ここ数年で、ワークライフバランスが重要視されてきて業種や職種にとらわれず働き方にも多様性が求められるようになりました。そんな中でフレックスタイム制度を導入する企業が増えてきています。
そこで今回はフレックスタイム制度を導入して発生するメリットとデメリットについてご紹介していきます。フレックスタイム制度の導入を考えている企業や、導入後に課題が見えている企業は是非ご覧ください。
フレックスタイム制の導入には、労使協定の締結や就業規則の変更・届出など、行うべき手続きが存在します。
また、フレックスタイム制を導入した後に、「出勤・退勤時間が従業員によって異なるので、勤怠管理が煩雑になった」「残業時間の計算方法と清算期間の関係がよく分からない」といったお悩みをお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そのような方に向け、当サイトでは「フレックスタイム制度を実現するための制度解説BOOK」をご用意しました。
「フレックスタイム制の導入手順を詳しく知りたい」「清算期間・残業の数え方や勤怠管理の方法を知りたい」という方は、ぜひダウンロードしてご覧ください。
目次
1.そもそもフレックスタイム制とは?
フレックスタイム制とは、出退勤の時間を労働者が一定の自由をもってコントロールできる制度です。
最大期間を3か月とする一定期間内(清算期間)の総労働時間をあらかじめ決めておき、労働者はその総労働時間を満たす範囲内で士業と終業の時間を自分で決めることができます。
▶フレックスタイム制とは|導入のメリットから手続きまで総まとめ
1-1. コアタイム・フレキシブルタイムとは
コアタイムとは、労働日の中で必ず出勤しておかなければならない時間帯のことを指します。フレキシブルタイムとは、逆にいつ出社・退社してもよい時間帯のことを指します。
コアタイムは、必ずしも設ける義務はないため、すべての時間をフレキシブルタイムにしている企業もあります。
▶コアタイム・フレキシブルタイムとは?理想のバランスについて解説
1-2. フレックスタイム制とよく間違われる制度
フレックスタイム制度と混同しやすい制度として、変形労働時間制、裁量労働制の2つが存在します。
変形労働時間制とは、週の平均労働時間が40時間におさまる範囲内で、法定労働時間を超えて働かせることが可能な制度です。閑散期は労働時間を減らし、繁忙期には労働時間を増やすといった効率的な働き方が実現できます。フレックスタイム制と違い、始業や終業の時間は会社によって決められています。
裁量労働制とは、所定労働時間がなく、労働時間を従業員に完全にゆだねる制度です。外回り営業、研究職、企画職といった特定の職種のみが導入できます。自身で裁量を調整できたり時間を自由に使えることから、より高い成果をあげられることが期待できます。
対してフレックス制は、所定労働時間が清算期間全体で決まっています。1日の労働時間を従業員が調整できることで、柔軟な働き方が実現し、業務と生活の両立がしやすくなります。残業時間の削減や、生産性の向上が見込めます。
2.フレックスタイム制のメリットとデメリット
それでは、フレックスタイム制を導入するとどのようなメリットとデメリットが考えられるのでしょうか?
メリット ①:ライフスタイルに合わせた出退勤が可能
フレックスタイム制度は、出社や退社のタイミングが従業員自身にゆだねられるため、子どもの送り迎えなどの育児や介護といったプライベートの時間と仕事の両立がしやすくなる点があげられます。
自身の都合にあわせて、その日の業務量の調整を図るといったことも可能です。
メリハリのある働き方が実現できることで、非効率な労働時間を削減でき、従業員全体の生産性を高められます。
メリット②:優秀な人材が集まりやすい
フレックスタイム制度は従来の働き方に比べ自由度が高まるので、採用活動で優秀な人材が集まりやすくなるという点があげられます。
最近はワークライフバランスを大切にしている人たちが増えてきているので、ある程度自由のきく働き方ができる企業を探している求職者が多く、優秀な人材もおのずと集まりやすくなるでしょう。
また働く時間に制約がある人たちにとってはフレックスタイム制度は大変働きやすい環境であることは間違いありません。
メリット③:無駄な残業の軽減に
フレックスタイム制度は残業時間の軽減にも繋がります。
出社時刻より早くに仕事をしないといけない場合でも、定時ならなければ退勤できないため、早朝仕事した分が残業になります。
定時後に仕事がある場合も規定の出社時刻に出社して、その時間まで仕事をしていると残業になります。
「フレックスタイム制度」が導入されていると、早朝仕事をしてもその分早く退勤ができ、朝遅く出社することもできるので、無駄な残業がなくなり企業としても大きなメリットになります。
メリット④:従業員のストレスを削減できる
フレックスタイム制度は、従業員が感じる不要なストレスを削減することができます。
例えば、大半の定時制の従業員は、毎日の通勤ラッシュをストレスに感じているでしょう。しかしフレックスタイム制を導入していれば、出勤・退勤時間を自身で決めることができます。そのため、従業員が業務に打ち込みやすい状態をつくることができるでしょう。
さらに、勤務時間が柔軟であることから、従業員は自分の生活リズムに合わせて働くことができ、ライフスタイルに起因するストレスも軽減されます。特に、育児や介護の事情を抱えている従業員にとっては、自身に合った時間に働くことができるため、負担感が大きく減少するでしょう。
このようにフレックスタイム制度は、従業員が快適に働ける環境を提供し、ストレスの少ない職場づくりに寄与することができるのです。結果として、従業員満足度が向上し、離職率の低下にもつながると考えられます。
デメリット①:取引先・外部との連携が取りづらい
出勤している時間帯にムラがあることから、取引先や外部の方とのコミュニケーションにタイムロスが生じてしまいやすいです。
適切に対応ができるよう、あらかじめコアタイムを連携しておくほか、複数人体制で対応に備える、緊急時に連絡が取れる携帯電話を支給するなどといった対策を講じることが大切です。
デメリット②:従業員の出退勤管理が大変
本人の自己責任で勤怠管理をおこなうため、企業が従業員の労働時間を正確に把握するのが難しくなります。
フレックスタイム制度は一定期間内の総勤務時間が定められていて、その時間を自分で調整しながら働くという制度です。自己管理がしっかりできていない場合、総勤務時間が不足しているという事態になることもあります。
もしそうなった場合は給料から控除されるか、次の期間に不足分を足した時間を総労働時間として勤務しないといけなくなるため、自分で自分の首を絞めてしまいます。
フレックスタイム制度を導入する際に、対象となる従業員の見極めが大切です。
ここまでフレックスタイム制の概要とメリット・デメリットを解説してきましたが、残業代の計算や導入するまでのステップが複雑になっているため、導入する前に必ず理解しておきましょう。
当サイトでは、上述したフレックスタイム制について、図を用いてわかりやすく解説している資料を無料で配布しておりますので、導入検討中でもう少し情報収集をしたいと考えられているご担当者様は、こちらから「フレックスタイムを実現するための制度解説BOOK」をダウンロードしてご確認ください。
デメリット③:従業員の自己管理能力が低い場合は生産性が落ちる
従業員が自身のタスクを管理する能力が低い場合、定時制と比べて生産性が落ちてしまうケースも考えられます。
出退勤のタイミングが自由であるため、自己管理ができず締め切りに間に合わないといった状況に陥ってしまう可能性があります。
フレックスタイム制度では、従業員に自由な働き方を提供する反面、自己管理がしっかりできていないと、労働時間が偏ってしまうこともあります。
デメリット④:光熱費が増加する
出退勤のタイミングが個々人に委ねられていることから、朝から晩までオフィスを開けている必要があります。そのため、オフィスの運営コストの一部である光熱費が増加する可能性があります。
特に、多くの従業員がフレックスタイム制を利用している企業では、昼間に多くの人が出勤している以外の時間帯にも施設を使う機会が多くなり、このような状況が続くと光熱費の増加が負担になることも考えられます。
デメリット⑤:従業員同士のコミュニケーション量が減る
バラバラのタイミングで出退勤するため、いつでもオフィスに固定のメンバーがいるとは限りません。そのため定時制と比較すると、会議や複数人でおこなう業務の時間調整が難しくなったり、フランクなコミュニケーションが減ったりすることも考えられます。
特に重要な情報共有や意思決定を迅速に行う必要がある場合、タイミングが合わないことで情報の伝達が遅れてしまうこともあります。
こうした状況は、チームの一体感や協力関係を損なう要因となるため、企業としてはコミュニケーションの促進を図る施策を講じることが必要です。 例えば、チームビルディングのイベントを定期的に開催したり、オンライン上でのコミュニケーションツールを活用して、迅速な情報共有の場を設けましょう。
従業員同士が定期的に顔を合わせる機会を増やすことで、フレックスタイム制度のデメリットを軽減し、円滑な業務運営を促進することができます。
3.デメリットへの対策
デメリットとして挙げた項目も、ある程度対策することが可能です。
①社内コミュニケーションツールの見直し
全員が勤務している時間に限りがあるため、コミュニケーションを円滑に進めるためチャット形式のコミュニケーションツールの導入をおすすめします。
最近では、ミーティング機能やファイルの共同編集機能も兼ね備えたチャットツールも存在します。自社の状況に合わせて最適なツールを選定しましょう。
②チームごとにルールを作る
先ほど、コアタイム以外に起きた緊急の案件に対応できない可能性を指摘しました。その他にも、コアタイムが短くてチームミーティングが思うように組めない…といった悩みも発生するかもしれません。
このような場合、全社ルールとは別でチーム(部署)ごとのルールを設定することが有効です。例えば、「基本的にフレックスタイムだが、火曜日だけは9:30-18:00に来る」「フルタイム勤務する日を持ち回りで決める」などのルールを設定すれば、上記のような悩みはある程度解決するはずです。
③勤怠管理システムの導入
出勤時間と退勤時間を自由に調整できるため、勤怠管理になるというデメリットを挙げました。これを解消するのが、勤怠管理システムの導入です。
テレワークを導入している場合は、クラウド型のWeb打刻が効果的でしょう。ICカードだけではなく、様々なデバイスに対応できるシステムを導入することで、打刻の抜け漏れを防ぐこともできます。
さらに、勤怠管理システムを用いることで、各従業員の勤務状況をリアルタイムで把握できるメリットがあります。これにより、適切な労働時間の管理が行いやすくなり、法定労働時間の遵守や残業管理にも役立ちます。
④従業員にフレックスタイム制導入の意義や目的を周知する
通勤ラッシュを免れることができるほか、ライフワークバランスの調整が可能になるといった魅力的な側面ばかりを強調してしまうと、従業員の労働意欲低下を招いてしまうことも考えられます。従業員の生産性向上や、自立性の高い従業員の定着などの本来の目的をしっかりと周知することが大切です。
具体的には、フレックスタイム制が企業の戦略にどう寄与するのか、従業員にとってどのようなメリットがあるのかを明確に伝えることが求められます。 また、フレックスタイムの運用ルールや期待される成果についても説明し、従業員自身が制度を理解し、能動的に活用できるような土壌を整えることが重要です。
⑤ランニングコストを抑える仕組みづくり
必要以上に光熱費がかさむことを避けるためには、オフィス内のエネルギー消費を見直すことも重要です。特に、フレックスタイム制を導入している企業では、従業員の勤務時間帯がバラバラになるため、特定の時間帯にオフィスが空いていることが多くなります。
このタイミングを活かして、照明をLEDに変更したり、エネルギー効率の高い設備に入れ替えるなどの取り組みを進めることが有効です。
また、定期的な設備のメンテナンスを行い、無駄なエネルギー消費を防ぐことで、より持続可能な経営が実現します。
加えて、従業員へエネルギーの使い方に関する教育を行うことで、全員がコスト削減に意識的になるよう促すことも効果的です。このように、コスト面を意識した仕組みを構築することが、企業の成長に貢献します。
4.フレックスタイム制導入の注意点
フレックスタイム制度は、メリットが多く便利な制度ですが、固定制と異なりややこしい部分もあるため、注意が必要です。
労働基準法に違反しないよう、間違えやすいポイントをしっかり理解し、正しくフレックスタイム制度を導入しましょう。
4-1. 残業代は支払う
フレックスタイム制においても、残業代は必ず支払う必要があります。
フレックスタイム制の残業時間は、清算期間内に労働した時間を基準に計算されます。清算期間が1ヶ月以内の場合には、法定労働時間の総枠(40時間×暦日数/7日)を超えた時間が割増賃金の必要な時間外労働となります。
清算期間が1ヶ月を超える場合には、上記に加えて1ヶ月ごとの労働時間が「週平均50時間」を超えた時間も、時間外労働としてカウントしなくてはなりません。
詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
▶フレックスタイム制で残業代は減るの?残業時間や残業代の計算方法を解説!
4-2. 労働時間を繰越できる
清算期間で不足してしまった労働時間は、法定労働時間の総枠をこえない範囲で次の清算期間中の総労働時間に上積みさせることが可能です。給与に関しては、不足している実労働時間を次の清算期間で埋めることができるため、支払い額に変更はありません。
一方で、翌月の労働時間が法定時間を超越した場合は、その分の割増賃金を支払う必要があるため注意が必要です。
フレックスタイム制の清算期間とは?最大3か月に延長する際の注意点
4-3. 総労働時間を計算する
フレックスタイム制度を導入するにあたり、清算期間に沿った総労働時間を決定する必要があります。清算期間が1カ月以内の場合は、月の法定労働時間は、日数によって変動するため、以下の計算式で算出します。
清算期間における 法定労働時間の総枠 =1週間の法定労働時間(40時間)×(清算期間の暦日数÷7日)
清算期間を1カ月と設定した場合、法定労働時間の総数は以下の通りです。
28日 | 160.0時間 |
29日 | 165.7時間 |
30日 | 171.4時間 |
31日 | 177.1時間 |
そのため、1カ月の所定労働時間はこれを超えないように設定しなければなりません。
清算期間を1カ月を超えた期間に設定する場合、以下のポイントに注意する必要があります。
- 清算期間における総労働時間が、週平均40時間以下である
- 1カ月ごとの労働時間が、週平均50時間を超えない
いずれかを超えた労働は、時間外労働となります。
5.フレックスタイム制導入に向いている業界・職種
一見メリットの多いフレックスタイム制度ですが、なぜ普及しないのか疑問にもたれる方も多いでしょう。最も大きい要因としては、フレックスタイム制度の導入は仕事の形態により、向き不向きがあることがあげられます。
平成30年の厚生労働省の調査での業界別導入率は、「電気・ガス・水道」が29.6%と最も高く、その後に情報通信業(24.0%)、専門・技術サービス業(14.1%)、製造業(13.8%)と続き、スムーズに導入が進んでいることがうかがえます。[注1]
職種に関しては、個人の裁量で、仕事を進められるものが向いていると言えるでしょう。企画職や事務職、エンジニア、Webデザイナー、Webライターといった職種が該当しやすいです。
▶フレックスタイム制の導入が適している職種とは
6.導入フロー
フレックスタイム制度を導入するためには、いくつかの手順が存在します。導入フローを理解し、適切に制度を取り入れましょう。
6-1. 労使協定で定める5項目
フレックスタイム制度を導入するにあたり、清算期間が1カ月を超過する場合は、労使協定の締結が不可欠です。必須項目は以下の4つです。
- 対象従業員の範囲
- 清算期間と起算日
- 清算期間内の総労働時間
- 基準となる1日の労働時間
また上記に加えて、任意でコアタイムやフレキシブルタイムを定めるケースが多いです。
▶フレックスタイム制での労使協定の締結は不要?導入するためのルールを解説
7.まとめ
フレックスタイム制度のメリット・デメリットについて紹介しました。
企業の生産性の向上につなげたり、無駄な残業を減らしたりと従業員のためにフレックスタイム制度を施策として打ち出してみるのもいいかもしれません。
ただし、デメリットに関しては、対策をしっかりすることで少しは改善できるのではないかと思います。
たとえば、従業員の勤怠管理のために、正確な打刻ができて手間のかからない、勤怠管理システムを導入してみるのもいいかもしれません。
もちろん、フレックスタイム制度のメリットやデメリットだけでなく、仕組みや概要を分かっていなければ導入の検討もできないかと思うので、フレックスタイム制度について理解を深めてみてください。