従業員を雇用する場合、さまざまな種類の社会保険の手続きをおこなわなければなりません。手続きの方法や従業員から提出してもらう書類について、よく理解できていないという人も多いでしょう。
本記事では、社会保険に含まれる、労災保険・雇用保険・健康保険・介護保険・厚生年金についての説明とともに、各種保険の手続方法について解説します。
社会保険料の支払いは従業員の給与から控除するため、従業員が入退社した際の社会保険の手続きはミスなく対応しなければなりませんが、対象者や申請期限、必要書類など大変複雑で漏れやミスが発生しやすい業務です。
当サイトでは社会保険の手続きをミスや遅滞なく完了させたい方に向け、「社会保険の手続きガイド」を無料配布しております。
ガイドブックでは社会保険の対象者から資格取得・喪失時の手続き方法までを網羅的にわかりやすくまとめているため、「社会保険の手続きに関していつでも確認できるガイドブックが欲しい」という方は、こちらから資料をダウンロードしてご覧ください。
1. 社会保険とは?
社会保険とは、病気やケガ、出産、失業、障害、老齢、死亡などに対して必要な保険給付をおこなう公的な保険を指します。言い換えれば、万が一のリスクへの備えということです。具体的には、健康保険(医療保険)、年金保険、介護保険、雇用保険、労災保険の5つが社会保険に含まれます。
一般的に、従業員は企業に入社したタイミングで社会保険に加入することになっており、「健康保険」「厚生年金」「介護保険」に入ることで社会保険に加入したとみなされます。
ここで大切なことは、社会保険は自分で選択するのではなく、自動的に加入するということです。生命保険や損害保険など、民間の保険会社が扱っているものとは異なります。
関連記事:社会保険とは?代表的な4つの保険と今さら聞けない基礎知識
1-1. 健康保険
健康保険は、病気やケガ、死亡や出産に対する給付を受けられる保険です。健康保険には、全国健康保険協会と各種の健康保険組合によるものがあります。
保険に加入することで、たとえば病気で仕事を休んだ場合の傷病手当金や、子どもが生まれたときの出産手当金などを受け取ることが可能です。
1-2. 厚生年金保険
厚生年金保険は、企業で勤務する会社員が加入する年金制度です。厚生年金保険に加入することで、将来的に老齢基礎年金と老齢厚生年金を受給できます。そのほか、死亡したときの遺族年金や、病気などで障害が残ったときの障害年金を受け取ることも可能です。
1-3. 介護保険
介護保険は、介護認定を受けたときに必要なサポートを受けるための保険です。介護保険には、40歳になった月から加入します。
65歳以上であれば介護認定を受けることでサポートを受けられるほか、40〜64歳の場合は対象となる特定疾病で介護が必要となったときにサポートを受けられます。また、訪問介護や福祉用具の貸与といったサービスを利用することも可能です。
1-4. 雇用保険
雇用保険とは、仕事を失ったときや仕事が見つからないときにサポートを受けるための保険です。失業したときに受け取れる基本手当や、就職のための教育訓練を受けたときの教育訓練給付などがあります。
育児や介護のために仕事を休む際の給付金もあるため、従業員にとってメリットの多い保険といえるでしょう。
1-5. 労災保険
労災保険は、仕事中に起きたケガや病気を補償してくれる保険です。職場内でのケガはもちろん、通勤時の事故なども対象となります。他の保険とは異なり、労災保険は全額を会社側が負担します。
2. 社会保険の手続きに必要な書類
社会保険の手続きには、被保険者に関するものと事業所に関するものがあります。それぞれについて複数の手続きが存在するため、「いつ」「どの届出を」出せばよいのか確認しておくことが大切です。
以下の表で、届出の種類や提出期限などについて整理していきますので参考にしてください。
関連記事:社会保険への加入|任意適用事業所が加入するメリットとは
2-1. 社会保険の手続き ~被保険者編~
被保険者に関する社会保険手続きの種類や提出期限などは以下の通りです。
2-1-1. 雇用保険
雇用保険に関する手続きは以下の通りです。新たに従業員を雇用する際はもちろん、転勤や介護休業などの場合にも手続きが必要になるため確認しておきましょう。
届出を要するとき 提出数 提出期限 提出・確認書類 労働者を雇用したとき (雇用保険被保険者資格取得届) 1枚 被保険者となった日の属する月の翌月10日まで 賃金台帳、労働者名簿、出勤簿(タイムカード)、他の社会保険の資格取得関係書類、雇用期間を確認できる資料(雇用契約書等) 被保険者が離職、死亡等したとき (雇用保険被保険者資格喪失届) (雇用保険被保険者離職証明書) 1枚
3枚 1組
被保険者でなくなった事実があった日の翌日から起算して10日以内 出勤簿、退職辞令発令書類、労働者名簿、賃金台帳、離職証明書(離職票が不要のときは提出しなくてよい)、離職理由が確認できる書類等 同一法人内で転勤をしたとき (雇用保険被保険者転勤届) 1枚 事実のあった日の翌日から10日以内 異動辞令書類、賃金台帳、転勤前事業所に交付されている被保険者資格喪失届・氏名変更届 被保険者の氏名に変更があったとき (雇用保険被保険者氏名変更届) 1枚 被保険者が氏名を変更したその都度 その事実が確認できる書類 高年齢雇用継続給付を受けようとするとき (高年齢雇用継続給付支給申請書) 1枚 (初回)支給対象月の初日から起算して4ヶ月以内 (2回目以降)安定所 から指定された日又は月 賃金台帳、出勤簿、 (初回のみ)六十歳到達時等賃金証明書、高年齢雇用継続給付受給資格確認票・(初回)高年齢雇用継続給付支給申請書、労働者名簿、被保険者の運転免許証・住民票記載事項証明書等年齢が確認できる書類の写し 雇用する被保険者が育児休業を開始したとき(休業開始時賃金月額証明書・育児) (育児休業給付受給資格確認票・(初回) 育児休業基本給付金支給申請書) 3枚 1組
1枚
育児休業を開始した日の翌日から10日以内(注) 賃金台帳、出勤簿、労働者名簿、被保険者の母子健康手帳等育児の事実が確認できる書類の写し 育児休業基本給付金を受けようとするとき (育児休業基本給付金支給申請書) 1枚 安定所から指定された日等 賃金台帳、出勤簿 育児休業者職場復帰給付金を受けようとするとき (育児休業者職場復帰給付金支給申請書) 1枚 育児休業終了後6ヶ月を経過した日の翌日から2ヶ月を経過する日の属する月の末日まで 雇用する被保険者が介護休業を開始したとき (休業開始時賃金月額証明書・介護) 3枚 1組 介護休業を開始した日の翌日から10日以内(※) 賃金台帳、出勤簿、労働者名簿 介護休業給付金を受けようとするとき (介護休業給付金支給申請書) 1枚 安定所から指定された日等 介護休業申出書、賃金台帳、出勤簿、対象家族の氏名・本人との続柄・性別・生年月日が確認できる住民票記載事項証明書等の写し
- ※事業主が被保険者に代わって支給申請書を提出する場合には、その支給申請書と同時に(支給申請書の提出時期までに)提出することができます。
2-1-2. 健康保険・厚生年金保険
健康保険・厚生年金保険に加入する際の手続きは以下の通りです。
- 従業員を採用するとき
- 健康保険、厚生年金保険被保険者資格取得届
- 採用後5日以内
- 雇用保険被保険者証年金手帳などが必要
2-1-3. 労災保険の手続
労災保険に加入する際に必要な手続きは以下の通りです。
- 労災保険を請求するとき
- 療養補償給付たる療養の給付請求書、休業補償給付支給請求書
- 病院または労働基準監督署長に提出
2-2. 社会保険の手続き ~事業所編~
事業所における社会保険の手続きについて、必要なものは以下の通りです。
届出を要するとき 提出数 提出期限 提出・確認書類 適用事業を開始したとき 適用事業に該当するに至ったとき (雇用保険適用事業所設置届) 1枚 保険関係が成立した日の翌日から10日以内 出勤簿、労働者名簿、賃金台帳、源泉徴収簿、法人の場合は登記簿謄(抄)本等、法人でない場合は事業の開始を証明する書類等 事業を廃止したとき、又は被保険者を雇用しなくなったとき (雇用保険適用事業所廃止届) 1枚 事業所を廃止したときはその翌日から10日以内 法人の場合は、登記簿謄(抄)本等 法人でない場合は、その事実を証明する書類 事業主の名称又は所在地等に変更があったとき (雇用保険事業主事業所各種変更届) 1枚
1枚
名称・所在地等変更のあった日の翌日から10日以内 法人の場合は、登記簿謄(抄)本等 法人でない場合は、その事実を証明する書類 独立した一の事業所と認められないとき (事業所非該当承認申請書) 4枚 1組 申請をしようとするときその都度 申請に係る施設の従業員数がわかる書類、会社の組織図等、申請書の記載事項が確認できる書類 事業主が代理人を選任又は解任したとき (雇用保険被保険者関係届出事務等代理人選任・解任届) 5枚 1組 代理人を選任又は解任したその都度
- ※上記手続きのほか、労働保険の徴収に係る手続きもありますので、ご注意ください。
事業所を設立した際はもちろん、事業の廃止時や事業所の名称変更・所在地の移動があった際なども手続きをしなければなりません。必要に応じて、適切な対応に努めましょう。
関連記事:社会保険手続きの電子申請のやり方を徹底解説!義務化の対象者とは?
関連記事:「社会保険」の手続きで考えたい強制適用と任意適用とは
3. 各種社会保険の手続き方法|条件や提出期限など
ここでは、社会保険への加入条件や提出期限などを確認しておきましょう。
3-1. 各種社会保険への加入条件
従業員を雇用した際、常時雇用としてフルタイムで働く場合は上記の保険への加入が必須です。
また、アルバイトやパートタイマーの場合は、一定条件を満たす場合に社会保険への加入が必須となります。
また、令和4年(2022年)4月、令和6年(2024年)10月と段階的に適用範囲の拡大が実施されますので、現在そして法改正後の加入条件について、比較しながら確認していきましょう。
- 常時501人以上を雇用している企業であること
- 週の所定労働時間が20時間以上であること
- 雇用期間が1年以上を見込んでいること
- 賃金の月額が8.8万円以上であること
- 学生ではないこと
- 常時101人以上を雇用している企業であること
- 週の所定労働時間が20時間以上であること
- 雇用期間が2カ月以上を見込んでいること
- 賃金の月額が8.8万円以上であること
- 学生ではないこと
- 常時51人以上を雇用している企業であること
- 週の所定労働時間が20時間以上であること
- 雇用期間が2カ月以上を見込んでいること
- 賃金の月額が8.8万円以上であること
- 学生ではないこと
新たに社会保険が適用される事業所の規模について、従業員数501人以上から101人以上、そして51人以上といった変更がなされます。
継続的な雇用が見込まれる期間についても、1年から2カ月と大幅に短縮されますので、きちんと覚えておきましょう。
詳しい社会保険の加入条件はこちらから ▶社会保険の加入条件とは|保険の種類別に条件を詳しくご紹介
関連記事:【令和4年 法改正対応】社会保険とはどんな制度?|基礎知識・計算方法・手続きについてわかりやすく解説!
3-2. 社会保険に関する書類の提出先と提出期限まとめ
雇用保険については、被保険者となった日の属する月の翌月の10日までに管轄の公共職業安定所(ハローワーク)へ、「雇用保険被保険者資格取得届」を提出してください。
健康保険・厚生年金は、事実発生から5日以内に管轄の年金事務所へ「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」を提出してください。
3-3. 社会保険の手続きは電子申請も可能
社会保険の手続きは、電子申請で進めることも可能です。24時間365日いつでも申請できるため、年金事務所などが開いている時間を気にする必要はありません。自宅からでも申請できるため、在宅ワークを推進している企業にも最適です。
交通費や郵送費を削減できる、紙での手続きよりも早く処理されるなどのメリットもあるため、うまく活用しましょう。
3-4. 従業員を雇用したら提出してもらう書類
従業員を新たに雇用したときは、下記の書類を提出してもらう必要があります。
(1)雇用保険被保険者証 入社の際に、従業員から提出してもらいましょう。従業員が前職で発行された被保険者番号をそのまま引き継いで利用をします。
(2)年金手帳 入社の際、従業員から提出してもらいましょう。雇用保険資格取得手続の際には、被保険者番号が必要となります。年金手帳はコピーを取って、原本は本人へ返却します。
(3)給与所得者の扶養控除等の(異動)申告 給与の源泉所得税を求めるときに必要になります。
(4)健康保険被扶養者(異動)届 扶養する家族がいる場合は提出してもらいましょう。
(5)通勤手当申請書 通勤手当の支給に必要なので、提出してもらいましょう。
(6)源泉徴収票 入社した年度内に別の会社で給与を受け取っていた場合、提出してもらいましょう。確定申告の際に必要となります。
ここまで解説してきた社会保険手続きに関しては、2024年10月の法改正により新たに資格取得届を提出する必要がある従業員が出てくる可能性もありますので、法改正の内容と併せて対応が必要か否かを確認するようにしましょう。
当サイトでは、上述した法改正の内容や本記事で解説した社会保険手続きの内容などをまとめた資料を無料で配布しております。
社会保険の手続きに関して不安な点があるご担当者様は、こちらから「社会保険手続きの教科書」をダウンロードしてご確認ください。
関連記事:健康保険被扶養者(異動)届とは?書き方や添付書類をわかりやすく解説
関連記事:社会保険の扶養範囲や扶養の手続き方法についてわかりやすく解説
4. 社会保険手続きにおける注意点
社会保険手続きを進める際は、資格取得日や喪失日、手続き中の退職などに注意しましょう。それぞれの注意点の詳細は以下の通りです。
4-1. 資格取得日や喪失日に注意する
社会保険の手続きをする際は、資格取得日と喪失日に注意しなければなりません。資格取得日は、基本的に従業員を採用した日となります。一方、資格喪失日は退職日の翌日です。それぞれ考え方が異なるため注意しましょう。
4-2. 介護保険料の徴収を忘れないようにする
介護保険料は、従業員が40歳に達した月から徴収しなければなりません。従業員ごとの情報をしっかりと管理し、徴収をスタートすることを忘れないようにしましょう。
4-3. 社会保険手続き中に退職したときの対応
従業員が社会保険の手続き中に退職した場合でも、基本的な流れは同じです。仮に入社したばかりの従業員がすぐ退職することになっても、通常通りの手続きをおこないます。
採用日を資格取得日、退職日の翌日を資格喪失日として、適切な処理を進めましょう。
5. 社会保険の手続きを忘れないようにしよう!
新しく従業員を雇い入れた際、その従業員が一定の基準を満たしている場合は社会保険に加入する必要があります。
その際、雇用保険については翌月の10日までに管轄のハローワークへ「雇用保険被保険者資格取得届」を、健康保険・厚生年金については5日以内に管轄の年金事務所へ「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」を忘れずに提出しましょう。
そのためには従業員から必要書類を期日までに提出してもらう必要があります。従業員の入社が決まったら早めに提出が必要な書類の連絡をしておくことが大切です。
▶人事労務管理システムの価格・特徴を徹底比較!国内全11種 国内の人事労務管理システムに関してどのようなサービスがあるかを調べました。人事労務管理システムは、サービス領域が幅広くありますが、ここでは社会保険や労働保険、マイナンバーなどに関する労務業務を効率的におこなえるサービスを中心にピックアップしました。
▶【完全版】社会保険の仕組みや基礎知識から手続きまでを総まとめ! 社会保険はいくつかの種類に分類され、どれも従業員やその家族達を守るための重要な役割を担っています。従業員の安心感や、採用において惹きつけになるのが社会保険といえるでしょう。この記事では社会保険の基礎知識から種類、そして手続方法までの完全版をご紹介いたします
▶「スマホで簡単、外回りでも正確すぎた」勤怠管理システムにジンジャーが選ばれたのは何故? 『ジンジャー勤怠管理』がお客様に選ばれた理由や、実際に利用してみて「何が変わったのか」をお客様から伺いました。ジンジャーだからできるスマホ打刻の正確さや、その他メリットを事例を用いてご紹介いたします。
▶残業削減に向けた企業事例10社|残業チケット&ペナルティ、在宅勤務、朝方勤務、トップのコミットなど 今回は、残業を減らすための施策を導入しながらも、生産性を高めている企業の取り組みをご紹介いたします。
社会保険料の支払いは従業員の給与から控除するため、従業員が入退社した際の社会保険の手続きはミスなく対応しなければなりませんが、対象者や申請期限、必要書類など大変複雑で漏れやミスが発生しやすい業務です。
当サイトでは社会保険の手続きをミスや遅滞なく完了させたい方に向け、「社会保険の手続きガイド」を無料配布しております。
ガイドブックでは社会保険の対象者から資格取得・喪失時の手続き方法までを網羅的にわかりやすくまとめているため、「社会保険の手続きに関していつでも確認できるガイドブックが欲しい」という方は、こちらから資料をダウンロードしてご覧ください。