36協定を締結した後は、36協定届を所轄の労働基準監督署に提出する必要があります。36協定届は、2021年の新様式変更により、記載内容についても大きな変更がありました。今回は、36協定届の記載内容や記載ミスがあった場合の対応についてわかりやすく解説します。また、協定届の控えや協定書の保管期間についても紹介します。
36協定は毎年もれなく提出しなくてはなりませんが、慣れていないと届出の記載事項や作成において踏むべき手順も分からないことが多いのではないでしょうか。
当サイトでは、そもそも36協定とは何で残業の上限規制はどうなっているかや、届出作成~提出の流れまで36協定の届出について網羅的にまとめた手順書を無料で配布しております。
これ一冊で36協定の届出に対応できますので、36協定届の対応に不安な点がある方は、ぜひこちらから「36協定の手順書」をダウンロードしてご覧ください。
目次
1. 36協定届の記載内容とは?
36協定とは、労働者に時間外労働や休日労働をさせる場合に労使間で締結する協定のことです。36協定を締結せず、従業員に時間外労働や休日労働を命じたら違法となります。ここでは、36協定届とは何か、その記載内容を踏まえて紹介します。また、36協定届と36協定書の違いについても解説します。
1-1. 36協定届とは?
36協定届とは、36協定を締結した後に届出をおこなうための書類のことです。36協定を締結したとしても、届出をしなければ、36協定の効力は生じません。なお、36協定届の提出先は、所轄の労働基準監督署です。
関連記事:36協定とは何かわかりやすく解説!特別条項や新様式の届出記入方法も紹介!
1-2. 36協定届に記載すべき内容
36協定届には決まった様式・フォーマットがあります。そのため、自社が締結する36協定の形式にあった36協定を選ぶ必要があります。36協定(一般条項)を締結する場合、次のような様式の36協定を用います。
このように、あらかじめ、労働基準監督署に提出する36協定届をチェックしておくことで、記載事項やその内容を正しく理解することができます。
1-3. 36協定届と36協定書の違い
36協定届は労働基準監督署に提出するための書類、36協定書は36協定を締結するための書類という違いがあります。36協定書に決まったフォーマットはありませんが、企業側と労働者側が36協定の内容に合意したことを証明するため、双方の押印・署名が必要になります。一方、36協定届に押印・署名は不要です。ただし、36協定届と36協定書を兼ねる場合、労使双方の押印もしくは署名が必要です。
また、労働基準法第36条に36協定書の記載事項が明記されているので、きちんと確認しておくことが大切です。なお、記載すべき内容は次の通りです。
- 時間外労働や休日労働をさせられる労働者の範囲
- 時間外労働や休日労働をさせられる対象期間
- 時間外労働や休日労働をさせられる条件
- 時間外労働や休日労働をさせられる時間もしくは日数
- 時間外労働や休日労働を適正なものとするため厚生労働省令で定められた必要事項(労働基準法施行規則第17条に具体的な内容が記載されている。)
このように、36協定届だけでなく、36協定書にも記載内容は細かく定められいます。また、36協定届は、36協定書の記載内容を基に作成するため、記載事項をきちんと押さえておきましょう。
(時間外及び休日の労働)
第三十六条 使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、厚生労働省令で定めるところによりこれを行政官庁に届け出た場合においては、(省略)、その協定で定めるところによつて労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。
(省略)
前項の協定においては、次に掲げる事項を定めるものとする。
一 この条の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させることができることとされる労働者の範囲
二 対象期間(この条の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる期間をいい、一年間に限るものとする。第四号及び第六項第三号において同じ。)
三 労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる場合
四 対象期間における一日、一箇月及び一年のそれぞれの期間について労働時間を延長して労働させることができる時間又は労働させることができる休日の日数
五 労働時間の延長及び休日の労働を適正なものとするために必要な事項として厚生労働省令で定める事項
2. 36協定の締結から届出までのステップ
36協定届の記載内容を理解できても、正しく36協定を締結し、届出なければ意味がありません。ここでは、36協定の締結から届出までの流れについて詳しく紹介します。
2-1. 労働者代表を選出する
36協定は、使用者と労働者の過半数で組織する労働組合と締結します。ただし、該当する労働組合がない場合、労働者の過半数を代表する者(労働者代表)と締結することも可能です。労働者代表に管理監督者がなることはできません。また、企業の一方的な意向で労働者代表を選んだ場合には、その36協定は無効になる恐れもあります。正しい手順と方法で、36協定の労働者代表を選出しましょう。
関連記事:36協定における労働者代表の選出方法とは?管理職や出向者の取り扱いも解説!
2-2. 36協定を締結して協定書を作成する
労働者代表が選出できたら、実際に36協定を締結しましょう。36協定の締結にあたって、36協定書の作成が必要になります。使用者と労働者代表の双方の合意があったら、36協定書に押印・署名をするようにしましょう。
2-3. 36協定届を作成して提出する
36協定を締結したら、協定書を基にしながら、協定届を作成しましょう。36協定届のひな形・テンプレートは厚生労働省サイトからダウンロードすることができます。自社の締結した36協定にあった様式を選ぶことに注意が必要です。36協定届の作成が完了したら、所轄の労働基準監督署に提出しましょう。
2-4. 書類を適切な期間保管する
36協定届の控えや36協定書は、労働関係に関する重要な書類に該当するので、労働基準法109条により、5年間の保管が必要です。ただし、労働基準法第109条には経過措置が設けられているため、当面の間は3年間の保存でも問題ありません。しかし、いつ経過措置が終了するのかは未定なので、できる限り5年間保管するような環境を整備しましょう。なお、36協定届の控えや36協定書の保管期間の起算日は、「その完結の日」とされています。36協定を締結した日ではないので注意が必要です。
(記録の保存)
第百九条 使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入れ、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を五年間保存しなければならない。
2-5. 36協定の内容を従業員に周知する
36協定の締結と届出が完了したら、36協定の記載内容を遵守してもらうためにも、従業員に周知することが大切です。労働基準法第106条により、使用者には、就業規則や36協定の内容などを周知する義務があります。周知義務に違反すると、36協定が無効になったり、労働基準法違反により罰則が課せられたりする恐れもあるので、正しい方法で周知するようにしましょう。
(法令等の周知義務)
第百六条 使用者は、この法律及びこれに基づく命令の要旨、就業規則、(省略)、第三十六条第一項、(省略)に規定する決議を、常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること、書面を交付することその他の厚生労働省令で定める方法によつて、労働者に周知させなければならない。
3. 36協定届を記載・提出する際の注意点
36協定届は正しく記載・提出しなければ、受理してもらえないなどのリスクがあります。ここでは、36協定届を記載・提出する際の注意点について詳しく紹介します。
3-1. 36協定届の様式・フォーマットを準備する
36協定は2021年4月から新様式に変わりました。新様式のフォーマットは厚生労働省のホームページで公開されています。様式第9号、様式第9号の2から様式第9号の7までの種類があります。たとえば、特別条項付き36協定を締結した場合は、「様式第9号の2」のフォーマットを使用します。間違って「様式第9号」を使用しないよう注意が必要です。このように、36協定届をスムーズに作成するため、あらかじめ自社のニーズにあった様式・フォーマットを準備しておくことが大切です。
関連記事:36協定届の新様式とは?2024年4月からの変更内容や書き方・記入例をわかりやすく解説!
3-2. あらかじめ36協定届の提出方法を決めておく
36協定届の提出方法には「窓口」「郵送」「電子申請」の3種類があります。提出方法によって必要となる書類や、注意点が異なります。窓口や郵送で36協定届を提出する場合、その控えを受け取るため、36協定届の原本とその写しを提出する必要があります。なお、郵送の場合、切手や返信用封筒などの用意も必要になります。
一方、電子申請で36協定届を提出する場合、提出後にダウンロードすることで控えの取得が可能です。また、24時間365日場所を問わず届出できるというメリットがあります。このように、それぞれの提出方法にはメリット・デメリットがあります。自社のニーズにあわせて事前に提出方法を決めておくと、スムーズに36協定届を提出することができるようになります。
3-3. 36協定届の提出期限までに提出する
36協定届の提出期限は「起算日の前日」までです。簡単に言えば、労働者に時間外労働や休日労働をさせる前日までということです。36協定は締結日でなく、届出日から適用されるようになります。たとえば、郵送で提出する場合、郵送日と到着日にタイムラグがあり、提出期限に間に合わないというリスクもあります。そのため、余裕をもって手続きをおこなうことが大切です。
関連記事:36協定届の提出期限とは?有効期間や提出忘れ時の罰則についても解説!
4. 36協定届が新様式に変わってからの変更点
2021年4月から、36協定届は新様式に変更されました。新様式に変更された理由には、「労働基準法施行規則の改正」と「時間外労働の上限規制」が挙げられます。ここでは、36協定届が新様式に変わってからの変更点について詳しく紹介します。
4-1. 押印・署名が不要となった
36協定の新様式では、政府のテレワーク推進や書類のデジタル化推進、新型コロナウイルスの感染拡大防止を背景に、押印や署名が不要になりました。そのため、新様式で36協定届を届け出る際には、記名のみでの届出が認められています。ただし、36協定届が36協定書を兼ねる場合は押印・署名が必須なので気を付けましょう。
関連記事:36協定の押印・署名が廃止に?不要になった背景や注意点を解説!
4-2. 協定当事者の適格性チェックが必要になった
新様式では、協定の当事者が適正に選任された労働者の代表者であるかどうかを確認する事項として、協定当事者の適格性チェックを入れる項目が新設されました。新様式を使用するときには、このチェックボックスにチェックを入れる必要があります。チェックが入っていない場合には、受理されず、再申請をしなければならなくなるため注意が必要です。
4-3. 様式が2種類に変更された
かつての36協定届は、特別条項の有無にかかわらず兼用で一つの様式のみが用意されていました。しかし、新様式では「一般条項」と「特別条項付き」の2種類の様式に変更されました。様式が2種類に増えた背景には、2019年の働き方改革関連法の施行で、時間外労働の上限規制が設けられ、「特別条項付き」の様式に記載する項目が増えたことが挙げられます。そのため、新様式では、「特別条項付きの36協定届」を提出するかどうかによって使用する様式を使い分ける必要があります。
4-4. 電子申請での本社一括届出が可能になった
36協定届の電子申請はこれまでも可能でしたが、新様式では、「e-Gov」を利用した電子申請の際、事業所別で代表者が異なる場合でも、本社からの一括届出が可能となりました。そのため、事業所が複数ある企業でも、本社から一括して36協定の届出ができるようになっています。電子申請による本社一括届出をおこなうことで、業務負担やコストの削減が期待できます。
関連記事:36協定の本社一括届出とは?要件の緩和や電子申請のやり方をわかりやすく解説!
5. 36協定届の記載例
36協定届はどのように記載すればよいのでしょうか。ここでは、36協定届の主な記載事項と記載例について詳しく紹介します。
5-1. 一般条項の記載例
一般条項付き36協定を締結する場合、次のような記載事項を記載する必要があります。
記載項目 | 記載内容 |
労働保険番号と法人番号 | 労働保険番号:事業所が労働保険に加入した際に交付される番号法人番号:1法人につき1つ指定されている13桁の番号 |
事業の種類・名称・所在地 | 事業の種類:事業所の事業の種類名称:事業の名称(事業所ごとに記入)所在地:事業所の所在地を記入 |
協定の有効期間 | 36協定が有効となる期限 |
時間外労働の必要がある事由 | 時間外労働の必要がある具体的な理由 |
業務の種類、労働者数、労働時間 | 時間外労働の事由ごとに記入労働者数:18歳以上の労働者数労働時間:1日の労働時間 |
1日で法定・所定労働時間を超える時間 | 法定時間を超える時間外労働の時間と任意で所定労働時間を超える時間外労働の時間を記入(1日単位) |
1カ月で法定・所定労働時間を超える時間 | 1年単位の変形労働時間制の場合42時間、それ以外では45時間以内で記入 |
1年で法定・所定労働時間を超える時間 | 1年単位の変形労働時間制の場合320時間、それ以外では360時間以内で記入 |
休日労働の事由・業務の種類・労働者数 | 休日労働の必要がある具体的な理由を記入労働者数:18歳以上の労働者数 |
時間に関するチェック | 「時間外労働と法定休日の労働時間合計が月100時間を超えていない」「2~6ヶ月間の平均が80時間内」の2点についてチェックする |
成立年月日と当事者 | 協定の成立年月日と労働者の代表(当事者)について記入 |
一般条項の記載例は、厚生労働省のホームページで公開されているので、参考にしてみることが推奨されます。
5-2. 特別条項の記載例
特別条項付き36協定を締結する場合、一般条項付き36協定を締結する場合に記載する事項に加えて、次のような事項も記載しなければなりません。
記載項目 | 記載内容 |
臨時で時間外労働する事由・業務の種類・労働者数 | 臨時で時間外労働する事由を具体的に記入(予見できない理由を記入)労働者数には18歳以上の労働者数 |
1日で法定・所定労働時間を超える時間 | 1日のうち法定・所定労働時間を超える時間を記入 |
1ヶ月で法定・所定労働時間を超える時間 | 1ヶ月で法定・所定労働時間を超える回数についても記入、回数は1年のうち6回以内で記入 |
1年で法定・所定労働時間を超える時間 | 1年のうち720時間以内で記入 |
健康や福祉に関する措置 | 健康や福祉に関する措置のうち、社内で実施するものを番号で記入 |
特別条項の記載例も、厚生労働省のサイトで公開されているので、参考にしながら作成するのがおすすめです。
6. 36協定届に記載ミスがあった場合の対応
36協定届は人の手で作成するため、記載ミスをしてしまうこともあるかもしれません。ここでは、36協定届に記載ミスがあった場合の対応について詳しく紹介します。
6-1. 労働基準監督署に提出する前に気づいた場合
労働基準監督署へ提出する前に36協定届の記載ミスに気づいた場合、再度作成し直して、提出すれば問題ありません。なお、記載ミスがあった箇所を修正ペンや修正テープを使用して訂正したり、二重線で訂正したりしても受理されるかもしれません。しかし、36協定届は従業員の労働や健康に関わる重要な書類です。そのため、記載ミスを見つけたら、再度新しいフォーマットを用意して最初から作り直すのが望ましいです。なお、36協定書に記載ミスがあった場合、36協定届の提出の有無に関係なく、再度36協定を締結し直したうえで、36協定届を再提出する必要があります。
6-2. 労働基準監督署に提出した後に気づいた場合
36協定届に記載ミスがあっても、受理されてしまうことはよくあります。労働基準監督署に提出した後に36協定届の記載ミスに気づいた場合、まずは届出先の労働基準監督署に電話などにより、記載ミスがあったことを伝え、指示を仰ぎましょう。その際、事業所名や提出日、受理日などの情報が聞かれることもあります。36協定届に記載した内容を素早く確認できるよう、36協定届の控えを手元に置いておくことが大切です。修正・訂正が必要と判断されたら、速やかに36協定届を作成し直して再度提出しましょう。
6-3. 36協定届の記載ミスを放置していたらどうなる?
36協定の記載ミスは、その箇所によっても重要性が異なります。たとえば、時間外労働の上限時間に記載ミスがあり、それを放置していた場合、その記載した時間外労働の上限時間を超えて従業員に労働をさせてしまったら、違法になります。このような場合、労働基準法に則り、6カ月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金といった罰則が課せられる恐れがあります。なお、記載ミスの重要性については、自社で判断せず、必ず労働基準監督署に問い合わせて確認するようにしましょう。
関連記事:36協定違反の罰則や罰則回避のポイントをわかりやすく解説
7. 36協定届の記載内容を理解して正しく手続きしよう
36協定届には決まったフォーマットがあり、記載内容が細かく定められています。36協定に記載ミスがあると、罰則につながる恐れもあるので、重要性を理解して、正しく手続きをおこなうことが大切です。また、36協定届に誤りがあったら、放置するのでなく、まずは所轄の労働基準監督署に問い合わせをするようにしましょう。
36協定は毎年もれなく提出しなくてはなりませんが、慣れていないと届出の記載事項や作成において踏むべき手順も分からないことが多いのではないでしょうか。
当サイトでは、そもそも36協定とは何で残業の上限規制はどうなっているかや、届出作成~提出の流れまで36協定の届出について網羅的にまとめた手順書を無料で配布しております。
これ一冊で36協定の届出に対応できますので、36協定届の対応に不安な点がある方は、ぜひこちらから「36協定の手順書」をダウンロードしてご覧ください。