契約期間を定めて雇用契約を締結した場合、明確な期限があれば、その時点で契約を終了するのが一般的です。しかし、期間が曖昧だったり、更新される可能性があったりする場合は、契約の終了が認められないケースもあります。
この記事では、雇用契約を更新しない場合、どのような手続きをおこなわなければならないのかを解説します。また、退職届の必要性や、雇用契約を更新しない場合「会社都合」になるのか「自己都合」になるのかについても紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
有期雇用契約は労働基準法・労働契約法において様々なルールが設けられているため、法律に則って雇用契約を結ぶ必要がありますが、従業員とのトラブルになりやすい部分でもあります。
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雇用契約の結び方から契約更新の方法、更新しない(雇止めをする)時の対応方法、無期転換ルールまで、有期雇用契約のルールを確認しておきたい方は、ぜひこちらからダウンロードしてご覧ください。
目次
1. 雇用契約を更新しない場合に会社側がすべき手続き
雇用契約を更新しない場合、企業は正しい手続きをおこなわなければ、雇い止めが認められない可能性もあります。ここでは、有期雇用契約を締結する場合に会社側がすべき手続きについて詳しく紹介します。
1-1. 労働条件通知書を交付する
労働基準法第15条により、企業は有期雇用、無期雇用に関係なく、雇用契約を結ぶ際、労働条件通知書を交付しなければなりません。なお、2024年4月より、記載事項が追加されるので注意が必要です。有期雇用契約の締結する際、「更新上限とその有無」について明示する必要があります。
労働条件が事実と異なる場合、労働者は即時に雇用契約を解除することができます。そのため、労働条件通知書を発行する際は、就業規則などと照らし合わせて正しい内容を記載することが大切です。
(労働条件の明示)
第十五条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
② 前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
関連記事:労働条件通知書とは?雇用契約書との違いや書き方・記入例をわかりやすく解説!
1-2. 雇用契約書を発行して合意を得る
労働条件通知書を交付するだけでなく、雇用契約書も交わして、労働条件についての合意を得ることも大切です。雇用契約書の発行は、法律で定められていません。
しかし、雇用契約書を交付することで、労使双方が労働条件に合意したことを証拠として残すことができます。雇用契約書は、労働条件通知書と兼用することも可能です。
関連記事:雇用契約書が持つ法的効力とは?労働条件通知書との違いを詳しく紹介
1-3. 更新期限とその有無を明示する
期限付きで労働者を雇用する場合は、雇用契約書にその旨を明記しなければなりません。労働条件通知書や雇用契約書には、雇用の期限が来た場合に更新される可能性があるのかないのかを記載しましょう。
自動的に更新されるかどうかも明記しておくことが大切です。また、更新するかどうかの判断基準も明確にしておきましょう。業務量や成績、能力、企業の業績、業務の進捗状況などで判断されるのが一般的です。
関連記事:雇用契約をトラブルなく結ぶ方法は?違法にならないための対応をわかりやすく解説
1-4. 契約を更新しない予告をおこなう
雇止め告示第2条により、1年以上雇用している、または3回以上契約を更新している労働者に対して、雇用契約を更新しない場合は30日前に予告しなければなりません。事前に期限が来たら契約を更新しないことを伝えている場合は、これに該当しません。
通告方法は法律では定められておらず、書面のほか、口頭での通知も可能です。しかし、書面で通告することで証拠となり、労働者とのトラブルを防ぐのに役立ちます。
(雇止めの予告)
第二条 使用者は、有期労働契約(当該契約を三回以上更新し、又は雇入れの日から起算して一年を超えて継続勤務している者に係るものに限り、 あらかじめ当該契約を更新しない旨明示されているものを除く。次条第二項において同じ。)を更新しないこととしようとする場合には、少なくとも当該契約の期間の満了する日の三十日前までに、その予告をしなければならない。
1-5. 契約を更新しない理由を明確にする
雇用契約を更新しない場合は正当な理由が必要です。労働条件通知書や雇用契約書に書かれていた判断基準に則った雇い止めの理由を用意しましょう。理由が正当でないと認められた場合は、雇用契約を更新しなければならない可能性もあります。
また、雇止め告示第3条により、労働者が更新しない理由について企業に問い合わせた場合は、速やかに回答する必要があります。
(雇止めの理由の明示)
第三条 前条の場合において、 使用者は、労働者が更新しないこととする理由について証明書を請求したときは、遅滞なくこれを交付しなければならない。
2 有期労働契約が更新されなかった場合において、 使用者は、 労働者が更新しなかった理由について証明書を請求したときは、遅滞なくこれを交付しなければならない。
1-6. 解雇予告手当の支払いをおこなう
上記で解説した通り、雇い止めの際は期限の30日前までに本人に予告しなければなりません。労働基準法第20条により、30日前までに予告ができなかった場合、原則として、解雇予告手当を支払う必要があります。間に合わなかった日数に対して、その労働者の1日の平均賃金をかけた金額を計算し支払いましょう。
(解雇の予告)
第二十条 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
このような有期の雇用契約を更新しない場合に企業がとるべき対応を怠った場合、社員とのトラブルに発展する可能性もあります。トラブルを防ぐためにも、有期雇用契約の社員を雇っている会社は事前に雇用契約に関する法律に則ったルールを確認しておくことが重要です。当サイトでは、雇止めの方法や無期転換ルールなど有期雇用契約についてを1冊にまとめた資料を無料でお配りしています。こちらからダウンロードして、法律に則った対応ができているかの確認にご活用ください。
2. 雇用契約を更新しないことが認められる理由
雇用契約を更新しない場合、労働者からその理由を求められることがあります。この際に正当な理由がなければ雇用契約を更新しないことが認められない可能性もあります。正当な理由として適応されるのは、以下のような場合です。
- 雇用契約を更新しないことを前回の更新時に通告し、労働者が合意している
- 雇用契約書に明示している更新の上限に達する
- 担当業務が中止・終了した
- 事業を縮小する
- 業務をおこなう能力がないと判断された
- さらに雇用契約書に明記された内容に反する行動を労働者が取った
- 勤務不良が多い場合 など
2-1. 更新しないことが認められるかは契約状況によって異なる
契約を更新しないことが認められるかどうかは、契約状況によって異なります。たとえば、契約上の担当業務が臨時的である、契約上のポジションが一時的なものである、といった場合は基本的に更新しないことが認められます。
そのほか、以下のようなケースでは更新しないことが認められるでしょう。
- 雇用契約書に明示された基準に従って更新手続きがおこなわれている
- 通算契約期間が短く、更新の回数が少ない
- 同じような待遇の労働者について、過去に契約を更新しなかった事例がある
契約を更新しないことは、労働契約法によって厳しく制限されています。労働者の権利を守るためにも基準をしっかりと理解しておきましょう。
3. 雇用契約を更新しないことが認められないケース
雇い止めの理由として正当性がない場合や、期限付きで雇用している労働者の業務内容や立場が正社員とあまり変わらない場合、雇用継続が合理的な場合などは、雇い止めについて認められない可能性が高いです。
ここでは、雇用契約を更新しないことが認められないケースについて詳しく解説します。
3-1. 理由が適切でない場合
労働契約法第19条により、雇用契約を更新しない理由が正当ではない場合、雇い止めは認められません。判断基準が「合理的でない」「客観的でない」「相当性がない」と判断される理由に該当しないかをよく確認しましょう。
雇い止めが認められなかった場合は、労働条件を新たに厳しくしたり業務内容を変えたりせず、前回と同様の内容で雇用契約を更新しなければなりません。
(省略)使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす
3-2. 無期契約と同等の業務内容の場合
期限付きで雇用されている労働者と無期限で雇用されている労働者の業務内容が、ほぼ同等である場合は雇用契約を更新しないことが認められないケースもあります。正規雇用の労働者と業務内容がほぼ変わらない、業務に対する責任や社内での地位がほぼ変わらない場合はとくに注意が必要です。
更新回数が多く、通算の契約期間が長い場合にも雇用契約を更新しないことが認められない可能性が高いでしょう。雇用契約を打ち切りたい労働者が、理由が正当ではない、判断基準が曖昧、合理性に欠けるなどの主張をした場合、雇い止めができない可能性が高くなるため注意が必要です。
3-3. 雇用継続への期待が合理的な場合
雇用継続への期待が合理的と判断される場合、雇い止めが認められない可能性もあります。有期雇用契約であったとしても、たとえば更新手続きが形骸化しており長期間雇用されている場合は、雇用継続への期待が合理的と判断されるでしょう。
また、担当している業務が恒常的な内容であったり、使用者から雇用継続を期待させるような発言があったりした場合は、雇い止めが認められない可能性もあります。
3-4. 雇用継続が合理的な場合
期限付きの雇用契約を結んでいる場合、契約を更新するかしないかは企業と労働者の双方の合意がなければなりません。しかし、雇用契約が自動的に更新される状態が続いている、あるいは、ほぼ正社員と同等の業務をおこなっており、雇用の継続が合理的だと判断された場合、雇い止めができない可能性もあります。
判断基準は業務内容・更新回数などで、具体的には以下の通りです。
- 業務内容が恒常的であり一時的ではない
- 正社員と同等の地位の下で働いている
- 通算の勤続年数が長い
- 更新回数が多い など
4. 雇用契約を更新しないことを通知するときのポイント
ここでは、雇用契約を更新しないことを伝える際のポイントについて詳しく解説します。予告期間を確認し、契約解除通知書を作成することで、雇い止めに関するトラブルを防ぐことが可能です。
4-1. 予告期間の確認
1年以上雇用している期限付きの雇用契約者や、契約の更新を3回以上おこなっている契約者に対しては、契約期間の満期となる30日前までに雇い止めの予告をしなければなりません。
予告は個別面談で口頭でおこなう他、書面でおこなう方法もあります。面談のなかで契約者本人が契約の更新を希望しない場合は、契約更新を希望しない旨を記載した書面、退職届を提出してもらうようにしてください。
4-2. 契約解除通知書を作成する
契約解除通知書にサインをしてもらうことで、雇い止めに関する労働者と企業間のトラブルを防ぎやすくなります。
契約解除通知書に指定の書式はありません。また、この契約解除通知書を作成し、サインをもらわなければ雇い止めができないというルールもありません。
しかし、労働者が契約解除通知書や雇い止めの理由を求めた場合、速やかに書面を用意する必要があります。あらかじめ書類をスムーズに作成できるよう、テンプレートを用意しておくのがおすすめです。契約解除通知書には、解除する契約内容や解除の理由、解除までの期間について記載しておくのが一般的です。
5. 雇用契約期間の途中で解雇する場合の注意点
雇用契約期間の途中で解雇する場合は、以下のような点に注意しましょう。
5-1. 妥当性のある解雇理由を検討する
解約や解雇は労働者に大きな影響を与える判断であるため、妥当性のある理由がなければ認められません。企業側が権利を濫用したと見なされるケースもあるため慎重に判断しましょう。
解雇は、以下のように普通解雇・懲戒解雇・整理解雇の3つに分けられます。
- 普通解雇:労働者のスキル不足や勤怠不良などを理由とした解雇
- 懲戒解雇:悪質な違法行為などに対する処分としての解雇
- 整理解雇:業績悪化などによる人員削減を目的とした解雇
それぞれの解雇に合う理由を検討することが大切です。とくに懲戒解雇は最も重い処分であるため、会社に大きな損害が出た場合など、特定の場面でしか認められません。
5-2. 事前に解雇予告をする
雇用契約を更新しない場合と同じように、30日前までに解雇予告をおこないましょう。解雇予告が遅れた場合は、解雇予告手当を支払う必要があります。
6. 雇用契約を更新する場合の注意点
雇用契約を更新しない場合は、適切な手続きをおこなうことが大切です。また、雇用契約を更新する場合についても注意点があります。ここでは、雇用契約を更新する際の注意点について詳しく紹介します。
6-1. 契約期間について配慮する
雇止め告示第4条により、契約を1回以上更新している、もしくは1年以上勤務している有期労働契約者の雇用契約を更新する場合、企業は契約期間をできる限り長くするように努めることが求められます。労働者から長く働きたいなどと希望があったら、対応できないか検討してあげましょう。
(契約期間についての配慮)
第四条 使用者は、 有期労働契約(当該契約を一回以上更新し、かつ、雇入れの日から起算して一年を超えて継続勤務している者に係るものに限る。)を更新しようとする場合においては、 当該契約の実態及び当該労働者の希望に応じて、 契約期間をできる限り長くするよう努めなければならない。
6-2. 無期転換ルールに適切に対応する
労働契約法第18条により、雇用契約の更新を繰り返し、5年以上契約を更新し続けている場合、労働者は企業に対して無期雇用契約の申し込みが可能です。雇用契約を更新する場合、無期転換ルールをきちんと確認したうえで、労働者に説明してあげることが大切です。
関連記事:雇用契約期間とは?契約する期間や書類の保存方法についても解説
7. 雇用契約を更新しない場合におけるよくある質問
ここでは、雇い止めに関するよくある質問に回答していきます。
7-1. 雇用契約を更新しない場合の退職は「会社都合」?「自己都合」?
労働者の希望により雇用契約を更新しない場合は「自己都合」の退職扱いになります。一方、労働者が更新を希望したのにもかかわらず、会社側の都合により雇用契約を更新しない場合、契約内容や期間によっては「会社都合」の退職扱いになります。「会社都合」と「自己都合」によって失業保険の取り扱いが変わる可能性もあるので、正しく手続きするようにしましょう。
7-2. 雇用契約を更新しない場合の退職届は不要?
契約期間満了により、雇用契約が終了する場合、原則として退職届は不要です。ただし、「自己都合」と「会社都合」のどちらによる退職であるかを明確にするため、その旨を記載した退職届を提出してもらうようにしましょう。
関連記事:退職届は何日前に必要?労働基準法による規定をわかりやすく紹介
8. 雇用契約を更新しない場合の手続きを確認しておこう
今回は、雇用契約を更新しない場合の手続きについて解説しました。期限付きで雇用している労働者の業務内容や雇用契約を更新した回数、勤続年数などによっては雇い止めが難しいケースも多いです。
雇い止めを予告する期間、手続きも明確に定められています。トラブルを避けるためにも、適切な手順を踏み、ルールをしっかり守ることが大切です。
有期雇用契約は労働基準法・労働契約法において様々なルールが設けられているため、法律に則って雇用契約を結ぶ必要がありますが、従業員とのトラブルになりやすい部分でもあります。
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