会社員や公務員などが毎月の給与から源泉徴収として納税しているものが、所得税です。所得税は「所得が増えるほど納税額も増えるもの」として認識している人も多いでしょう。
しかし、給与明細を見ると所得税の額が変わっており、中には所得が前月などと変わっていないにもかかわらず、所得税が変わっていることもあります。
本記事では、所得税が変わった際に考えられる理由や、所得税が変わった際にチェックすべき内容をご紹介します。
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1. 所得税は毎月変わる?
所得税は、所得のある人が必ず納める税金のことで、その年の1月1日から12月31日までの1年間のすべての所得から、基礎控除や扶養控除といった所得控除を差し引いた金額に、一定の税率を掛けることで計算されます。
所得税の税率は課税所得金額によって段階的に高くなる「超過累進税率」が採用されており、これは端的にいうと、所得が少ない人よりも所得が多い人のほうが多く納税をする仕組みです。
また、所得控除は現在15種類が存在し、適用される所得控除は「納税者がひとり親かつ一定の条件に当てはまるか」や「地震保険料を支払ったか」など、人それぞれ異なります。つまり、所得税は前提として同じ会社で同じ給与をもらっている人であっても、人によって金額が異なるのです。
そして、所得税は前述のとおり1年間の所得で決定されるものですが、1年分の所得税の一括納付は人によっては非常に大きな負担となりかねません。また、国にとっては、所得税を確実に徴収することや、安定的に税収を得るといった目的もあります。そのため、源泉徴収という方法で毎月の給与から差し引かれる方法が取られているのです。
つまり、厳密には所得税そのものが毎月変わっているのではなく、源泉徴収額が毎月変わる可能性がある、といえるでしょう。
1-1. 源泉徴収の金額は見込み額
自営業の人の場合は、年度ごとの収入と支出を差し引いくことで所得額を算出し、確定申告として税務署に納税すべき金額を申告します。
一方、会社員や公務員のように雇用契約を結んでいる人の場合、基本的には確定申告を行う必要はなく、毎月の給与から源泉徴収として所得税が天引きされます。しかし、その年の所得税が確定するのは対象となる年の12月31日ですので、毎月の源泉徴収で天引きされている所得税は正確なものではなく、ざっくりとした見込み額です。
そこで、年末調整を行い、源泉徴収で払い過ぎていた所得税が還付されたり、不足していた所得税を追徴課税したりするのです。
2. 所得税が毎月変わる理由
「年末調整で正確な所得税額を納税するのであれば、見込み額である源泉徴収の金額は毎月変動する必要はないのでは?」と思われる方もいるかもしれません。しかし、逆をいえば見込みと実際の所得税額に大幅にズレがあると、毎月の手取り額が大幅に減ってしまったり、年末調整の際に起こる追徴課税の額が大幅に増えてしまったりすることも考えられるでしょう。
毎月源泉徴収によって支払う所得税額はあくまでも見込みではあるものの、次のような理由によって変動することがあります。
2-1. 4~6月の給与がアップし社会保険料も増えた
源泉徴収される金額は、その月の支給総額から、まず社会保険料を差し引き、さらに扶養人数を考慮したうえで「源泉徴収税額表」に定められた金額に基づいて決定されます。
なお、ここでいう社会保険とは、健康保険、厚生年金保険、雇用保険、労災保険、介護保険を指し、これらの社会保険料は原則としてその年の4月~6月の3カ月の給与額をもとに決定されます。給与には残業代や休日出勤手当なども含まれ、対象となる3カ月間の給与の平均額が標準報酬月額となって、雇用保険を除く社会保険料が算出されます。
つまり、その年の4月~6月に残業や休日出勤が多かった場合、社会保険料が増えて所得税にも影響が出るのです。
このことから、4月~6月の3カ月の残業や休日出勤を減らすことで標準報酬月額を低くし、社会保険料を抑えることが可能になるといえるでしょう。ただし、社会保険料は多く支払うほど受け取れる厚生年金額や傷病手当金が増えるなどのメリットもあります。また、7月以降連続して大幅に給与がアップするようであれば、標準報酬月額が見直され、社会保険料も変更されます。
2-2. 課税所得金額に変動があった
先にお伝えしたとおり、所得税の税率は課税所得金額によって段階的に高くなる「超過累進税率」が採用されています。そのため、昇進や昇格により基本給がアップした場合や、残業や休日出勤をした分が給与に反映されれば、課税所得額が増えて天引きされる所得税の金額も増えるのです。
また、所得税は控除額の影響も受けます。結婚や出産によって扶養家族が増えた場合は控除額が増えるため、天引きされる所得税額は減ります。反対に「子どものアルバイトの収入が増えた」「子どもが就職した」といった場合には扶養控除の対象外となり、所得税額は増えるでしょう。
2-3. 税制改正があった
所得税の税率を含め、各種税率や控除額といった税制は常に一定ではありません。たとえば東日本大震災からの復興を目的として2037年まで適用される「復興特別所得税」のように、社会情勢によって税制が変化することもあります。
基本的に税制改正は年1回のペースで毎年行われているため、所得税に影響がある内容も少なくなく、実際に2020年の税制改正では基礎控除の引き上げや、給与所得に対しての控除の引き下げなどがありました。
所得税額が変わった場合は、税制改正の影響を受けている可能性もあります。
2-4. 給与明細に誤りがある
近年では多くの企業や組織が給与管理システムや勤怠管理システムを導入しているため、給与明細に誤りがあることも少なくなりました。しかし、独自の管理方法を行っている場合は、入力ミスや設定ミスなどにより給与明細に誤りがあることも考えられます。
また、管理業務自体にミスはなかったとしても、給与計算を外部に依頼している場合は連絡ミスが起こる可能性もあるでしょう。
3. 所得税が変わったときにチェックすべき内容
所得税が変わった際は、給与明細の「社会保険料」と「各種手当」の内容をまずチェックしましょう。以下ではその理由について解説します。
3-1. 社会保険料
社会保険料は4月~6月の3カ月の給与の平均額をもとに計算されますが、その結果が実際に給与に反映されるのは、その年の9月から翌年の8月までです。
つまり、所得税が変わった月が9月だった場合、社会保険料の金額が変わったことが考えられます。
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3-2. 各種手当
基本給にも社会保険料にも変化がないにもかかわらず、所得税に変化がある場合、何らかの手当が支給されていたり、増額されていたりする可能性があります。
これは、原則として残業手当や休日出勤手当、住宅手当、職務手当などは給与所得とみなされ、課税対象となるためです。なお、業務上必要と認められる出張旅費や、一定額以下の通勤手当などは非課税になるため、所得税に影響することはありません。
4. 所得税は毎年変わるからこそ注意を!
所得税は1年間の所得で決定されるものですが、社会保険料や課税所得額の変化によって毎月変わる可能性のあるものです。しかし、「毎月変わって当然」と考えていると、万が一給与明細に誤りがあった場合でもミスに気付けなくなってしまう可能性があります。所得税に変化があった月には、「どうして違うのだろう?」と理由を把握しておくことが大切です。