「人的資本とは何か」
「人的資本がなぜ注目されているのか」
「人的資本を高める方法がわからない」
上記のようなお悩みはないでしょうか。
人的資本とは、従業員のスキルや知識などを企業成長の資本とする考え方のことです。人的資本への理解を深めることで、人材管理に役立つでしょう。
本記事では、人的資本とは何かについて、人的資源と比較しながら解説します。また、人的資本が注目される背景や人的資本を高める方法も解説するので、経営戦略や人材戦略の参考にしてください。
1. 人的資本とは
人的資本とは、各従業員が持つスキルや知識、資質などを企業を成長させる資本とする考え方です。さまざまな国際機関や各国の会計基準・情報開示基準が独自の定義を持っており、世界的に共通して確立された定義はまだありません。
人的資本の考え方自体は、「経済学の父」とよばれる18世紀の経済学者、アダム・スミスの著書「国富論」までさかのぼれます。アダム・スミスは「国富論」で、労力と時間をかけて能力を伸ばした人々の仕事の重要性を主張しました。その後、1950年代から1960年代にかけて、この考え方はほかの経済学者により「人的資本」として概念化されています。
現代では、個人が専門的な教育によって獲得したスキルや知識だけでなく、先天的に持っている資質も人的資本とする考え方が一般的です。
2. 人的資本と人的資源の違い
人的資本と人的資源の違いをまとめると、以下の表のようになります。
人的資本 |
人的資源 |
|
人材とは |
投資するもの |
消費するもの |
人材管理の目的 |
企業の価値を高める |
効率よく資源を消費する |
雇用の形式 |
企業も人材もお互いを評価し選び合う |
終身雇用で人材を囲い込む |
企業と従業員の関係 |
企業と従業員がお互いに成長を助け合う |
企業が従業員を管理し、従業員は企業に依存する |
人的資本と人的資源の大きな違いは、人材のとらえ方です。
人的資本は人材を企業の価値を向上させるための資本と考え、価値を高めるために教育や研修などを通して投資します。お互いに成長し価値を生み出す関係を目指していることが特徴です。
一方、人的資源では人材は消費の対象となります。教育や研修は、資源としての人材をなるべく長く使用できるようにすることが目的です。人的資源の考え方では、終身雇用で人材を囲い込み、いかに効率的に消費するかが重視されます。
3. 人的資本が注目される背景
人的資本が注目される背景には、主に以下の4つがあります。
- 働き方が多様化した
- 技術革新により人的資本価値が向上した
- 無形資産が投資判断の要素となった
- 少子高齢化による労働力不足が進んだ
順番に詳しく解説します。
3-1. 働き方が多様化した
人的資本が注目される背景として、働き方の多様化により、これまでの人材管理では対応しきれない状況が挙げられます。
女性の社会進出や男性の育児参加、非正規雇用社員や外国人社員の増加により、国内の働き方は数十年前に比べて大きく変化しました。
企業が画一的な方法で一方的に人材を管理するのでは、多様な人材を効果的に活用できません。人材の価値を最大化し、企業と人材がお互いに成長し合うことが求められます。
3-2. 技術革新により人的資本価値が向上した
AIの発達による技術革新により、人の手でしかできない仕事の価値が向上しています。
AIの発達により、事務作業の多くや単純作業などが自動化できるようになりました。一方、相手のニーズをくみ取ったり人の心に寄り添ったりする仕事や、0から生み出すクリエイティブな仕事などはAIにはできません。
AIにはできない仕事を人がこなしていくには、スキルを伸ばすための適切な教育が必要です。したがって、人材への投資を積極的におこなう人的資本の考え方が適しています。
3-3. 無形資産が投資判断の要素となった
人的資本に注目が集まる背景として、無形資産が投資判断の要素となったことが挙げられます。
株や商品のような有形資産だけでなく、目には見えない無形資産も投資判断に含める投資家が増えてきました。人的資本は無形資産の一つであり、企業の今後の成長に大きく関係する要素です。
そのため、人的資本を重視することで、自社への投資を促進できます。
3-4. 少子高齢化による労働力不足が進んだ
少子高齢化にともなう労働力不足により、人材の能力を高めることが重要になっています。
若い人材の供給が低下し続けている現代では、生産性を保つには人材の質を高めることが大切です。人材に積極的に投資し、一人ひとりの能力を高めることでこれまで同様の労働力の維持ができるようになります。
4. 人的資本に関する国内外の状況
2020年、アメリカ証券取引委員会(SEC)は、人的資本に関する情報開示をアメリカの上場企業に対して義務化しました。投資家が人的資本の情報を重視しているためです。
また、SDGsの目標8である「働きがいも経済成長も」を受け、人材への投資が企業を評価する指標にもなっています。
世界的に人的資本を重視する傾向が強まっていることにともない、日本国内もますます人材への投資が重視されるようになるでしょう。
参考:人的資本の情報開示、ついに義務化! 米SECが8月末に発表|Human Capital Online
参考:JAPAN SDGs Action Platform|外務省
5. 人的資本開示と「ISO 30414」
「ISO 30414」とは、国際標準化機構(ISO)が2018年に制定した人的資本情報開示のガイドラインです。人的資本に関する情報開示の仕方を定めており、以下の11領域において49項目を設定しています。
- コンプライアンスと倫理
- コスト
- ダイバーシティ
- リーダーシップ
- 企業文化
- 企業の健康・安全・福祉
- 生産性
- 採用・異動・離職
- スキルと能力
- 後継者育成計画
- 労働力
「ISO 30414」に沿って人的資本の情報を開示することで、国外の投資家に向けてもアピールできるようになります。人的資本を重んじる姿勢を示すためにも、「ISO 30414」を意識した情報開示をするとよいでしょう。
参考:ISO30414(人的資本に関する情報開示のガイドライン)|野村総合研究所(NRI)
6. 人的資本を高める方法
人的資本を高めるには、以下の方法などがあります。
- 経営戦略と人材戦略を結びつける
- 教育・研修に力を入れる
- 評価制度を整える
- 働きやすい環境を提供する
- 多様な人材を受け入れる
順番に解説します。
6-1. 経営戦略と人材戦略を結びつける
経営戦略と人材戦略を結びつけて考えましょう。経営戦略を実現するにはどのような能力を持った人材が必要か、そのためにどのような投資が必要かを考えてください。
経営戦略に必要な人材戦略をおこなうことで、人的資本を高めることにつながります。
6-2. 教育・研修に力を入れる
従業員への教育や研修を積極的に実施しましょう。従業員一人ひとりの能力の向上を目指すことで、スキルアップやキャリアアップだけでなく、モチベーションややりがいの向上にもつながります。
教育や研修の内容を採用時にアピールすることで、成長意欲のある優秀な人材の獲得にもつながるでしょう。
6-3. 評価制度を整える
評価制度を整え、従業員が成長を実感できるようにしましょう。評価制度が不十分だと、どれだけ努力しても報われないと感じる従業員が増え、モチベーションの低下や離職につながります。
昇進や昇給の基準を明確にする、報酬制度を見直すなどして、従業員が成長し続けられる環境を整えましょう。
6-4. 働きやすい環境を提供する
従業員が安心して成長できるような働きやすい環境を提供しましょう。
フレックスタイム制による柔軟な就業時間の設定やリモートワークの導入は、家庭やプライベートの時間と仕事を両立する助けになります。心身の健康に関するサポートや福利厚生の充実も、従業員のスキルアップや業務遂行に役立つでしょう。
ただし、働きやすい環境の定義は人によって異なります。働きやすい環境を整えるには、従業員から広く意見を集め、意見を反映させることが大切です。
6-5. 多様な人材を受け入れる
多様な人材を受け入れることで、より良いアイディアが生まれるきっかけ作りが可能です。
さまざまな国籍やバックグラウンド、年齢の人材を集めることで、従業員同士が多様な視点から物事を見られるようになります。多様な人材を集めることで、新しいイノベーションやより良いアイディアが生まれる場を作れるでしょう。
多様な人材を受け入れる際はお互いを理解し尊重するための準備が必要です。多様性に関する教育や従業員同士のコミュニケーションを促進し、お互いの違いを受け入れられる体制を整えましょう。