有給休暇は従業員に対し、一定期間勤続した従業員に有給で休暇を付与する制度です。有給休暇の取得は従業員の権利であると同時に、従業員の心身の健康維持のために非常に重要です。
本記事では、有給休暇の発生条件、付与日数の計算方法、付与する際の注意点について解説します。
関連記事:有給休暇の基本的なところや発生要件・計算方法を解説
目次
1. 有給休暇が付与される条件
ここでは、有給休暇が従業員に付与される条件について解説します。有給休暇の付与条件は大きく分けて、2つあります。本章では、有給休暇の付与条件について解説します。
1-1. 入社後、6ヵ月以上経過しており、出勤率が8割以上である場合
従業員の雇い入れ時から、6ヵ月以上経過しており、出勤率が8割以上である場合に、有給休暇が付与されます。この条件を満たしたすべての従業員には、有給休暇を付与しなければなりません。すべての従業員にはパートやアルバイトの従業員も含まれます。
なお、労働基準法で定められた基準は最低基準なので、企業独自で法定よりも多い日数を付与したり、前倒して付与したりしても問題ありません。
1-2. 出勤日に含まれる日
有給休暇の付与条件を満たしているか確認するためには、従業員の出勤率を算出する必要があります。その際、通常の出勤日に加えて、以下の日も加えて出勤日を算出します。
・産前、産後の休業
・育児休業あるいは介護休業
・年次有給休暇を取得した日
・遅刻や早退をおこなった日
このように、出勤率の算出には実際には出勤していない日も、出勤日とみなすため注意が必要です。
これ以外の慶弔休暇などの特別休暇は、企業の就業規則に沿って出勤日に含めるか否かが変わります。出勤日に含めない場合、休むことによって従業員側に不利になる可能性があるので、一般的には出勤日に含めるか、そもそも労働日に含まないなどの対応をとります。
1-3. 出勤率の計算方法
出勤率の計算方法は以下の通りです。
例)入社から6ヵ月間の全労働日を120日、うち従業員の出勤日が110日だった場合
110日(出勤日)÷120日(全労働日)×100=91.6666…
となり、出勤率が8割以上の条件を満たしています。
2. 有給休暇付与日数の計算方法
ここからは、「正社員の場合」と「パート・アルバイトの場合」の2つに分けて、それぞれの有給休暇付与日数について解説していきます。
2-1. 正社員の場合の付与日数計算方法
フルタイムで働く正社員の場合、継続勤務年数に応じて有給休暇が付与されます。有給休暇の付与日数と継続勤務年数の関係は以下の通りです。
入社から半年経過した日(基準日)に10日付与され、1年経過して基準日を迎えるごとに付与日数は増えていきます。
ただし、上記の日数は、労働基準法で定められた最低の日数なので、これ以上の日数を会社独自で付与することには問題ありません。
2-2. パート・アルバイトの場合の付与日数計算方法
パート・アルバイトの場合、週の所定労働日数に応じて有給休暇が比例付与されます。有給休暇の付与日数と週の所定労働日数の関係は以下の通りです。
パートやアルバイトの従業員にも条件を満たしていれば上記の日数を付与する必要があります。
関連記事:アルバイト・パートにも必要な有給休暇|日数・賃金の計算方法
3. 【有給休暇の取得日数】日本と自社の平均を比較!
本章では、日本の平均有給休暇取得率と、自社の平均有給休暇取得率を算出する方法をご紹介します。
自社の有給休暇取得率が高い場合、採用などで働きやすさをアピールできるなどのメリットがあります。
関連記事:有給休暇の取得を促進する取り組みとは?取得ルールや取得率向上のための施策を解説
3-1. 日本の有給休暇の平均取得率
「働き方改革」の推進により、日本の有給取得率は着実に増加してきています。しかし、日本の有給取得率は諸外国に比べて著しく低く、満足に取得することができていません。
令和3年に厚生労働省がおこなった「就労条件総合調査」によると、労働者一人あたり約17.9日の有給休暇が付与されていますが、平均有給取得率は56.6%でした。
日本以外の主要諸外国では有給休暇取得率が少なくとも70%であることを踏まえると、日本の56.6%という有給休暇取得率は、まだまだ低いといえるでしょう。
3-2. 企業ごとの有給休暇の平均取得率の計算方法
有給休暇の平均取得日数は以下の計算式で算出することができます。ここでは、算定期間を1年と仮定して計算します。
年間平均有給休暇取得日数=算定期間の毎月の有給休暇取得日数の合計÷算定期間中の毎月の対象従業員の合計×12
平均有給休暇付与日数=全従業員のその年の有給休暇付与日数の合計÷全従業員数
平均有給休暇取得率=年間平均有給休暇取得日数÷全従業員の平均有給休暇付与日数
例)全対象従業員の月次有給取得日数を300日、対象従業員の合計を250人の場合
300日(毎月の有給取得数合計)÷250人(毎月の対象従業員の合計)×12=14.4日
上記の計算により、14.4日がこの企業の年間平均有給休暇取得日数となります。
次にこの値を全従業員の平均有給休暇付与日数で割ります。
平均有給休暇付与日数が16日だった場合、
14.4÷16=0.9
となり、有給休暇取得率は90%となります。
4. 有給休暇取得時の賃金計算の方法
従業員の有給休暇取得時の賃金の計算方法は、大きく分けて3つあります。
関連記事:有給休暇を使うと給料の金額は減る?金額の計算方法やパート・アルバイトの有給休暇について解説
4-1. 【有給休暇の賃金計算①】通常賃金から求める
1つ目に紹介する計算方法は「通常賃金から求める方法」です。この計算方法は、有給休暇を取得した期間においても、通常勤務と変わらない賃金を支払うという最も一般的な方法です。従業員が有給休暇を取得しても、特別な賃金計算が必要ないので、人事担当者の負荷を減らすことができます。
4-2. 【有給休暇の賃金計算②】平均賃金から求める
2つ目に紹介する計算方法は「平均賃金から求める方法」です。平均賃金の求め方は2つあります。それぞれの具体的な計算式は下記の通りです。
①直近3か月に支払った賃金の総額÷その期間の総日数(休日含む)
②直近3か月に支払った賃金の総額÷その期間の労働日×60%
上記の2つの計算式で賃金を求め、金額が大きい方を従業員に支払います。
例)2022年4月~6月までの賃金総額が90万円、総日数を91日、労働日を61日とした場合
【①を使った計算例】
90万円(直近3か月に支払った賃金の総額)÷91日(その期間の総日数)
=9,890円
【②を使った計算例】
90万円(直近3か月に支払った賃金の総額)÷61日(その期間の労働日)×60%
=8,852円
上記の計算結果の通り、①9,890円②8,852円となり、①の9,890円が有給休暇の賃金として従業員に支給されます。
平均賃金を基に計算をすると、労働日数によっては極端に金額が少なくなる場合があるので、②の計算方法で算出できる最低保証金額が設定されています。
4-3. 【有給休暇の賃金計算③】標準報酬月額から求める
3つ目に紹介する計算方法は「標準報酬月額から求める方法」です。
この計算方法は、健康保険料を求める際に必要な標準報酬月額を30で割り、標準報酬日額を算出し、従業員に賃金を支払うという方法になります。
賃金計算を簡略化できるという点で非常に便利な計算方法ですが、標準報酬月額が実際の給与よりも少ない場合には、有給休暇の賃金が少なくなってしまう恐れもあります。このような背景があるため、この計算方法はあらかじめ労使協定を締結していなければ、使用することはできません。
ここまで紹介した通り、有給休暇の賃金計算はときに複雑になることもあります。ここからは、有給休暇の日数計算や賃金計算を効率化するツールについて解説します。
5. 有給休暇の計算をする上で注意すべきポイント
本章では、有給休暇の計算をする上で注意すべきポイントについて解説します。
5-1. 有効期間は2年間で、翌年に繰越可能
有給休暇は心身の疲労を回復し、リフレッシュすることを目的として設けられている制度なので、原則として年内に付与された有給休暇は、同年内に完全に消化することが望ましいです。
しかし、有給休暇を当年度内に使い切れない場合もあるでしょう。そのような場合は有給休暇を翌年度に繰り越すことができます。
有給休暇の有効期限は2年間で、その間であれば繰越が可能なため、人事担当者は繰越分の有給休暇も加味したうえで従業員ごとの有給休暇の保有日数を把握しておかなければなりません。
関連記事:有給休暇日数の繰越とは?上限や計算方法などわかりやすい例を紹介
5-2. 事業の正常な運営を妨げる場合は、時季変更権の行使が可能
原則として、従業員から有給休暇を取得したいと申請を受けた場合、企業側は拒否することができません。しかし、有給休暇を取得させてしまうと、深刻な人手不足となり、事業の正常な運営を妨げると判断される場合のみ、「時季変更権」を行使することができます。
時季変更権とは、従業員から有給休暇の取得申請があった際に、有給休暇の取得時期をずらす事ができる権利のことです。時季変更権の行使するには、特別な理由がなければならず、慢性的な人員不足で時季変更権を行使することはできないため、十分注意しましょう。
5-3. 有給休暇の賃金計算方法は事業場で統一しなければならない
有給休暇の賃金計算方法は3つありますが、決定した有給休暇賃金の計算方法は就業規則に定めて、タイミングや従業員によって変更することはできません。
なぜなら、計算方法によって賃金に変動が生じるため、企業の都合でタイミングや従業員ごとに計算方法を変更すると、最も安くなる方法で計算されるなど従業員に不利になることが起こりえます。
有給休暇の賃金計算方法は一度定めると変更できないため、定める際は慎重に考えましょう。
5-4. 有給休暇の賃金計算方法によっては金額が減ることもある
有給休暇の賃金計算方法によっては、支給金額が減り、「有給休暇を取得したら給料が減った」などと従業員から申し出があるかもしれません。
実際に、計算方法によっては、通常の出勤をするよりも給料の金額が減る可能性もあり、このこと自体に問題はありません。
従業員からこのような申し出や質問があった場合に、企業が就業規則に記載していて、きちんと従業員に説明できることが重要です。
まずは計算があっているかを確認し、正しければ就業規則に定めている計算方法によって賃金が通常出勤時よりも減ってしまうことを説明しましょう。
ただし、従業員が有給休暇を取得したことによって不当な扱いをすることは法律で禁止されているため、故意に有給休暇金額を減らすことなどはできません。
6. 有給休暇の付与日数と賃金の計算を効率化するツール
有給休暇における日数計算や賃金計算を効率化できるツールは、大きく3つあります。従業員数が多くなればなるほど、従業員ごとに異なる有給休暇日数や付与日を紙などで管理することは煩雑になります。ミスが生じると、法律にも抵触しかねないので、正確に計算などができるツールを活用すると良いでしょう。
6-1. エクセル
1つ目に紹介する効率化ツールは「エクセル」です。エクセルの関数機能を利用して、自社の有給休暇の賃金計算方法に合わせたテンプレートを作っておけば、賃金計算の業務を大幅に簡略化させることができます。一部の情報は手入力しないといけないため、入力ミスには注意する必要があります。
6-2. アプリ
2つ目に紹介する効率化ツールは「アプリを利用した賃金計算」です。近年、有給休暇に関する計算を自動化できるアプリが続々とリリースされています。アプリもエクセル同様に、賃金計算を自動化させることができるため、業務効率化につながります。また、アプリなので、パソコンだけでなく、スマートフォンでも計算できるため、エクセルに比べ、より簡単に賃金計算をおこなうことができます。
6-3. 勤怠管理システム
3つ目に紹介する効率化ツールは「勤怠管理システム」です。勤怠管理システムで有給休暇管理をすると、従業員の年次に応じて有給休暇を自動付与し、従業員が取得するごとに消化日数を差し引き、自動で残日数が算出されます。管理者だけでなく、従業員も残日数を把握できます。また、2019年から年5日の有給の取得義務が課されましたが、勤怠管理システムであれば、現時点で従業員が有給を何日消化しているのかが一覧で確認することができるという点も魅力です。
7. 有給休暇の日数や賃金の計算を適切におこないましょう!
本記事では、有給休暇が付与される条件や日数計算、有給休暇を付与する際の注意点、有給休暇取得時の賃金計算について解説しました。有給休暇は従業員に賃金の心配なく、休養を取ってもらうための制度です。
有給休暇に関する規則を理解し、従業員が健康的に働ける職場作りを心掛けましょう。