日本では、1日、1週間、1カ月など、一定期間における労働時間の上限が法律によって定められています。特に1日ごとの労働時間の基準や上限を正しく把握することが重要で、1カ月、1年にわたって労働基準法を遵守した労働環境を作ることに繋がります。
本記事では、労働時間の定義や種類、36協定や休憩時間に関する規則について、わかりやすく解説します。また、残業時間を含む1日あたりの労働時間の上限を設定する際の3つの指標を紹介するので、労働時間見直しの参考としてください。
関連記事:労働時間とは?労働基準法に基づいた上限時間や、休憩時間のルールを解説!
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目次
1. 労働基準法に基づく1日の労働時間は原則8時間
1日の労働時間は、労働基準法により「1日8時間まで」と明確に定められています。ここでは、労働時間の定義や法定労働時間など、労働時間に関する基礎知識について解説します。
1-1. そもそも労働時間とは?
そもそも労働時間とはどのような時間を指すのでしょうか?
労働時間とは、「企業の指揮命令下にある状態」のことです。具体的には、「始業から終業までの時間」から「休憩時間」を引いた時間を指します。
「労働時間」によく似た言葉として「勤務時間」が挙げられますが、「勤務時間」とは従業員の始業時間~終業時間までを指す言葉です。
労働時間と勤務時間の関係性を具体的に紹介します。
例)始業9時、終業17時、1時間の休憩がある企業の場合
勤務時間:8時間(9時~17時)
労働時間:勤務時間(8時間)- 休憩時間(1時間)= 7時間
また、労働基準法により労働時間は1分単位で計算しなければならないと定められているため、勤怠管理をおこなう際には注意が必要です。
関連記事:労働時間の管理は必須!上限時間や厚生労働省のガイドライン、効率化の方法を解説!
1-2. 1日の所定労働時間と法定労働時間
労働時間は「所定労働時間」と「法定労働時間」の2つに大きく分類されます。所定労働時間とは各企業の就業規則により定められた労働時間のことです。一方で、法定労働時間とは労働基準法によって定められた労働時間の上限を意味します。
労働基準法により、法定労働時間は「1日8時間、週に40時間」と定められています。そのため、原則として企業は従業員に「1日8時間、週40時間」を超えて労働させることはできません。しかし、労使間で36協定を締結していれば、「1日8時間、週40時間」を超えて労働させることができます。
36協定については、のちほど詳しく解説するので参考にしてみてください。
関連記事:「所定労働時間」と「法定労働時間」の違いとは?定義や残業代計算について詳しく解説!
1-3. 「1日8時間労働」の上限は全従業員に適用される
1日あたりの労働時間の上限を8時間とするのは正社員だけではありません。アルバイトやパート、派遣社員や日雇い労働者も適用対象となります。非正規雇用社員など雇用形態に関わらず適用されます。
なお、アルバイト従業員が仕事をかけもちしている場合は注意が必要です。それぞれの労働時間が8時間に満たなくても、労働時間の合計が8時間を超えている場合は残業として扱います。
1-4. 法定労働時間を超えた分には割増賃金を支払う
企業は、従業員に残業や休日労働など、法定労働時間を超える労働をさせた場合は、割増賃金を支払う義務を負います。賃金の割増率は労働の種類によって異なるため、以下の表を参考にしてください。
労働の種類 | 賃金の割増率 |
時間外労働 |
25%以上 (1ヵ月の時間外労働が60時間を超える場合は50%以上) |
休日労働 | 35%以上 |
深夜労働 | 25%以上 |
なお、かけもちしているアルバイト従業員が1日の労働時間が上限を超えて働いた場合は、後に雇用契約を結んだ企業が割増賃金を支払うことになります。残業代を支払わないことは労基法違反となるので、仕事をかけもちしている従業員がいる場合は十分に注意しましょう。
2. 1日の労働時間が「8時間」を超える場合は36協定の締結が必要
前項では、1日の労働時間の上限は「8時間まで」と解説しました。従業員に1日8時間を超えて労働させる場合は、36協定の締結が必要です。ここでは、36協定について詳しく解説します。
2-1. 36協定とは?
36協定とは「時間外・休日労働に関する協定」のことです。
企業と従業員の間で36協定を締結すると、「1日8時間、週40時間」を超える労働をさせることができます。
しかし、無制限に労働させられるわけではなく、法定労働時間を超えた時間外労働は「月45時間、年360時間まで」と定められています。また、時間外労働には割増賃金が発生するため注意が必要です。
なお、36協定を締結する際には、1日あたりの時間外労働の上限も届出に記載する必要がありますが、特に上限は定められていません。届出に記載した時間を超過しないように、日々管理をしましょう。
2-2. 特別条項付き36協定の上限
前項で36協定では「時間外労働は月45時間、年360時間まで」と定められていることを解説しました。では、「月45時間、年360時間」を超えて従業員に労働させたい場合はどうすればよいのでしょうか?
この場合は、労使間で特別条項付き36協定を締結する必要があります。
以前まではこの特別条項を締結さえしていれば、実質無制限で労働させることが可能でした。しかし、長時間労働や過労死が社会的な問題となったため、特別条項付き36協定を締結したとしても「時間外労働と休日労働の合計は月100時間、時間外労働においては年720時間まで」など、罰則付きの上限規制が設けられました。
その他の特別条項付き36協定における時間外労働の条件は、下記の通りです。
- 2~6カ月の時間外労働と休⽇労働の合計が、平均月80時間以内
- 月45時間以上の残業は、年に6回以上行ってはいけない
- 時間外労働が⽉45時間を超えることができるのは、年6回まで
近年改正された法律であるため、勤怠管理担当者様の中には自社の残業時間が適切なのかどうか気になっている方もいらっしゃるのではないでしょうか?
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3. 「残業を含めた労働時間の上限」の指標となる3つの考え方
これまで解説した通り、1日の労働時間は原則8時間です。しかし、36協定を締結すれば、1日8時間を超える労働をさせることができます。では、法定労働時間を超える労働時間、すなわち時間外労働には上限があるのでしょうか?
36協定届には「1日における法定労働時間を超える時間数」を記載しなくてはなりません。そこで、ここからは、残業を含めた労働時間の上限を設定するための指標となる3つの考え方を解説します。
3-1. 1日15時間の時間外労働も可能とする考え方
実は、1日の時間外労働の上限を定める規定はありません。そのため、24時間から、法定労働時間の8時間と休憩時間1時間を合わせた9時間を除いた15時間を時間外労働に設定することもできます。
しかし、これはあくまでも理論上の話です。実際に、36協定届に15時間と記載した場合、労働基準監督署から注意を受ける可能性があります。また、1日15時間の時間外労働を課せば明らかな過重労働であり、従業員の心身に悪影響を与えるのは確実です。
使用者としての自覚や責任を持ち、現場に寄り添った時間外労働時間数を設定しましょう。
3-2. 36協定の上限に基づく考え方
従業員に時間外労働を課す場合は、36協定の締結が必要です。そのため、時間外労働時間の上限を36協定の上限に基づいて設定するのが現実的と言えるでしょう。
36協定における時間外労働の上限は「月45時間、年360時間以内」です。1カ月の所定労働日数を20日とした場合、1日あたりの残業時間は「45時間÷20日=2.25時間」で2時間15分となります。
また、「年360時間」で考えると、1日あたりの残業時間は「360時間÷(20日×12カ月)=1.5時間」で1時間30分となります。
なお、特別条項付き36協定を締結している場合の時間外労働の上限は「月100時間未満、年720時間以内」です。1日あたりの残業時間の上限は、「月100時間」で考えた場合は5時間に、「年720時間」で考えた場合は3時間となります。
上記の内容から、1日の時間外労働時間を2~3時間程度に設定している企業が多いようです。自社の時間外労働時間を設定する際に参考にしてみてください。
3-3. 「1日の労働時間の上限は12時間」の根拠は?勤務間インターバルを考慮した考え方
勤務間インターバルとは、退勤時間と翌日の出勤時間との間に一定の休息時間を確保する制度です。国で推奨する休息時間は11時間以上であるため、退勤時間から11時間が経過する前に出勤する従業員がいる場合は、労働時間を見直す必要があるかもしれません。
仮に、休息時間を11時間確保する場合、時間外労働時間の上限は以下のようになります。
「24時間-(8時間(法定労働時間)+1時間(休憩時間)+11時間(休息時間))=4時間」で、1日4時間までの残業が可能です。つまり、1日の労働時間は最大12時間と考えることができます。
勤務間インターバルはあくまでも努力義務であるため、確保できなくても罰則はありません。しかし、1カ月に1日しか残業しない場合でも、その1日で5時間、6時間も残業したとなれば従業員の負担になることは明らかです。もし、休息時間が少ないと感じる場合は、勤務間インターバルの考え方に基づいて時間外労働の時間数を決めるとよいかもしれません。
4. 1日6時間を超える労働で休憩時間が発生する
従業員を労働させる場合、使用者は休憩時間を正しく付与しなくてはなりません。たとえ、労働時間が法定の8時間を超えていなくても、休憩時間を適切に付与していなければ法令違反となるため注意が必要です。
具体的には、1日6時間を超えて労働した従業員に対して休憩時間を付与します。ここでは、従業員の労働時間と休憩時間に関してより詳しく解説します。
関連記事:労働時間内の休憩に関する注意点|休憩時間に関するQ&A付き
4-1. 1日の労働時間が6時間を超えて8時間以内の場合
従業員の1日の労働時間が6時間を超えて8時間以内の場合、企業は少なくとも45分の休憩時間を与えなければなりません。休憩時間は労働時間が6時間を超えた場合にはじめて発生するので、労働時間が6時間ちょうどの場合は休憩時間を付与しなくても問題ありません。
関連記事:6時間労働の休憩時間は何分?付与時のルールや労働時間管理の効率化について解説!
4-2. 1日の労働時間が8時間を超える場合
従業員の1日の労働時間が8時間を超える場合、企業は少なくとも1時間の休憩時間を与えなければなりません。労働基準法で定められているのは「8時間超えの場合」までなので、それ以降の労働時間に対する休憩時間付与は義務付けられていません。つまり、1日11時間労働の場合でも、1時間の休憩時間さえ与えていれば労働基準法違反ではないということになります。
逆に、休憩時間を適切に与えていなければ、法令違反になる可能性があります。
なお、休憩時間とは「使用者の指揮命令下にない時間」のことです。そのため、昼休憩中の電話当番などは休憩時間には該当せず、労働時間に含まれます。休憩時間は、業務とは完全に切り離した時間でなくてはならず、従業員が心身を休められる時間を付与するのが使用者の義務です。
このように、労働時間や休憩時間の管理は複雑で、ミスが多発しやすいので注意が必要です。担当者は、労働時間や休憩時間について正しく理解し、労働基準法を遵守した勤怠管理をおこないましょう。
関連記事:休憩時間が取れなかった場合に生じる問題とは?必要な対応をわかりやすく紹介
5. 1日の労働時間管理を効率化するツールを徹底比較
ここまで、1日の労働時間の上限や休憩時間に関する規則について解説しました。
その内容を踏まえて、ここでは1日の労働時間の管理を効率化するツールをご紹介します。
5-1. 【労働時間管理ツール①】エクセル
表計算ツール「Excel」を用いて労働時間管理をおこなう方法です。
実際に、労働時間計算に特化したテンプレートなども簡単に手に入れることができるので、多くの企業で利用されています。Excelは1日の労働時間計算だけでなく、給与計算にも使用することができるので非常に便利です。
ただ、Excelに情報を入力するのは基本的に手作業での入力が必要になるため、入力ミスなどのリスクが伴います。
5-2.【労働時間管理ツール②】WEB上の計算ツール
WEB上で無料で利用できる計算ツールを用いて、年間労働時間の計算をおこなうという方法です。こちらもExcel同様に年間の労働時間計算だけでなく、給与計算にも使用することができます。また、基本的に無料で利用できるため手軽に労働時間計算を効率化したい場合に向いています。
ただ、Excelのように記録を残すことができないため、1日の労働時間や給与に関する情報を別の媒体に記録する必要があります。また、Excel同様に手作業で入力をおこなうため、入力ミスが起こるリスクがあるため注意が必要です。
5-3. 【労働時間管理ツール③】勤怠管理システム
勤怠管理システムを導入して、1日の労働時間計算をおこなう方法です。勤怠管理システムは打刻・労働時間計算・記録を連動して行うことができるため、手作業による入力ミスの恐れがない事がメリットです。
また、スマートフォンやICカードというように、打刻方法が多様なので、リモートワークなどの柔軟な働き方にも対応することができます。
6. 1日の労働時間を適正に把握し、働きやすい職場づくりを!
本記事では、1日の労働時間の上限や休憩時間に関する規則、労働時間管理を効率化するツールについて解説しました。1日の労働時間を正しく把握することは1か月、1年にわたって労働基準法に遵守した労働環境づくりに繋がります。今回、解説した内容を踏まえて従業員が健康的に働ける職場づくりを心掛けましょう。
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