フレックスタイム制には、従業員のライフワークバランスや生産性の向上といった効果が見込まれることから、導入を検討する企業が増えています。社内で適切に導入するためには、労使協定の締結や就業規則にまつわるルールを理解する必要があります。
本記事では、フレックスタイム制を導入するにあたり、労使協定に組み込む必要がある事項、就業規則にまつわるルールや注意点をあわせて解説します。
フレックスタイム制の導入には、労使協定の締結や就業規則の変更・届出など、行うべき手続きが存在します。
また、フレックスタイム制を導入した後に、「出勤・退勤時間が従業員によって異なるので、勤怠管理が煩雑になった」「残業時間の計算方法と清算期間の関係がよく分からない」といったお悩みをお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そのような方に向け、当サイトでは「フレックスタイム制度を実現するための制度解説BOOK」をご用意しました。
「フレックスタイム制の導入手順を詳しく知りたい」「清算期間・残業の数え方や勤怠管理の方法を知りたい」という方は、ぜひダウンロードしてご覧ください。

目次
1. フレックスタイム制とは
フレックスタイム制度とは、「最大期間を3か月とする一定期間内(精算期間)の総労働時間をあらかじめ決めておき、労働者はその精算期間内で毎日の労働日の労働時間を自分で決めることができる」という制度です。
労働時間を自由に決めることができるといいましたが、一般的にはコアタイムとフレキシブルタイムという時間に分けて運用されることがほとんどです。
1-1. コアタイムとフレキシブルタイム
『コアタイム』とは、その時間内は必ず勤務していないといけない時間帯です。日々決まった時間に会議や打ち合わせなどをする場合に、フレックスタイムだからといって参加しないわけにはいきません。
たとえば、10時から15時と明確に時間を設定して、オフィスに出勤する時間をコアタイムとして設けます。
『フレキシブルタイム』とは、コアタイム以外の時間帯ならいつ出社または退社してもいいという時間帯のことをいいます。このコアタイムとフレキシブルタイムは、各企業によって時間帯が設定されるため、コアタイムが長い会社もあれば短い会社もあります。
ここで勘違いしてはいけないのが、コアタイムの時間だけ働いていれば問題がないのではないかと考えてしまうことです。フレックスタイム制度は一定期間の総労働時間が定められていますので、コアタイムの時間のみ働いていると、合計労働時間が定められた労働時間を下回り、労働時間が不足してしまいます。
企業によっては労働時間の不足分が給料から控除される可能性もあるので、その線引きをどうするのかを企業で考える必要があります。
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2. タイム制を導入する際に必要な手続きとは?
フレックスタイム制度は、「清算期間(最大3か月)を平均して1週間あたりの労働時間が40時間以内であれば、特定の1日で8時間、1週間で40時間を超えて労働しても構わない」という制度です。
このような就業形態を実現するために、次の2つの要件を満たす必要があります。
- フレックスタイムを導入する旨を就業規則等に規定する
- 具体的な事項に関して労使協定を締結する
では、次項以降でそれぞれについて詳しくみていきましょう。
Step1:就業規則等に規定する
就業規則あるいはこれに準ずるものには、「始業・終業時刻を労働者の自主決定に委ねること」を規定する必要があります。また、対象となる労働者の範囲や清算期間、清算期間における総労働時間に関しても、労働者の始業・終業時刻にかかわる事項であることから、就業規則等でも規定しなければなりません。
注意すべき点は、フレックスタイム制度において、始業時間だけあるいは終業時間だけを労働者に委ねることは不適だということです。必ず両方の時刻を労働者の決定に委ねなければなりません。これらを規定したのち、所轄の労働基準監督署に届け出が必要です。
Step2:労使協定を締結する
労使協定は、事業場に過半数の労働者で組織された労働組合があればその組合と、そうした組合がない場合は過半数の労働者を代表した者と締結します。労使協定では、フレックスタイム制度の基本的な枠組みを5つの項目に設定しています。
Step3:従業員へ周知する
企業は、就業規則を従業員に知らせる義務があります。フレックスタイム制の導入をおこなうにあたっても、従業員への周知を徹底しなければなりません。フレックスタイム制のルールや導入の意図を含めて伝え、社内への浸透を図りましょう。
【注意】清算期間が一カ月以内の場合は労使協定書の届出は不要
清算期間とは、厚生労働省によると「フレックスタイム制において、労働者が労働すべき時間を定める期間のこと」と定義されています。また清算期間の上限は、法改正により一カ月から三カ月に更新されました。
仮に清算期間を一カ月以内に定める場合は、労使協定の届出は不要となります。
3. 就業規則で定める必要のある項目
就業規則とは、使用者が従業員に対して求める規則であり、従業員はそれらを守る必要があります。フレックスタイム制においては、下記の情報を追加する必要があります。
3-1. 始業及び終業時刻の両方を労働者の決定に委ねること
フレキシブルタイム制を取り入れた際には、従業員には始業・終業時間の両方を、自主的に決定できる権利が与えられます。上記の旨を含めた厚生労働省が出す就業規則のひな形は、下記の通りです。
(適⽤労働者の範囲) 第○条 第○条の規定にかかわらず、営業部及び開発部に所属する従業員にフレックスタイム 制を適⽤する。
(清算期間及び総労働時間) 第○条 清算期間は1箇⽉間とし、毎⽉1⽇を起算⽇とする。 ② 清算期間中に労働すべき総労働時間は、154時間とする。
(標準労働時間) 第○条 標準となる1⽇の労働時間は、7時間とする。
(始業終業時刻、フレキシブルタイム及びコアタイム) 第○条 フレックスタイム制が適用される従業員の始業および終業の時刻については、従業員 の⾃主的決定に委ねるものとする。ただし、始業時刻につき従業員の自主的決定に委ね る時間帯は、午前6時から午前10時まで、終業時刻につき従業員の自主的決定に委ね る時間帯は、午後3時から午後7時までの間とする。 ② 午前10時から午後3時までの間
(正午から午後1時までの休憩時間を除く。)につい ては、所属⻑の承認のないかぎり、所定の労働に従事しなければならない。
(その他) 第○条 前条に掲げる事項以外については労使で協議する。
4. 労使協定で締結する必要のある項目
労使協定では、フレックスタイム制度の基本的な枠組みについて次のように定めていきます。
4-1. 対象となる労働者の範囲
フレックスタイム制度の対象となる労働者の範囲を明示します。全労働者、○○課に所属する者、本社の事務員など様々な範囲が考えられます。
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4-2. 清算期間
清算期間に関しては「期間の長さ」と「起算日」の両方を定めなければなりません。ゆえに、毎月1日から末日までの1か月間などと定められることが一般的です。期間の長さは1か月以内であればよいので、1週間単位など任意に定めることが可能です。
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4-3. 清算期間における総労働時間
定めた清算期間内に労働しなければならない時間を定めます。この時間を平均した1週間の労働時間は、法定労働時間と同じかそれより少なくなければならないことに注意してください。
法定労働時間は40時間/週の場合、清算期間における総労働時間は次の「法定労働時間の総枠」以下にする必要があります。清算期間における総労働時間を超えて労働した場合は、時間外労働として取り扱われます。
31日 177.1時間
30日 171.4時間
29日 165.7時間
28日 160.0時間
7日 40.0時間
労使協定においては大きく分けて、法定労働時間の総枠の範囲内で1か月○○時間といった具合に一律に総労働時間を定める方法と、所定労働日を定めて所定労働日の労働時間を定める方法があります。
現在は清算期間が最大3か月まで可能なので、清算期間に合わせて都度計算をし直すようにしましょう。
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4-4. 標準となる1日の労働時間
一般的には定めた総労働時間を清算期間における所定労働日数で割ったものを記載します。
ただし、単に適切と思われる労働時間を記載するだけでも構いません。フレックスタイム制度の対象となる労働者が有給休暇を取得した場合、ここで定めた時間を労働したものとして取り扱われます。
4-5. コアタイムとフレキシブルタイム
コアタイムを設ける場合はその開始時刻と終了時刻を定める必要があります。
ただし、コアタイムの開始時刻から終了時刻までの時間数と清算期間として定めた「標準となる1日の労働時間」がほぼ一致するような場合は、フレックスタイム制度の趣旨から外れてしまうことに注意してください。
なお、労使協定に関しては届け出をする必要はありません。
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フレックスタイム制度は細かい考え方が複雑に絡み合っていますので、導入検討中だが制度の理解や運用方法について不安な点が残っているご担当者は、こちらから「フレックスタイムを実現するための制度解説BOOK」をダウンロードしてご確認ください。
5. 任意で定めておきたい事項
労使協定に含む事項には、上記のフレキシブルタイムと同様、任意で定められる場合のある事項が複数存在します。
5-1. 休憩時間
原則として、フレックスタイム制においても休憩時間は、6時間を超える労働には45分、8時間を超える労働には1時間を労働の途中で与える必要があります。また一斉に与え、自由に利用させなければなりません。しかしフレックスタイム制により、従業員一人一人の始業・終業時刻が異なってくる場合、休憩をとる時間も異なることが考えられます。
休憩を取得する時間をゆだねる場合は、その旨を就業規則に記載する必要が出ます。
5-2. フレックスタイム制の適用外時間帯
例えば、年末年始をはじめとする祝日でフレックスタイムを適応させない時間がある場合は、その旨を明記をします。また深夜残業を防止したい場合は、フレックスタイムとして活動することが不可能な時間を加えて明記しましょう。
5-3. 超過時間・不足時間の取り扱い
残業が発生する企業の場合、清算期間中の実労働時間が総労働時間を超過して労働した場合の取り扱いを明記しておくとよいです。
逆に実労働時間が総労働時間に至らなかった場合には、下記2パターンの対応があります。
1.不足分を次月の総労働時間に繰り越す
2.不足時間分を賃金から控除する
不足時間分を翌月の総労働時間に上積みさせることは、法定労働時間の範囲内である限りは、違法となりません。
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5-4. 休日の取り扱い
所定の曜日を休日にしたい場合は、休日の取り扱いを明記します。
また法定休日での出勤は、フレックスタイム制においても休日割増賃金が求められるため、その旨を明記しておくとわかりやすいです。
5-5. 遅刻・早退・欠勤の取り扱い
フレックスタイムとは、清算期間内に総労働時間帯を満たしていれば、働く時間帯に拘束がない形態ではありますが、コアタイムがある場合は、遅刻した際のペナルティを労使協定を結ぶことで、防止効果が期待できます。
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5-6. フレックスタイム制の解除条件
例えば従業員が適切な時間管理をおこなえず、コアタイムへの遅刻や総労働時間の不足を繰り返す場合は、定時制に切り替えることも手段の一つです。解除する条件を定めて、事前に労使協定に定めておく必要があります。
5-7. フレックスタイム制の有効期間
有効期間を定めておくメリットとしては、のちにフレックスタイム制を解約する際の工数が省けることです。定めない場合は、解約時に企業と従業員との合意を再度とる必要があるためです。有効期限を一年に設定しても毎年新たに締結することは逆に手間になりかねないため、特定の期限までに解約の申し出がない場合は、自動更新をする旨を定めることを推奨します。
6. 労働基準法に違反しないよう注意すべき点
労働時間の自由度が高いフレックスタイム制ですが、正しいルールのもとで運用しなければ、労働基準法に違反してしまう恐れがあります。定時制とは異なる部分を理解し、注意しておくべきポイントを明確にしましょう。
6-1. 36協定の締結・届出と割増賃金の支払う必要があるケース
フレックスタイム制は始業・終業時間を従業員が定められる制度ですが、定時制と同様総労働時間が1日8時間以上、1週間で40時間を超える場合は、36協定の締結・届出をおこなう必要があります。また適切な割増手当も支給する必要があるため注意が必要です。
6-2. 労働時間に過不足が生じた場合の処理方法
フレックスタイム制において、労働時間の総枠に対して発生した不足分は、次月に繰り越すこと、もしくは不足分の給料をカットすることの二つの方法があります。
しかし翌月に繰り越しをおこなう際には、総労働時間を超えていないか確認をする必要があります。超えてしまうと労働基準法に違反してしまうため注意が必要です。
6-3. 遅刻や早退の管理について
遅刻や早退、欠勤などは設定したコアタイム内に労働できていない場合にカウントされます。
しかし、例えばコアタイム終了前に1時間の早退した社員がいた場合、1時間分の賃金をカット出来るとは限りません。別日に超過して働き、清算期間における総労働時間が満たされている可能性があるためです。
不就労としてではなく、就業規則違反としてペナルティを課す場合は、労働基準法91条にある「1回の減給額が平均賃金の1日分の半額を超えない、1賃金支払期に発生した減給の合計が給料総額の10分の1を超えない」を満たす必要があります。
7. 最後に
フレックスタイム制は、始業・終業時刻を自身で自由に設定ができる便利な制度です。社内でスムーズに導入をするためには、労使協定の締結や就業規則をしっかりと定めることが重要です。
注意しておくべきポイントを理解し、社内に正しくフレックスタイム制を取り入れましょう。