従業員の働きやすさが重視される昨今、仕事と家庭の両立を目的とした時短勤務が注目されています。時短勤務制度は、育児・介護休業法に基づき、一定の要件を満たす従業員に対し所定労働時間の短縮を認める制度です。
育児・介護休業法は令和4年4月にも改定されており、時短勤務もより取得しやすいよう法整備が進んでいます。一方で時短勤務による給料の減少は避けられません。この記事では時短勤務における給料の考え方を計算方法と合わせて解説します。
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目次
1. 時短勤務は仕事と育児・介護を両立するための制度
時短勤務とは、育児・介護休業法に基づき、家庭内で育児や介護を行う従業員に対して所定労働時間の短縮を認める制度です。時短勤務により仕事と家庭が両立しやすくなり、従業員が長く安心して働ける環境が整えられると期待されています。なお、時短勤務は有期雇用従業員も適用対象です。
時短勤務が適用される従業員は、1日の所定労働時間が8時間から6時間(正確には5時間45分から6時間)に短縮されます。また、事前の申請がある場合に限り時間外労働の免除も可能です。
働き方改革の一環として注目される時短勤務ですが、一般的には労働時間の減少に伴い給料も減少します。従業員に時短勤務制度の活用を促すためには、時短勤務に伴う給料の減少について正しく理解しておくことが重要です。
関連記事:時短勤務とは?|短時間勤務制度はいつまで適用?メリットやデメリットについて詳しく解説!
2. 時短勤務の給料における2つの考え方
ここからは時短勤務の適用に伴う給料の扱い方を詳しく見ていきましょう。まずは賃金支払いの基本原則である「ノーワーク・ノーペイの原則」、そして育児・介護休業法で禁止される「不利益取扱の禁止」のについて解説します。
2-1. ノーワーク・ノーペイの原則
ノーワーク・ノーペイの原則は賃金支払いの基本原則です。賃金とは提供された労働力の対価として支払われるものであり、提供される労働力が低下すればそれに伴い賃金も減少します。
時短勤務に関しても、今まで1日8時間提供されていた労働力が6時間分に減少するため、賃金を減少させるのは必然的な判断です。労働時間の減少に対し適正な賃金を減少させるのであれば法的に問題はありません。
ただし、賃金の減少が認められるのはあくまで減少した労働力に相当する金額のみです。必要以上の賃金を減額した場合は次に説明する「不利益取扱の禁止」に抵触する恐れがあります。
2-2. 不利益取扱の禁止
時短勤務について定めた育児・介護休業法では、その第10条によって休業・時短勤務に伴う従業員の不利益取扱を禁止しています。該当の条文は以下の通りです。
(不利益取扱の禁止)
第10条 事業主は、労働者が育児休業申出をし、又は育児休業をしたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
ここでいう従業員の不利益な取扱いとは、休業・時短勤務を申請した従業員に対し以下のような措置を取るケースを指します。
- 賃金を不当に減額すること
- 賞与を不当に算定すること
- 正当な理由なく解雇すること
- 休業・時短勤務を理由に適切な人事考課を行わないこと
- 強制的に雇用形態を変更すること
- 本人の希望に反して時間外労働や深夜労働を強要すること
給与や賞与の不当な算定、時間外手当の未払いなどは従業員にとって明確な不利益ですので、絶対にあってはなりません。給料以外にも育児・介護により時短勤務を必要とする従業員への配慮やモラルを欠いた指示・命令全般は不利益な取扱いにあたると捉えましょう。
3. 時短勤務の給料の計算方法
時短勤務対象者の給料は、先述したノーワーク・ノーペイの原則により労働時間の減少を基に算定します。ここでは時短勤務時の給与計算方法について見ていきましょう。
3-1. 基本給は労働時間の減少と比例して減額する
時短勤務が適用される従業員の給料は労働時間の減少と比例して基本給を減額します。時短勤務では所定労働時間が8時間から6時間に短縮されるため、労働時間は通常の75%です。このとき基本給も通常の75%にあたる金額に設定し、給与計算を実施します。
時短勤務対象者の基本給を算定する計算式は以下の通りです。
時短勤務時の基本給=通常の基本給×時短勤務時の所定労働時間÷通常の所定労働時間
具体的な数字を用いて実際に計算してみましょう。ここでは以下のケースを仮定します。
通常の基本給:月20万円
通常の所定労働時間:1日8時間
時短勤務時の所定労働時間:1日6時間
これらの数字を時短勤務時の基本給算定式に当てはめると以下のようになります。
20万円×6時間÷8時間=15万円
ここで算出された15万円が時短勤務従業員のひと月の基本給です。この金額に各種手当の加算や社会保険料の天引きなどを実施し、実際に支払う給与が決定します。
3-2. 時短勤務でも時間外割増・深夜割増は適用される
時短勤務であっても、時間外労働や深夜労働が発生した際は賃金の割増を適用します。賃金の割増率も通常勤務と同様に25%です。ただし、時短勤務では所定労働時間を超過しても法定労働の範囲内(1日8時間以内、週40時間以内)であれば時間外割増が適用されません。
時間外割増は、労働基準法が規定する法定労働時間を超過した労働に適用される賃金の割増制度です。所定労働時間は企業が法定の範囲内で定める労働時間であり、時間外割増の適用基準ではありません。時短勤務の場合でも、賃金の時間外割増が適用されるのは法定労働時間を超過した場合に限ります。
実際のところ、時短勤務対象者は家庭での育児や介護があるため、残業や深夜勤務を強いる状況は好ましくありません。時短勤務者に残業や深夜勤務を指示する場合は本人の都合を十分考慮し、また賃金の計算も適正に実施して不利益な扱いとならないようにしましょう。
時短勤務の給料の扱いについては法律を遵守しなければなりません。法律を理解しないまま不当な扱いをしていると、罰則を科される可能性もあります。
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関連記事:時短勤務中の残業は違法?計算式や具体例で詳しく解説
4. 時短勤務の手取り給料は基本給よりも減額幅が大きい
時短勤務者の給与を計算した場合、社会保険料等の天引きを経て実際に支払う給与は想像以上に少ないと感じられるかもしれません。基本給の減額が25%程度であっても、手取り金額は30%~40%程度減少してしまうケースも珍しくありません。
手取りが減少する理由としては、まず時短勤務に伴う残業や深夜勤務の減少が挙げられます。また、時短勤務により収入が減少しても、しばらくは従前の社会保険料が適用される点も注意が必要です。
育児・介護を支援する時短勤務は従業員にとっても有用な制度であることは間違いありません。しかし、時短勤務には給料が大幅に減少してしまうデメリットもあるのです。
従業員のワークライフバランスを見直す施策としては、他にもフレックスタイム制やリモートワークなどが挙げられます。時短勤務以外にも様々な選択肢を用意し、従業員の働きやすさの向上に繋げていきましょう。
5. 時短勤務の給料で注意すべきポイント
最後に時短勤務の給料で注意すべきポイントを解説します。ここで紹介するポイントを押さえ、時短勤務対象者に対して不利益のない給料計算を実施しましょう。
5-1. 各種手当・賞与の扱いは就業規則で明確にする
時短勤務における各種手当や賞与の扱いは事前に就業規則で定めることが大切です。手当や賞与は企業の裁量で従業員へ支給されるものであり、それについて法的なルールや制限はありません。労使間のトラブルを防ぐため、予め自社のルールを明確にしておきましょう。
5-2. 標準報酬月額を見直す
時短勤務により固定賃金が変更された従業員に対しては必ず標準報酬月額の見直しを実施しましょう。
標準報酬月額は社会保険料の算出基準となる金額です。通常は毎年4月~6月の3ヶ月間の平均給与から決定されますが、固定賃金の変更により直近3ヶ月の平均給与に2等級以上の変動があった場合は次の改定時期を待たず標準報酬月額を改定します。これを標準報酬月額の随時改定と言います。
時短勤務では随時改定により標準報酬月額を改定しない限り社会保険料が減額されません。同様に、時短勤務からフルタイム勤務に戻る従業員に対しても標準報酬額の見直しが必要です。
関連記事:時短勤務時の社会保険料は据え置き!減額する手続きや間違いやすいポイントについて
6. 時短勤務の給料は不利益がないように算出しよう
時短勤務の給料は、ノーワーク・ノーペイの原則により労働時間の減少に応じた減額が認められています。一方で育児・介護休業法で規定される不利益取扱いの禁止により、給料の不当な減額は認められません。時短勤務制度は従業員の育児や介護を支援する制度であり、給料の面を含めて不当な扱いがないようにしましょう。
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