裁量労働制を導入するとどうなる?|正しく導入すれば大きなメリットに

働き方改革が注目されるようになり、「裁量労働制」という言葉を耳にした人も多いのではないでしょうか。

一方で長時間労働を助長するなどの問題が取り沙汰されることもあり、自社での導入に迷いを抱えている方もいらっしゃるかと思います。

本記事では、改めて裁量労働制とはなにか、裁量労働制を正しく導入・運用することで得られるメリットと注意点を詳しく説明します。

また、実際に導入するために必要な手順についてもご説明しますので、導入を検討している方は参考にして頂ければ幸いです。

1.裁量労働制とは

裁量労働制を簡単に説明すると、「実際の労働時間に対してではなく、契約によって定めたみなし労働時間分の給与を支払うことで、労働時間を労働者の裁量に委ねる労働時間制度」となります。

例として、「みなし労働時間が7時間の場合」は以下のようになります。

出退勤時間は自由であり、労働者が始業時間や終業時間を決められます。
・仮に5時間しか勤務しなかった場合や、9時間勤務した場合でも給与は固定で7時間分反映されます。

みなし労働時間の取り決めには労使委員会の設立と委員全員の同意が必要になります。

裁量労働制の手続きについては4章で詳しくご紹介します。

また、裁量労働制は2種類あり、それぞれで手続きや適用職種に違いがあります。それぞれの裁量労働制について以下で解説します。

①専門業務型裁量労働制

裁量労働制のうち1987年から導入されているのが、専門業務型裁量労働制です。

業務の性質上、労働者に労働時間の裁量を委ねることが適切な業種のみで導入することができます。

代表的な例としては、コピーライターやデザイナーなどのクリエイティブ業務、研究開発等の固定の時間を労働時間とすることが適切ではない業種に適用されます。
全19種の対象業務は下記のリンクをご参照ください。
専門業務型裁量労働制|厚生労働省労働基準局監督課

②企画業務型裁量労働制

専門業務型裁量労働制に対し、2000年に業種を問わず裁量労働制が適する業務に対して、導入をできるようにしたのが企画業務型裁量労働制です。

具体的には、企業の本社において企画・立案、調査・分析をおこなう創造的な能力が求められる労働者に適用されます。

本来対象とならない労働者への適用を防ぐため、専門業務型裁量労働制と比較すると導入の手続きなどが複雑であるという特徴があります。
対象業務の具体的範囲は下記リンクをご参照ください。
企画業務型裁量労働制|厚生労働省労働基準局監督課

裁量労働制と混同されやすい制度との比較・注意点

「出退勤時間が自由」「みなし労働時間」などの特徴から混同されてしまいがちな他の制度について裁量労働制との違いを見ていきましょう。

フレックスタイム制

共通点
  • 出退勤、始業・終業の時間は定められておらず、労働者の裁量でフレキシブルな働き方が可能です。
異なる点
  • 裁量労働制では完全に労働者の裁量で出退勤の時刻を決めることができます。
    対してフレックスタイム制にはコアタイムが決められており、その時間は就業していなければなりません。
  • みなし労働時間についても、裁量労働制のみに設定されています。
    そのため裁量労働制では1日の労働時間が自由なのに対して、フレックスタイム制では定められた所定労働時間は働かなければなりません。

変形労働時間制

共通点
  • 日ごとや時期によって労働時間を変えることで柔軟な労働者の雇用・働き方が可能です。
異なる点
  • 裁量労働制は労働時間とは関係なく一定の給与が支払われるのに対し、変形労働時間制では労働時間に応じた給与が支払われます。
    また、変形時間労働制では所定労働時間を超過した労働に対しては残業代を支払わなければなりません

みなし残業制度

共通点
  • 実際に働いた時間が決められた時間より短い場合についても、労働をしたとみなされ固定の給与が支払われます。
異なる点
  • 働いたとみなす労働時間の対象が異なり、裁量労働制では全ての労働時間に適用され、みなし残業制度では所定労働時間を超えた分の残業時間にのみ適用されます。

裁量労働制を導入する際の注意点

残業代を支払わなくてもいいと認識されがちな裁量労働制ですが、手当てを出さなければいけないケースが3つあります。

みなし労働時間が8時間を超える時

通称36協定と呼ばれる労働基準法第36条では「法定時間(1日8時間、1週間に40時間)を超えて労働させる場合や法定休日に休日労働をさせる場合には、労働組合または労働者の代表と協定を書面で結ばなくてはならない」と記載されています。

また、これによりみなし労働時間が8時間を超える際には、超過分について割増賃金を支払う必要があります。

深夜労働が発生した時

裁量労働制を導入していても、深夜労働(22時〜翌朝5時)には割増賃金を支払う必要があります。

休日出勤が生じた時

裁量労働制では休日出勤についても別途休日手当てを支払うことが労働基準法で定められています。

2.裁量労働制を導入するメリット・デメリット(企業側)

企業が裁量労働制を導入するメリット

労務管理の負担軽減

ここまで述べてきたように、裁量労働制では深夜労働・休日出勤などの特別な場合を除けば残業代などの割増賃金は発生しません。

多くの社員を抱える企業にとって、

  • それぞれの社員の時間外労働などの割増賃金を管理する手間が大幅に削減されること
  • 労務管理の業務が詰め寄せて、月末に残業続きになってしまうなどの問題が解消されること

は大きなメリットとなるでしょう。

業務に合わせた労働制度で生産性向上

クリエイティブな業務・専門性の高い業務においては、

  • アイデアが浮かぶまでの時間はその時によってまちまちであり、それに合わせて融通の効く勤務形態を取れる
  • 個人の働きやすさに合わせて労働時間が柔軟になること

社員個人のモチベーションの向上にもつながり、生産性の向上が見込めます。

企業が裁量労働制を導入するデメリット

導入の手続きが複雑であること

詳細は後述しますが、裁量労働制を導入するには

  • 労働者を代表する委員と使用者を代表とする委員で構成された労使委員会を設置する
  • 労使委員会で複数の決議を行い、労働基準監督署に届出なければならない。

といった手続きが必要となり、これが負担で導入が進まないケースは少なくありません。

3.裁量労働制を導入する際の具体例な手続き

専門業務型裁量労働制の導入手続き

1.以下の事項を全て明記した労使協定を定める

労使協定において必要な事項

・対象業務(法令で定められた19業務の内)
・対象業務の遂行手段や方法、時間配分などに関し労働者に具体的な指示をしないこと
・労働時間としてみなす時間
・対象労働者の労働時間の状況に応じて実施する健康・福祉を確保するための措置の具体的内容
・対象労働者からの苦情処理のために実施する措置の具体的内容
・協定の有効期間(3年以内とすることが望ましいとされています)
・上記に関する記録を、有効期間およびその後3年間保存すること

これらの項目について、導入する事業場ごとに書面による労使協定を定めることが必要になります。

2.労使協定を労働基準監督署に提出する

労使協定を定めたら、その事業場の所在地を管轄する労働基準監督署長に届出をすることが必要になります。

3.労使協定を労働者に周知する

裁量労働制は会社の独断で一方的に適用することはできません。
届出ができたら、しっかりと労働者に労使協定を周知することも義務付けられています。

詳細や労使協定の例などは以下を参照ください。
専門業務型裁量労働制の適性な導入のために|東京労働局

企画業務型裁量労働制の導入手続き

1.労使委員会を設置し、以下の事項について決議する

労使委員会で決議すべき事項
・対象業務の具体的範囲
・対象労働者の具体的範囲
・労働時間として見なす時間
・対象労働者の労働時間の状況に応じて実施する健康・福祉を確保するための措置の具体的内容
・対象労働者からの苦情処理のために実施する措置の具体的内容
・本制度の適用について労働者本人の同意を得ること、不同意者の扱い
・協定の有効期間(3年以内とすることが望ましいとされています)
・上記に関する記録を、有効期間およびその後3年間保存すること
これらの項目について、労使委員会の委員の5分の4以上の多数で決議することが必要になります。

2.決議の内容を労働基準監督署に届け出る

労使委員会で決議したことは、所定様式に従い所轄労働基準監督署長に届け出る必要があります。

3.対象労働者の同意を得る

専門業務型裁量労働制と同様に、企画業務型裁量労働制についても適用には労働者個人の同意が必要になります。

また、不同意者が出た際には、解雇等の不利益な取り扱いをすることは禁じられています。

詳細や届け出の様式の例などは以下を参照ください。
企画業務型裁量労働制の適性な導入のために|東京労働局

4.裁量労働制を導入するメリット・デメリット(労働者側)

労働者にとって裁量労働制を導入するメリット

自由な働き方が実現する

所定労働時間という縛りがないため、裁量労働制では自分のライフスタイルや能力に合った働き方を実現することができます。

具体的には、

  • 所定労働時間内での進捗が悪く残業をしたいが、コストカットのために残業がよしとされない環境である
  • 子供の送り迎えなどの融通が効かない

などの問題を大きく改善できます。

制約を受けないからこそ生産性も向上する

裁量労働制では時間的な制約を設けない分、きちんと成果をあげることが求められます。

これにより、

  • 自分の裁量でやるからこそ生まれる責任感や自己効力感を感じながら業務に臨めること
  • 時間あたりの生産性を向上させることで給与はそのままに自分の時間を作ることができること

が労働者にとっても大きなメリットになります。

労働者にとって裁量労働制を導入するデメリット

自己管理ができないと長時間労働に陥ることも

一方で、みなし労働時間の中で求められる成果を上げられなければ、その分長時間の労働が必要になってしまいます。

裁量労働制のなかで成果を上げるには自らPDCAを回して高い自己管理能力を身につけることが求められます

不当な裁量労働制の導入

本来裁量労働制は導入ができる業種に限りがあります。

その中で問題視されていることとして、

  • 導入が適切ではない業種での裁量労働制の導入
  • みなし労働時間と実労働時間の大きな乖離

が挙げられます。

裁判に発展しているケースなどもあることから、本当に裁量労働制を導入できる要件を満たしているのかはしっかりと確認するようにしましょう。

5.裁量労働制がうまく導入されると実現すること

高い生産性と柔軟な働き方の両立

裁量労働制の導入によって、社員それぞれがライフスタイルに合った働き方ができ高いエンゲージメントを示すようになれば、短時間で大きな成果を上げるために業務に取り組むようになるでしょう。

それが実現すれば、

  • プライベートの時間を確保することで仕事へのモチベーション向上
  • 時間ができることでスキルアップなどの自己投資ができること

なども考えられ、相乗効果を見込むことができます。

市場価値の高い人材の雇用

上記の生産性・柔軟性がともに高い職場が実現すれば、それは求職者・転職者にとっても大きな魅力になります。

市場価値の高い人材が入ってくることになればさらなる好循環を生むことができるのではないでしょうか。

6.まとめ

AIやDX化が急速に進む中で創造的な能力、人にしかできない仕事の需要は今後高まってくるでしょう。

デメリットが議論されることも多い裁量労働制ですが、企業側・労働者側双方にとって大きなメリットとなる運用ができれば、急速な拡大の可能性もある制度です。

企業・労働者いずれかにとってデメリットになってしまわないよう、正しく理解・整備して導入を検討していきましょう。

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