企業が労働者と雇用契約を結ぶ際は、雇用契約期間について正しく理解していなければなりません。
期限つきで労働者を雇用する契約を有期雇用契約といいます。有期雇用契約を結ぶ際は、労働者に配慮したさまざまな措置を取る必要があります。
この記事では、雇用契約期間について、どのような対応が必要か、雇用契約に明記すべき事項、さらに無期雇用契約との違いなどについて解説します。
有期雇用契約は労働基準法・労働契約法において様々なルールが設けられているため、法律に則って雇用契約を結ぶ必要がありますが、従業員とのトラブルになりやすい部分でもあります。
「法律に則って雇用契約を結ぶ方法を確認したい」「法的に正しい契約更新の対応を知りたい」という方に向け、当サイトでは「有期雇用契約の説明書」を無料で配布しております。
雇用契約の結び方から契約更新の方法、更新しない(雇止めをする)時の対応方法、無期転換ルールまで、有期雇用契約のルールを確認しておきたい方は、ぜひダウンロードしてご覧ください。
目次
1. 雇用契約の期間
契約期間に定めのある「有期雇用契約」を締結する場合、雇用契約の期間に上限があります。労働基準法第14条により、有期雇用契約を結ぶ場合、原則として契約期間は3年以内に設定する必要があります。ただし、専門的な知識・スキルを持つ労働者や、満60歳以上の労働者と有期雇用契約を結ぶ場合は、上限が5年に延長されます。
(契約期間等)
第十四条 労働契約は、期間の定めのないものを除き、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは、三年(次の各号のいずれかに該当する労働契約にあつては、五年)を超える期間について締結してはならない。
一 専門的な知識、技術又は経験(以下この号及び第四十一条の二第一項第一号において「専門的知識等」という。)であつて高度のものとして厚生労働大臣が定める基準に該当する専門的知識等を有する労働者(当該高度の専門的知識等を必要とする業務に就く者に限る。)との間に締結される労働契約
二 満六十歳以上の労働者との間に締結される労働契約(前号に掲げる労働契約を除く。)
1-1. 有期雇用契約と無期雇用契約の違い
有期雇用契約と無期雇用契約の違いとして、先述した、契約期間の有無が挙げられます。有期雇用契約の場合は契約期間が定められているのに対して、無期雇用契約の場合は契約期間が定められていません。
また、1年を超える有期雇用契約の場合、1年を経過していれば、自由に退職することができます。なお、1年を経過していなくても、やむを得ない事由があれば、契約の解除が可能です。一方、無期雇用契約の場合、退職の申し入れ日から2週間経過することで、契約が終了します。
このように、有期雇用契約と無期雇用契約には、契約期間の有無だけでなく、退職のルールについても異なるので理解を深めておきましょう。
関連記事:労働基準法における「退職の自由」とは?意味や注意点を紹介
1-2. 雇用契約期間と試用期間の違い
雇用する際、試用期間を設定している企業は多いです。試用期間は、有期雇用や無期雇用などの雇用形態に関係なく適用されます。
試用期間とは、その労働者が業務内容をおこなうために充分なスキルを有しているかなどを判断するための期間です。試用期間後に企業がその労働者を採用しないと判断した場合は解雇という形になります。ただし、従業員を解雇するためには合理性、相当性のある理由がなければなりません。
試用期間を設ける場合は、就業規則に明記しておく必要があります。また、試用期間中にどのような点を判断して本採用に至るかも明確にしておきましょう。
このように、試用期間とは「1つの雇用形態(正社員や契約社員など)における初めの一定期間」を指します。雇用契約期間と試用期間は意味が違うので正しく理解しておきましょう。
関連記事:試用期間を6ヶ月設けても問題なし?メリットとデメリットを解説
1-3. 有期雇用契約の種類
有期雇用契約には「準社員型契約社員」「パートタイム・アルバイト型契約社員」「高度専門職型契約社員」「嘱託型契約社員」の4つの種類があります。企業によっては臨時契約、非常勤契約、嘱託契約などと呼ばれることもあります。雇用契約書や労働条件通知書は、正社員を採用する場合だけでなく、パート・アルバイトなどを雇用する場合も作成し、労働条件を明確にしておかなければなりません。
関連記事:雇用契約をトラブルなく結ぶ方法は?違法にならないための対応をわかりやすく解説
2. 有期雇用契約における3つのルール
有期雇用契約を結ぶ際は、労働契約法やパートタイム労働法で定められたルールを守らなければなりません。ここでは、有期雇用契約における3つのルールについて詳しく紹介します。
2-1. 無期転換ルール
労働契約法第18条により、有期雇用契約の更新が5年を越える場合、労働者には無期雇用契約への転換を申し出る権利が与えられます。企業はこの労働者の申し出を拒否できません。
なお、契約期間に応じて、無期転換申込権が発生するタイミングや、実際に無期転換するタイミングは異なるので注意が必要です。
2-2. 雇い止めのルール
雇用契約期間満了による雇い止め自体は問題ありません。ただし、労働契約法第19条により、下記のいずれかの条件を満たしたうえで、労働者が雇用契約の更新の申し込みをおこなった場合、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当であると認められなければ、申し込みを拒むことはできないので注意が必要です。
- 労働契約が反復して更新されている(雇い止めが無期雇用労働者の解雇と社会通念上同視できる)
- 有期労働契約が更新されるものと期待する合理的な理由がある
(省略)客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす(省略)
2-3. 同一労働同一賃金
パートタイム労働法第8条では、有期雇用契約者と無期雇用契約者との間で労働条件に不合理な相違を設けてはならないと定めています。労働時間や賃金だけでなく、補償や福利厚生、服務規律などにおいて、通常の労働者と比べて有期雇用労働者に不利益な条件を提示することは禁止されているので注意が必要です。
(不合理な待遇の禁止)
第八条 事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。
このような雇用契約に関する内容を知らずに違反していたということがないように、事前に自社のルールが法律に則っているかを確認することは大切です。当サイトでは、有期雇用契約を結ぶ際の対応方法や近年改正のあった無期転換ルールが1冊でわかる資料を無料でお配りしています。こちらからダウンロードして、法違反のリスク回避にご活用ください。
3. 有期雇用契約への必要な対応
有期雇用契約を結ぶ際はその有期雇用契約の労働者に対してさまざまな対応が求められます。正しく対応しなかった場合は雇い止めが認められなかったり、企業が罰則を科せられたりする可能性もあるので注意が必要です。
また、有期労働契約の適切な対応方法を正しく理解したい人は、下記の厚生労働省の「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」を確認することが大切です。
ここでは、有期雇用契約への必要な対応について詳しく紹介します。
3-1. 雇用契約の内容・期間を明示する
有期雇用契約を結ぶ際は、労働条件通知書や雇用契約書に雇用する期間を明示しなければなりません。契約期間満了の際に更新の可能性があるかどうかも明示する必要があります。
更新の可能性がある場合、自動的に更新されるのか、更新する必要性があると判断された場合にのみ更新されるのか、契約更新の可能性はないのかを明確に記載してください。
3-2. 雇い止め予告をおこなう
有期雇用契約を3回以上更新している、1年以下の契約を繰り返し通算一年契約が続いている、1年以上の契約期間を設けているなどの場合、雇い止め予告の義務が発生します。このような条件を満たす労働者との契約を終了させる場合は、契約満了となる期限の30日前までに雇い止めの予告をおこなわなければなりません。30日を過ぎてから雇い止めを予告する場合は不足した日程分の平均賃金をその労働者に対して支払う義務が発生します。
3-3. 雇い止めの理由を明示する
有期雇用契約をした労働者を雇い止めする場合、そしてその労働者から雇い止めの理由を求められた場合、企業は即座に理由や雇い止めに関する証明書を用意する必要があります。
前回の更新時に次回の更新をおこなわないことに合意した、更新回数の上限に達した、業務が終了、中止になった、事業を縮小することになったなど、適切な理由でなければ雇い止めが認められない可能性もあります。
3-4. 契約期間を最大限配慮する
企業は有期雇用契約をした労働者に対して最大限の配慮をしなければなりません。労働者が希望する場合、契約期間を最大限延長できるような工夫が必要です。契約期間の上限は法律で定められており、それを認識したうえでより長く雇用を続ける方法を労働者に提案しましょう。
4. 労働条件通知書・雇用契約書の記載事項
労働者と雇用契契約を結ぶ際は、労働条件通知書と雇用契約書を作成するのが一般的です。労働条件通知書・雇用契約書に正しいフォーマットなどはありませんが、記載しなければならない事項は決まっています。
労働契約の期間はいつまでなのか、更新する可能性はあるのか、更新の方法についてはもちろん、以下の項目についても記載してください。
- 就業する場所
- 業務内容
- 始業時間や終業時間
- 時間外労働の有無
- 休憩時間
- 休日
- 休暇
- 交代制勤務の有無
- 賃金の計算方法や支払い方法
- 退職の手続き
- その他(臨時に支払われる賃金や職業訓練など)
有期雇用契約を結ぶ場合は、上記に加えて昇給の有無、退職手当の有無、賞与の有無も記載しなければなりません。また、労働条件に疑問や不満を持った場合に相談できる、相談窓口の電話番号の記載も必須です。なお、2024年4月より、新しく記載事項が追加されるので、適切に対応しましょう。
関連記事:雇用契約書が持つ法的効力とは?労働条件通知書との違いを詳しく紹介
関連記事:雇用契約書の書き方とは?明示しておくべき事項を詳しく紹介
5. 有期雇用契約を締結する場合に押さえておきたいポイント
ここでは、有期雇用契約を締結する場合に押さえておきたいポイントについて詳しく紹介します。
5-1. 労働条件通知書と雇用契約書の作成義務
労働基準法第15条により、労働条件通知書の交付は法律で義務付けられています。一方、雇用契約書の交付については、法律で定められていません。しかし、雇用契約書を発行することで、企業と労働者の双方が労働条件に納得したことを証拠として残すことができます。そのため、労働条件通知書と雇用契約書は同時に発行するケースが多いです。
労働条件通知書と雇用契約書は「労働条件通知書兼雇用契約書」にまとめて交付することもできます。また、労働条件通知書や雇用契約書は一定の要件を満たせば、電子化して交付することも可能です。業務効率化やコスト削減の観点から電子化も検討してみましょう。
関連記事:労働条件通知書とは?雇用契約書との違いや書き方・記入例をわかりやすく解説!
5-2. 雇用契約の最短期間の定義はない
有期雇用契約を結ぶ場合は、契約期間を定めなければなりません。契約期間の上限は原則として3年です。一方、契約期間の下限は法律などで定められていません。
ただし、労働契約法第17条により、企業は契約期間を設定する際、労働者に配慮した契約期間にできるよう努める義務があります。また、労働者派遣法第35条の4により、日雇労働者(30日以内の期間を定めて雇用する労働者)の派遣は、原則として禁止されているので注意が必要です。
(省略)使用者は、有期労働契約について、その有期労働契約により労働者を使用する目的に照らして、必要以上に短い期間を定めることにより、その有期労働契約を反復して更新することのないよう配慮しなければならない
(日雇労働者についての労働者派遣の禁止)
第三十五条の四 派遣元事業主は、その業務を迅速かつ的確に遂行するために専門的な知識、技術又は経験を必要とする業務のうち、労働者派遣により日雇労働者(日々又は三十日以内の期間を定めて雇用する労働者をいう。以下この項において同じ。)を従事させても当該日雇労働者の適正な雇用管理に支障を及ぼすおそれがないと認められる業務として政令で定める業務について労働者派遣をする場合又は雇用の機会の確保が特に困難であると認められる労働者の雇用の継続等を図るために必要であると認められる場合その他の場合で政令で定める場合を除き、その雇用する日雇労働者について労働者派遣を行つてはならない。
5-3. 契約期間満了の場合は退職届が不要
有期雇用契約をにおいて、契約期間満了により従業員が退職する場合、退職届の提出は不要です。ただし、「会社都合」「自己都合」のどちらによる退職なのかを明確にするため、退職届を提出してもらうのも一つの手です。なお、原則として、労働者の希望により退職する場合「自己都合」、労働者は契約更新を希望したけれど会社の都合により拒否された場合「会社都合」になります。
関連記事:退職届は何日前に必要?労働基準法による規定をわかりやすく紹介
6. 期間の定めがある有期雇用契約について正しく理解しよう
有期雇用契約について解説しました。期間を設定して雇用すると、企業は無期雇用契約よりもコストを押さえて人材を確保できます。その分、有期雇用契約の労働者が不利益を被る事例が多く、雇い止めなどは深刻な問題です。
いま一度、有期雇用契約について正しく理解し、労働者とのトラブルを避けつつ雇用をおこなえるようにしましょう。