雇用契約を途中で変更する場合、原則として、従業員に通知をおこない同意を得る必要があります。労働者の同意なしに会社都合のみで労働条件を変更すると、トラブルに発展する恐れもあります。この記事では、雇用契約書や覚書を用いた雇用契約の途中変更の方法やその注意点をわかりやすく解説します。また、雇用契約の変更を拒否された場合の対応も紹介します。
雇用契約は法律に則った方法で対応しなければ、従業員とのトラブルになりかねません。
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目次
1. 雇用契約の途中変更をする具体的な方法
雇用契約の途中変更は可能です。ただし、労働者の同意が必要など、注意点も多くあるので、正しい方法で手続きをおこなう必要があります。ここでは、雇用契約を途中変更する具体的な方法を紹介します。
1-1. 労働者からの同意が必要
労働契約法第8条により、雇用契約の途中変更は法律で認められています。雇用契約を変更したい場合は、変更内容とその理由を明確にしたうえで労働者から同意を得なければなりません。変更内容を伝える際は労働者一人ひとりと個別に面談をするなどの形で全員から同意を得る必要があります。また、雇用契約を途中変更する場合、パート・アルバイトや契約社員など、雇用形態に関わらず同意が必要になります。
(労働契約の内容の変更)
第八条 労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。
関連記事:雇用契約書が持つ法的効力とは?労働条件通知書との違いを詳しく紹介
1-2. 就業規則に則り契約を変更する
労働基準法第89条により、従業員10人以上の企業は、労働時間や賃金の計算方法などを定め、就業規則を作成して届け出る義務があります。また、内容を変更する場合も、届け出をしなければなりません。労働者から雇用契約変更の同意を得られた場合、就業規則に則って契約を変更します。就業規則を遵守していない雇用契約の途中変更は認められないので注意が必要です。
(作成及び届出の義務)
第八十九条 常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。(省略)
関連記事:就業規則の基礎知識|作成ルール・記載事項・注意点などを解説
1-3. 新しく雇用契約書を作成する
雇用契約の途中変更が決まったら、労使双方が変更された労働条件に合意したことを証拠として残すため、新しく雇用契約書を交わしましょう。つまり、現在の雇用契約書を解約したうえで、再度雇用契約書を作り直し交付することで、それが労働条件として新しく適用されるようになるのです。
関連記事:雇用契約書の書き方とは?明示しておくべき事項を詳しく紹介
2. 雇用契約の途中変更は覚書でも可能
雇用契約の途中変更の場合、雇用契約書の代わりに覚書で代用することも可能です。ここでは、覚書とは何かを説明したうえで、雇用契約の途中変更をする場合の覚書の記載事項やその内容を詳しく紹介します。
2-1. 覚書とは?
覚書とは、契約書の内容を修正したい場合や、新たな条件を契約内容に追加したい場合に使用される書類のことです。覚書にも法的な拘束力があります。覚書を活用すれば、雇用契約書を作り直す手間を省くことが可能です。覚書に正式な書式はありません。しかし、必要項目が抜けていると、法的効力が認められない恐れがあるので注意が必要です。
2-2. 覚書と契約書の違い
覚書は契約書と同様の効力を持つケースもあり、それぞれの違いがわからないという人もいるかもしれません。覚書と契約書は、どちらも当事者同士が合意した内容を記した書類という共通点がありあります。しかし、覚書は、当事者間での取り決めを忘れないよう書き留めておくためのメモ・備忘録などとして用いられることが多いです。一方、契約書は、当事者同士の取り決めの根幹となる内容を記した書類として用いられます。
このように、覚書はあくまでも契約書の補完的な役割を果たす書類といえます。ただし、覚書でも契約に必要な事項が揃っていれば、契約書と同等の効力が認められることになります。そのため、「覚書」「契約書」といった表題だけで判断せず、中身や内容をきちんとチェックすることが大切です。
2-3. 雇用契約を変更する際に覚書に記載すべき内容
雇用契約の途中変更をする場合の覚書の記載事項や書き方・記入例は、次の表の通りです。
記載事項 |
書き方・記入例 |
表題 |
文書のタイトルを記載する 例. 雇用契約変更の覚書 |
変更前の雇用契約書の内容や締結日 |
変更する前の雇用契約書を特定するためにその内容や締結日を記載する 例. 令和6年1月1日付雇用契約書を変更する |
雇用契約書の変更内容 |
新しく労働条件を変更する箇所を記載する 例. 始業時間9時00分、終業時間15時00分に変更する |
効力発生日 |
覚書の効力がいつから発生するのかを記載する |
作成年月日 |
覚書に署名・捺印をした日を記載する |
署名・捺印 |
雇用契約の途中変更をおこなう企業と労働者の署名・捺印する欄を記載する |
労働者の押印・署名がなければ、契約として成立せず、後からトラブルが生じた場合、企業側が不利になる恐れがあります。契約書のルールを確認して、正しく覚書を作成しましょう。
3. 雇用契約を途中で変更する際の注意点
労働基準法、働き方改革などによって、労働者の権利を守る制度はきちんと整備されています。そのため、労働者が不利になるような雇用契約の変更は認められないケースも多くなっています。トラブルに発展すると大切な従業員を失うことになるだけでなく、企業の信頼を落とすことにもつながるので注意しましょう。ここでは、雇用契約を途中で変更する際に注意すべきポイントを詳しく紹介します。
3-1. 労働者の「自由な意思」が尊重される
雇用契約の途中変更について企業の意向を無視できないため、労働者から同意を得られることもあるかもしれません。しかし、労働者が不利益を被る場合の雇用契約書や覚書への署名・捺印は、労働者の「自由な意思」に基づいておこなわれていないと判断されるケースがあります。このような場合、労働者から同意が得られても、雇用契約の変更が認められない恐れもあります。このように、雇用契約の途中変更をおこなう場合、従業員の「自由な意思」に基づく同意なのかどうかが重要なポイントになります。
3-2. 契約の変更には合理的な理由が必要
会社は業績が悪化したなどの理由で、労働者が不利益を被るような労働条件の変更を希望する場合もあります。労働契約法第9条、第10条には、労働者が合意しない場合に就業規則を変更し、労働条件の内容を変更することについて記載されています。就業規則の変更によって、労働者が不利益を被る労働条件の変更は、原則として認められません。ただし、就業規則の変更に合理性があり、変更後の就業規則を労働者に周知した場合に限り、労働条件の就業規則による途中変更が認められます。
まずは現在の雇用契約を変更しなければ事業が成り立たない、経営が難しくなるような内容かどうかを考えましょう。変更の理由に必要性があれば、労働者が不利になっても認められる可能性は高くなります。ただし、代償措置や緩和措置、別の労働条件を変更するなどして従業員の負担を最低限にしなければなりません。過去には雇用契約の変更が認められたケースも、認められなかったケースも数多くあります。変更によってどのような影響が及ぶのか、どのような理由なら認められるのかなどを過去の事例から判断することも推奨されます。
(就業規則による労働契約の内容の変更)
第九条 使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。
第十条 使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。(省略)
3-3. 労働条件通知書の内容によっては変更が不可
合理性があれば就業規則を変更することで、労働条件を変更できる場合もあるかもしれません。しかし、労働条件通知書の内容に「就業規則の変更による影響は受けない」などと記載されている場合、就業規則を変更したとしても、労働条件の変更に対応できない可能性があります。このことについては、労働契約法第10条に記載されています。
(省略)労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、(省略)、この限りでない
関連記事:雇用契約をトラブルなく結ぶ方法は?違法にならないための対応をわかりやすく解説
3-4. 契約内容が就業規則の条件に満たない場合は変更不可
雇用契約の途中変更が認められる場合でも、その変更内容が就業規則の条件に満たなければ、その部分は無効になります。無効になった部分については、就業規則で定める基準が適用されることになります。このように、雇用契約を途中変更する場合、就業規則との兼ね合いもきちんと考慮することが大切です。
(就業規則違反の労働契約)
第十二条 就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。
3-5. 契約内容が違法の場合も変更不可
労働者から合意が得られ、雇用契約の変更内容に合理性があったとしても、変更する内容が労働基準法などの法律に違反している場合、変更は認められません。労働基準法では、労働時間や労働日数、最低賃金、休日など、労働者を守るためのさまざまな規定があります。法律はもっとも拘束力が強く、それに反した就業規則や雇用契約には法的拘束力がありません。労働基準法は都度見直され、改定されています。気付かないまま違法な変更を提案してしまったということのないようにしましょう。
雇用契約の途中変更を含む手続きをする際には法律に則っているかを確認する必要があります。法律に違反している契約はすべて無効となるため、あらかじめ法律と自社の雇用契約を確認して、問題がないか確認しておくと良いでしょう。当サイトでは、法律に則った雇用契約の締結方法を詳しく解説した資料を無料でお配りしています。自社の雇用契約が適切かどうか確認したい方は、こちらからダウンロードしてご活用ください。
4. 雇用契約の途中変更は「許されるケース」と「許されないケース」がある
正しい手順を踏んでいても、許されないケースに該当する場合、雇用契約の途中変更は認められません。雇用契約を変更できるかできないかは、変更の理由や合理性が重視されます。ここでは、雇用契約の途中変更について許されるケースと許されないケースについて詳しく紹介します。
4-1. 労働者が有利になる変更は同意なしでも認められる
「賃金アップ」「福利厚生の充実」など、労働者が有利になる場合、特別な要件は不要で、雇用契約を途中変更することができます。ただし、雇用契約を変更する場合、労働契約法第第8条の規定を満たすため、従業員の同意が必要です。
一方、就業規則の変更であれば、労働者が有利になる場合、同意なしでも認められます。しかし、法的に問題ないとしても、従業員の許可なく就業規則を変更するのは、信頼問題に関わります。そのため、労働者が有利になるような就業規則の変更であっても、従業員に正しく周知するようにしましょう。
4-2. 労働者が不利になる会社都合の一方的な変更は不可
雇用契約を途中変更することで、労働者が一方的に不利になる場合の変更は許されません。労働者の立場を守るため、労働基準法や労働契約法などの法律で定められています。会社都合により雇用契約を変更する場合は、必ず労働者の合意を得たうえで手続きを進めましょう。同意を得ないまま会社都合のみで一方的に変更を押し進めると、違法になり罰則が課せられる恐れもあるので注意が必要です。
関連記事:雇用契約に違反すると罰則がある!違反やトラブルを回避するためにできることを解説
4-3. 労働者が不利になる場合は合理性が重要
雇用契約の変更によって労働者が不利益を被る場合、重視されるのは契約を変更する理由の合理性です。合理性があるかどうかは、次のような要素から判断されます。
- 就業規則を変更する必要性が本当にあるのか
- 労働者の不利益はどれくらいのものなのか
- 変更後の内容は相当なものか
- 変更する代わりに代償措置などが用意されているか
- 労働組合ときちんとした交渉の経緯があるか
- 他の労働組合や他の従業員への対応は適切か
- 同じような事項について、日本社会では一般的にどのように扱われているか
- とくに大きな不利益を被る労働者への緩和措置はあるか
総合的に考えて正当性があると判断されれば、労働者に不利な内容であっても、就業規則の変更による労働条件の途中変更が可能です。
5. 雇用契約の途中変更に関係するよくある質問
ここでは、雇用契約の途中変更に関してよく発生する問題や懸念点について詳しく解説します。
5-1. 雇用契約書の変更を拒否されたら?
雇用契約書の変更を提示したとしても、労働者から拒否されるケースも少なくないでしょう。労働契約法第8条により、労働者からの合意が得られない場合、雇用契約の途中変更はできません。そのため、これまでと同じ労働条件を継続して適用する必要があります。ただし、労働契約法第9条、第10条により、合理的な理由があれば、就業規則を変更することで、労働条件の変更に対応できる可能性があります。
5-2. 労働条件の変更による解約は可能?
結論として、労働条件を変更し、会社都合による一方的な解約をするのは難しいです。法律で明確に定義されていないため、不可能と言い切れるわけではありません。しかし「労働条件の変更が経営上必要不可欠である」「労働条件の変更の必要性が労働者の不利益を上回る」「労働条件の変更による解約を正当化できるだけの理由がある」といった厳しい要件を満たす必要があります。労働条件の変更による契約の解約が必要な場合、まずは専門家に相談してみましょう。
5-3. 雇用契約の途中解約や途中退職はできる?
労働契約法第16条により、労働者を解雇をするには客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であることが条件とされています。そのため、会社都合だけで従業員を一方的に解雇することは基本的に認められません。ただし、有期雇用の契約満了による解約は、正しい手続きを踏めば可能です。
なお、民法第627条により、無期雇用契約の場合、各当事者はいつでも退職・解約の申し入れができます。申し入れ日から2週間経過することで、契約は終了します。また、労働基準法第137条により、有期雇用労働者(1年を超える契約)は1年経過すればいつでも途中退職することが可能です。なお、民法第628条により、やむを得ない事由がある場合、各当事者は直ちに途中退職や途中解約ができます。
(解雇)
第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
関連記事:労働基準法における「退職の自由」とは?意味や注意点を紹介
5-4. 雇用契約の変更に関する同意は口頭でも可能?
雇用契約の変更に関する同意は口頭でも認められます。しかし、口頭での同意の場合、正確に変更後の労働条件を伝えていなければ、後からトラブルにつながる恐れがあります。また、口頭だと、書面のような同意の証拠がないため、裁判など発展した場合に企業側が不利になるリスクもあります。このような事態を回避するためにも、雇用契約の途中変更に関する同意は、口頭でなく、書面などの証拠として残るような形にして得ましょう。
関連記事:雇用契約を更新しない場合に必要な通知とは?「会社都合」「自己都合」についても解説
6. 雇用契約のルールを守って正しく契約しよう
最初に結んだ雇用契約の内容を後から変更することは可能ですが、正しい手順を踏む必要があります。労働者から変更について同意を得られたとしても、変更の理由に合理性がなかったり、そもそも違法であったりする場合、変更は認められません。企業の都合で簡単に変えられるものではないため、変更したい場合は慎重に手続きを進めましょう。トラブルを防ぎつつスムーズに契約内容を変更するためのアドバイスを受けるためにも、不明な点がある場合は、弁護士など、専門家に相談しましょう。
雇用契約は法律に則った方法で対応しなければ、従業員とのトラブルになりかねません。
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