会社で従業員を雇う場合は、雇用保険に加入させる必要があります。しかし、雇用保険料がいくらになるのか計算方法を知らないという担当者も多いのではないでしょうか。人事などで働いている場合は、従業員の給与を査定するのと同様に雇用保険料についても計算しなくてはいけません。
本記事では、雇用保険料の計算方法について解説します。また、雇用保険料を計算する際の注意点についても紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
関連記事:雇用保険とは?加入条件や手続き方法・注意点をわかりやすく解説!
給与計算業務でミスが起きやすい社会保険料。
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目次
1. 雇用保険とは?
雇用保険とは、労働者の生活を安定させることや、就職を促進させることを目的として運用されている制度です。雇用保険に加入することで、失業したときや教育訓練が必要なときに一定の給付を受けることができます。
1-1. 雇用保険の対象となる企業
農林水産業の一部を除き、従業員を1人でも雇用している企業は、規模や業種に関係なく雇用保険の対象となります。個人事業主の場合でも、従業員を雇っているなら雇用保険の対象となるため注意しましょう。
1-2. 雇用保険の対象となる従業員
以下の要件を満たす従業員を雇用する場合は、雇用保険に加入させなければなりません。
- 1週間の所定労働時間が20時間以上である
- 31日以上継続して雇用される見込みがある
- 昼間部の学生ではない
ただし、経営側の役員などは、基本的に雇用保険の対象外です。また、個人事業主の場合、自分自身や同居している家族を雇用保険に加入させることはできません。
2. 雇用保険料の計算方法
雇用保険料の計算方法はそれほど難しくありません。しかし、正しいルールを知っておかないと計算ミスにつながってしまうため、計算方法をしっかりと覚えておきましょう。
2-1. 賃金を計算する
雇用保険料は賃金をベースにして計算するので、まずは賃金を算出しなくてはいけません。しかし、賃金と一括りにいってもいくつかの考え方があります。明細を見るとわかると思いますが、総支給額と手元に届くお金には違いがあるため、どこまでが雇用保険料の計算対象になるかを知っておくことが大切です。
雇用保険の計算対象となる賃金
まずは計算対象となる賃金について紹介します。以下の全て含めて、賃金を算出しましょう。
- 基本給・固定給等基本賃金
- 賞与
- 超過勤務手当・深夜手当・休日出勤手当
- 残業手当・深夜手当
- 宿、日直手当
- 奨励手当
- 扶養手当・子供手当・家族手当
- 資格手当・技能手当・教育手当
- 住宅手当・転勤手当・単身赴任手当
- 休業手当
雇用保険の計算対象とならない賃金
次に計算対象とならない賃金についてです。以下のような賃金を支給していたとしても、雇用保険料の計算には含めてはいけないので注意してください。
- 役員報酬
- 休業補償費
- 退職金
- 慶弔手当
- 災害見舞金・私傷病見舞金
- 年功慰労金
- 出張旅費・宿泊費
- 会社が全額負担する生命保険の掛金
- 財産形成貯蓄のため使用者が負担する奨励金
通勤手当は雇用保険の計算対象となる?
通勤手当についても雇用保険の計算対象になります。基本給と一緒に毎月支払うような通勤手当については、住宅手当や家族手当などと同様に計算に含めましょう。
雇用保険料の計算をする際は、どこまでが賃金に含まれるかを理解しておく必要があります。しかし、会社から支給する賃金の種類は非常に多いので、覚えるのが難しいかもしれません。
基本的には労働の対価として支払うものは計算対象に含め、イレギュラーな支払いは含まれないと考えておけば問題ないでしょう。
計算対象に含めるかどうか迷った際は、都度確認しながら間違いのないように計算することが大切です。
2-2. 雇用保険料率を確認する
次に雇用保険料率を確認します。この雇用保険料率ですが、定期的に見直されているので今までの雇用保険料率で計算をすると実際には違う可能性もあります。とくに新型コロナウイルスの影響による雇用保険料率の見直しも実施されているので、現時点での雇用保険料率がどれくらいになっているかを正確に確認してください。
また、雇用保険料率は業種によっても異なります。自分の業種に対応している雇用保険料率を確認して計算しましょう。令和6年度の雇用保険料率は下表の通りです。
事業の種類 |
①労働者負担 |
②事業主負担 | ①+②雇用保険料率 |
一般の事業 | 6/1,000 | 9.5/1,000 | 15.5/1,000 |
農林水産・清酒製造の事業 | 7/1,000 | 10.5/1,000 | 17.5/1,000 |
建設の事業 | 7/1,000 | 11.5/1,000 | 18.5/1,000 |
関連記事:雇用保険料率の計算方法とは?端数処理や賞与の取り扱いについても解説!
2-3. 賃金と雇用保険料率を掛け合わせる
最後に賃金に雇用保険料率を掛け合わせれば、労働者と企業側のそれぞれの負担金額を求めることができます。雇用保険料率自体は調べればすぐに求めることができるので、賃金の計算さえスムーズにおこなうことができれば、雇用保険料を計算するのはそれほど難しくはありません。
3. 雇用保険料の具体的な計算例
ここからは雇用保険料の詳しい計算方法について見ていきましょう。給与額20万円の従業員でも、一般の事業と農林水産の事業では、以下のように計算結果が変わってきます。
3-1. 一般の事業従事者の給与額が20万円のケース
まずは、一般の事業における雇用保険料を計算してみましょう。
たとえば、企業が従業員に対して支払う給与額が20万円のときには、労働者が支払う雇用保険料は20万×1000分の6となり、1,200円ということになります。
続いて、事業主が負担する雇用保険料を計算していきましょう。事業主の負担割合は1000分の9.5なので、雇用保険料は20万×1000分の9.5で、1,900円となります。
3-2. 農業従事者の給与額が20万円のケース
農業従事者の場合には雇用保険料の料率が変わってくるため、雇用保険料の金額も異なります。農林水産の事業における従業員の雇用保険料率は、1000分の7です。雇用保険料を計算すると、20万円×1000分の7で、1,400円となります。
事業主負担分は、20万円×1000分の10.5で、2,100円となります。
以上のように、業種によって料率が異なるため、正しい数値を用いて計算しましょう。
4. 雇用保険料を計算して控除するタイミング
雇用保険に加入したタイミングから、雇用保険料を支払わなければなりません。つまり、基本的には給与を支払うごとに雇用保険料を計算して控除する必要があります。
たとえば、20日締め・翌月25日払いのルールを採用している企業の場合を考えてみましょう。従業員が4月1日に雇用保険に加入した場合は、5月25に支払われる給与から4月分の雇用保険料を天引きします。
4-1. 雇用保険料は日割り計算をする
雇用保険料は日割り計算をする必要があります。上記の企業を例に考えると、従業員が4月18日に雇用保険に加入した場合は、4月18日〜30日までの賃金を対象として雇用保険料を算出することになります。
4月1日〜17日までの賃金は、計算の対象外となるため注意しましょう。
5. 雇用保険料を計算するときの注意点
雇用保険料を計算する際には、いくつか注意しなくてはいけないポイントがあります。以下のポイントを理解しておかないと、計算ミスにつながる可能性もあるので注意しましょう。
5-1. 賞与からも控除する必要がある
雇用保険料を控除する必要があるのは給与だけではありません。賞与からも控除の必要があるので注意してください。計算方法自体は給与の場合と変わらないのですが、賞与からの控除は忘れがちになるので気をつけましょう。
また、退職後に賞与が支払われる場合もあります。その場合についても、雇用保険に加入していた期間分の保険料は控除しなくてはいけないので注意が必要です。
少し複雑なポイントになるのですが、決算賞与の際の金一封などは雇用保険料の控除対象になりません。先ほども説明したのですが、イレギュラーな支給については雇用保険料の控除対象にならないのです。原則として定期的に支給される賃金や、労働の対価に対する賞与が控除対象になると理解しておいてください。
関連記事:賞与からも雇用保険料は天引きされる?計算方法を解説
5-2. 端数の処理に注意する
雇用保険料を計算していると、1円未満の端数が発生する場合があります。その際はルールに従って処理をする必要があるので注意しましょう。
まず、労働者の賃金から源泉控除する場合については、端数が50銭以下は切り捨て、50銭1厘以上は切り上げという考えに基づいて処理をおこないます。
労働者が使用者に現金で支払う場合については、端数が50銭未満は切り捨て、50銭以上は切り上げという考えで処理します。
厚生労働省で定めている端数の処理方法なので、基本的にはこのやり方に従って処理するとよいでしょう。
関連記事:雇用保険料の端数はどう処理する?対応方法をわかりやすく解説
5-3. 65歳以上の就業者も雇用保険の対象となる
以前は、65歳以上の就業者については保険料の徴収が免除されていました。ただし令和2年4月1日以降は、65歳以上の就業者に関しても保険料の支払いが義務付けられているので注意しなくてはいけません。
企業のなかには、法改正に対応できていないところもあるかもしれません。しかし、雇用保険に加入させないのは法律違反となってしまいます。漏れなく対応できているかを改めて確認しておくことが必要です。
関連記事:65歳以上の雇用保険料を算定するときの注意点を詳しく解説
5-4. 日雇い労働者も要件を満たすと雇用保険の対象となる
日雇い労働者とは、日毎に雇用される従業員を意味します。継続的に雇用しているわけではないため、雇用保険の対象外と考えるかもしれませんが、一定の要件を満たすと日雇労働被保険者として雇用保険に加入することになります。
具体的には次のいずれかの要件に該当する場合は、日雇労働被保険者となるため注意しましょう。
- 日々雇用される
- 30日以内の期間を定めて雇用される
日雇労働被保険者の雇用保険料は、給与からは控除しません。日雇労働被保険者手帳に雇用保険印紙を貼り付ける形で処理しましょう。
5-5. 今後も引き上げが起こる可能性がある
雇用保険料率は、少しずつ引き上げられてきました。新型コロナウイルスの影響など、さまざまな要因により引き上げが実施されますが、現在の社会情勢を考慮すると今後も引き上げが起こる可能性はあります。
その際には、引き上げ後の雇用保険料率で計算の対応をしなくてはいけません。引き上げが起こるかどうかを確認しておくことも大切ですが、どこからどこまでが従来の雇用保険料率かもチェックしておくようにしてください。このように雇用保険料のみならず、社会保険料の改定は頻繁に起こるため、随時把握しておくことが求められます。
とはいえ、都度確認をおこなうことを負担に感じる担当者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。
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6. 雇用保険料の計算を効率化する方法・ツール
ここからは、雇用保険料の計算をより正確かつ効率的におこなうためのツールを3つ紹介します。保険料の計算は大変重要なものですが、ミスが生じやすい業務です。
自社にとって最も最適な方法について、今一度確認してみましょう。
6-1. 無料の計算サイトを利用する
インターネット上には、雇用保険料を簡単に算出できる無料の計算サイトがあります。
仕様はサイトごとに異なりますが、基本的には事業の種類や賃金の支払方法を選択したり、総支給額を入力したりするだけで、自動的に従業員負担分、事業主負担分、雇用保険料の総額などが表示される仕組みになっています。
計算にかかる手間と時間を省けるのはもちろん、総支給額の入力さえ間違わなければ計算ミスが起こりにくいというのも大きなメリットです。
ただ、無料計算サイトの更新が定期的におこなわれていない場合、雇用保険料率の見直しが正しく反映されていないことがあります。乗じる雇用保険料率に誤りがあると、当然ですが正しい計算結果を得ることはできません。
無料計算サイトを利用する際は、必ず最新の雇用保険料率が適用されているかどうか、きちんと確認しましょう。
6-2. エクセルで計算する
表計算ソフトのエクセルには、定型の計算をおこなうための「関数」という数式が採用されています。給与計算シートに雇用保険料を計算する関数を取り入れれば、総支給額を入力するだけで、自動的に雇用保険料も計算することが可能です。単純な計算だけでなく、50銭以下切り捨て、50銭超切り上げなどの条件も適用できるため、端数処理もおこなえます。
エクセルは自由度が高く、自社の慣習や特例を盛り込むなど、企業のルールや就業規則に合った計算シートを作成できるところが大きな特徴です。ただ、シートの関数そのものに誤りがあった場合、間違った雇用保険料が入力されることになります。
ミスに気付かないまま処理してしまうと大きなトラブルにつながる可能性があるため、ダブルチェックまたはトリプルチェックは必須です。また、雇用保険料率の引き上げなどが実施された場合は、忘れずに料率を変更しておく必要があります。
6-3. 給与計算ソフトを導入する
給与計算ソフトとは、従業員の勤怠情報をもとに、給与の計算を自動でおこなうシステムのことです。
総支給額や雇用保険料、社会保険料など、必要な項目が一通り揃っており、設定画面で自社の就業規則や従業員ごとの就労条件を入力すれば、自動的に各種保険料を計算することができます。
必要な機能・情報があらかじめ搭載されているため、エクセルシートのように一から情報を取り込む必要がなく、誰でも手軽に利用できるところが利点です。
また、システムのアップデートをおこなえば、雇用保険料率の変更がすぐに反映されるため、常に正確な計算が可能となるのも給与計算システムならではのメリットです。
とくにクラウド型の場合、インターネットを介して自動アップデートがおこなわれるので、手動で更新する手間も省けます。
便利なぶん、システム導入料や維持費などのコストがかかってしまうところは難点ですが、システムの導入によって業務効率が上がれば高い費用対効果を期待できます。
7. 雇用保険料の計算方法を把握して正しく算出しよう!
今回紹介した通り、雇用保険料の計算はそれほど難しくはありません。しかし、人事が計算しなくてはいけないのは雇用保険料だけではありません。他の社会保険料についての計算もおこなっていると、計算方法を勘違いしてしまったり計算ミスが起きたりします。
そういったミスを防ぐためにおすすめなのがシステムの導入です。社会保険料の計算に対応しているシステムが存在するので、うまく活用することで計算ミスを防ぐことができます。さらに計算にかかる時間も少なくなるので、人事の業務負担も減らすことができます。
従業員が多くなるとそれだけ計算しなくてはいけない量も増えるので、人事の業務は煩雑になるでしょう。忙しくなればなるほど、仕事のミスは増えやすくなります。労働環境を整え、ミスを減らすためにぜひシステムの導入を検討してみてください。