中抜けシフト自体は違法ではありません。しかし、中抜けが発生する場合、休憩や残業時間、有給休暇、交通費など、勤怠管理が煩雑になる可能性があります。この記事では、中抜けの勤怠管理上の取り扱いや就業規則でのルールの定め方について解説します。また、フレックスタイム制やテレワークなどの働き方に応じた中抜けの扱い方も紹介します。
働き方改革が始まり、法改正によって労働時間の客観的な管理や年次有給休暇の管理など、勤怠管理により正確さが求められることとなりました。
しかし、働き方改革とひとことで言っても「何から進めていけばいいのかわからない…」「そもそも、法改正にきちんと対応できているか心配…」とお悩みの人事担当者様も多いのではないでしょうか。
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目次
1. 中抜けとは?
中抜けとは、勤務時間中に職場を抜け出し、業務から離れることを意味します。中抜けには、「会社都合による中抜け」と「私用による中抜け」の2種類があります。ここでは、それぞれの中抜けの意味について詳しく紹介します。
1-1. 会社都合による中抜け
会社都合による中抜けは、主に観光業界や医療業界、飲食業界などでよく見られます。これらの業界では、1日のなかで忙しい時間帯とそうでない時間帯がはっきりしています。そのため、間の時間を中抜けとすることもあります。会社都合で中抜けさせる場合でも、ノーワーク・ノーペイの原則により、その時間における賃金の支払いは不要です。ただし、中抜けの取り扱い方を明確にしておかなければ、労働基準法に違反し、罰則が課せられる恐れもあるので注意が必要です。
1-2. 私用による中抜け
私用による中抜けは、従業員のプライベートな理由で発生する中抜けのことです。たとえば、保育園や幼稚園にいる子供を迎えに行く場合や、眼科や歯医者に通院する場合などが挙げられます。私用による中抜けも認めることで、従業員のワークライフバランスの実現につながります。ただし、制度をきちんと整備せず、無断での中抜けが発生すると、適切に勤怠管理ができなくなるので注意が必要です。
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2. 中抜けの勤怠管理上の取り扱い
中抜けの勤怠管理上の取り扱いには大きく3種類あります。ここでは、それぞれの取り扱いについて詳しく紹介します。
2-1. 中抜けを休憩時間として扱う場合
中抜けの時間は休憩時間として取り扱うことが可能です。ただし、既に労働時間に応じた休憩時間を一斉付与している場合で、中抜けが発生すると、1日の労働時間にズレが生じることになります。
たとえば、所定労働時間が9時から18時まで(休憩時間は12時から13時まで)の企業で、14時から16時までの2時間、中抜けが発生するとします。このような場合、所定労働時間のみに労働させると、実労働時間は6時間となり、賃金控除が必要になる可能性があります。
そのため、中抜けを休憩時間として取り扱う場合、始業時間を前倒しにするか、終業時間を後ろ倒しにして対応することが多いです。終業時間を2時間後ろ倒しにすれば、20時が終業時間となり、所定労働時間と同様の労働時間を確保することができます。ただし、始業・終業時刻を変更する場合、あらかじめ就業規則に明記しておく必要があります。
2-2. 中抜けを時間単位の有給休暇として扱う場合
中抜けの時間を年次有給休暇を利用して相殺することもできます。たとえば、1日8時間労働の企業で、2時間の中抜けが発生する場合、2時間分の年次有給休暇を利用すれば、1日8時間働いたことになります。そのため、始業時間を早めたり、就業時間を遅らせたりする必要はありません。ただし、有給休暇を時間単位で取得できるようにするには、労使協定の締結や就業規則への明記が必要になります。労働基準法第39条、労働基準法施行規則第24条の4に則り、労使協定においては、次のような内容を定める必要があります。
- 時間単位の有給休暇を取得できる日数(5日以内)
- 時間単位の有給休暇を取得できる対象者
- 時間単位の有給休暇の1日分の時間数
- 時間単位の有給休暇を付与する最低単位
④ 使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、次に掲げる事項を定めた場合において、第一号に掲げる労働者の範囲に属する労働者が有給休暇を時間を単位として請求したときは、前三項の規定による有給休暇の日数のうち第二号に掲げる日数については、これらの規定にかかわらず、当該協定で定めるところにより時間を単位として有給休暇を与えることができる。
一 時間を単位として有給休暇を与えることができることとされる労働者の範囲
二 時間を単位として与えることができることとされる有給休暇の日数(五日以内に限る。)
三 その他厚生労働省令で定める事項
第二十四条の四 法第三十九条第四項第三号の厚生労働省令で定める事項は、次に掲げるものとする。
一 時間を単位として与えることができることとされる有給休暇一日の時間数(一日の所定労働時間数(日によつて所定労働時間数が異なる場合には、一年間における一日平均所定労働時間数。次号において同じ。)を下回らないものとする。)
二 一時間以外の時間を単位として有給休暇を与えることとする場合には、その時間数(一日の所定労働時間数に満たないものとする。)
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2-3. 中抜けを1日2回の勤務として扱う場合
中抜けをする場合、1日2回勤務として取り扱うことで対応する方法もあります。この場合、中抜けの時間を休憩時間として扱わないため、適切なタイミングで休憩時間を従業員に付与する必要があります。労働基準法第34条により、次のように労働時間に応じた休憩時間を与えなければなりません。
- 労働時間が6時間超え8時間以下の場合:45分以上
- 労働時間が8時間超えの場合:1時間以上
たとえば、朝6時間半(1回目勤務)、中抜け2時間、夜6時間半(2回目勤務)の場合を考えてみましょう。この場合、中抜けの時間を休憩時間として取り扱わないため、別で休憩を付与する必要があります。労働時間は1日単位で考えるため、この場合の労働時間は13時間となり、少なくとも1時間の休憩時間を付与すれば違法にはなりません。つまり、朝の勤務中のどこかで1時間休憩を確保すれば、夜は休憩を取得しなくても問題ありません。
(休憩)
第三十四条 使用者は、労働時間が六時間を超える場合においては少くとも四十五分、八時間を超える場合においては少くとも一時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない。(省略)
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3. 中抜けに関する注意点
中抜けを導入・運用していくなかで、注意すべきことは多くあります。ここでは、中抜けに関する注意点について詳しく紹介します。
3-1. 会社都合の移動時間は中抜けに含まない
会社都合による移動時間は、原則として、中抜けにあてはまりません。移動時間が中抜けに該当するかは、使用者の指揮命令下に置かれているかどうかで判断します。たとえば、会社の指示で移動している最中にリモートで仕事をしている場合、その時間を労働時間に含める必要があります。また、私用の中抜けによる移動時間であっても、電話やメールなどで仕事を依頼すると、中抜けでなく労働時間に該当する可能性があるので注意が必要です。
3-2. 深夜労働の割増賃金に注意が必要
中抜けを休憩時間として取り扱い終業時間を繰り下げる場合や、中抜けにより1日2回勤務をおこなわせる場合、所定労働時間より遅い時間に働かせることになる可能性があります。22時から翌5時までに働かせた場合、深夜労働に該当し、割増賃金を支払う義務が生じます。なお、深夜労働の割増率は25%以上です。また、残業が発生した場合、時間外労働の割増賃金も支払わなければならないので気を付けましょう。
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3-3. 法定労働時間を超える場合は36協定が必要
中抜けにより、始業時間や終業時間を変更することもあるかもしれません。労働基準法第32条により、法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えての労働は禁止されています。ただし、労働時間は休憩時間を除いて計算される点に注意が必要です。中抜けがあり、始業・終業時間が変わっても、1日8時間、週40時間までに収まっていれば法律的に問題ありません。
しかし、中抜けによって残業が発生した場合、法定労働時間を超える恐れもあります。このような場合、あらかじめ36協定を締結しておくことで、法定労働時間を超えて残業させることが可能になります。なお、36協定を結んだとしても、時間外労働には上限があります。また、休日労働が発生する場合にも36協定は必要になるので気を付けましょう。
(労働時間)
第三十二条 使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。
② 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。
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3-4. 労働基準法に違反すると罰則の可能性あり
中抜けによって発生した割増賃金を正しく支払わなかったり、36協定を締結せず時間外労働をさせたりすると、労働基準法に違反することになります。このような場合、労働基準法に基づき、6カ月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金の罰則が課せられる可能性があります。また、労働基準法に違反した会社として企業名が公表され、社会的信頼を損なうリスクもあります。このようなペナルティを受けないためにも、あらかじめ法律に基づき中抜けの取り扱いを細かく決めておくことが大切です。
4. 中抜けの働き方に応じた取り扱い
近年では働き方改革の影響もあり、多様な働き方が推進されています。中抜けの取り扱いは働き方によって異なることもあります。ここでは、中抜けの働き方に応じた取り扱いについて詳しく紹介します。
4-1. 残業中
36協定を結んでいれば、時間外労働や休日労働が発生しても問題ありません。残業中に中抜けをしなければならないケースもあります。残業は臨時的に発生する労働とみなされるので、時間単位の有給休暇は利用することができません。そのため、残業中に中抜けする場合、休憩時間として取り扱うようにしましょう。
4-2. フレックスタイム制
フレックスタイム制とは、一定期間の総労働時間を定めたうえで、コアタイムやフレキシブルタイムを設け、従業員がその範囲で自由に始業時間や終業時間を決められる制度のことです。フレックスタイム制を採用している場合、フレキシブルタイムであれば、労働者が自由なタイミングに出勤・退勤して仕事をすることができます。そのため、フレキシブルタイム中の中抜けは、従業員自身で清算期間において労働時間を調整すれば問題ありません。一方、コアタイム中に中抜けが必要になる場合、「賃金控除をする」「時間単位の有給休暇を申請する」など、事前に取り扱いを決めて就業規則に定めておくことが大切です。
関連記事:フレックスタイム制とは?メリット・デメリットなどをわかりやすく解説
4-3. 裁量労働制
裁量労働制とは、あらかじめ労使間でみなし労働時間を定めて、その時間を働いたものとみなし、賃金を計算して支払う制度のことです。裁量労働制を採用する場合、従業員の裁量で働き方を決められるので、中抜けは自由におこなうことができます。ただし、裁量労働制であっても、深夜労働が発生した場合、割増賃金の支払義務が生じるので注意が必要です。
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4-4. テレワーク中
テレワーク中でも、原則として、オフィス出社時と同様の中抜けの規定が適用されます。しかし、テレワークの場合、労働時間の管理がしにくいために中抜けが禁止されているケースもあります。また、中抜けをする場合、事前に上司に連絡するなど、細かく規定が定められているケースもあります。このように、テレワーク中の中抜けを可能にする場合、従業員とトラブルを生まないためにも、事前にルールを明確にしたうえで就業規則に明記しておくようにしましょう。
5. 中抜けのルールの設定方法
中抜け制度を導入することで、従業員のワークライフバランスの実現につなげることができます。しかし、正しく制度を整備しなければ、労働基準法に違反するなどのリスクもあります。ここでは、中抜けのルールの設定方法について詳しく紹介します。
5-1. 中抜けの取り扱いを決める
中抜けは法律で定められているわけではないので、禁止したとしても問題ありません。しかし、中抜け制度があることで、従業員は仕事と育児・介護などを両立しやすくなり、定着率を高め、優秀な人材を確保することができます。ただし、中抜け制度を導入する場合、仕組みをきちんと決めておかないと、勤怠管理が煩雑になり、いわゆる「サボり」をする従業員が生じる恐れもあります。
まずは中抜けの時間を「賃金控除」「休憩時間」「時間単位の有給休暇」など、どのようにして取り扱うのかを決めましょう。また、正しく勤怠管理や給与計算をおこなうため、中抜けする際の申請方法やルールも明確にしておくことが大切です。
5-2. 就業規則に明記する
中抜けルールを決めたら、就業規則に明記しましょう。労働基準法第89条により、常時10人以上の従業員を雇用している企業は、就業規則の作成・届出義務があるので注意が必要です。また、就業規則には、始業・終業時刻や休憩時間、休暇、賃金の計算方法などを定めなければならないと決められているため、法律に基づき正しく就業規則を作成しましょう。
(作成及び届出の義務)
第八十九条 常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
一 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項
二 賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
(省略)
5-3. 従業員に周知する
労働基準法第106条では、就業規則の周知義務が定められています。中抜け制度を就業規則に定めたら、正しい方法で従業員に周知しましょう。ルールをきちんと理解してもらうため、研修やセミナーを設けるのも一つの手です。また、実際に中抜け制度を導入・運用したら、定期的に評価・見直しをして、制度の改善に努めましょう。
(法令等の周知義務)
第百六条 使用者は、この法律及びこれに基づく命令の要旨、就業規則、(省略)に規定する決議を、常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること、書面を交付することその他の厚生労働省令で定める方法によつて、労働者に周知させなければならない。
(省略)
6. 中抜けに関するよくある疑問
ここでは、中抜けに関するよくある疑問について詳しく紹介します。
6-1. 中抜けシフトは労働基準法違反なのか?
中抜けシフトは、労働基準法違反ではありません。中抜けシフトとは、1日において時間帯によって繁閑の差が極端である場合に、朝と夜などの間に長い中抜けの時間を設けるシフトのことです。中抜けシフトは、通しシフトとともにリゾートバイトなどでよく用いられています。ただし、中抜けシフトを採用する場合、休憩時間を正しいタイミングで付与することを心がけましょう。
関連記事:労基法違反?休憩時間について人事が知っておくべきこと
6-2. 健康診断における中抜けの取り扱いは?
企業に義務付けられている健康診断を仕事中に実施する場合、業務から離れて中抜けをしなければならないケースも少なくありません。健康診断は、一般健康診断と特殊健康診断に分類することができます。一般健康診断の場合、中抜けの時間の賃金の有無は労使間で決めるのが一般的です。しかし、円滑な健康診断の受診の観点からも、中抜けの時間に対して賃金を支払うことが望ましいです。一方、特殊健康診断の場合、従業員の健康を確保するため、所定労働時間に実施しなければならないので、中抜けの時間に対する賃金の支払いは必須です。
一般健康診断は、一般的な健康確保を目的として事業者に実施義務を課したものですので、業務遂行との直接の関連において行われるものではありません。そのため、受診のための時間についての賃金は労使間の協議によって定めるべきものになります。ただし、円滑な受診を考えれば、受診に要した時間の賃金を事業者が支払うことが望ましいでしょう。特殊健康診断は業務の遂行に関して、労働者の健康確保のため当然に実施しなければならない健康診断ですので、特殊健康診断の受診に要した時間は労働時間であり、賃金の支払いが必要です。
6-3. 中抜けによる1日2回勤務の場合の交通費は?
中抜けシフトを採用している場合など、1日2回勤務が発生する企業も少なくないでしょう。このような場合、交通費を2回支給しなければならないのか気になる人もいるかもしれません。交通費支給は、法律で定められた義務ではありません。交通費は福利厚生制度の一つとして会社独自で定めるため、「1日1度」「定期代のみ」「勤務の度」など、自由に決めることができます。ただし、非課税として認められる交通費には限度があるので注意が必要です。
7. 中抜けに関する規則を明確に定め、法令に遵守した職場づくりを!
中抜けの取り扱いは会社によって異なります。ただし、休憩時間を正しく付与しなかったり、割増賃金を支給しなかったりすると、労働基準法に違反することになります。従業員とのトラブルを防ぎ、正確な勤怠管理を実現するためにも、中抜けのルールを細かく就業規則に定めて周知することが大切です。また、勤怠管理を効率化するため、勤怠管理システムの導入も検討してみましょう。