変形労働時間制とシフト制は似ている部分もありますが、異なる制度です。それぞれの特徴や違いを理解し、会社にとって最適な労働体制を導入しましょう。
本記事では変形労働時間制とシフト制の違いについて、メリットとデメリットを踏まえて解説します。また、変形労働時間制とシフト制は併用できるかも紹介します。
変形労働時間制は通常の労働形態と異なる部分が多く、労働時間・残業の考え方やシフト管理の方法など、複雑で理解が難しいとお悩みではありませんか?
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目次
1. 変形労働時間制とシフト制の違い
ここでは、変形労働時間制とシフト制の定義を説明したうえで、変形労働時間制とシフト制の違いを労働時間、残業代の計算方法、休日の取得方法、就業規則や労使協定の取り扱いの観点から解説します。
1-1. 変形労働時間制とは?
変形労働時間制とは、1年・1カ月・1週間といった一定の期間内で労働時間を調整する制度です。変形労働時間制では、1週間の平均労働時間が法定労働時間(40時間)を超えない範囲で働かせることができます。なお、変形労働時間制には下記の4つの種類があります。
項目 |
1年単位 |
1カ月単位 |
1週間単位 |
フレックスタイム制 |
変形期間 |
1カ月超え1年以内 |
1カ月以内 |
1週間 |
3カ月以内(清算期間) |
スケジュール管理 |
各単位期間開始の30日前までに確定 |
月の開始前までに確定 |
週の開始前までに確定 |
– |
1日の労働時間の上限 |
10時間 |
– |
10時間 |
– |
1週の労働時間の上限 |
52時間(制約あり) |
– |
– |
– |
1週平均の労働時間 |
40時間(特例44時間) |
40時間 |
40時間 |
40時間(特例44時間) |
出退勤時刻 |
会社指定 |
会社指定 |
会社指定 |
従業員選択 |
特定の事業・規模のみ |
– |
– |
〇 |
– |
変形労働時間制は、繁忙期の所定労働時間を長くする代わりに閑散期の所定労働時間を短くするというように、業務の特殊性や閑散がある企業に導入されています。多くの企業では、1年単位あるいは1カ月単位の変形労働時間制が採用されています。しかし、導入条件が異なるため、それぞれの違いを知り、自社の業務や労働環境に合うかどうか見極めましょう。
関連記事:変形労働時間制とは?1ヶ月単位の変形労働時間制をわかりやすく解説
1-1. シフト制とは?
シフト制とは、複数の勤務パターンから日ごと、あるいは一定の期間ごとにパターンを組み合わせて労働させる制度です。たとえば、ホテルのフロントのように、日勤・夜勤の勤務時間を決めておき、同じ場所で働く従業員と交代しながら業務をおこないます。
シフト表は週もしくは月単位で作成するのが一般的で、従業員の都合などにも配慮しながら勤務日や勤務時間を決めます。シフト制の種類は以下の4つです。
種類 |
概要 |
|
固定シフト制 |
|
|
希望シフト制 |
|
|
2分割シフト制 |
|
|
3分割シフト制 |
|
1-3. 労働時間を定める期間が違う
変形労働時間制では、閑散期と繫忙期に合わせて所定労働時間を決めます。変形労働時間制を採用する期間は企業ごとに異なりますが、週・月・年単位で所定労働時間を決定するのが一般的です。労働基準法第32条の法定労働時間(1日8時間、週40時間)を一時的に超えて働かせることもできます。運送業や引越業、不動産業など、繁忙期と閑散期がはっきりと分かれる業種で多く採用されています。
一方、シフト制では、早出・遅出・夜勤のように1日の中で勤務時間帯を分け、人員を配置します。勤務時間帯の分け方は企業や店舗によって異なり、労働基準法の法定労働時間を守ったうえで自由に決めることが可能です。販売業や飲食業、病院など、1日の中で忙しい時間帯と余裕のある時間帯が分かれる業種で採用されています。
(労働時間)
第三十二条 使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。
② 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。
関連記事:労働時間とは?労働基準法が定める上限や休憩時間、計算方法を解説!
1-4. 残業代の計算方法が異なる
変形労働時間制の場合、1年単位、1カ月単位、1週間単位、フレックスタイム制のどれを採用するかによって残業代の計算方法が異なります。代表的な1カ月単位の変形労働時間制の場合、時間外労働に対する割増賃金は、下記に該当する時間に対して支給されます。
- 1日8時間を超える労働時間を定めた日はその時間を超えて労働した時間、もしくは1日8時間以内の労働時間を定めた日は8時間を超えて労働した時間
- 1週40時間(44時間)を超える時間を定めた週はその時間を超えて労働した時間、もしくは1週40時間(44時間)以内の労働時間を定めた週は1週40時間(44時間)超えて労働した時間(1. の時間を除く)
- 対象期間の法定労働時間総枠(40時間 × 対象期間の暦日数 ÷ 7日)を超えて労働した時間(1. と2. の時間を除く)
一方、シフト制の場合、法定労働時間(1日8時間、1週40時間)を超えて働かせた場合に割増賃金を上乗せして残業代を支給する必要があります。
このように、変形労働時間制とシフト制では残業代の計算方法も異なるので、導入する際は注意が必要です。
関連記事:変形労働時間制における残業の扱いについて計算方法や注意点を解説
1-5. 休みの取り方が違う
変形労働時間制では、基本的に休日も定められています。個人的な休みが欲しい場合は、有給休暇を取得するか、欠勤として処理するかのいずれかになります。また、連続労働日数に制限があるケースもあります。
一方、シフト制では、決められた期日までに希望のシフトを申告できます。とは言え、100%希望通りの休日が取得できるわけではありません。しかし、希望休を伝えていれば、それを加味したシフトが作成されます。
関連記事:変形労働時間制の休日日数は?期間別で休日の考え方を徹底解説!
1-6. 就業規則や労使協定の取り扱いが違う
変形労働時間制の場合、使用者は決められたルールに則って勤務時間を定め、労働者の代表者と協議して決定したうえで就業規則として明示しなくてはいけません。所定労働時間を変更する場合は、その都度就業規則も見直す必要があります。一方、シフト制の場合、労働基準法を守った労働時間であれば、シフト作成をするたびに協議をする必要はありません。
関連記事:変形労働時間制の就業規則の書き方は?記載例もあわせて紹介
2. 変形労働時間制のメリット・デメリット
ここでは、変形労働時間制を導入することによるメリットとデメリットについて詳しく解説します。
2-1. 変形労働時間制のメリット
変形労働時間制のメリットとして大きいものは、残業を減らせることです。閑散期と繁忙期で労働力を効率的に分散できるため、「暇で人が余っている」「人手が足りなくて残業が続く」といった事態を回避しやすくなります。想定していなかった残業でプライベートを犠牲にすることも減り、労働者のストレス緩和にもつながります。
また、メリハリのある働き方ができる点もメリットです。労働者は繁忙期には仕事に集中し、閑散期に旅行や遊びを楽しんでリフレッシュすることができます。閑散期の間に英気を養えば、厳しい繁忙期も精力的に乗り切れる労働者も増えることでしょう。
2-2. 変形労働時間制のデメリット
変形労働時間制のデメリットとしてまず挙げられるのは、人事担当者の負担増です。労働時間が変化することで、出退勤管理が複雑化し、人事関連業務の負担が増えます。アナログな管理に頼っていると、何倍もの業務が発生して人事担当者が残業せざるを得なくなるケースも考えられます。
もう一つのデメリットとして挙げられるのが、繁忙期の辛さです。変形労働時間制は忙しい時期ほど労働時間が長くなるため、労働者の負担が大きくなってしまいます。変形労働時間制に伴い激務が予想される場合は、個人の負担が大きくなりすぎないよう、人員を増やしたり、休日を確実に取らせたりするなど、あらかじめ対策を講じておく必要があります。
関連記事:変形労働時間制を採用するデメリット・メリットをわかりやすく解説
3. シフト制のメリット・デメリット
ここでは、シフト制を導入することによるメリットとデメリットを詳しく解説します。
3-1. シフト制のメリット
シフト制の大きなメリットは、導入が容易である点です。変形労働時間制では、労使協定や就業規則を労使間で協議して決め、労働基準監督署に届けなければなりません。シフト制ではそのような決まりがないので手続きの負担は少なくて済みます。
また、変形労働時間制と同様で、残業代を抑えやすいメリットもあります。シフト制では労働者が時間で交代するため、業務が残っていても次の人に引き継ぐことが可能です。時間帯で労働者を増減できることも、残業代削減につながります。
さらに、労働者が自由に休日を申請しやすいのもメリットです。病院や銀行に行くための休みを平日に取ることや、趣味や勉強のために休日を希望することができれば、労働者はプライベートを充実させることが可能です。その結果、現場の士気が上がって、業務効率の向上が期待できます。
3-2. シフト制のデメリット
シフト制のデメリットは、時間帯によって人員の確保に苦しむ点です。特に早朝・深夜帯の勤務が必要な場合、それを理由に求人への応募がなかったり、その時間帯だけ避けたいという希望が出されたりします。人員が足りないと、シフト作成の度に多くの時間が取られます。
また、急な欠勤でほかの人に大きな負担がかかりやすい点も忘れてはいけません。シフト制を導入している場合、必要最低限の人員で業務を回しているケースがほとんどです。そのような中で急な欠勤が出ると、勤務時間を延長してもらったり、本来休みの人に出勤してもらったりしなければなりません。
このように、変形労働時間制やシフト制にはそれぞれメリット・デメリットがあるので、自社の課題や目的に応じてどの勤務体制を導入するか決めることが大切です。
4. 変形労働時間制やシフト制を採用する場合の注意点
ここでは、変形労働時間制やシフト制を採用する場合の注意点について詳しく紹介します。
4-1. 変形労働時間制のシフト変更は原則不可
変形労働時間制を採用する場合、年単位、月単位、週単位でシフトを組む必要があります。原則として、やむを得ない事情がない限り、変形労働時間制のシフト変更はできません。また、やむを得ずシフトを変更する場合、従業員の理解を得ることが大切です。シフト変更をおこなった場合は、証拠を残すためにも、シフトの変更履歴をきちんと保管しておくようにしましょう。
関連記事:変形労働時間制でシフト変更は可能?注意点やポイントを解説
4-2. シフト制の勤怠ルールを明確にする
シフト制は導入が簡単だからといって、勤怠ルールが曖昧だと、トラブルに発展する恐れがあります。シフト制の場合も、労働時間や休憩、休日、有給休暇といった規定は適用されます。また、22時から5時の間に勤務した場合や、法定休日に労働した場合は、深夜労働・休日労働に該当し、割増賃金を上乗せして支給しなければなりません。シフト制を採用する場合、労働条件通知書・雇用契約書や就業規則に法定休日がいつになるのかを特定しておきましょう。
関連記事:労働条件通知書とは?雇用契約書との違いや書き方・記入例をわかりやすく解説!
4-3. 時間外労働や休日労働をするには36協定の締結が必要
変形労働時間制やシフト制を採用する場合、法定労働時間を超えて働かせたり、法定休日に労働させたりするのであれば、36協定の締結が必要です。36協定を結ばす、時間外労働や休日労働をおこなわせると、労働基準法違反となります。また、36協定の時間外労働の上限を超えて働かせるのも、違法となるので注意が必要です。
関連記事:36協定とは何かわかりやすく解説!特別条項や新様式の届出記入方法も紹介!
5. 勤務体制を決めるときのポイント
勤務体制には一般的な固定制と、変形労働時間制やシフト制、フレックスタイム制など、さまざまなものがあります。導入する勤務体制を検討する場合、業種の特徴や抱えている課題から決めるのがおすすめです。
ここでは、勤務体制を決めるときのポイントについて詳しく紹介します。また、変形労働時間制とシフト制の併用ができるのかどうかも解説します。
5-1. 業種で決める
業種によって、現場で求められる労働力の調整は大きく異なります。業種別におすすめの勤務体制は、下記の通りです。
労働体制 |
向いている業種のタイプ |
業種の一例 |
変形労働時間制 |
閑散期と繁忙期が明確に分かれている |
運送業・引越業・不動産業・ブライダル業など |
シフト制 |
24時間業務や、時間帯で必要な労働力が違う |
病院・介護施設・サービス業・飲食店など |
フレックスタイム制 |
個人の裁量で仕事を管理することが多い |
設計業・デザイン業・コンサルティング業・IT関連業など |
裁量労働制 |
変形労働時間制は、週や月で閑散期と繫忙期が分かれている業種で導入すると、残業代の削減効果が大きくなります。
時間帯で忙しさが違う業種や、24時間体制で業務をおこなう業種の場合、変形労働時間制よりもシフト制の方が労働力を調整しやすく、残業代や社会保険料の削減につながります。
フレックスタイム制と裁量労働制は、労働者個人が業務を抱え、管理する業種に適しています。また、個人の能力やプライベートの充実を尊重したい企業にもおすすめです。
ここまで変形労働時間制を決める際の判断ポイントを解説しましたが、実際に導入するまでにはさまざまな手続きが必要です。中には変形労働時間制の導入を検討しているけれど、自社に合う制度なのかどうかわからないといったご担当者様もいらっしゃるのではないでしょうか。当サイトでは、変形労働時間制について詳しく解説した資料を無料で配布しています。変形労働時間制の概要から制度導入の方法までがこれ一冊でわかるため、こちらでダウンロードして導入できるかどうかを確認してみてください。
5-2. 解決すべき問題で決める
現在抱えている問題がある場合、課題解決しやすい労働体制の導入を検討することも重要です。
抱えている問題 |
向いている労働体制 |
残業代を削減したい |
変形労働時間制・シフト制 |
従業員のプライベートを尊重したい |
フレックスタイム制・裁量労働制 |
人員の過不足を改善したい |
変形労働時間制・シフト制 |
個人の裁量で自由に働いてほしい |
フレックスタイム制・裁量労働制 |
人事関連業務を少しでも減らしたい |
シフト制 |
多くの企業で悩みになっている残業の多さを改善するには、変形労働時間制またはシフト制がおすすめです。しかし、変形労働時間制は煩雑な業務が増えてしまうため、人事担当者の負担を少なく済ませたい場合、シフト制の導入が推奨されます。
こちらで解説した業種や問題はあくまでも一例です。労働体制を変える場合は、現場をよく知る労働者の意見もしっかりと聞いて、労使ともにメリットのある道を見つけましょう。
5-3. 変形労働時間制とシフト制の併用を検討する
変形労働時間制とシフト制は併用して導入することができます。たとえば、A職種には変形労働時間制を採用して、B職種にはシフト制を導入するといった方法が考えられます。どの対象者にどの勤務制度を採用するかを明確にし、就業規則に明記しましょう。また、従業員に対する事前説明をしっかりおこない、理解を得ることが大切です。シフト制を導入している企業が変形労働時間制も併用して導入する場合、労働基準監督署への届出が必要になるので気を付けましょう。
5-4. 固定労働時間制や裁量労働制も検討する
変形労働時間制やシフト制を検討する際は、固定時間労働制や裁量労働制など、他の勤務制度についても理解をしておくことが大切です。
固定時間労働制とは、変形労働時間制とはほぼ真逆の制度で、従業員の労働時間を一定の時間に固定します。そのため、従業員の勤務パターンは変わらず、自由度の低い働き方と言われることもあります。しかし、定時が決まっているので、スケジュールが立てやすく、勤怠管理がしやすいというメリットがあります。
裁量労働制とは、労働時間を従業員の裁量に任せる制度です。変形労働時間制よりもさらに自由度の高い働き方で、一定の業種では新しい働き方として広がりを見せています。ただし、裁量労働制を適用できる職種は限られているので注意が必要です。
自社の労働時間を検討する場合は、さまざまな視点が必要です。変形労働時間制ありきではなく、業務量・従業員への負担などを考慮しながら最適なものを選びましょう。
関連記事:裁量労働制はデメリットしかない!?|残業代や適用職種についても詳しく解説!
6. 変形時間労働制やシフト制のデメリットは勤怠管理システムの導入で解消できる
変形労働時間制とシフト制には明確な違いがあり、向いている業種も異なります。加えて、人事関連業務の複雑さも違うため、導入する際は十分に検討しましょう。
変形労働時間制の大きなデメリットである勤怠管理の複雑さは、勤怠管理システムの導入で解消できます。また、シフト制の場合も、法令を遵守したシフト作成に勤怠管理システムが役立ちます。変形労働時間制・シフト制を検討する際は、ぜひ勤怠管理システムの導入を検討してみましょう。
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