多様化する価値観や自由なライフスタイルなどへの変化に伴い、労働環境にも効率化が求められています。
そこで、近年は働く人の個性や能力を発揮できる環境にしようという考えが広まり、フレックスタイム制を取り入れる企業も増えてきました。
フレックスタイム制度は、最大期間3か月という「清算期間」とその間に働くかなければならない「総労働時間」を定めることで、始業と終業の時刻については労働者が決定できるというものです。清算期間の総労働時間を超えなければ、法律により定められている、1日8時間、週40時間の法定労働時間を超えて労働することもできます(特例措置対象事業場では週44時間までが法定労働時間)。
フレックスタイム制度を有意義なものにするには、コアタイムとフレキシブルタイムを上手に活用することが重要です。
そこで今回は、フレックスタイム制度におけるコアタイムや、フレキシブルタイムとの理想的なバランスや効果について解説します。
フレックスタイム制の導入には、労使協定の締結と就業規則等の変更が必要であり、場合によって行うべき手続きが存在します。
また、フレックスタイム制を導入した後に、「出勤・退勤時間が従業員によって異なるので、勤怠管理が煩雑になった」「残業時間の計算方法と清算期間の関係がよく分からない」といったお悩みをお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そのような方に向け、当サイトでは「フレックスタイム制度を実現するための制度解説BOOK」をご用意しました。
「フレックスタイム制の導入手順を詳しく知りたい」「清算期間・残業の数え方や勤怠管理の方法を知りたい」という方は、ぜひダウンロードしてご覧ください。
目次
1.コアタイムとは何か
コアタイムとは、その企業の労働者が必ず労働していなければならない時間帯を指します。コアタイムを設ける場合は、フレキシブルタイムの設定も必要です。
フレキシブルタイムとは、従業員が自ら働く時刻を自由に選択できる時間帯のことを指し、いつ出勤しても退勤しても良い時間帯です。始業と終業の時間を労働者本人の選択に委ねることができます。
1-1.コアタイムの目的
コアタイムはなぜ必要なのか、その設置目的から考えていきましょう。
そもそもコアタイムは、必ず設定しなければいけないものではありません。実際にコアタイムのないフレックスタイム制(スーパーフレックスタイム制)を導入している企業もあります。
しかし、フレックスタイム制は、ワークライフバランス推進や多様な働き方実現のために重要な制度である一方で労働時間の管理が難しくなったり、従業員同士や取引先とのコミュニケーションが取り辛くなるという側面もあります。
そこで、全従業員が必ずいるコアタイムを設けることにより、ミーティングや商談などの予定が立てやすくするというわけです。
実際にフレックスタイム制を導入している企業の多くは、比較的従業員が集まりやすい、1日のうちの中間にあたる時間帯をコアタイムとして設定しています。
従業員の働きやすさを確保しつつも職場内や取引先との連携を円滑にするためには、コアタイムは重要な役割を持つといえるでしょう。
1-2.フレキシブルタイムとは
フレキシブルタイムとは、従業員が出勤時間と退勤時間を自由に決めることができる時間帯のことです。
たとえば、コアタイムが11時~15時に設定されており、フレキシブタイムが7時~11時と15時~20時に設定されている場合、従業員は8時に出勤して16時に退勤しても、11時に出勤して15時に退勤しても構いません。
そのため、前日夜遅くまで働いたため、翌日は出勤時間を遅らせるといったことも可能です。
ただし、出退勤の時間を自由に決めることはできるものの、清算期間内における総労働時間(所定労働時間)は満たす必要があります。
フレックスタイム制では、従業員それぞれが自己管理のもと労働時間を調整することが求められます。
2.コアタイムを設けるメリット
働く時間を従業員が自由に決められるフレックスタイム制度。とはいえ、コアタイムがある場合は「完全な自由ではない」とネガティブに捉える人がいるかもしれません。
たしかにコアタイムの時間帯は必ず勤務しなければいけませんが、コアタイムを設けることによって、次のようなメリットが生まれます。
2-1.時間の管理がしやすくなる
フレックスタイムではあらかじめ決められた清算期間内で総労働時間(所定労働時間)を満たす必要があります。スケジュール管理が得意な人であれば、総労働時間を考えながら自分でスケジュールを組み、業務をすすめることができますが、誰でもスケジュール管理が得意というわけではありません。
スケジュール管理が苦手な人にとっては、コアタイムを軸に出社時間や退社時間を決めることができるため、時間が管理しやすいといえるでしょう。
また、勤怠管理をする担当者にとっても、コアタイムの時間帯は必ず従業員全員が出社していることが把握できるため、コアタイムがない場合よりも勤怠管理はしやすくなるといえます。
2-2.社内外とのコミュニケーションがとりやすくなる
フレックスタイム制の場合、従業員によって出社時間や退社時間が異なります。そのため、社内外を問わず、業務に関する連絡のやりとりにタイムラグが生じたり、会議やミーティングの時間が決めづらくなるといった問題が発生しがちです。
コアタイムを設定しておけば、フレックスタイム制の対象となる従業員は必ずその時間帯には出勤しているため、社内外問わず連絡がとりやすくなり、会議やミーティングのスケジュールも組みやすくなります。
特に社内におけるコミュニケーションはコアタイムがない場合よりもとりやすくなるため、職場の雰囲気が良くなることも期待できるでしょう。
2-3.生活リズムを整えやすい
コアタイムがないフレックスタイム制の場合、清算期間内に総労働時間(所定労働時間)を満たすことができれば、何時に出勤・退勤しても問題はありません。しかし、コアタイムがないことによってあらかじめ決められた時間に出勤するという習慣がなくなり、人によっては生活リズムが乱れてしまう可能性があります。
コアタイムが設定されていればその時間には必ず出勤することになるため、生活のリズムは整いやすくなるといえます。なお、コアタイムは一般的に日中の4~6時間程度で設定されていることが多いようです。
3.コアタイムを設けるデメリット
フレックスタイム制におけるコアタイムは、社内外とのコミュニケーションをスムーズにしたり、従業員の生活にメリハリをつけることができるなどのメリットがあります。しかし、コアタイムを設けることにはデメリットもあります。
以下ではコアタイムを設けることによる代表的なデメリットについて解説します。
3-1.必ず決められた時間に出勤する必要がある
フレックスタイム制は従業員が出勤時間や退勤時間を自由に決めることができ、フレキシブルタイム中であれば中抜けすることも可能です。
しかし、フレックスタイム制であっても、コアタイムが決められている場合はコアタイムの時間より遅く出社すれば遅刻になり、早く退社すれば早退扱いとなります。
フレックスタイム制と聞くと自由なイメージを持ちやすいですが、コアタイムには必ず出勤する必要があるため、人によってはフレックスタイム制のメリットをあまり感じず不満を覚える可能性もあります。特に育児や介護などで日によって出勤できる時間がバラバラな人にとっては、コアタイムがない方がより働きやすいと感じるでしょう。
3-2.会議や業務の時間が集中する
コアタイムはフレックスタイム制の対象となる従業員が確実に出勤している時間帯です。そのため、フレキシブルタイムと比較するとコアタイムに取引先からの連絡が集中したり、会議やミーティングの時間が集中してしまう可能性があります。
その結果、対応しなければならない業務が一時的に集中することで疲労を感じてしまったり、会議やミーティングの時間が制限されてしまうこともあるでしょう。
3-3.かえって効率が悪くなる可能性がある
コアタイムがあることによって、かえって業務効率が悪くなる可能性もあります。
たとえば1日に対応できる業務の範囲が決まっている場合、その日の業務がコアタイムの時間内で早く終わったにも関わらず、退社することができず時間を持て余してしまうことなどが考えられます。また、体調が優れず「午前中は休みたい」といった場合でも、コアタイムが午前中から設定されている場合は午前中から出社しなければいけません。
コアタイムはフレックスタイム制の対象となるすべての従業員にとって最も働きやすい時間帯であるとは限りません。従業員の考え方によってはコアタイムが設定されていることに不満を覚えることもあるでしょう。
4.コアタイムがない「スーパーフレックスタイム制」
一方、コアタイムを一切設けないフレックスタイム制も存在し、「スーパーフレックスタイム制」とよばれることもあります。
スーパーフレックスタイム制は普通のフレックスタイム制に比べさらに自由度の高い働き方が可能になるため、自己管理さえきちんとできれば、より良いワークライフバランス実現につながると考えられています。
さらに、働く時間だけではなく場所も自由に決められる制度は「スーパーフレックス制度」と呼ばれ、欧米の企業ではすでに浸透してきています。
とはいえ、これからフレックスタイム制導入を検討している企業が急にスーパーフレックスタイム制を始めてしまうと、勤怠管理やコミュニケーションが非常に難しくなるでしょう。初めてフレックスタイム制を導入する場合は、コアタイムとフレキシブルタイムがある通常のフレックスタイム制を取り入れることをおすすめします。
5.コアタイムとフレキシブルタイムの理想的なバランスとは?
コアタイムとフレキシブルタイムの両方を設ける際には、フレキシブルタイムの時間を十分に取ることが不可欠です。つまり、フレキシブルタイムが極端に短くては、フレックスタイム制度そのものの意味がなくなってしまうのです。
では実際に、コアタイムとフレキシブルタイムは何時間ずつにするのが理想的なのでしょうか?
1日の所定労働時間が8時間だったと想定し、モデルケースでの時間帯を考えてみましょう。
フレキシブルタイム 8:00〜10:00、15:00〜21:00
このモデルケースでは午後のフレキシブルタイムが長くなっています。
フレキシブルタイムを十分に取るためには、コアタイムを休憩時間を除き4時間程度にするケースが一般的です。
厚生労働省によると、コアタイムが極端に長かった場合、始業時間と終業時間の決定を、労働者本人に委ねていることにはならない(実質的なフレキシブルタイムの採用にはならない)、という通告もあります。
フレキシブルタイムよりもコアタイムの方が長く設定している企業も多いようですが、フレックスタイム制度本来の意味を考えると、その長所を十分に活かしきれていないのかもしれません。
さらに、フレックスタイム制度を採用していても、深夜(22:00〜5:00)の時間帯と法定休日に勤務した場合には、割増賃金が発生します。線引きを明確にするためにも、フレキシブルタイムについてもしっかりと設定することはやはり大切です。
6.コアタイム導入時に必要な要件
フレックスタイム制ならびにコアタイムやフレキシブルタイムを導入する際には、「就業規則に明記すること」と「労使協定で6項目を定めること」の2つの要件を満たすことが求められます。
ここからはそれぞれの要件について詳しく解説します。
6-1.就業規則に明記する
フレックスタイム制を導入する際は、「従業員本人に始業時間と就業時間の決定をゆだねる」旨をはっきりと明記しておく必要があります。
また、フレックスタイム制について就業規則に明記するだけではなく、就業規則に変更があったことを従業員に周知徹底することも必要です。
6-2.労使協定で6項目を定める
労使協定では、次の6項目について定める必要があります。
- 対象となる従業員の範囲
- 清算期間
- 清算期間の起算日
- 清算期間内の総労働時間
- 標準となる1日の労働時間
- コアタイムとフレキシブルタイム
以下ではそれぞれの項目について解説します。
対象となる従業員の範囲
フレックスタイム制の対象となる労働者の範囲を各人、各課、各グループといった単位で定めます。全社的にフレックスタイム制を導入するのであれば、全従業員でも構いません。部署単位で導入するのであれば「全〇〇部職員」のように定めます。
清算期間
清算期間とは、フレックスタイム制において労働者が勤務しなければならない時間を定めた期間のことです。一般的には賃金の計算に合わせて1カ月とするケースが多いですが、最長3カ月まで設定することが可能です。
清算期間の起算日
清算期間の起算日とは、清算期間がどの期間から始まるのかを明確にするための日のことです。具体的には「毎月〇日」といったように定めます。
清算期間の総労働時間
清算期間の総労働時間とは、いわゆる所定労働時間のことです。清算期間における総労働時間は、法定労働時間の範囲内で定める必要があります。清算期間における法定労働時間は次の計算式で算出できます。
なお、上記の「40時間」については、特例措置対象事業場の場合は「44時間」です。
標準となる1日の労働時間
標準となる1日の労働時間は、フレックスタイム制の対象者が年次有給休暇を取得した場合に1日を何時間とするかの基準となる時間です。
フレックス制の対象所は、日によって労働時間が変動するため、1日あたりの賃金も固定されていません。そのため、標準となる1日の労働時間を決めるのです。
コアタイムとフレキシブルタイム
1日のうち、どの時間をコアタイムとフレキシブルタイムにするかを定めます。この2つの時間帯は、従業員の働きやすさを左右する重要なポイントであるため、慎重にすすめる必要があります。
また、設定する時間帯によってはフレックスタイム制と認められない可能性もあるため注意が必要です。
7.コアタイムを設定する際の注意点
最後に、実際にフレックスタイム制を導入するためにコアタイムを設定する際、どのようなことに注意すればよいのかご紹介します。
7-1.より多くの従業員にとって都合が良い時間帯にする
企業によって、所属する社員によって必要なコアタイムは異なります。
コアタイムは〇時間必要と決まっているわけではないため、2時間ほどのコアタイムでも十分に管理できるのであれば短い時間でも構いません。反対に全社員が集まる時間をある程度確保しないと業務が回らない場合は、4時間から5時間ほど設定すると良いでしょう。
導入の際は各社員にヒアリングをおこない、どのようなコアタイムが適しているのかを慎重に検討することが求められます。
7-2.フレキシブルタイムは十分に設定できているか
コアタイムを重視しすぎてフレキシブルタイムが十分に確保できていない場合、フレックスタイム制としての意味を成さなくなってしまいます。たとえば、1日の労働時間が大体8時間の場合、コアタイムが7時間もあると、始業や終業の時間を自由に調整することは困難です。
余裕を持ってフレキシブルタイムが設定できるよう、コアタイムも設定しましょう。
7-3.遅刻や早退の対応を考えておく
フレックスタイム制では始業と終業の時刻に幅があるため、遅刻や早退の概念が曖昧になることがあります。
このようなトラブルを避けるために、コアタイムを設ける場合は事前に遅刻や早退、欠勤といった勤務に関するルールを定め、明文化しておきましょう。また、コアタイムは各部署や従業員ごとに設定することも可能ですが、一方で管理が煩雑になってしまう点に注意が必要です。
ここまでフレックスタイム制におけるコアタイムに関して解説してきましたが、そのほかにも清算期間や時間外労働の割増賃金計算などフレックスタイム制の勤怠管理は複雑になっているため注意が必要です。加えて、清算期間が1ヶ月を超えたり、期間のなかで就職や配転、離職した際には時間外労働で特殊な計算が必要となるため、こういった点にも注意が必要です。
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8.コアタイムの有効活用でフレックスタイム制をよりよいものにしよう
ワークライフバランスという言葉が一般化され、働き方にも多様性が出てきた現代では、フレックスタイム制度は今後ますます必要とされるものになってくるでしょう。
コアタイムやフレキシブルタイムの設定は、ともすると企業側にとっても労働者側にとっても、いつ出勤しても良いという感覚に陥りがちですが、バランスよく上手に利用すれば、すべての人にとって利点が生まれる制度といえます。
効率的でより生産性の高いパフォーマンスを上げるためにも、まずはフレックスタイム制度の仕組みを理解することから始めてみましょう。
フレックスタイム制の導入には、労使協定の締結と就業規則等の変更が必要であり、場合によって行うべき手続きが存在します。
また、フレックスタイム制を導入した後に、「出勤・退勤時間が従業員によって異なるので、勤怠管理が煩雑になった」「残業時間の計算方法と清算期間の関係がよく分からない」といったお悩みをお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
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