企業が従業員を雇用するときに作成する書類には「雇用契約書」と「労働条件通知書」があります。この2つは似ていますが、違いを明確に理解しておかなければ、トラブルにつながる可能性があります。
この記事では、雇用契約書と労働条件通知書の違いや、トラブルを未然に防ぐためにできること、それぞれの書類の発行方法などについて解説しますのでチェックしておきましょう。
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従業員を雇い入れる際は、雇用(労働)契約を締結し、労働条件通知書を交付する必要がありますが、法規定に沿って正しく進めなくてはなりません。
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目次
1. 雇用契約書と労働条件通知書の違い
ここでは、雇用契約書と労働条件通知書の違いについて解説します。労働条件に合意してもらうための書類、労働条件を提示するための書類として、この2つには明確な違いがあるので注意しましょう。
1-1. 雇用契約書は合意のための書類
企業が提示した労働条件に労働者が合意するために必要なのが「雇用契約書」です。雇用契約書は、労働条件通知書と同じ内容であることが多く、書類には労働をする期間、賃金、場所などが記載されています。
また、合意を示すための署名・捺印欄が設けられています。雇用契約書は企業だけでなく雇用者もいつでも確認できるようにしておく必要があり、2部発行するのが基本です。
関連記事:雇用契約書が持つ法的効力とは?労働条件通知書との違いを詳しく紹介
1-2. 労働条件通知書は提示のための書類
労働基準法第15条では、企業は労働者に対して労働条件を明示することが義務付けられています。そのために必要なのが「労働条件通知書」です。労働条件通知書には必ず記載しなければならない事項があります。
また、労働条件通知書は雇用契約書と違い、必ず発行しなければなりません。労働条件通知書は正社員を雇用する際だけでなく、パートタイム労働者や派遣社員を雇用する際にも必要です。
(労働条件の明示)
第十五条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
関連記事:労働条件通知書とは?雇用契約書との違いやそれぞれの役目と必要な理由を解説
1-3. 雇用契約書と労働条件通知書がないのは違法?
雇用契約は口頭でも成立するとされており、雇用契約書がないことに法律上問題はありません。一方で労働条件通知書がない場合は違法となります。
なお、後々労使間で雇用契約に関してトラブルが発生した場合に、証拠となる契約書がないと企業側は不利になる可能性もあるため、雇用契約書もできる限り作成しておくようにしましょう。
2. 雇用契約書・労働条件通知書に関するトラブルを避けるためには?
労働条件通知書を発行するのは義務ですが、雇用契約書は法的には発行を義務付けられていません。しかし、労働者とのトラブルを回避するためには雇用契約の書類について、きちんと対策をしておく必要があります。
ここでは、雇用契約書の取り扱いについて見てみましょう。
2-1. トラブル防止のために雇用契約書を発行する
雇用契約書は法律上では発行の義務はありません。しかし、従業員から労働条件通知書の内容に問題があると訴えられた場合、雇用契約書を発行していなかった企業側が不利になる可能性があります。そのため、労働条件に双方が合意を得ていることを証明するため、雇用契約書を発行することをおすすめします。
2-2. 労働条件通知書と雇用契約書を兼用する
労働条件通知書と雇用契約書の内容に大きな違いはありません。そのため、「労働条件通知書兼雇用契約書」として、労働条件通知書と雇用契約書を兼用することもできます。労働条件通知書と雇用契約書を分けて発行することで量が膨大になってしまう場合は、2つの書類を兼用することでコストを削減することが可能です。
2-3. 労働条件を変更する際は問題を確認する
企業の業務内容によっては労働条件が変動する可能性もあります。その場合は、労働条件通知書や雇用契約書のなかで提示した労働条件と矛盾しないか、問題はないかを確認することが大切です。必要であればその都度内容を修正、変更、追加し、企業側だけでなく労働者もいつでも確認できるよう雇用契約書を新たに発行しましょう。
このように、労働者とのトラブルを防ぐためには雇用契約に関する書類についてきちんと確認しておく必要があります。当サイトでは、労働条件通知書に記載すべきことや、雇用契約の基本ルールをまとめたマニュアルを無料でお配りしています。雇用契約に関するトラブルを避けたい方は、こちらから資料をダウンロードしてご活用ください。
3. 雇用契約書・労働条件通知書の交付について
雇用契約書や労働条件通知書は誰に、いつ、どのように交付すればよいのでしょうか。ここでは、雇用契約書と労働条件通知書の交付について詳しく紹介します。
3-1. 雇用契約書・労働条件通知書の交付対象者
雇用契約書や労働条件通知書の交付対象者には、正社員だけでなく、契約社員やパート・アルバイト、派遣社員なども含まれます。ただし、フリーランス・個人事業主などの業務委託として働く人は、会社と雇用契約を結んでいないため対象外です。
なお、派遣社員に雇用契約書や労働条件通知書を交付するのは、雇用契約を締結する「派遣元企業」です。「派遣先企業」は交付する必要がありません。また、派遣元企業は、労働者派遣法第34条により「就業条件明示書」も従業員に交付する必要があります。雇用契約書や労働条件通知書と、就業条件通知書は兼用することが可能です。
(就業条件等の明示)
第三十四条 派遣元事業主は、労働者派遣をしようとするときは、あらかじめ、当該労働者派遣に係る派遣労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、次に掲げる事項(当該労働者派遣が第四十条の二第一項各号のいずれかに該当する場合にあつては、第三号及び第四号に掲げる事項を除く。)を明示しなければならない。
関連記事:企業が派遣を活用するメリット・デメリット|派遣の基本情報から目的まで徹底解説
3-2. 雇用契約書・労働条件通知書の交付タイミング
雇用契約書と労働条件通知書を同じタイミングで交付するのであれば、法律で定められている労働条件通知書の交付タイミングに合わせましょう。労働条件通知書の交付タイミングは「労働契約を締結する際」と労働基準法で定義されています。そのため、新規雇用する場合は、内定日や入社日など、労働開始前に交付しましょう。
また、パート・アルバイトの有期雇用契約を更新する際や、定年で退職した従業員を再雇用する際も、労働条件が変わるため、そのタイミングで雇用契約書と労働条件通知書を交付することが大切です。ただし、労働条件通知書の交付義務があるのは雇用契約を結ぶ際であるので、賃金や手当などの条件が変化する場合の交付は不要です。しかし、労働条件が大きく変更される場合、トラブルを防ぐため、何かしらの形で通知するようにしましょう。
3-3. 雇用契約書・労働条件通知書の交付方法
労働基準法施行規則第5条より、労働条件通知書は原則として書面で交付する必要があります。そのため、雇用契約書と労働条件通知書を交付する場合は、紙媒体の書面で交付するようにしましょう。ただし、例外も認められており、例外については後述します。
(省略)法第十五条第一項後段の厚生労働省令で定める方法は、労働者に対する前項に規定する事項が明らかとなる書面の交付とする。ただし、(省略)
4. 労働条件通知書の作成方法
雇用契約書の作成・発行は法律で義務付けられていませんが、労働条件通知書の作成・発行は労働基準法で義務付けられています。ここでは、労働条件通知書の作成方法について詳しく紹介します。
関連記事:雇用契約書の書き方とは?明示しておくべき事項を詳しく紹介
4-1. 絶対的明示事項と相対的明示事項を確認
労働条件通知書は発行が義務付けられており、記載事項についても明確な決まりがあります。労働基準法施行規則第5条に則り、下記の事項を記載することが必要です。
- 労働契約の期間
- 就業場所・業務内容
- 始業時間及び終業時間
- 休憩時間
- 休暇
- 休日
- 所定の労働時間を超えた労働はあるのか
- 賃金の計算や支払い方法
- 賃金の締め日と支払い時期
- 退職時について
なお、パート・アルバイトの場合、パートタイム労働法第6条により、上記に加えて「昇給の有無」「退職手当の有無」「賞与の有無」なども記載する必要があります。また、企業が制度を定めている場合に下記の相対的明示事項も必要になります。
- 昇給について
- 退職手当について
- 臨時の賃金や賞与について
- 労働者に負担させるべき食費や作業用品について
- 安全衛生について
- 職業訓練について
- 被害補償や業務外の傷病扶助について
- 表彰や制裁について
- 休職について
なお、労働条件通知書の書式は法律では定められていません。必須事項を記載していればどのような形式であっても問題ありません。以下、必須事項について簡単に確認しておきましょう。
労働契約の期間
労働契約の期間については、期間の定めがあるかどうか、ある場合はその期間を明記しましょう。契約更新の有無や更新する基準についても明記することが重要です。
就業場所・業務内容
契約後に就業する場所や、担当することになる業務内容を記載します。変更の可能性がある場合は、その旨を記載しておきましょう。
始業時間及び終業時間
始業と終業の時間についても記載しましょう。シフト制やフレックスタイム制などを導入している場合は、交代時間やコアタイム・フレキシブルタイムなどのルールを詳しく記載しておくことが重要です。
休憩時間
休憩時間は、労働基準法に基づいて適切に与える必要があります。労働時間が 6時間を超え8時間以下の場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも1時間の休憩を与えなければなりません。
休暇
有給休暇や代替休暇などについて明記しましょう。企業独自の休暇制度を設けている場合は、その詳細についても記載します。有給休暇については、付与日数や付与条件が法律で定められているため、違反しないように注意しましょう。
休日
休日とする曜日や日数を明記します。休日とする曜日が決まっていない企業の場合は、「週に2日」などと日数を記載しましょう。
所定の労働時間を超えた労働はあるのか
所定労働時間を超えた労働の有無も記載しましょう。また、法定労働時間を超える場合は、事前に36協定を締結する必要があるため注意が必要です。
賃金の計算や支払い方法
賃金の計算や支払い方法も明記しておくことが重要です。時間外労働に対する割増賃金についても記載しておきましょう。割増賃金率については法律で基準が定められているため、下回らないように決めなければなりません。
賃金の締め日と支払い時期
賃金の締め日と支払い時期を明記しましょう。支払いが遅れると労使間のトラブルにつながるため注意が必要です。
退職時について
退職に関する事項も記載します。定年制や継続雇用制度の有無やルールについて明記しましょう。従業員側の自己都合で退職する場合の届出日や手続き方法についても記載します。
内容が多い場合は、就業規則の条文番号を記載して参照する形でも問題ありません。
4-2. 2024年4月から記載事項が追加される
2024年4月より、労働条件通知書の記載事項が追加されるので注意が必要です。具体的には下記の表の通りです。
対象者 |
明示タイミング |
追加事項 |
すべての労働者 |
契約締結時・更新時 |
就業場所と業務の変更範囲 |
有期雇用契約の労働者 |
契約締結時・更新時 |
更新上限の有無とその内容 |
無期転換申込権が生じる契約の更新時 |
無期転換申込機会の有無 |
記載すべき内容が変更されるため、労働条件通知書を作成する際は注意しましょう。
4-3. 労働条件通知書のテンプレートを活用する
労働条件通知書には記載しなければならない事項が数多くあり、漏れがあると労働者との間でトラブルになる可能性があるだけでなく違法行為とみなされる恐れもあります。一から労働条件通知書を作成するには手間も時間もかかってしまうため、厚生労働省が公開している、労働条件通知書のテンプレートを利用するのがおすすめです。
必須事項がすべて記載されているため、あとは各企業ごとの条件を記入していけば簡単に労働条件通知書を作成できます。厚生労働省の労働条件通知書のテンプレートは、以下のリンクからダウンロード可能です。
参照:様式集|厚生労働省
労働者の雇用形態によって用いる様式が異なるため、必要な様式をダウンロードして活用してください。必須事項さえ記載されていれば、独自にカスタマイズして労働条件通知書を作成することも可能です。
5. 雇用契約書の作成方法
労働条件通知書のように、雇用契約書の内容に決まりはありません。また、書式やフォーマットにも決まりがないので、自社で自由にカスタマイズすることができます。
雇用契約書は労働条件通知書のフォーマットを活用すると、スムーズに作成することが可能です。雇用契約書を作成する際は、同意したことが証明できるよう、署名・捺印欄を設けるようにしましょう。
6. 雇用契約書・労働条件通知書を電子化対応させるには
2019年4月の法改正により、雇用契約書・労働条件通知書の電子媒体での交付も認められています。ただし、雇用契約書・労働条件通知書を電子化するには、下記の条件を満たさなければなりません。
(省略)ただし、当該労働者が同項に規定する事項が明らかとなる次のいずれかの方法によることを希望した場合には、当該方法とすることができる。
一 ファクシミリを利用してする送信の方法
二 電子メールその他のその受信をする者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信(電気通信事業法(昭和五十九年法律第八十六号)第二条第一号に規定する電気通信をいう。以下この号において「電子メール等」という。)の送信の方法(当該労働者が当該電子メール等の記録を出力することにより書面を作成することができるものに限る。)
ここでは、雇用契約書・労働条件通知書を電子化する際の注意点について詳しく紹介します。
6-1. 労働者の同意が必要
雇用契約書・労働条件通知書を電子化するには、雇用契約を結ぶ労働者の同意が必要です。「インターネット環境がない」「FAXがない」といった理由で電子化された労働条件通知書を受け取れない労働者もいるかもしれません。企業が決めたルールだからといって、労働者の環境を確認せずに電子化された労働条件通知書だけを交付しないよう注意しましょう。
6-2. 書類を出力できるようにしておく
労働者の同意があれば雇用契約書・労働条件通知書の電子化は可能です。近年ではPC・スマホなどで手軽にデータを受け取れるため、労働者の同意は得やすいでしょう。
しかし、プリントアウトできない方法での電子送付は認められていないので注意が必要です。
6-3. 労働者本人以外に閲覧できない方法で交付する
雇用契約書や労働条件通知書はチャットツールなどを含む電子メールで送ることができますが、送るときに第三者が閲覧できない状態で送らなければなりません。グループチャットで送信したり、誰でも閲覧できるSNSの場で送ったりするのは好ましくないので注意しましょう。
関連記事:労働条件通知書を電子化するメリットと具体的な手順を解説
7. 雇用契約書・労働条件通知書を電子化するメリット
雇用契約書・労働条件通知書を電子化することには、次のようなメリットがあります。
7-1. 書類作成業務を効率化できる
業務を効率化できることは、電子化の大きなメリットです。契約の締結から書類の交付までをオンラインで進められるため、契約に関わる作業全体をスムーズに完了させることができます。コア業務に集中できるようになり、組織全体の生産性も高まるでしょう。
7-2. ペーパーレス化を実現できる
ペーパーレス化を実現できることも電子化のメリットのひとつです。印刷代や郵送代などを削減できるため、コストの削減にもつながります。紙ベースの書類を管理するための保管場所が不要になり、スペースを有効活用できることも大きなメリットです。
8. 雇用契約書・労働条件通知書の交付に関する注意点
ここでは、雇用契約書・労働条件通知書の交付に関する注意点について詳しく紹介します。
8-1. 収入印紙は不要
雇用契約書や労働条件通知書は「課税文書」にあたらないため、収入印紙は必要ありません。また、雇用契約書・労働条件通知書を電子化する場合も同様です。
8-2. 労働条件通知書を発行しないと罰則あり
労働条件通知書の発行は法律で定められた義務です。労働条件通知書を正しく労働者に交付しない場合、30万円以下の罰金が科される恐れがあります。なお、内定者などで労働条件通知書をもらえない場合は、雇用主に依頼してみましょう。
第百二十条 次の各号のいずれかに該当する者は、三十万円以下の罰金に処する。
(諸略)、第十五条第一項若しくは第三項、(省略)の規定に違反した者
8-3. 書類の内容と事実が異なると労働者は即時解約可能
雇用契約書・労働条件通知書の記載内容と事実が異なる場合、労働者は労働契約を即時解約することができます。また、使用者は就業のために必要な旅費を負担しなければならない可能性もあるので注意が必要です。雇用契約書・労働条件通知書を作成する際は、就業規則などを確認しながら、内容に誤りがないよう作成することが大切です。
(省略)
② 前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
③ 前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から十四日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。
8-4. 労働基準法に違反していないかチェックする
雇用契約書は、労働基準法に基づいて作成しなければなりません。労働基準法で定められている基準を上回っていれば問題ありませんが、下回っている場合は契約は無効と見なされます。
法律に違反していないか、雇用契約書を交付する前にしっかりとチェックしておきましょう。
9. 雇用契約書と労働条件通知書の違いを明確に把握しよう
今回は、労働条件通知書と雇用契約書の違いについて解説しました。両者の内容にほとんど違いがないため混同されることもありますが、労働条件通知書には交付の義務があり、雇用契約書は労働者とのトラブルを避けるために必要です。
企業が提示している労働条件を労働者がいつでも確認でき、安心して労働できる環境を作っておくことが大切です。雇用契約書と労働条件通知書は兼用したり電子化したりすることも可能ですので、企業のニーズに応じて適切に判断しましょう。
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