裁量労働制とは、あらかじめ決められたみなし労働時間分を働いたとみなす制度です。個人の裁量で仕事の時間を決めたり業務配分ができたりするため、仕事の成果で評価される特徴があります。
裁量労働制は適用される職種が限られており、全ての企業が導入できるわけではありません。この記事では、裁量労働制が適用される職種や導入方法について解説します。
専門業務型と企画業務型との関係についても述べていますので、ぜひ最後までご覧ください。
裁量労働制制は適用できる職種が法律で定められていたり、導入する際にも種類によって労使協定の締結などが必要になったりします。
また、「フレックスタイム制など類似制度との違いがわからない」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
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目次
1. 裁量労働制が認められる職種
裁量労働制は大きく分けると専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制の2種類に分類できます。
この2つどちらかの対象となる場合に限り裁量労働制の導入が認められており、導入の際は細かい条件をクリアしなければなりません。
詳細の職種については後述しますが、認められている職種・業務は全部で19種類あり、専門性を必要とする職種が対象です。開発や研究など、使用者が指示をしにくい場合において利用されることが多いでしょう。
裁量労働制が認められた場合、みなし労働時間が設定されるため、労働者は実労働時間にかかわらず、その時間分働いたとみなされます。
例えば、みなし労働時間を8時間で契約した場合、7時間働いても9時間働いても、同じ8時間とみなされるのが裁量労働制です。
関連記事:裁量労働制はデメリットしかない!?|残業代や適用職種についても詳しく解説!
2. 専門業務型裁量労働制との関係について
専門業務型裁量労働制は、業務の性質上、仕事の進め方や労働時間の配分を労働者に任せる必要があると定められている業務において利用できるとしています。
該当する職種は全部で19種類のみです。以下は、専門業務型の対象となる具体的な業務です。
- 新商品や新技術の研究や開発に関する業務
- 情報処理システムの分析や設計業務
- 新聞・出版事業における取材や編集業務、放送番組作成のための取材や編集業務
- 衣服・室内装飾・工業製品・広告などのデザイン考案業務
- 放送番組・映画などの制作におけるプロデューサーやディレクター業務
- コピーライター
- システムコンサルタント
- インテリアコーディネーター
- ゲーム用ソフトウェアの創作業務
- 証券アナリスト
- 金融商品の開発業務
- 大学での教授研究の業務
- 公認会計士
- 弁護士
- 建築士
- 不動産鑑定士
- 弁理士
- 税理士
- 中小企業診断士
これらの職種にあてはまっていたとしても、実際の業務内容によっては適用外だと判断されることもあります。
3. 企画業務型裁量労働制との関係について
労働者の創造的な能力を発揮し、自由度の高い働き方を実現するために、企画業務型の裁量労働制が作られました。
企画業務型は専門業務型のように対象業務が具体的に決められているものではありませんが、制度を利用するためには対象事業場と対象業務に該当してる必要があります。
以下は、企画業務型として認められている対象業務の条件です。これら全てに該当していなければ、企画業務型裁量労働制の導入は認められません。
- 事業の運営に関する業務
- 企画・立案・調査・分析の業務
- 個人の裁量に任せる必要があると判断される業務
- 使用者が具体的な指示をしない業務
なお、上記全ての業務にあてはまる上で、以下のいずれかの事業場であることも条件です。
- 本社・本店
- 事業の運営に大きな影響を及ぼす決定が行われる事業場
- 本社や本店から指示を受けず、事業の運営に影響を及ぼす決定が行われている支社・支店など
制度を導入するにあたり、対象労働者には個別で同意を取る必要があります。
4. 裁量労働制の導入方法
裁量労働制を導入するためには、労使協定を締結したり、労働基準監督署へ届け出たりしなければなりません。制度を利用する場合は、労働者の不利益にならないように適切に運用する必要があるでしょう。
専門業務型と企画業務型で手続き方法が異なりますので、それぞれの方法を紹介します。
4-1. 専門業務型を導入するための手続き
専門業務型を導入するためには、労使協定で決議を行い、以下の事項を定める必要があります。
- 制度の対象業務
- 業務の遂行方法や時間配分を労働者に指示しないこと
- みなし労働時間
- 労働者の健康を確保するための具体的な措置の内容
- 労働者からの苦情の処理のために実施する具体的な措置の内容
- 協定の有効期間
- 4と5で講じた措置の記録を有効期限及び期間満了後3年間保存すること
これらを書面で定めて、労働基準監督署へ届け出ます。届け出たら、労働者に周知して就業規則も改正しましょう。
4-2. 企画業務型を導入するための手続き
企画業務型は、専門業務型のように具体的な業務が定められていないため、より厳しい手続き内容となっています。
企画業務型を導入する際は、労使協定ではなく、労使委員会を設置して決議を行わなければなりません。
労使委員会で決議する事項は以下の通りです。
- 制度の対象業務の具体的な範囲
- 対象労働者の範囲
- みなし労働時間
- 労働者の健康を確保するための具体的な措置の内容
- 労働者からの苦情の処理のために実施する具体的な措置の内容
- 労働者本人の同意を得らなければならないこと、不同意の労働者を不利益扱いしないこと
- 決議の有効期限
- 企画業務型の実施にかかわる記録を有効期限及び期間満了後3年間保存すること
これらの事項は、労使委員会の4/5以上の多数による議決で決議する必要があります。後は、専門業務型と同じように、労働基準監督署に届け出ましょう。
制度導入において、労働者から得る個別の同意は、就業規則等で周知するだけでは不十分です。制度に関する十分な説明を行い、書面を用いて同意を得ることが望ましいでしょう。
専門業務型も企画業務型も、手続きで不備がある場合や、運用が正しくおこなわれていない場合などは、導入後であっても無効になるので注意してください。裁量労働制を導入する際には概要をしっかりと確認しておくことで手続きの不備などを防ぐことができます。当サイトでは、裁量労働制の概要や導入方法をわかりやすく解説した資料を無料でお配りしています。裁量労働制の導入を検討している方はこちらからダウンロードしてご活用ください。
5. 裁量労働制の適用範囲は今後拡大する?
裁量労働制が適用される対象業務の拡大は検討されており、本来は2018年に改正される予定でしたが、根拠となるデータに不備があったことから、見送られることとなりました。
働き方の多様化が推進される現代において、自由度が高い裁量労働制を導入したいと考えている企業は多いかもしれません。しかし、実際導入するためには厳しい条件があるため、なかなか利用できないという企業も少なくないでしょう。
2021年に厚生労働省が行った「就労条件総合調査」によると、専門業務型裁量労働制を採用している企業は2.0%、企画業務型裁量労働制は0.4%と、非常に低い利用率であることが分かります。[注1]
裁量労働制は正しく運用されないと、長時間労働を助長するという声がある一方、柔軟な働き方が実現できるという意見もあります。そのため、適用範囲拡大のための労働基準法の改正案は、早くても2023年に提出される見通しです。
実際に拡大されるまでには、さらに時間がかかるかもしれませんが、将来的には今よりも使いやすい制度になっているのではないでしょうか。
6. 裁量労働制が適用される職種は限られている
裁量労働制には、専門業務型と企画業務型があり、具体的な職種は全部で19種類と決められています。専門性が高く、業務遂行のための方法や、時間配分に関して使用者が指示しづらいような業務が対象です。
どちらも導入するためには、厳しい条件での手続きが必要なので、現状で裁量労働制を導入している企業は多くありません。しかし、適用職種の範囲を拡大するための議論は行われているので、いずれは今以上に拡大されていく可能性があるでしょう。