労働基準法第37条は、残業や休日出勤時などの賃金形態を規定する、従業員の給与に大きく関わる重要な条例です。これを正確に把握しておくことで、従業員にとってより良い職場づくりにつながります。
そこで本記事では、労働基準法第37条の理解を深めていくために、その内容とともに具体的な計算例も含めて解説していきます。
労働基準法総まとめBOOK
労働基準法の内容を詳細に把握していますか?
人事担当者など従業員を管理する役割に就いている場合、雇用に関する法律への理解は大変重要です。
例外や特例なども含めて法律の内容を理解しておくと、従業員に何かあったときに、人事担当者として適切な対応を取ることができます。
今回は、労働基準法の改正から基本的な内容までを解説した「労働基準法総まとめBOOK」をご用意しました。
労働基準法の改正から基本的な内容まで、分かりやすく解説しています。より良い職場環境を目指すためにも、ぜひご一読ください。
目次
1. 労働基準法第37条は法定外労働や深夜勤務における割増賃金の規定
労働基準法第37条とは、法定外の時間や休日および深夜の労働において、使用者に対し割増賃金の支払いとその具体的な割合を示した法律です。
もし従業員の負担になる勤務をさせた場合、使用者は必ず通常の給与に加えて、一定の割合を上乗せした手当を追加して支給しなければなりません。そこでこの内容を法的に義務化し、詳細なルールとして定めているのが労働基準法第37条です。
2. 労働基準法第37条が適用される労働パターン
労働基準法第37条は、特定の労働に限って生じる法的な規定です。例えば残業や休日出勤が発生したとしても、場合によっては労働基準法第37条には該当しないケースもあります。
まずは労働基準法第37条の適用範囲を理解するにあたり、知っておきたい基礎知識から解説します。
2-1. 「所定外」と「法定外」では扱いが異なる
労働基準法第37条の大前提として、特に残業や休日出勤においては、法定外の労働に限って適用されるルールです。そのため法定内の範囲であれば、所定外労働になったとしても、労働基準法第37条の対象にはなりません。
具体的には、社内で定めた所定労働時間が1日7時間だった場合。仮に1日1時間の残業になっても、労働基準法に定める「1日8時間」の労働は超過していないので、割増賃金を支払う必要はありません。もちろん残業した1時間分は、それに値する通常賃金を追加で支給します。
つまりこのケースであれば、時給制なら1時間分の賃金、月給制なら1時間あたりで割った賃金を割増せずに支払うだけで問題ありません。同じように休日出勤でも、社内で定めた所定休日での労働なら、割増せずに通常賃金を追加で支給します。
なお深夜労働に関しては、時間外や休日とは異なる考え方になるため要注意です。では次の項目から、それぞれの詳しい取り扱い方法や割増率を見ていきます。
2-2. 法定時間外での残業
労働基準法第32条では、使用者は従業員に対して、基本的に1日8時間・週40時間を超える労働はさせてはならないとしています。そこで労働基準法第37条において、法定外となる時間外労働が発生した場合には、25%以上の割増賃金の支払いが義務化されています。[注1]
例えば法定時間外の残業で割増賃金が発生するのは、あくまで一例ではありますが、以下のようなケースが考えられます。
- 9:00~18:00(実働8時間)の勤務形態で、20:00まで残業した
⇒法定外残業2時間分×25%以上 - 9:00~18:00(実働8時間)の月曜~金曜で勤務し、土曜の午前中に3時間出勤した
⇒法定外残業3時間分(週40時間を超えた土曜分)×25%以上
さらに法定外労働時間が月60時間を超過した場合、割増比率は最低50%まで引き上げなければなりません。[注1]
[注1]労働基準法|e-Gov法令検索
2-3. 法定休日における出勤
労働基準法第35条では、週に最低1回、4週間を通じて4日以上の休日を設定しなければならないとしています。[注1]この休日を法定休日と呼び、他にも設けている休みは所定休日といいます。
例えば土日休みにしている場合、週に法定休日1日と所定休日1日を設けていることになります。なお法定休日による出勤が発生した際には、35%以上の割増賃金の支払いが義務化されています。
なお法定休日出勤によって割増賃金が生じる一例としては、次のようなケースが考えられます。
- 9:00~16:00(実働6時間)×週6日で勤務し、7日目の午前中に4時間出勤した
⇒法定休日出勤4時間分(7日目分)×35%以上 - 9:00~17:00(実働7時間)×週7日で出勤した
⇒法定外残業2時間分(週40時間の超過分)×25%以上+法定休日出勤7時間×35%以上
2-4. 22:00~早朝5:00の深夜労働
労働基準法第37条では、22:00~早朝5:00の深夜労働になる場合、25%以上の割増賃金の支払いが義務化されています。[注1]
深夜の時間帯で勤務させる場合には、必ず割増賃金が発生します。そのため例えば22時以降の夜勤だけのシフトなら、労働時間数に関わらず、必ず通常賃金に加えて割増賃金が発生します。
なお深夜労働で割増賃金が生じる一例として、次のようなケースが考えられます。
- 22:00~翌5:00(実働6時間)×週5日で出勤した
⇒深夜労働時間30時間分×25%以上 - 9:00~18:00(実働8時間)で週5日勤務し、1日だけ24時まで残業した
⇒法定外残業4時間分×25%以上+深夜労働2時間分×50%以上(法定外残業25%+深夜労働25%) - 9:00~16:00(実働6時間)×週6日で出勤し、7日目は18:00~25:00(実働6時間/22:00~23:00休憩)勤務した
⇒法定休日出勤4時間分(7日目分)×35%以上+深夜労働2時間分×60%以上(法定休日35%+深夜労働25%)
3. 労働基準法第37条による割増賃金の計算例
割増賃金を計算するためには、その基準となる、1時間あたりの基礎賃金を算出する必要があります。時給制なら単純にそれぞれの割増分をかけるだけで計算できますが、月給制の場合は、まず1時間あたりの基礎賃金を出しましょう。
- 月給額÷月間の所定労働時間(年間平均)
例えば月給26万4,000円で、月の平均所定労働時間が165時間なら、次のように1時間あたりの基礎賃金額が算出できます。
- 月給26万4,000円÷165時間=1,600円(基礎賃金)
ちなみに上記に出てくる「月間の所定労働時間」は、以下のように計算します。
- 年間の合計所定労働時間÷12ヶ月
では本項目で算出した基礎賃金(1,600円)をもとに、各パターンを計算してみると、次のように割増賃金が計算できます。
- 法定時間外のみ(25%)
1,600円×1.25%=2,000円/時間 - 法定休日のみ(35%)
1,600円×1.35%=2,160円/時間 - 法定休日+法定時間外(35%+25%)
1,600円×1.6%=2,560円/時間 - 深夜労働(25%)
1,600円×1.25%=2,000円/時間 - 深夜労働+法定時間外(25%+25%)
1,600円×1.5%=2,400円/時間 - 深夜労働+法定休日(25%+35%)
1,600円×1.6%=2,560円/時間
4. 正しい計算方法で、常に万全の労働環境へ
労働基準法第37条では、従業員が例外的な勤務をした場合に支払わなければならない追加の割増賃金に関する規定が設けられています。また実際の割増賃金を計算する際には、労働基準法第32条や第35条の内容も考慮した上で、正確な金額を算出しなければなりません。
場合によっては、法定時間外残業と深夜労働が同時に発生するなど、勤務形態次第では各割増比率を組み合わせて計算するケースもあります。給与の処理が複雑になりやすいルールだからこそ、ぜひ本記事を参考に、まずは内容を正確に理解することから始めましょう。
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