労働基準法の条文には、労働や賃金などに関するルールが細かく記載されています。しかし、管理監督者や機密事務取扱者など、労働基準法第41条の適用除外となる対象者には、労働時間や休憩時間、休日が適用されません。今回は、労働基準法第41条の適用除外の対象となる事項や対象となる労働者についてわかりやすく解説します。
労働基準法総まとめBOOK
労働基準法の内容を正しく把握していますか?
人事担当者など従業員を管理する役割に就いている場合、雇用に関する法律への理解は大変重要です。違反した場合、罰則の対象になるケースもあります。
そのため、例外や特例なども含めて法律の内容を理解しておくと、従業員に何かあったときに、人事担当者として適切な対応を取ることができます。
今回は、労働基準法の改正から基本的な内容までを解説した「労働基準法総まとめBOOK」をご用意しました。 労働基準法の改正から基本的な内容まで、分かりやすく解説しています。より良い職場環境を目指すためにも、ぜひご一読ください。
目次
1. 労働基準法の第41条「適用除外」とは?
労働基準法は、使用者に雇用され、労働の対価である賃金が支払われる労働者すべてに適用されます。そのため、正社員に限らず、契約社員やパート・アルバイト、派遣社員などにも労働基準法が適用され、労働時間や休日などに関して制限を受けます。
しかし、労働基準法第41条により、一部の条件を満たす労働者は、労働時間や休憩時間、休日に関する労働基準法の規定の影響を受けないとされています。ただし、労働基準法のすべての規定が適用されなくなるわけはないので、正しく適用除外となる事項や、対象となる労働者を理解しておくことが大切です。
(労働時間等に関する規定の適用除外)
第四十一条 この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
一 別表第一第六号(林業を除く。)又は第七号に掲げる事業に従事する者
二 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
三 監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの
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2. 労働基準法第41条の適用除外となる事項
労働基準法第41条の適用除外となる事項は、次の3つです。
- 労働時間
- 休憩時間
- 休日
ここでは、それぞれの規定について詳しく紹介します。また、労働基準法第41条による適用除外の影響を受けない規定についても解説します。
2-1. 労働時間
労働基準法第32条に基づき、原則として、労働者に法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えて働かせることはできません。しかし、36協定を締結・届出をしていれば、その定めの範囲で時間外労働をおこなわせることができます。その場合、適切に残業代を支払う必要があります。
労働基準法第41条の規定により、一定の労働者は労働時間の規定が適用されなくなります。そのため、法律に関係なく、法定労働時間を超えて労働させることができます。また、残業代を支払わなくても問題ありません。
(労働時間)
第三十二条 使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。
② 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。
2-2. 休憩時間
労働基準法第34条に則り、6時間超え8時間以下で働かせる場合は45分以上、8時間超えで働かせる場合は1時間以上の休憩時間を労働の途中で付与する必要があります。しかし、労働基準法第41条が適用される労働者には、休憩時間の規定が適用されなくなるので、労働基準法に従って休憩時間を付与しなくても問題ありません。
(休憩)
第三十四条 使用者は、労働時間が六時間を超える場合においては少くとも四十五分、八時間を超える場合においては少くとも一時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない。(省略)
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2-3. 休日
労働基準法第35条により、最低でも毎週1回、もしくは4週に4回の法定休日を設ける必要があります。また、36協定に則り法定休日に労働させる場合は、休日労働に該当し、通常の賃金に加えて割増賃金を支払わなければなりません。
しかし、労働基準法第41条の対象になる労働者には、法定休日の規定が適用されません。そのため、適用除外の対象となる労働者は、業務の進捗や状況に応じて自由に休みを取得できます。ただし、休日出勤をおこなっても、割増賃金は支払われないので注意が必要です。
(休日)
第三十五条 使用者は、労働者に対して、毎週少くとも一回の休日を与えなければならない。
② 前項の規定は、四週間を通じ四日以上の休日を与える使用者については適用しない。
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2-4. 年次有給休暇は適用除外されない
労働基準法第41条の対象になる労働者であっても、年次有給休暇の規定は適用除外になりません。そのため、次のいずれもの要件を満たす労働者に対しては、年次有給休暇を付与する必要があります。
- 雇い入れ日から6カ月継続して勤務している
- 全労働日の80%以上出勤している
なお、育児休業や介護休業などは、育児・介護休業法で規定された休みであるため、労働基準法第41条の対象になる労働者でも、一定の要件を満たせば取得することができます。
(年次有給休暇)
第三十九条 使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。(省略)
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2-5. 深夜労働に対しては割増賃金の支払いが必要
労働基準法第41条の適用除外によって、労働時間や休日の規定は適用されなくなるので、当該労働者に時間外労働や休日労働という概念はなくなります。しかし、深夜帯(原則22時~5時)の勤務に関する適用除外の定めはされていません。そのため、労働基準法第41条の対象になる労働者が夜勤をおこなった場合、労働基準法第37条に則り、25%以上の割増賃金率を適用して、深夜労働の割増賃金を支払わなければなりません。
④ 使用者が、午後十時から午前五時まで(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、その定める地域又は期間については午後十一時から午前六時まで)の間において労働させた場合においては、その時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の二割五分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
関連記事:割増賃金とは?計算方法や残業60時間超の割増率をわかりやすく解説
3. 労働基準法第41条の適用除外の対象となる人
労働基準法第41条の適用除外の対象となるのは、次のような職業に従事している労働者です。
- 林業以外の農林水産業に従事する労働者
- 管理監督者
- 機密事務取扱者
- 監視・断続的労働などに従事している労働基準監督署からの許可を得ている労働者
いずれも時間で労働を管理することが難しい職業です。ここからは、労働基準法第41条の適用除外の対象となるそれぞれの労働者について詳しく紹介します。
3-1. 林業以外の農林水産業に従事する労働者
林業を除く農林水産業は、自然条件の影響を大きく受けてしまいます。そのため、一般的な業種のように労働時間を設けて管理することは難しいです。一方、林業はほかの農林水産業と比較して、自然条件の影響を受けにくいので、通常の労働時間や休憩、休日の規定が適用されます。
しかし、農林水産業は野外での活動も多いため、夏場の熱中症対策として休憩時間を設けるといった独自の就業規則が求められます。安全配慮義務を怠ったことで従業員に万が一のことがあった場合、雇い主は損害賠償を請求される可能性があるので注意しましょう。
3-2. 管理監督者
管理監督者とは、労務上経営者と同様に扱われる責任のある立場にある者を指します。管理監督者は経営に関して重要な責任と役割を果たす必要があるので、通常の労働時間や休日の範囲を超えて働かなければならないケースもよくあります。そのため、労働基準法第41条が適用されます。
しかし、同一労働同一賃金の観点からも、管理監督者には相当の賃金や手当を支払うべきです。通常の労働者と同様の給与の設定をおこなう場合、労働基準法第41条の管理監督者の対象にならない可能性があります。管理監督者として扱うためには、見合った報酬を支払うことに加えて、就業規則に条件を細かく記載しておきましょう。
関連記事:管理監督者の労働時間は上限なし?法律の適用範囲や労働時間の把握方法を解説
3-3. 機密事務取扱者
機密事務取扱者とは、秘書などの、経営者や管理監督者と活動が一体となる者を指します。機密事務取扱者は従業員を管理する立場である経営者らの活動にともなう業務が多いため、労働基準法第41条の対象となります。なお、機密事務取扱者はどのような事業であっても、労働基準法第41条の対象です。
ただし、すべての秘書が労働基準法第41条の対象となるわけではありません。機密事項を取り扱うかどうかはもちろん、業務が管理者の行動に伴うといえるか、労働基準法第41条の対象となるに相応しい待遇であるかを見極めることが大切です。
3-4. 監視業務などに従事している労働基準監督署からの許可を得ている労働者
監視業務などに従事していて、事前に労働基準監督署からの許可を得ている労働者は、労働基準法第41条の対象とすることが可能です。監視・断続的労働とは、具体的に次のような職業を指します。
- 監視業務:守衛、踏切番など
- 断続的労働:学校の用務員、専属運転手、団地の管理人
適用外の対象となる監視業務は、身体もしくは精神的に緊張しない業務です。そのため、交通状況の監視や工事現場の監視など、危険が伴う業務は身体・精神的に緊張する業務として労働基準法第41条の対象外となります。
一方、断続的労働とは業務が常に起きているわけでなく、一定の間隔をあけて発生する職業を指します。監視業務と断続的労働どちらも労働基準法第41条の対象とするには、事前に労働基準監督署の許可を得なければならないので注意しましょう。
4. 労働基準法第41条の適用除外に関する注意点
労働基準法第41条の対象となる労働者の取り扱いには、いくつかの気を付けるべき点があります。ここでは、労働基準法第41条の適用除外に関する注意点について詳しく紹介します。
4-1. 名ばかり管理職は労働基準法第41条の適用対象外
管理監督者は、労働基準法第41条の適用除外の対象となります。しかし、管理監督者は、経営者と一体的な立場にある者と定義されます。そのため、課長・部長などの管理職の肩書きがあっても、仕事内容や待遇、責任・権限などの実態が伴っていない場合、管理監督者と認められず、通常の労働者と同様で残業代を支給したり、休憩・休日を与えたりしなければならないので注意しましょう。
「管理監督者」は労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者をいい、労働基準法で定められた労働時間、休憩、休日の制限を受けません。「管理監督者」に当てはまるかどうかは、役職名ではなく、その職務内容、責任と権限、勤務態様等の実態によって判断します。
関連記事:労働基準法第41条第2号の「管理監督者」の意味や特徴を詳しく解説
4-2. 勤怠管理はすべての労働者に対して必要
労働安全衛生法第66条の8の3に基づき、使用者には原則として、すべての労働者の労働時間を把握する義務があります。これには労働基準法第41条の適用除外の対象となる労働者も含まれます。労働時間を正しく把握する方法としては、労働安全衛生規則第52条の7の3に則り、タイムカードや勤怠管理システムなどが挙げられます。
第六十六条の八の三 事業者は、第六十六条の八第一項又は前条第一項の規定による面接指導を実施するため、厚生労働省令で定める方法により、労働者(次条第一項に規定する者を除く。)の労働時間の状況を把握しなければならない。
(法第六十六条の八の三の厚生労働省令で定める方法等)
第五十二条の七の三 法第六十六条の八の三の厚生労働省令で定める方法は、タイムカードによる記録、パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間の記録等の客観的な方法その他の適切な方法とする。(省略)
4-3. 全労働者の安全配慮義務もある
労働契約法第5条や労働安全衛生法第3条により、使用者にはすべての労働者の安全や健康を確保できるよう配慮する義務があります。安全配慮義務は、労働基準法第41条の適用除外に該当する労働者にも適用されます。そのため、全労働者が安心して快適に働けるような労働環境を整備することが大切です。
(労働者の安全への配慮)
第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
(事業者等の責務)
第三条 事業者は、単にこの法律で定める労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない。(省略)
4-4. 労働基準法に違反すると罰則あり
労働基準法には罰則の規定が定められています。名ばかり管理職に法定労働時間を超えて労働させたり、法定休日を与えなかったりすると、労働基準法違反になります。この場合、労働基準法第119条に則り、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金のペナルティが課せられる恐れがあります。このような罰則を受けないためにも、正しく労働基準法第41条の適用除外の規定を用いるようにしましょう。
第百十九条 次の各号のいずれかに該当する者は、六箇月以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
一 (省略)、第三十二条、第三十四条、第三十五条、(省略)に違反した者
5. 労働基準法第41条の適用除外を正しく理解しよう!
労働基準法第41条では、本来定められている労働時間の上限を超えること、休憩時間を設けないこと、法定休日を設けないことが適用除外として認められています。労働基準法第41条の対象となるのは、林業以外の農林水産業従事者や管理監督者、監視・断続的業務の労働者、機密事務取扱者です。これら以外の職業に労働基準法第41条を適用させると、懲役や罰金などの罰則が発生するので注意が必要です。また、安全配慮義務や労働時間把握義務にも気を付けて、労働基準法第41条を適用するようにしましょう。
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