企業は労働者に対して適切に賃金を支払わなければならないと、労働基準法で定められています。
賃金にどのような金銭が含まれ、どんな方法で支払わなければならないのか、曖昧になっていることもあるでしょう。しかし、さまざまなトラブルを避けるために、人事労務担当者は賃金について深く理解する必要があります。
本記事では、労働基準法によって定められた賃金の定義や支払い方法について解説します。さらに、労働基準法で定められている賃金に関する罰則もご紹介します。
労働基準法総まとめBOOK
労働基準法の内容を詳細に把握していますか?
人事担当者など従業員を管理する役割に就いている場合、雇用に関する法律への理解は大変重要です。
例外や特例なども含めて法律の内容を理解しておくと、従業員に何かあったときに、人事担当者として適切な対応を取ることができます。
今回は、労働基準法の改正から基本的な内容までを解説した「労働基準法総まとめBOOK」をご用意しました。
労働基準法の改正から基本的な内容まで、分かりやすく解説しています。より良い職場環境を目指すためにも、ぜひご一読ください。
1. 労働基準法で決められた賃金の定義
労働基準法では、賃金に関する定義が記されています。労働基準法における賃金の定義は、以下のとおりです。[注1]
第十一条 この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。
[引用]労働基準法|e-Gov
労働者は、賃金のほかに給料や手当、賞与といった名目で雇用主から報酬を受け取ります。労働基準法では、呼び方にかかわらず使用者が労働者に支払う労働の対償すべてを賃金と呼ぶと定めているのです。
毎月支払われる給料だけでなく、労働協約や就業規則、労働契約などで支給条件があらかじめ明らかになっているものは賃金とされます。以下では、賃金に当てはまらない金銭や賃金額などについて、もう少し詳しく見ていきましょう。
[注1]労働基準法|e-Gov
1-1. 賃金に当てはまらない金銭
賃金は使用者が労働者に支払う金銭なので、従業員や客から直接受け取るチップなどは賃金に含まれません。また、賃金は労働の対価なので、使用者が任意的に支払う給付は賃金に該当しないといえます。たとえば結婚祝い金や災害見舞金などは、労働の対価とはいえないため労働基準法上の賃金ではありません。
企業の設備や業務費と考えられるものも、賃金には含まれません。作業服や制服、出張旅行費、社用交際費なども賃金ではないのです。そのほか、住宅貸与や資金貸付などは福利厚生給付とされ、賃金には含まれないことを覚えておきましょう。
1-2. 賃金の額
労働基準法では、賃金額の最低基準についての記載もあります。労働基準法第28条では、賃金額の最低基準は最低賃金法の定めによると規定。最低基準未満の賃金で労働者を雇用することは、明確に禁止されています。
アルバイトやパート、派遣社員などの非正規社員であっても、最低賃金を下回る給料で働かせることはできません。
1-3. 割増賃金
労働基準法では、割増賃金についても定められています。労働基準法第27条では、使用者が労働者に時間外労働や休日労働、深夜業などを行わせた場合に割増賃金を支払わなければならないと規定しています。
時間外労働や深夜労働に対しては通常の労働時間または労働日の賃金の計算額の2割5分以上、休日労働に対しては3割5分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければなりません。
2. 労働基準法による賃金の支払い方法
労働基準法第24条では、使用者が労働者に支払う賃金のルールを定めており、これを「賃金支払いの5原則」と呼びます。労働基準法で定められた5つの原則とその例外について、それぞれ確認しておきましょう。[注1]
[注1]労働基準法|e-Gov
2-1. 通貨払いの原則
賃金は、必ず通貨で支払われる必要があり、現物支給は禁止とされています。現物支給が禁止でなければ、定期券や自社の在庫商品などを給料代わりに渡す会社も出てきてしまうでしょう。それを防ぐため、賃金は日本の貨幣である日本銀行券で支払うことと決められているのです。
ただし、法令や労働協約に別段の定めがある場合は、通貨払いの原則の例外となります。また、労働者の同意を得て口座振込をしたり、退職手当を一定の要件を満たす小切手や郵便為替によって支払ったりすることは可能です。
2019年にはデジタルマネーによる給与支払いも規制改革事項として決定されたので、近い将来スマートフォン決済などによる賃金の支払いが実現するでしょう。
2-2. 全額払いの原則
賃金は原則、全額が支払われなければなりません。賃金が全額支払われなければ、労働者の生活は不安定になるでしょう。さらに、賃金の一部が支払われないせいで労働者が自由に退職できなくなるという問題もあります。そのため、会社の経営状況が厳しく全額払いが苦しい場合でも、分割払いをしてはいけないと決められています。
ただし、社会保険料や財形貯蓄金などを賃金から控除することは、法令に別段の定めがある場合ならば全額払いの原則の例外となります。また、労使の自主的協定がある場合の親睦会費の控除なども、全額払いの原則の例外です。
2-3. 直接支払いの原則
賃金は、労働者に直接支払わなければならないと決められています。直接支払いの原則を定めることで、会社と労働者のあいだに第三者が入って賃金を搾取するような事態が起きるのを防いでいるのです。
賃金を直接労働者本人に支払うのは、当たり前のことだと思われるかもしれません。しかし、高校生のアルバイト代が親の口座に振り込まれるなど、意外と直接支払いの原則が守られていない実態があります。
銀行口座を開設する手続きは、未成年者であっても親権者や法定代理人の手伝いがあれば可能です。さらに、口座の種類次第では未成年者本人だけで手続きができる場合もあります。口座開設が難しい場合は本人に給料の手渡しをすればよいので、本人以外に賃金を支払う正当な理由はほとんどありません。
ただし、労働者が入院などで欠勤しており、自分で給料を受け取れない場合に家族を使者として代わりに受け取らせることは可能です。また、賃金が国税徴収法や民事執行法に基づいて差し押さえられているケースでは、差し押さえた者に賃金を払っても労働基準法に違反しません。
2-4. 毎月払いの原則
賃金は、毎月1回以上支払われなければならないという原則があります。1カ月に2〜3回支払うケースは問題ありませんが、2カ月に1回などのケースは労働基準法違反なので注意が必要です。
ただし、退職金のように臨時に支払われる賃金や賞与など厚生労働省令によって定められている賃金の場合は、毎月払いの原則の例外となります。
2-5. 一定期日払いの原則
賃金は、毎月一定期日に支払わなければならないと労働基準法で定められています。賃金の支払い日を「毎月第4月曜日」などと決めてしまうと、月ごとに支払い日が変わってしまうので、避けなければなりません。毎月25日や毎月末日など、決められた日に賃金を支払うことで、労働者は光熱費の引き落としやローンの返済といった資金繰りの予定を立てやすくなります。
ただし、こちらも毎月払いの原則でご紹介したとおり、臨時に支払われる賃金や賞与などは一定期日に支払われなくても問題ありません。
3. 労働基準法に定められた賃金に関する罰則
労働基準法では賃金支払いの5原則が定められていますが、使用者がこれに違反した場合、罰則が適用されるため注意しなければなりません。[注1]
労働基準法第120条では、5つの原則に違反した場合は30万円以下の罰金が発生すると定めています。さらに、時間外労働や休日労働などの割増賃金が未払いであった場合は、労働基準法第37条および119条第1項に基づいて6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されることもあります。
また、産業別最低賃金の不払いがあった場合は労働基準法に基づいて30万円の罰金となりますが、最低賃金以上の賃金を支払わなかった場合には最低賃金法で定められているとおり50万円以下の罰金が科されます。
[注1]労働基準法|e-Gov
4. 賃金は適切に支払おう
労働基準法では、賃金の種類や支払い方法の原則について詳しく規定されています。賃金の未払いは当然問題です。さらに、支払い方法の原則に違反した場合も罰金が科されることがあるため、注意しなければなりません。
人事労務担当者は、労働基準法の規定をきちんと確認したうえで業務にあたることが大切です。
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