
電通の過労死事件が大きな話題となり、改めて長時間労働や職場環境による過労死が注目を集めるようになりました。
ただそれは氷山の一角にすぎず、ここ数年は「勤務問題を原因・動機の1つとする自殺者」の数自体は減っているものの、それでも毎年2,000人以上の方が、仕事関係が引き金となって自殺に及んでいます。

平成28年版の過労死等防止対策白書を見ると、「勤務問題を原因・動機の 1 つとする自殺者」のうち、その約3割が「仕事疲れ」を理由に自殺しているとのことです。
表をみてもわかるように、長時間労働や過労死の問題はここ最近の話ではなく、何年も前から言われていること。それにも関わらず毎年のように多くの自殺者がでてしまう原因は何なのでしょうか?
今回は、過労死の原因の一つとなっている、「残業」について考えていきたいと思います。
目次
1. 残業の現状
そもそも現在の残業の状況はどのようになっているのでしょうか?引き続き平成28年版の過労死等防止対策白書のデータをもとに見ていきましょう。

平均的な1週間の残業時間については、全体でいくと7.7時間、男女では男性の方が長く8.6時間とのこと。1ヶ月あたりだと全体で約30時間、男性は約35時間ほどになります。
意外と多いと思う方、少ないと思う方どちらもいらっしゃるでしょうが、着目したいのは平均的な1週間の残業時間が20時間を超える人(肌色の部分)が全体の1割存在しているということです。
平均で週20時間以上ということは、月で80時間以上残業をしているということになり、いわゆる過労死ラインを超えて働いている人が1割いることになります。
当白書に掲載されている「1年間のうち1か月の時間外労働時間が最も長かった正規雇用従業員(フルタイム)の月間時間外労働時間の企業の割合」を見ても22.7%の企業が月間80時間以上と回答しています。
繁忙期だからということもあるのかもしれませんが、20%を超える企業に過労死ラインを超えて働く社員がいたというのが現実のようです。
では、残業が必要な理由とは何なのでしょうか?
2. 残業が必要となってしまう4つの理由
なぜ、残業が必要となってしまうのか、ここでは考えられる理由を4つほど挙げてみました。
2-1. 一度雇うと簡単には解雇ができない

企業側の調査では、残業が必要となる理由として、特に以下の内容が多く挙げられています。
- 「顧客(消費者)からの不規則な要望に対応する必要があるため」
- 「業務量が多いため」
- 「仕事の繁閑の差が大きいため」
- 「人員が不足しているため」
業務量が多い上に人員が不足しているのでどうしても1人あたりの負担が大きくなっているのではないでしょうか。
仕事の繁閑の差が大きければ、繁忙期に人を多く採用することで対応したいところですが、解雇が難しいためむやみに正社員を雇うことができないというのも根本的な原因の1つかもしれません。
日本の解雇規制については労働契約法で定められているように、かなり厳格なものとなっています。
「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」(第16条)
繁忙期に正社員を採用してしまうと、仕事がない閑散期でも気軽に解雇をすることはできないので、必然的に現在いる社員の労働時間を調整することで対応せざるをえない部分があります。

また、労働者側の調査を見ても、上位にくるのは同様の理由が多いです。
- 「人員が足りないため(仕事量が多いため)」
- 「予定外の仕事が突発的に発生するため」
- 「業務の繁閑が激しいため」
2-2. そもそも人が採用できない
そもそも業界自体が人手不足で、正社員を採用したいけどどこも困っているという場合もあるでしょう。
介護職員、トラックドライバーなど深刻な人手不足が問題視されている職種・業界については、業界内の人気企業でないと社員を1人採用するのも相当な労力とコストがかかります。せっかく採用してもすぐに辞めてしまうこともあり、経営者としては非常に難解な問題です。
またこれらの業界に限らず、今後は労働力人口が減ることでさらなる人手不足に見舞われる可能性もあります。
2-3. 1人あたりの労働生産性が低い
それぞれの数値はあまり高くありませんが、以下のような仕事の進め方やスキルに関する理由もいくつか挙げられていました。
- 「労働生産性が低いため」(企業側)
- 「マネジメントスキルが低いため」(企業側)
- 「スケジュール管理スキルが低いため」(企業側)
- 「社員間の業務の平準化がされていないため」(労働者側)
- 「自身のスケジュール管理不足のため」(労働者側)
- 「会議・打ち合わせが多いため」(労働者側)
個々人のスキルが原因となっている場合、会社全体の仕組みや制度が原因となっている場合どちらもありますが、業務量も社員数も変わらなければ1人あたりの生産性をあげない限り労働時間は減りません。
一方で、これらの要因が労働時間が長い主な原因となっている企業の場合は、そこの部分に手をいれることで労働時間を減らせる余地があるのではないでしょうか。
2-4. 残業が良しとされる文化
そして非常にやっかいなのが、そもそも「残業をしていないやつは仕事をしていない」「残業した人間が評価される」というような会社の文化・風土がある場合です。このような会社は以前に比べ減っているかもしれませんが、実際には以下のような回答が挙がっています。
- 「残業を前提として仕事を指示されるため」
- 「まわりが残業しており、帰りづらいため」
3. 残業を減らすための一歩として意識したいこと

3-1. 残業を良しとする文化を見直す
社内に浸透した文化や風土をかえるのはそう簡単なことではなりませんが、「残業=決していいことではない」という考え方を根付かせるのが非常に大切です。
例えばスタートトゥデイの6時間労働制(6時間の労働で8時間分の給料がもらえる / 6時間は強制ではない)は非常に話題になりましたが、無駄な作業やダラダラとした時間をなくすためにも、まずは会社の風土・仕組みから見直すことが必要でしょう。
3-2. 仕事の進め方を見直す
会社全体で仕事の進め方を見直し、1人あたりの労働生産性をあげることができないかを考えてみましょう。
例えば資料の作り方や会議のやり方、情報共有のやり方を見直すだけでも大幅な時間削減になる場合もあります。
3-3. 勤怠管理システムを導入する
従業員の残業可能時間に制限をかけることで、残業時間を減らすことができます。19時には強制退勤を徹底している企業もあります。
勤怠管理システムを導入すると、残業可能時間に近づくと、管理者にも従業員にもアラートがなる機能があります。また、従業員の正確な残業時間を把握することもできるので、無理のないスケジュールで残業をおこなうこともできます。
3-4. スキルアップの環境を整備する
専門的なスキルについてはそう簡単につくものではなく、現場経験や鍛錬が必要なものも当然あります。
ただスケジュール管理や資料作成といった社会人の基礎となるスキルについては、社内でマニュアルや統一のフォーマット等を整備することで、誰でも最低限のレベルのものができるような状態は作ることができます。
すぐに成果に直結しないかもしれませんが、スキルアップ支援の仕組みや勉強会などの取り組みもおこなってみる価値はあるでしょう。
3-5. 使えるリソースは最大限活用する
業務の内容によっては、ツールを導入することで大幅な時間短縮につながるものもあります。特にバックオフィス周りを中心に、事務的な作業や機械的な作業などはITツールを使うことで迅速かつ正確に処理をすることができます。
Yahoo!の週休3日制への構想が話題になりましたが、実現に向けてITツールの積極導入を検討している模様です。労働生産性をあげるという面では、今後はITとうまく役割分担をしていくことも必要になるでしょう。
4. おわりに
下記の内閣府の資料をみると、これから労働力人口が減っていくことは明らかで、今後はさらに人手が足りなくなる業界・企業も増えてくるでしょう。そうなれば業務量が減らない限り、1人あたりの負担も減らないどころか増えてしまう可能性するあります。

ロボットや人工知能をはじめとした新しい技術への期待も高まってきていますが、まずは残業を減らすため、労働生産性を高めるために何かやれることはないかを改めて考えてみることが大切ではないでしょうか。