有給休暇は従業員に対し、一定期間勤続した従業員に有給で休暇を付与する制度です。有給休暇の取得は従業員の権利であると同時に、従業員の心身の健康維持のために非常に重要です。
本記事では、有給休暇の発生条件、付与日数の計算方法、付与する際の注意点について解説します。
目次
1. 有給休暇が付与される条件
ここでは、有給休暇が従業員に付与される条件について解説します。有給休暇の付与条件は大きく分けて、2つあります。一つひとつ順番に解説します。
1-1. 入社後、6か月以上経過しており、出勤率が8割以上である場合
従業員の雇い入れ時から、6か月以上経過しており、出勤率が8割以上である場合に、有給休暇が付与されます。この条件を満たした従業員には、10日以上の有給休暇を付与しなければなりません。
なお、10日以上付与すればよいので、企業独自で11日以上の有給を付与しても問題ありません。
1-2. 実はこれらも出勤日
有給休暇の付与条件を満たしているか確認するためには、従業員の出勤率を算出する必要があります。その際、通常の出勤日に加えて、以下の日も加えて出勤日を算出します。
・産前、産後の休業
・育児休業あるいは介護休業
・年次有給休暇を取得した日
・遅刻や早退をおこなった日
このように、出勤率の算出には実際には出勤していない日も、出勤日とみなすため注意が必要です。
1-3. 出勤率の計算方法
出勤率の計算方法は以下の通りです。
例)4月1日入社で、有給休暇の付与日が10月1日、全労働日を120日、従業員の出勤日が110日とした場合
110日(出勤日)÷120日(全労働日)×100=91.6666…
となり、出勤率が8割以上の条件を満たしていることがわかります。
2. 有給休暇付与日数の計算方法
ここからは、「正社員の場合」と「パート・アルバイトの場合」の2つに分けて、それぞれの有給休暇付与日数について解説していきます。
2-1. 正社員の場合の計算方法
正社員の場合、継続勤務年数に応じて有給休暇が付与されます。有給休暇の付与日数と継続勤務年数の関係は以下の通りです。
2-2. パート・アルバイトの場合の計算方法
パート・アルバイトの場合、週の所定労働日数に応じて有給休暇が比例付与されます。有給休暇の付与日数と週の所定労働日数の関係は以下の通りです。
3. 【有給休暇の取得日数】日本と自社の平均を比較!
ここでは、日本の平均有給取得率を明らかにしたうえで、自社の平均有給取得率を算出する方法をご紹介します。
3-1. 日本の有給休暇の平均取得率
「働き方改革」の推進により、日本の有給取得率は着実に増加してきています。しかし、日本の有給取得率は諸外国に比べて著しく低く、満足に取得することができていません。
令和3年に厚生労働省がおこなった「就労条件総合調査」によると、労働者一人あたり約17. 9日の有給休暇が付与されていますが、平均有給取得率は56.6%でした。
日本以外の主要諸外国では有給休暇取得率が少なくとも70%であることを踏まえると、日本の56.6%という有給休暇取得率は、まだまだ低いといえるでしょう。
3-2. 企業ごとの有給休暇の平均取得率の計算方法
有給休暇の平均取得日数は以下の計算式で算出することができます。ここでは、算定期間を1年と仮定して計算します。
例)全対象従業員の月次有給取得日数を300日、対象従業員の合計を250人の場合
300日(毎月の有給取得数合計)÷250人(毎月の対象従業員の合計)×12=14.4日
上記の計算により、14.4日がこの企業の年間平均有給休暇取得日数となります。
ここまで、日本の平均有給取得率やその計算方法について解説しました。ここからは、実際に有給休暇の取得日数に関する計算をする際に、気を付けるべきことについてご紹介します。
4. 有給休暇の計算をおこなう上で押さえておきたいポイント
ここでは、有給休暇の計算で押さえておきたいポイントについて、一つずつ解説します。
4-1. 有効期間は2年間で、翌年に繰越可能
原則として、年内に付与された有給休暇は、同年内に完全に消化することが望ましいです。
しかし、有給休暇の有効期限は2年間で、翌年に繰り越すことができます。
そのため、今年付与した有給休暇を従業員が取得しなかった場合、翌年に繰り越すことを考慮したうえで、人事担当者は有給休暇付与日数について計算をしなければなりません。
また、保有できる最大有給休暇日数は40日であるという点においても、注意しましょう。
4-2. 事業の正常な運営を妨げる場合は、時季変更権の行使が可能
原則として、従業員から有給休暇を取得したいと申請を受けた場合、企業側は拒否することができません。しかし、有給休暇を取得させてしまうと、深刻な人手不足となり、事業の正常な運営を妨げると判断される場合のみ、「時季変更権」を行使することができます。
時季変更権とは、従業員から有給休暇の取得申請があった際に、有給休暇の取得時期をずらす事ができる権利のことです。時季変更権の行使するには、有給休暇に関する理解が必要不可欠となるため、十分注意しましょう。
ここまで、有給休暇には有効期間がある事や時季変更権など、有給休暇の計算で押さえておきたいポイントについて解説しました。ここからは、実際に従業員が有給休暇を取得した際に、どれくらいの賃金が発生するのかという計算方法についてご紹介します。
5. 有給休暇取得時の賃金計算の方法
従業員の有給休暇取得時の賃金の計算方法は、大きく分けて3つあります。一つひとつ、順番に解説します。
5-1. 【有給休暇の賃金計算①】通常賃金から求める
1つ目に紹介する計算方法は「通常賃金から求める方法」です。この計算方法は、有給休暇を取得した期間においても、通常勤務と変わらない賃金を支払うという最も一般的な方法です。従業員が有給休暇を取得しても、特別な賃金計算が必要ないので、人事担当者の負荷を減らすことができます。
5-2. 【有給休暇の賃金計算②】平均賃金から求める
2つ目に紹介する計算方法は「平均賃金から求める方法」です。平均賃金の求め方は2つあります。それぞれの具体的な計算式は下記の通りです。
①直近3か月に支払った賃金の総額÷その期間の総日数(休日含む)
②直近3か月に支払った賃金の総額÷その期間の労働日×60%
上記の2つの計算式で賃金を求め、金額が大きい方を従業員に支払います。
例)2022年4月~6月までの賃金総額が90万円、総日数を91日、労働日を61日とした場合
【①を使った計算例】
90万円(直近3か月に支払った賃金の総額)÷91日(その期間の総日数)
=9,890円
【②を使った計算例】
90万円(直近3か月に支払った賃金の総額)÷61日(その期間の労働日)×60%
=8,852円
上記の計算結果の通り、①9,890円②8,852円となり、①の9,890円が有給休暇の賃金として従業員に支給されます。
5-3. 【有給休暇の賃金計算③】標準報酬月額から求める
3つ目に紹介する計算方法は「標準報酬月額から求める方法」です。
この計算方法は、健康保険料を求める際に必要な標準報酬月額を30で割り、標準報酬日額を算出し、従業員に賃金を支払うという方法になります。
賃金計算を簡略化できるという点で非常に便利な計算方法ですが、標準報酬月額には上限があるので、有給休暇の賃金が少なくなってしまう恐れもあります。このような背景があるため、この計算方法は労使協定を締結していなければ、使用することはできません。
ここまで紹介した通り、有給休暇の賃金計算はときに複雑になることもあります。ここからは、有給休暇の日数計算や賃金計算を効率化するツールについて解説します。
6. 有給休暇の計算を効率化するツール
有給休暇における日数計算や賃金計算を効率化できるツールは、大きく3つあります。一つひとつ、順番に解説します。
6-1. エクセル
1つ目に紹介する効率化ツールは「エクセル」です。エクセルの関数機能を利用して、自社の有給休暇の賃金計算方法に合わせたテンプレートを作っておけば、賃金計算の業務を大幅に簡略化させることができます。一部の情報は手入力しないといけないため、入力ミスには注意する必要があります。
6-2. アプリ
2つ目に紹介する効率化ツールは「アプリを利用した賃金計算」です。近年、有給休暇に関する計算を自動化できるアプリが続々とリリースされています。アプリもエクセル同様に、賃金計算を自動化させることができるため、業務効率化につながります。また、アプリなので、パソコンだけでなく、スマートフォンでも計算できるため、エクセルに比べ、より簡単に賃金計算をおこなうことができます。
6-3. 勤怠管理システム
3つ目に紹介する効率化ツールは「勤怠管理システム」です。勤怠管理システムを利用する最大の利点は勤怠情報と賃金計算が連携できるので、入力作業がほとんど発生しないという点です。また、2019年から年5日の有給の取得義務が課されましたが、勤怠管理システムであれば、どの従業員が有給を何日消化しているのか、すぐに確認することができるという点も魅力です。
7. 有給休暇の日数計算を適切におこない、従業員が健康的に働ける職場づくりを!
本記事では、有給休暇が付与される条件や日数計算、有給休暇を付与する際の注意点、有給休暇取得時の賃金計算について解説しました。有給休暇は従業員に賃金の心配なく、休養を取ってもらうための制度です。
有給休暇に関する規則を理解し、従業員が健康的に働ける職場作りを心掛けましょう。