厚生労働省によれば2021年の女性の労働力人口は3,057万人で、前年の2020年より13万人増加しています。[注1]
このように女性の労働力が増加している状況で企業が配慮すべきなのが、女性従業員の産前産後の休業や働き方です。今回は労働基準法による産前産後の休業規定や賃金の計算方法について解説します。
労働基準法総まとめBOOK
労働基準法の内容を詳細に把握していますか?
人事担当者など従業員を管理する役割に就いている場合、雇用に関する法律への理解は大変重要です。
例外や特例なども含めて法律の内容を理解しておくと、従業員に何かあったときに、人事担当者として適切な対応を取ることができます。
今回は、労働基準法の改正から基本的な内容までを解説した「労働基準法総まとめBOOK」をご用意しました。
労働基準法の改正から基本的な内容まで、分かりやすく解説しています。より良い職場環境を目指すためにも、ぜひご一読ください。
目次
1. 労働基準法による産前産後の休業規定
労働基準法第65条では産前6週間、産後8週間の女性従業員に対して、休業の申請をすることを認めています。[注2]
なお、産前の休業期間は、双子や三つ子といった多胎児であれば14週間まで延びます。つまり、多胎児でない場合は出産前から出産後まで計14週間の休業が可能です。企業側が従業員から産前産後の休業申請があった場合、拒否することはできません。
なお産前産後の休業は妊娠4ヶ月以上であれば、流産や死産であっても申請が可能です。
[注2]労働基準法|e-Gov法令検索
1-1. 産前の休業規定は従業員からの申請があった場合に認められる
産前産後の休業のうち、産前の休業は女性従業員から申請があった場合に認められます。そのため、女性従業員が希望すれば出産の直前まで業務を続けることが可能です。
1-2. 産後6週間は就業させられない
産前であれば女性従業員が希望すれば、出産の直前まで勤務可能です。ですが、産後の場合は、出産翌日から6週間は女性従業員が希望するしないに関わらず、就業させることはできません。出産翌日から6週間が経過していない女性従業員を就業させた場合、懲役6ヶ月以下もしくは30万円以下の罰金が科せられます。
ただし、産後6週間以降であれば女性従業員が希望しているうえに、医師の了承が得られている場合は、8週間を待たずに職場への復帰が可能です。
2. 労働基準法による産前産後の賃金計算
労働基準法には産前産後の休業中の賃金について明記されていませんが、一般的にノーワク・ノーペイの原則に則って賃金は発生しません。
労働基準法では労働者が企業に労務を提供しなかった場合、賃金支払いの義務がないことが記されています。そのため、産前産後の休業時には賃金が発生しないと考えられます。
産前産後の休業時に賃金が発生しないことは、就業規則に記載しておくことで、従業員への周知が可能です。
3. 労働基準法による産前産後の働き方
女性従業員が産前産後にも安心して働けるように、妊娠の申し出があった際に、健康診断の受診や育児休業など産前産後に活用できる制度をアナウンスしましょう。
3-1. 出産まで勤務する場合は女性従業員の健康に配慮する
女性従業員が産前の休業を申請せず勤務する場合は、健康に配慮する必要があります。男女雇用機会均等法では次のとおり、女性従業員が医師から指導を受けた場合、企業側は指導を守るための措置を取らなければなりません。
例えば、時差出勤を許可して通勤の負担を緩和する、休養を与えるために休憩時間を延長するといった措置が挙げられます。
3-2. 1日30分の育児時間があることを伝える
生後満1歳に満たない子どもを育てている場合、原則1日30分の育児時間が2回取得できます。育児時間は授乳や保育園への送り迎えなどにあてることができ、従業員が希望する時間に取得できます。なお、勤務時間によって取得できる育児時間が異なります。8時間以上の勤務なら1日30分を2回、4時間の勤務であれば30分を1回取得可能です。
3-3. 短時間勤務制度で勤務時間を短くできることを伝える
3歳未満の子どもを育てている場合、短時間勤務制度を活用すれば、勤務時間を6時間まで短くできます。短時間勤務制度は雇用期間が定められている従業員でも対象です。
4. 労働基準法による産前産後休業を取得する際の手続き
産前産後の休業は従業員に取得の意思があるか確認しましょう。その後、健康保険組合などに必要書類を提出します。
4-1. 従業員から産前産後の休業届を受けとる
従業員から妊娠の報告があったら、出産予定日や最終出勤日、復帰するか、育児休業を希望するかを確認しましょう。その後、産前産後の休業を希望するかを確認して産前産後休業届を提出してもらいます。
なお、産前産後休業届提出とあわせて以下も依頼しておきましょう。
- 出産予定日
- 休業中の連絡先
- 出産の報告
4-2. 産前産後休業取得者申出書を提出する
従業員の休業がスタートしたら、産前産後休業取得者申出書を健康保険組合などに提出します。この申出書は原則企業が提出します。
産前産後休業取得者申出書を提出することで、休業中の事業主と被保険者の保険料が免除されます。
なお、産前産後の休業は出産予定日から起算して計算されますが、出産予定日どおりに出産することは稀なため、産前産後休業取得者申出書は出産後に提出しましょう。
4-3. 出産手当金を申請する
出産手当金は産前産後に休業した際の保障として、標準報酬月額の2/3が支払われる制度です。出産手当金は全国健康保険協会か健康保険組合に、産休開始の翌日から2年以内までに提出します。
提出は原則従業員が行いますが、提出書類に事業主証明書があるため、企業が提出することも可能です。事前にどちらが提出するかを決めておくとよいでしょう。
なお、出産手当金以外にも出産育児一時金制度の利用が可能ですが、同制度は本人が届け出る必要があるため、アナウンスしてあげましょう。
4-4. 健康保険被扶養者異動届を提出
産まれた子どもはその日のから被保険者となります。そのため、全国健康保険協会や健康保険組合に健康保険被扶養者異動届を提出して、社会保険の扶養に入るための手続きをしましょう。
なお申請が遅れてしまった場合でも出生日まで遡れますが、保険証がないため多額の医療費が発生してしまいます。そのため、早めに提出することを心がけましょう。
5. 産前産後の休業規定を把握して働きやすい職場を作る
女性従業員の出産に対して、労働基準法は産前産後の休業を認めています。産前の休業は従業員からの申請が必要ですが、産後6週間は就業は認められていません。そのため、産後6週間経過していない従業員に勤務を頼むと罰則が科されます。
産前産後の休業期間は賃金が発生しないのが一般的なため、出産手当金や出産一時金制度といった産後をサポートする制度を案内して、出産後も安心して働ける職場を作りましょう。
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