2019年4月、働き方改革関連法の施行により、フレックスタイム制のルールが変更されました。
この変更により、自由に労働時間を調整できる期間(=清算期間)は最大1ヵ月から3ヵ月まで延長することが可能になりました。しかし、延長するためにはいくつかの決まりが存在するため、ルールを理解するのが難しいという方もいらっしゃると思います。
そこで今回は、フレックスタイム制の「清算期間」に着目して、労働時間の考え方や実務上のポイントについて解説します。
フレックスタイム制とは|導入のメリットから手続きまで総まとめ
フレックスタイム制の導入には、労使協定の締結や就業規則の変更・届出など、行うべき手続きが存在します。
また、フレックスタイム制を導入した後に、「出勤・退勤時間が従業員によって異なるので、勤怠管理が煩雑になった」「残業時間の計算方法と清算期間の関係がよく分からない」といったお悩みをお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そのような方に向け、当サイトでは「フレックスタイム制度を実現するための制度解説BOOK」をご用意しました。
「フレックスタイム制の導入手順を詳しく知りたい」「清算期間・残業の数え方や勤怠管理の方法を知りたい」という方は、ぜひダウンロードしてご覧ください。

1. フレックスタイム制の清算期間とは
清算期間とは、フレックスタイム制において労働者が働く時間を調整できる期間のことです。労働者は、清算期間の中で所定労働時間に達するように日々の労働時間を調整します。
1-1. 2019年4月から最大3ヵ月まで清算期間の延長が可能に
2019年の法改正までは、この清算期間は最大1ヵ月まででしたが、同年4月以降は、最大期間は3ヵ月とされています。
3ヵ月に延長することで、より各個人の都合に応じた労働時間の調整が可能になります。
例えば、清算期間が7月~9月の3ヵ月のAさんに小学生の子どもがいたとします。8月は子どもが夏休みで家にいる時間が長いため、7月と9月は長めに働き、8月は早めに退勤することで、子どもと過ごす時間を増やすことができます。
このように、3ヵ月の清算期間とすることで、今までは調整できなかった月ごとの労働時間の調整が可能になります。
1-2. 清算期間が1ヵ月以内の場合
フレックスタイム制では、まず清算期間中の法定労働時間の総枠を計算して、その中で総労働時間を決定します。この法定労働時間の総枠の求め方は、
【清算期間の暦日数÷7】×【40時間(1週間の法定労働時間)】
です。実際に計算すると、このようになります。
31日 177.1時間
30日 171.4時間
29日 165.7時間
28日 160.0時間
7日 40.0時間
この総枠におさまるように所定の労働時間を設定する必要があります。
1-3. 清算期間が1ヵ月を超える場合
清算期間が1ヵ月を超える場合も、基本的に計算方法は一緒です。実際に法定労働時間の総枠を計算するとこのようになります。今回は3ヵ月の場合を掲載します。
92日 525.7時間
91日 520.0時間
90日 514.2時間
89日 508.5時間
しかし、清算期間1ヵ月を超える場合は、この法定労働時間の総枠のみ守れば良いわけではありません。過度な労働を防ぐために、法改正では新たなルールが設けられました。法改正で新たに設けられた決まりについては次章でくわしく解説します。
ここまで解説してきたように、フレックスタイム制の残業時間の計算は複雑であるため、文面のみであるとわかりづらい方もいるのではないでしょうか。
そこで当サイトでは、フレックスタイム制の概要から残業の考え方まで解説した資料を無料で配布しております。フレックスタイム制の清算期間の仕組みや残業代計算の方法を正確に理解したいご担当者様は、こちらから「フレックスタイムを実現するための制度解説BOOK」をダウンロードしてご確認ください。
2. 清算期間が1ヵ月を超える場合の注意点
ここからは、法改正に伴って新しく追加された決まりを2つご紹介します。どちらも、清算期間が1ヵ月を超える場合のルールです。
2-1. 過重労働を防ぐような労働時間の設定が必要
先ほど、清算期間を最大3ヵ月まで延長することで、各個人の都合に応じた調整ができるメリットがあるとお伝えしましたが、同時に労働時間が一定期間に集中しすぎて健康被害が高まるリスクもあります。
そこで、過度な労働を防ぐために2つの条件を満たす必要があります。
①清算期間における総労働時間が法定労働時間の総枠を超えないこと
(=清算期間全体の労働時間が、週平均40時間を超えないこと)
②1ヵ月ごとの労働時間が、週平均50時間を超えないこと
このルールがあるため、繁忙期・閑散期の差が大きかったとしても、繁忙期に偏った長時間労働をすることができない仕組みになっています。
フレックスタイム制の清算期間を1ヵ月を超えて設定する場合は労働時間の上限に注意しましょう。
2-2. 清算期間が1ヵ月を超える場合は、労使協定の届出が必要
さらに、清算期間が1ヵ月を超える場合は、労使協定を所轄労働基準監督署長に届け出る必要があります。
清算期間が1ヵ月以内の場合は、フレックスタイム制を導入するためには
- 就業規則等への規定
- 労使協定で所定の事項を定めること
の2点が必要でした。しかし、清算期間を延長する場合は、この2点に加えて労使協定の届出が必須になります。
違反すると、30万円以下の罰金が科せられる場合があるので、清算期間を決める際は注意しましょう。
フレックスタイム制を導入する際のポイント|労使協定や就業規則は?
3. 清算期間にまつわる疑問
ここまで、清算期間の仕組みと新しいルールについてご説明しました。
最後に、その他清算期間にまつわる疑問を2点ご紹介します。
3-1. 清算期間が1ヵ月を超える場合、時間外労働はどう考えるのか?
清算期間が1ヵ月を超えた場合、時間外労働はどのように考えるのでしょうか。
労働時間を調整する際、
①清算期間における総労働時間が法定労働時間の総枠を超えないこと
(=清算期間全体の労働時間が、週平均40時間を超えないこと)
②1ヵ月ごとの労働時間が、週平均50時間を超えないこと
の2点を満たす必要があります。
36協定を締結し、設定された時間外労働の範囲内であれば、超過した時間が時間外労働となります。この時間外労働に対して、割増賃金込みの残業代を支給すれば、問題ありません。
ただし、時間外労働に対する残業代の算出は、清算期間全体だけではなく、各月ごとにも算出する必要があります。
そのため、清算期間が1ヵ月以上の場合は以下のように計算します。
①各月内で週平均50時間を超過した時間数を求める
②清算期間内で法定労働時間を超過した時間数から①の時間を差し引いた時間数を求める
③②で求めた時間数に割増賃金を加味した残業代を計算する
少し複雑ですが、ルールをしっかりと把握しておきましょう。
フレックスタイム制で残業代は出るの?|残業時間の算出方法を解説!
3-2. 総労働時間が法定労働時間の総枠を超えてしまう場合はどうすればよいか?
法改正前は、完全週休2日制の場合、1日8時間労働だとしても曜日の巡りによって、清算期間における総労働時間が法定労働時間の総枠を超えてしまうことが起こり、問題視されていました。
そのため今では、週の所定労働日数が5日(完全週休2日)の労働者を対象に、労使協定によって、清算期間内の所定労働日数×8時間を労働時間の限度とすることが可能になりました。
限度の範囲内であれば、対象期間の総労働時間が法定労働時間の総枠を超えること自体には問題ありませんが、労使協定は必須となるため、注意しましょう。
4. 自社にあわせたフレックスタイム制の清算期間を設定しよう
フレックスタイム制における清算期間について、1ヵ月を超える場合を中心に説明してきました。
法改正により、より自由な働き方ができるようになりましたが、その分必要な手続きが増えたり、制度が複雑になったりと、運用が難しくなった側面もあります。
しかし、自社に適したフレックスタイム制を取り入れることで、従業員のパフォーマンスが上がることや優秀な人材が集まることなどが期待できます。ぜひ、本記事を参考に、自社の制度を見なおしてみましょう。