3. 退職日の翌々日から10日以内に離職票を発行する
ハローワークへ「雇用保険被保険者資格喪失届」と「 雇用保険被保険者離職証明書」を提出して、離職票を発行してもらいます。期限は、退職日の翌々日から10日以内です。離職票を受け取ったら、退職した従業員へ郵送する必要があるため、住所を確認しておきましょう。
2-4. 源泉徴収票を発行する
最後の給与額が確定したら、源泉徴収票を発行します。源泉徴収票は、新しい職場で年末調整をしたり確定申告をしたりする際に必要です。退職後1カ月以内に交付しなければならないため、遅れないように注意しましょう。
3. 会社から退職者へ渡す書類のチェックリスト
会社から退職者へ、以下の5点を渡しましょう。
- 離職票
- 雇用保険被保険者証
- 年金手帳
- 源泉徴収票
- 「給与支払報告」と「特別徴収に係る給与所得者異動届出書」
3-1. 離職票
正式には「雇用保険被保険者離職票」と呼びます。離職票は、退職者が一般的な失業手当の給付を受ける際に必要な書類です。
次の職場が決まっている場合は不要ですので、退職者に離職票の発行を希望するかどうかを確認しておきましょう。ただし、退職者が59歳以上の場合、高年齢雇用継続給付金の給付額を決めるために離職票を必ず交付しなければなりません。
3-2. 雇用保険被保険者証
退職者が次の職場へ提出する場合や、教育訓練給付金の支給を受ける場合に必要となります。会社で預かっている場合は退職者に返却しましょう。
3-3. 年金手帳
厚生年金の加入者であることを証明する書類です。退職者が国民年金に変更するときに必要となります。一般的には従業員が自己管理するものですが、もし会社で預かっている場合は、こちらも退職者に返却してください。
3-4. 源泉徴収票
退職者が所得税の確定申告をする際に必要です。また、転職先が決まっている場合は転職先に提出することになりますので必ず発行してください。
3-5. 「給与支払報告」と「特別徴収に係る給与所得者異動届出書」
退職者が住民税の徴収手続きをするために必要な書類です。転職するかしないかに関わらず、必要な書類なので、必ず発行してください。
ここまで解説したように、退職者へ渡すべきものは5つあります。これらの書類はあらかじめ作成しておいたり、発行するための準備をしておいたりするとスムーズに対応できます。
また、万が一、渡すタイミングが遅くなってしまうと、失業手当が受け取れなかったり、退職者が転職先で雇用保険に加入できなかったりと、労使間トラブルにつながる可能性があるため注意が必要です。
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4. 会社が退職者に提出してもらう書類のチェックリスト
退職者からは以下のようなものを提出・返却してもらいましょう。
- 退職届
- 健康保険証
- 名刺
- 会社の備品
- 書類やデータ
4-1. 退職届
退職は、従業員からの口頭での意思表示でも成立します。前述の通り、民法上では14日前までに退職の意思表示をすれば良いと定められています。しかし、口頭での意思表示のみで退職が決まってしまうと、後々「言った言わない」のトラブルに発展しやすくなってしまいますので、必ず退職届を作成し、提出してもらうようにしましょう。
社内で決まった退職届のフォーマットが無い場合は、「退職の意思・退職の理由(一身上の都合など)・退職日・氏名」を記載して押印したものを提出してもらいましょう。ただ、退職の理由が契約社員やパートなどの契約期間終了による雇止めの場合には、提出してもらう必要はありません。
また、退職の理由が会社都合での解雇や懲戒解雇の場合は、逆に会社側から解雇通知書(解雇予告通知書)を退職者に渡す必要があります。また、退職者から請求があった場合、解雇理由証明書の交付が必要です。
4-2. 健康保険証
社会保険の場合、社員は会社を通じて健康保険に加入しています。つまり、会社を退職すると現在所持している保険証は無効になってしまいます。また、会社は保険証を日本年金機構に返却しなければならないので、保険証は退職日に必ず返却してもらいましょう。
なお、保険証は退職日いっぱいまで有効となります。そのため、社員から「退職日に使うので翌日返したい」という申し出があった場合には、保険証のコピーを渡し、保険証本体は当日預かってしまうのがよいでしょう。
4-3. 名刺
会社で作成した場合はもちろんのこと、自作した名刺であっても、すでにその名刺は役割を終えています。社名が入っているものなので、こちらも返却対象です。
そして、忘れがちなのが取引先からもらった名刺です。会社にとって最も重要な個人情報の一つであるため、必ず受け取るようにしましょう。
4-4. 会社の備品
会社に所有権がある物は必ず返してもらいましょう。パソコン、携帯、制服など、会社によって貸与品や備品は異なります。退職者自身がもらったと勘違いしていることもありますので、会社側から返却物のリストを渡しておくと抜け漏れなくスムーズに対応できるでしょう。
4-5. 書類やデータ
一見価値がないように見えても、「機密情報」にあたるものはたくさんあります。たとえば、サンプル品や提案済の資料、過去のレポート、ボツになった開発データなどです。こういったものは後日トラブルになる可能性があります。回収するのか、破棄するべきか、あらかじめ指示しておきましょう。
5. 会社側の退職手続きに関する注意点
5-1. 返却必須の物はできるだけ手渡しする
必ず返却してほしいものは、できる限り手渡しで返却してもらうようにしましょう。ただし、社員が残った有給休暇を消化しているなど、手渡しが難しい場合もあります。そのような際には、郵送による返却に対応することも考えておきましょう。
ただし、郵送の場合は返却が遅れたり、場合によっては返却しないまま音信不通になってしまうこともあり得ます。必ず返してほしいものは、なるべく手渡しでおこなうようにしましょう。
5-2. 保険証は退職日に必ず返却してもらう
保険証は日本年金機構から貸与されているので、退職した場合にはすみやかに同機構へ返却しないといけません。原則として、この手続きは会社がおこなうため、保険証は確実に返却させるようにしましょう。
具体的な手続きとして、会社は退職日から5日以内に、「資格喪失届」と健康保険証を日本年金機構に提出する必要があります。ただし、本人が直接日本年金機構に郵送することも可能です。提出期限が迫っている場合には、こちらの方法を勧めましょう。
また、保険証は扶養家族がいる場合、全員分返却してもらう必要があります。もし、保険証の一部または全部がやむを得ない事情で返却できない場合には、「健康保険被保険者証回収不能届」を提出しなければなりません。
申請方法などがわからない場合は、以下の全国健康保険協会サイトを参考にしてみてください。
5-3. 必ず返してほしい物は期限を決める
返却物について、会社側が把握しているだけでは足りません。返却率を上げるためには、退職者にきちんと知らせておく必要があります。可能であれば返却物リストを作り、あらかじめ渡しておきましょう。必ず返してほしい物には提出期限をつけるとより良いでしょう。
5-4. 個人情報は5年間保管する
従業員の個人情報が書かれた書類は、5年間保管する必要があります。退職したからといって、すぐに破棄することはできません。労働基準法109条によって、労働者名簿や賃金台帳など、労働に関する重要な書類の保管が義務付けられているため注意しましょう。
6. 会社側の退職手続きを効率化するポイント
従業員が退職する際、会社側はさまざまな手続きをおこなう必要があります。ここでは退職手続きを効率化するポイントを紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
6-1. 労務管理システムを導入する
労務管理システムとは、入社・退職の手続きや、勤怠管理や給与計算、社会保険の手続きなどを効率よくおこなえるシステムです。退職する従業員のデータを登録しておけば、退職の際に会社側が準備しなければならない書類とToDoリストを自動作成できる労務管理システムもあります。
労務管理システムでは、社会保険や雇用保険の資格喪失届、源泉徴収票の作成ができるため、退職手続きの業務量を大幅に削減できます。また、手書きでの作成に比べて、期間や金額の計算などのミスを防ぐことも可能です。
法律の改正に伴って税率や保険料が変動したときにも自動で対応するため、法改正時に変更点を間違えるリスクもなくすことができます。
6-2. 電子申請を利用する
電子申請を利用することも退職手続きを効率よく進めるポイントのひとつです。政府が提供する「e-Gov」を利用すれば、必要な書類をインターネット上で作成・提出することが可能です。
年金事務所などへ出向く必要がなくなるため、交通費を削減しつつ、業務効率化を図れるでしょう。
6-3. 作業リストやスケジュール表を作成する
作業リストやスケジュール表を作成することも大切です。退職手続きのなかでは、さまざまな書類をスケジュール通りに作成する必要があるため、抜け漏れが生じたり、手順に悩んだりするケースもあります。
スムーズに作業を進めるためにもチェックリストを作成しておくとよいでしょう。会社側で確認するのはもちろん、従業員へも渡しておけばミスの防止につながります。
7. 会社側がすべき退社手続きを理解しておこう!
退職の際は、健康保険証、社員証、貸与品、機密事項の記載された書類などを返却してもらう必要があります。保険証や社員証はわかりやすいですが、他の物については返還の必要がないと勘違いしている可能性もあるでしょう。できる限り、会社側から返却を促すようにしてください。
会社側からは、離職票、雇用保険被保険者証、年金手帳、源泉徴収票を渡しましょう。ただし、源泉徴収票以外は場合によっては、渡さなくて良い場合もあります。いざ従業員の退職が決まってから慌てることのないよう、貸与物のチェック表を作成するなどして、普段から管理をしておきましょう。
サンプル品や、提案済の資料、過去のレポート、ボツになった開発データなどの会社に関係するデータは機密事項にあたるものも多くあります。こういったものは返却に関して後日トラブルになるケースもあります。回収するのか、破棄する必要があるのかなどをあらかじめ指示しておきましょう。
社会保険料の支払いは従業員の給与から控除するため、従業員が入退社した際の社会保険の手続きはミスなく対応しなければなりませんが、対象者や申請期限、必要書類など大変複雑で漏れやミスが発生しやすい業務です。
当サイトでは社会保険の手続きをミスや遅滞なく完了させたい方に向け、「社会保険の手続きガイド」を無料配布しております。
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