フレックスタイム制の導入には就業規則への記載が不可欠です。作成時には、労働基準法に違反のないよう適切な規則を設ける必要があります。
本記事では、フレックスタイム制の就業規則の規定例、就業規則作成後から導入までのフロー、注意点などをわかりやすく解説します。
目次
1. フレックスタイム制について就業規則に記載する方法
厚生労働省のガイドラインによると、フレックスタイム制には2つの導入要件が設けられています。
(ⅰ)就業規則等に、始業・終業時刻を労働者の決定に委ねることを定めてください。
(ⅱ)労使協定で制度の基本的枠組みを定めてください。
フレックスタイム制の導入企業がまず取り組む必要があるのが、就業規則の作成または変更です。ここでは、フレックスタイム制の導入にあたって就業規則に記載が必要な項目を解説します。
1-1. 始業時刻や終業時刻を「自主的な決定に委ねる」旨を記載する
フレックスタイム制の目的の一つは、労働者が自身のライフスタイルや業務に合わせて自由に働ける環境を提供することです。これにより、従業員のモチベーション向上や、業務の効率化を期待できるため、企業にとってもメリットがあります。
ただし、就業規則には必ず「始業・終業の時刻を労働者の自主的な決定に委ねる」旨を明記しなければなりません。この記載がないと、フレックスタイム制を採用したとみなされないため、必ず正確に記載することが求められます。
また、具体的なコアタイムやフレキシブルタイムの設定がある場合は、その詳細も明記しなければなりません。これにより、従業員は労働時間を自分で管理しつつ、企業側も労働時間の管理や評価をおこないやすくなります。
さらに、就業規則を新たに作成または変更した際には、従業員に対する周知が義務付けられています。労働基準法に基づく周知義務を果たさないと、就業規則の効力が発揮されないため注意が必要です。
フレックスタイム制を採用することで、企業は従業員の働き方に柔軟に対応できるようになりますが、そのためにはきちんとしたルールの設定と、従業員への理解促進が不可欠です。これにより、フレックスタイム制の導入がスムーズにおこなわれ、従業員の満足度も向上します。
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1-2. 就業規則に記載すべき6つの項目
始業時刻や終業時刻を従業員の自主的な決定に委ねる旨のほか、就業規則に記載すべき項目は6つあります。なお、以下の6つの項目を就業規則に記載する場合は、あらかじめ労働組合か労働者代表者と労使協定を締結しましょう。
フレックスタイム制が適用される従業員の範囲のこと(部署や部門など) | |
清算期間 | 従業員が労働時間を柔軟に調整できる上限3ヵ月までの期間のこと |
清算期間における総労働時間 | 清算期間における所定労働時間のこと |
標準となる1日の労働時間 | 従業員が1日に働く労働時間の目安のこと |
コアタイム(※任意) | 従業員が必ず出社しなければならない時間帯のこと |
フレキシブルタイム(※任意) |
従業員が出社するかどうか自由に決められる時間帯のこと |
1-3. 労使協定で定めるべき項目
フレックスタイム制を導入するためには、就業規則に記載するだけでなく、労使協定を締結して制度の基本的枠組みを定めなければなりません。具体的には以下の項目を定めましょう。
- 対象となる労働者の範囲
- 清算期間
- 清算期間における総労働時間
- 1日の標準労働時間
- コアタイム(※任意)
- フレキシブルタイム(※任意)
2. フレックスタイム制について定めた就業規則の規定例を紹介
フレックスタイム制について就業規則で定める場合、厚生労働省や東京労働局が公開している就業規則の雛形を参考にすることができます。
ここでは、「適用労働者の範囲」「清算期間および総労働時間」「標準労働時間」「始業終業時刻」「コアタイムおよびフレキシブルタイム」の5点について、就業規則の具体例を紹介します。
2-1. 「適用労働者の範囲」の規定例
「適用労働者の範囲」の項目では、フレックスタイム制の対象となる従業員の範囲を規定します。全従業員が対象となる場合、就業規則の書き方の見本は次の通りです。
また、フレックスタイム制の対象となる部署や部門を限定することもできます。たとえば、営業部と開発部の従業員にのみフレックスタイム制を適用する場合、書き方の例は次の通りです。
(適用労働者の範囲)
第○条 第○条の規定にかかわらず、営業部及び開発部に所属する従業員にフレックスタイム制を適用する。
2-2. 「清算期間および総労働時間」の規定例
「清算期間および総労働時間」の項目では、清算期間の長さや起算日、清算期間内に従業員が最低限働く必要がある所定労働時間について定めます。毎月の起算日を1日とする場合、就業規則の書き方は次の通りです。
(清算期間及び総労働時間)
第○条 清算期間は1箇月間とし、毎月1日を起算日とする。
② 清算期間中に労働すべき総労働時間は、154時間とする。
2-3. 「標準労働時間」の規定例
「標準労働時間」の項目では、従業員が1日に働く労働時間の目安を定めます。標準労働時間は残業代や年次有給休暇の計算に使います。標準労働時間を1日7時間とする場合、就業規則の書き方の見本は次の通りです。
(標準労働時間)
第○条 標準となる1日の労働時間は、7時間とする。
2-4. 「始業終業時刻、コアタイムおよびフレキシブルタイム」の規定例
「始業終業時刻、コアタイムおよびフレキシブルタイム」の項目では、従業員が始業時刻や終業時刻を自主的に決定できる旨を記載します。
ただし、コアタイムやフレキシブルタイムを導入する場合は、それぞれの始業時刻や終業時刻を明確に記載する必要があります。たとえば、午前10時から午後3時までコアタイムを設定する場合、就業規則の見本は次の通りです。
(始業終業時刻、フレキシブルタイム及びコアタイム)
第○条 フレックスタイム制が適用される従業員の始業および終業の時刻については、従業員の自主的決定に委ねるものとする。ただし、始業時刻につき従業員の自主的決定に委ねる時間帯は、午前6時から午前10時まで、終業時刻につき従業員の自主的決定に委ねる時間帯は、午後3時から午後7時までの間とする。
② 午前10時から午後3時までの間(正午から午後1時までの休憩時間を除く)については、所属長の承認のないかぎり、所定の労働に従事しなければならない。
関連記事:コアタイムなしのフレックスタイム制を導入するメリット・デメリットを紹介
2-5. 労使協定を規則の一部とする場合の規定例
ここまで解説したような規定を作成するのが面倒な場合は、労使協定の一部を就業規則として利用するとよいでしょう。この場合の記載例は以下の通りです。
3. フレックスタイム制の就業規則作成から導入までのフロー
ここまで、就業規則にて記載義務のある項目や任意で記載するとよい内容などについて解説しました。
フレックスタイム制の導入に向けて、就業規則まで作成した後は、どのような工程が必要なのでしょうか。スムーズに導入できるよう今一度確認しましょう。
3-1. 労使協定を締結
フレックスタイム制を採用する場合には、就業規則や対象者、清算期間などの取り決めを、労働者と使用者間で話し合い、合意をとる必要があります。
労使協定にて記載する詳しい項目や内容が知りたい場合は、以下の記事で確認してください。
関連記事:【ひな形付】フレックスタイム制の労使協定の結び方と届け出が不要なケースを解説
3-2. 労働基準監督署長への届出
清算期間が1ヵ⽉を超える場合には、労働組合または従業員代表者と締結した労使協定を、所轄の労働基準監督署長に届け出る必要があります。受付にて直接提出するほか、郵送や電子申請で提出することも可能です。清算期間が1ヵ月以内である場合には、届出の必要はありません。
3-3. 従業員への周知義務を忘れずに
就業規則の作成・変更をおこなった際には、従業員へ周知をすることが労働基準法により義務付けられています。同じく労使協定の締結後にも、周知義務は発生するので必ずおこないましょう。方法としては、労働基準法106条に関連した労働基準法施行規則第52条の2に以下の通り定められています。
一 常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること。
二 書面を労働者に交付すること。
三 磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること。
引用:労働基準法施行規則 | e-Gov法令検索
このように、労働者がいつでも確認できる場所への掲示が求められます。また、必要事項が記載された書類を配布する、データとして従業員が自由にアクセスができるようアップロードするなども手段の一つです。
ただし、社外への持ち出しの発生を防ぎたい場合には、コピーやダウンロードの制限を加えるなどの対策をすることをおすすめします。
3-4. 社内への導入準備
取引先の企業や、一部の部署だけが対象となる場合は他部署に対しても、フレックスタイム制を導入する旨を説明・連携する必要があるでしょう。
また対象者に対しても、フレックスタイム制の導入背景や目的を伝えて、適切な労働管理を促す機会を設けることが重要です。
コミュニケーション機会の減少に対するコアタイムでの取り組みや、タスク管理に対する報連相の徹底など、デメリットに対策を講じることも大切です。
4. フレックスタイム制の就業規則作成時の注意点
フレックスタイム制を導入するには、必要事項をすべて盛り込んだ就業規則を作成する必要があります。ここでは、フレックスタイム制を導入するときの注意点を3点紹介します。
4-1. 時間外労働が発生する場合にはあらかじめ36協定の締結が不可欠
フレックスタイム制の場合においても、時間外労働(法定外残業)が発生する場合には事前に36協定を締結し、届け出なければなりません。
清算期間が1ヵ月以内である場合は、清算期間における総労働時間の総枠を超えた部分が時間外労働となります。
清算期間が1ヵ月を超過する場合は、上記に加え、週平均労働時間が50時間を超過すると時間外労働に該当します。発生した時間外労働には、25%以上の割増賃金を支給しなければなりません。
なお、時間外労働だけでなく、休日労働(法定休日の労働)についても、36協定の締結・届出義務があるので注意しましょう。
関連記事:36協定とは何かわかりやすく解説!特別条項や新様式の届出記入方法も紹介!
4-2. 休憩時間を一斉に与えることが難しい場合も労使協定の締結が必要
フレックスタイム制においても労働時間が一定を超えた場合は、労働基準法第34条に従って休憩時間を与える必要があります。
(休憩)
第三十四条 使用者は、労働時間が六時間を超える場合においては少くとも四十五分、八時間を超える場合においては少くとも一時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない。
② 前項の休憩時間は、一斉に与えなければならない。ただし、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定があるときは、この限りでない。
③ 使用者は、第一項の休憩時間を自由に利用させなければならない。
同法に従い、基本的には一斉に付与する必要がありますが、コアタイムなしのスーパーフレックス制の場合、労使協定を結ぶことで適用除外ができます。
関連記事:労働時間に休憩は含む?休憩時間の計算方法や残業時の取り扱いについても解説!
4-3. 清算期間の上限を変更すると労使協定の届出が必要になるケースもある
清算期間の上限を変更する場合、労使協定の届出が必要になるケースもあります。前述の通り、清算期間が1ヵ月以内である場合には、届出の必要はありません。
しかし、清算期間が1ヵ月を超える場合は届出が必要です。たとえば、清算期間を1ヵ月から3ヵ月に変更するような場合は、届出の義務が発生するため忘れないようにしましょう。
関連記事:フレックスタイム制の清算期間の仕組みを解説|1ヵ月と3ヵ月の違いとは?
5. フレックスタイム制の就業規則記載に関してよくある質問
ここまで、フレックスタイム制の就業規則や、導入までのフローを解説しました。ここからは就業規則を記載するうえで、重要であるものの見逃しやすいポイントを紹介します。
5-1. 特定部署のみフレックスタイム制を採用することは可能?
前述した通り、特定の部署のみフレックスタイム制を採用することは認められています。ただし、労使協定にて対象範囲を限定することが不可欠です。
また、個人単位においてもフレックスタイム制を採用することは可能であり、この場合は個別の労働契約書や労働条件通知書において、就労形態を記載することが求められます。
5-2. フレックスタイム制の導入にあたり、10人未満の会社では就業規則なしでも問題ない?
10人未満の労働者を雇用する事業場の場合には、就業規則の作成・届出は不要となり、始業・終業の時刻を労働者の決定に委ねる旨を記載した書面など、就業規則に準ずるもので導入が可能となります。ただし、労使協定の締結が必要であることに違いはありません。
5-3. フレックスタイム制における労使協定の有効期間はいつに設定すべき?
労使協定の有効期限は、法的に規定されていません。一般的には、1年単位で有効期限を設けることが多いでしょう。
労使協定の内容を修正・解除するためには、再び労働者と使用者間で合意を得る必要があります。変更不能となってしまう事態を避けるために、年単位では更新できる状態がよいでしょう。
ただし、毎年都度、労使協定を締結し直すとなると大変なので、特定の期日までに解約の申請がない場合には、自動更新がされるよう定めることをおすすめします。
6. フレックスタイム制を導入するなら就業規則の変更が必要!
今回は、フレックスタイム制における就業規則の作成方法や、作成上の注意点などを解説しました。フレックスタイム制を導入するには、就業規則の変更が必要です。就業規則には、必ず「フレックスタイム制が適用される従業員の始業および終業の時刻については、従業員の自主的決定に委ねるものとする」の一文を入れましょう。
また、あらかじめ取り交わした労使協定に基づいて、「対象となる労働者の範囲」「清算期間」「清算期間における総労働時間」「標準となる1日の労働時間」「コアタイム(※任意)」「フレキシブルタイム(※任意)」の6つの項目を記載する必要があります。厚生労働省や各地方の労働局が公開している例を参考にしながら、就業規則の変更に取り組みましょう。